インプレッション

スバル「レヴォーグ プロトタイプ」

初代「レガシィ」から25年目のフルモデルチェンジをうたう「レヴォーグ」

 初代「レガシィ」が発売されてから25年。スバル(富士重工業)が社運をかけて開発したという、噂のスバル「レヴォーグ」に試乗した。試乗会場はツインリンクもてぎ。発売は4月の予定なので今回はプロトタイプ車での試乗だ。つまり、まだ最終的な仕様ではないのだが、この時期に試乗会を催して我々を乗せるということは相当な自信作なのだろう。

レヴォーグのプロトタイプ車にツインリンクもてぎで試乗した

 新型車レヴォーグはWRX STI(スポーツカー)とレガシィツーリングワゴンを融合したスポーツツアラーとして開発されている。スポーツカーの持つ運転する楽しみ、ワゴンが持っている快適性とスペースユーティリティ。さらに安全性と環境性能。これらを高い次元で満たすモデルとして登場したのだ。

 さらにレガシィが海外で好評であることを受けて年々大型化していることからも、日本国内にジャストフィットする、いわゆるダウンサイジングモデルを開発する必要性があったわけだ。そのためレヴォーグは当初、国内専用モデルとして開発されてきた経緯がある。ディメンションは全長4690mm、全幅1780mmと日本市場にちょうどよいサイズ。これは現行型レガシィと比較して全長が100mm短く、それはホイールベースが短縮されたもの。つまり、現行型レガシィのホイールベース2750mmに対しレヴォーグは2650mm となっている。このことから、運動性能、とりわけコーナリングのアジリティが向上していることが予想できるのだ。また車高は70mm低くワイド&ローなイメージを与えている。

 ベースとなっているのは、インプレッサから分かれ、単独車種として登場したWRXなので、どうしてもその走りが気になるところだ。

ワイド&ローなイメージを持つレヴォーグ 2.0GT-S EyeSight。ボディーカラーは新色のスティールブルーグレー・メタリック

 すでに価格などが発表ずみで予約も始まっているが、レヴォーグのラインアップを紹介しよう。レヴォーグには1.6リッターと2.0リッターの2種類の水平対向4気筒直噴ターボエンジン搭載車が用意されている。1.6リッターモデルに1.6GTと1.6GT EyeSight、そしてSパッケージに当たる1.6GT-S EyeSightの3モデル。2.0リッターモデルには2.0GT EyeSightと、同じくSパッケージに当たる2.0GT-S EyeSightの2モデル。合計5モデルのラインアップだ。

グレードエンジン変速機駆動方式価格
1.6GT水平対向4気筒 DOHC 1.6リッター直噴ターボCVT4WD2,667,600円
1.6GT EyeSight2,775,600円
1.6GT-S EyeSight3,056,400円
2.0GT EyeSight水平対向4気筒 DOHC 2.0リッター直噴ターボ3,348,000円
2.0GT-S EyeSight3,564,000円

※発売は4月以降となるため、価格はすべて消費税8%の税込価格

 試乗コースは、サーキット(ロードコース)とその外周にあたる構内路。そしてオーバルコースを使った新世代EyeSight(ver.3)の体験という3本立て。2.0GT EyeSightおよび2.0GT-S EyeSightがサーキットでの走行と構内路。そして1.6GT EyeSightと1.6GT-S EyeSightが構内路とオーバルコースを使った試乗となる。

インテリアの質感が向上したレヴォーグ

 ではまず1.6GT EyeSighの試乗から始めよう。1.6リッターエンジンは今回レヴォーグのために専用開発され、環境性能をも追及したターボエンジンだ。小径タービンによって1800rpmという低回転域から250Nmの最大トルクを発生する。最大出力は125kW(170PS)/4800-5600rpm。JC08モード燃費が17.4km/Lと燃費を追及したモデルでもあるのだ。しかもこのエンジンはレギュラーガソリンに対応している。

