【インプレッション・リポート】
ポルシェ「ボクスター」

Text by 河村康彦


 

 1996年に初代モデルが誕生したボクスター。「2.5リッターで水平対向の6気筒というエンジン・スペックはどのような経緯で決定したのか?」という、当初のモデルに関する当方の疑問に対し、「200PSを上回る最高出力と、6気筒という気筒数は“ポルシェ車の記号”としてクリアをするべき必須のものであるから」という回答をくれたのは、当時の担当エンジニア氏だった。


初代ボクスター

性能はアップしてもキャラクターは変わらない
 どちらが前か後ろかよく分からない(!?)そのスタイリングは、正直個人的には「カッコいい」と素直に納得できるものではなかったもの。が、空冷エンジンに見切りを付けた“新世代ポルシェ”が誕生の折には、何とかその第1号車に乗ってみたい! と、かねがね考えていた自分は、自身に課した“公約”の通りにそんな「204PSボクスター」を手に入れ、8万kmほどを共にしたものだ。

 そんな初代ボクスターが世界の市場でたちまち人気者になったのは、実際に走り込んでみると「なるほどそれも当然だろう」と、すぐに納得できる事柄だった。

 前述のように、オーバー200PSに拘った中でのミニマムの仕様が与えられたエンジンは、パーキング時など前輪を大きく切った抵抗の大きな状態でクラッチミートを試みると、いとも簡単に“ストン”と呆気なくエンストを繰り返した。「6気筒で2.5リッター」という組み合わせはやはり大きめのフリクションゆえか、特に低回転域ではそのトルク感は寂しいほどに余裕に乏しかったのだ。

 けれども、シャープなアクセル・レスポンスはいかにも“スポーツカーの心臓”らしいものだったし、高回転域でのサウンドもゴキゲンそのもの。さらに、オープンとしては比類なき高い剛性感を生み出すボディに正確なハンドリング感覚、どんなに酷使しても“へこたれる”ことのないブレーキ等々と、それは911よりも遥かに低いコストで、しかしそんな兄貴分と何ら変わることのない「ポルシェらしさ」を満喫させてくれたからだ。

 そんなボクスター元来のさまざまな美点は、後に明確に輝きを増しながら、2012年春のジュネーブ・モーターショーで初披露された「981型」を名乗る最新モデルへと息づいている。

 ハイパフォーマンス版「S」グレードの心臓は3.4リッターを超えるまでに拡大され、315PSという最高出力は前出初代初期モデルに比べると実に110PS以上のアップ! けれども、当初のモデルが確立させた「2シーター・ミッドシップで、毎日を快適に付き合える比較的軽量コンパクトなオープン・スポーツカー」というキャラクターは、もろちん何ひとつ変わってはいないのだ。

 

911と別な道を歩き始めた
 これまでのモデル同様、ボディ・フロントセクションの構造を911シリーズと共有する最新ボクスター。すなわち、アルミニウム材の大量採用を筆頭とした大幅な軽量化を実現させたこのモデルは、同時にこれまで2代のモデルに対して、スタイリング・イメージを初めて大きく変えたことも大きな特徴だ。

 全長は30mmほど延長されたものの、全幅は従来型と同一。一方で、60mm延長されたホイールベースに最大で20インチ径のシューズを装着可能とした新型は、すでにそれだけでもよりスリークでスタイリッシュなプロポーションを手に入れている。

 異型ハウジングの中に、2灯のレンズを縦型にレイアウトしたヘッドライト・ユニットと、ミッドシップ・レイアウトゆえ内部が“空洞”であることを生かした低いフードという組み合わせは、もはや911とは見紛うことのないフロントマスクの表情を作り出す。

 従来同様の電動式昇降機構を備えたうえで、イニシャルの下降状態ではテールレンズを横切るフィンと一体化する、ユニークなデザインのスポイラーなどがもたらすリアデッキ部分が従来型以上に高い印象も、今度のボクスターがよりスポーティでスタイリッシュなイメージを演じるための、重要な要素であるだろう。