ツインリンクもてぎにずらりと並んだレヴォーグ

 試乗コースはサーキット内の構内路だ。アップダウンもありちょっとしたワインディングでの走りが試せる。まずはドライバーズシートに腰をかけ、ドライビングポジションをセットする。ステアリングのチルトとテレスコピックの調整幅が大きく、ベストなポジションにすぐセットアップできた。また、ドアミラーからAピラーに至る三角窓周辺がスッキリしているので斜め前方の視界がよく運転がしやすい。ドアミラーも若干低めなので背の低いドライバーにも違和感がない。

 そしてインテリアを見回して、驚くのはその質感が高いこと。これまでのスバル車にはなかったレベルの高級感がある。プロジェクトゼネラルマネージャーの熊谷氏によれば、インテリアにはかなりの予算をつぎ込んだという。やはりいいものを作るにはお金をかけなくてはいけないわけで、これをベースに今後のスバル車の室内質感が上がっていくことが期待される。

1.6GT EyeSighに搭載される水平対向4気筒 DOHC 直噴ターボエンジン
運転席での着座ポジション
こちらは後席。後席シートもリクライニング可能となっている。写真は中間位置に設定
レヴォーグ 2.0GT-S EyeSightのインテリア。GT-Sは、1.6リッター、2.0リッターともに、青ステッチのシートを装備する
ステアリングに装備されたスイッチ類。左側にはMFD(マルチファンクションディスプレイ)の画面切換など
右側には、EyeSight関連のスイッチやドライブモードを切り替えるSI-DRIVEのスイッチ。S♯モードは、2.0リッターモデルのみとなっており、8段ステップの変速が可能
セレクトレバー
右から、アクセルペダル、ブレーキペダル、フットレスト
EyeSightと連動可能な電動パーキングブレーキを採用する
カップホルダーなど
エアコンなどのスイッチ類の質感も向上している
センターコンソール下部には、USB給電ポートやシガーソケットを装備
前席
前席ドア内側
パワーウインドーなどのスイッチ類
後席
後席ドア内側
ラゲッジルーム
ラゲッジルームからリアシートを倒せるよう配慮されている
ラゲッジルームランプは左横に
給油口。2.0モデルは無鉛プレミアムガソリンとなる
ワイヤレスキーリモコン

 トランスミッションは、リニアトロニック(CVT)で、よりスポーティーなSモードと燃費志向のIモードの2種類のドライブモードを持っている。まずは、シフトセレクターをDレンジに入れ走り始める。アクセルを踏み込むと動きが軽い。苦もなくスルスルと加速。そのまま100km/hまでスムーズに、しかも力強い加速だ。1800rpmから発生する250Nmの最大トルクは4800rpmまで続くフラットなトルク特性なので、レスポンスもよくアクセル操作がしやすい。5000rpmを超えたあたりから若干力感が鈍るが、トップエンドの6000rpmまでフリクションがなく扱いやすいエンジンだ。レギュラーガソリンで燃費仕様という印象はあまり感じられない。

 このレベルの速度を出していても室内の静粛性がとても高い。中高周波音をしっかり削っていて、ライバルともいえるドイツ車のレベルに達している。これがインテリアの質感をさらに引き上げている。

試乗の合間に、レヴォーグの開発を担当した富士重工業 スバル商品企画本部 プロジェクトゼネラルマネージャー 熊谷泰典氏と、その走りやインテリアの質感について語り合った

 そしてその走りは軽く、思いどおりのラインが描ける。フロント:ストラット、リア:ダブルウイッシュボーンのサスペンション形式は近年のスバル車と同じだが、サスペンションのフィーリングはかなりハードなほうだ。まだプロトタイプであることもあり1.6GT EyeSightのサスペンションはロール感も少なくしっかりしている。そのため、若干突き上げ感が強めだ。人によってはこの乗り心地にためらうかもしれない。特にリア席での挙動が顕著なので、開発側も発売までに改善の余地があると認めている。しかし、そのハンドリングはかなり通好みのもの。リアのしっかり感があり、オンザレールの狙いどおりのコーナーリングラインが描ける。

 1.6GT EyeSightの次は、ビルシュタイン製ダンパーとフロントサスペンションのロアアームをアルミ鍛造とし、接合部をピロボールブッシュとした1.6GT-S EyeSightに乗り換えよう。アルミ鍛造のロアアームは単体で1kg弱軽量。さらにピロボールのスムーズな動きとビルシュタイン製ダンパーのコラボレーションによって操舵時のサスペンションの動きが軽い。そのためフロントタイヤの荷重変化がステアリングを通じてリニアに感じとれる。1.6GT EyeSightに比べても躍動感が高く、乗り心地もよりスムーズに感じるのだ。コーナーリング限界域でもフロント内輪のみにブレーキをかけてアンダーステアを軽減するアクティブトルクベクタリング制御により思いどおりに曲げられる。

身体をシートに押し付ける加速感が味わえる2.0リッターモデル

2.0リッターモデルはサーキットを中心に試乗した

 続いて2.0リッターモデルに乗り換えてみよう。最高出力は221kW(300PS)/5600rpm。2000-4800rpmまで400Nmの最大トルクを発生する。アクセルを踏み込めば身体をシートに押し付ける加速感。これぞスポーツの証である。2.0リッターエンジンには大径のタービンが採用されていて、さらにトップエンドのエンジン回転数も1.6リッターと比べ+500rpmの6500rpmと高回転。このトップエンド付近に至るまでストレスがなく回るし振動感がない。トランスミッションはスポーツリニアトロニック(CVT)で、4WDシステムは1.6リッターモデルがトランスファークラッチでトルク配分を行うアクティブトルクスプリットAWDなのに対して、センターデフ+LSD機構を持つVTD(バリアブルトルクディストリビューション)AWDだ。

 サスペンションのシステムは1.6リッターモデルに準じ、スプリングレートなどもほぼ同じ仕様となっている。つまり2.0GT-S EyeSightは、ビルシュタイン製ダンパーなど1.6リッターモデルと同じ仕様となっている。こちらはサーキットコースで走る。加速は前述したように力強く、ブレーキングも1.6リッターモデルより一回り大径なフロントディスクにより強力でコントロール性が高い。もてぎはブレーキングに厳しいことで有名だが、効きそのものはしっかりしている。ただしサーキットを走るのであれば、冷却性能がもう少しあればと感じた。2.0リッターモデルも、2.0GT-S EyeSightと2.0GT EyeSightの両方試乗したが、やはりSモデルのほうがスムーズなサスペンションの動きで心地よいハンドリングだ。

カラー認識機能やアクティブレーンキープ機能を備えたEyeSight ver.3

 レヴォーグには、従来のスバル車にない新しい機能が授けられている。それは先進安全技術であるEyeSightがver.3の最新型になったこと。この最新EyeSightは、カメラをカラー化したほか、認識視野を広角化するなどし、より遠く、より広く認識できるようになっている。これによってプリクラッシュブレーキと前車追従機能を備えるACC(アクティブクルーズコントロール)の性能が上がっている。

EyeSight ver.3の表示。クルーズコントロールを設定後、白線を認識していることを示している

 またカラー認識機能によって前車のブレーキランプを認識し、人の操作感覚に近いブレーキングが行えるようになっている。そして大きな進化がアクティブレーンキープ機能が追加されたことだ。これは路面の白線を認識して車線内にクルマを留めるようステアリングを自動制御するもの。すでにフォルクスワーゲン「ゴルフ」などにも同様の機能は採用されている。新世代EyeSightについては、オーバルコースに高速道路の車線を見立てた白線を引いたエリアで体験。緩やかなカーブではステアリングに手を添えているだけでクルマが車線内へ留まるようステアリングが制御される。65km/h以上の速度であることが条件だが、ACCを入れたときは自動的にアクティブレーンキープもONになる。私の経験からいってもレーンキープ機能があれば長距離の高速移動で疲労をかなり抑えることができる。将来、安全運転に欠かせない機能になることは間違いないだろう。

 レヴォーグは1月19日の時点ですでに3200台の受注が入っている。しかもその中の70%以上が1.6リッターモデルで、全体の70%以上がビルシュタイン製ダンパーなどを装備するSモデルをチョイスしているのだという。レヴォーグは内外デザインも性能も大幅に引き上げられた素晴らしいモデルだ。最後の詰めを行い、市場にデビューする日が待ち遠しい。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:高橋 学