 さらに今回、そのルックスがこれまで以上に「911とは別の道を歩き始めた」と実感させられる理由は、その歴史上で初めて911とは異なる専用デザインのドアパネルが採用された点にもある。ドアハンドル下部を走るキャラクターラインから下が後方に進むに従って大きくえぐられ、そのままエンジン、あるいはエンジンルームへと外気を取り込むサイド・エアインテークを形成しているのだ。

 そんなボクスターのパッケージングが、今回も「エンジンルームを封印」した結果、前後にトランクスペースを備える、2シーター・モデルの中にあっては例外的なまでに“積めるデザイン”の持ち主であることにも触れておくべきだろう。

 もちろん、インテリアのデザインもオールニュー。すでにボクスターの重要なアイコンでもある3連式メーターや911同様のキー・シリンダーのドア側配置は踏襲しつつも、手前側に低く傾斜した「ライジング・コンソール」を新採用。もちろんこれは、最新のポルシェ各車に共通するインテリア・デザインの文法であるわけだ。

 

好印象の根源はできのよいボディ
 南仏で開催された国際試乗会の場に用意されていたのは、前出3.4リッター・エンジンを搭載した「S」グレードのデュアルクラッチトランスミッション(DCT)/MTの両仕様車と、最高出力を10PSアップしたうえで従来型の2.9リッターから2.7リッターへとダウンサイズを図った、ベースグレード車のDCT仕様という3タイプ。

 911は、最新モデル「991型」へのモデルチェンジでそのMTを6速から7速仕様へと多段化しているが、ボクスターは6速仕様のまま。その理由を、開発陣は「こちらはより軽量さを重視するモデルであるため」とする。ちなみに、そんなベースグレード車の車両重量はDIN規格で1310kgと、従来型よりも25kgダウンの数値が発表されている。

 動力性能はもちろん「S」が上回るが、ベースグレードでも十分に速いし、高回転域にかけてのシャープな伸び感を演じるなど、フィーリング面でも文句ナシ。「PDK」を称するDCTは、このタイプのトランスミッションが苦手としがちな微低速域でのスムーズさも文句の付けようのないもの。ただし、アクセルOFF時の空走機能「コースティング・ファンクション」からの復帰時に、911のPDKでは全く気にならなかったわずかなショックが感じられたのは、個体差によるものであろうか。

 一方、MTの操作フィーリングもゴキゲンで、今や「燃費も速さもPDKが上」と分かってはいても、どちらを選ぶかは個人的には相当迷いそう。もはや3ペダル式MTを廃止してしまうピュアスポーツカーも少なくない中で、ポルシェが敢えてその存在を残しているのは、やはり「ドライバーの意思に完全に即したシフトワークが行えるのはMTだけ」と、それ固有のドライビング・プレジャーが存在することが分かっているからだろう。

 そんな新型ボクスターでは、そのシャシー性能のできばえの高さにも驚かされた。

 テストドライブを行った全てのテスト車は、オプション設定の20インチ・シューズと、電子制御による可変減衰力ダンパー「PASM」付き。そんな仕様のモデルは、いかにもミッドシップ・スポーツカーらしいトラクション能力に長けたうえでのシャープなハンドリング感覚を、スタートの瞬間から、速度と路面を問わないしなやか乗り味と共に提供してくれたからだ。

 ちなみに、そうした好感触の全ての根源は、フロント・セクションをアルミ化したうえで、わずかに9秒という時間で開閉が可能なルーフを開いても閉じても変わることのない、際立つ剛性感を演じてくれるできのよいボディのうえに成り立っているという印象でもある。

 実際、そんなボディの剛性は、数値上でも「新型の911カブリオレのそれを凌ぐ」という。となると、これをベースとした次期ケイマンは、一体どのような仕上がりなのかも楽しみになって来る。

 そんなピュアなポルシェ・スポーツカーとしてのテイストを堪能させてくれる新型ボクスターは、日本では584万円からと発表された。もちろん高価といえば高価だが、一方で911が1117万円からというのを知れば、それが“大バーゲン価格”でもあることはすぐに納得できるだろう。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 7月 6日