インプレッション

ホンダ「オデッセイ アブソルート」

 初代と2代目のオーナーだったボクにとって、新しい「オデッセイ」は眩しく映る。3代目以降コンセプトはがらりと変わり、ミニバンらしくないローアングルなフォルムとなった。さらにちょいワル系のフェイス。これはこれでファッショナブルと受け止めたけれども、もともとオデッセイがヒットしたロジックはセダンの使い勝手とハンドリングを持ったハイト系ミニバンだったはず。いつの間にかライバルはオデッセイのヒットプロセスを検証し、次々と進化していった。根強い人気はあったものの、3代目以降のオデッセイが埋もれていた感は否めない。

 そこで新型オデッセイでは今、何が必要なのか? ホンダとしてさまざまな検証を行った結果、もう一度基本に戻り、やはりというかミニバンらしいフォルムがオデッセイに戻ってきた。「エリシオン」との融合ともいえる後席スライドドアを引っ提げての登場だ。ライバルに打ち勝つ魅力があるのか? さっそく試乗してみよう。

ミニバンらしいオデッセイが蘇る

今回試乗したのはオデッセイ アブソルート EX(7人乗り/2WD)。ボディーサイズは4830×1820×1685mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2900mm。ボディーカラーは4万2000円高となるホワイトオーキッド・パール。フロア下に配置する燃料タンクや排気システムの薄型化などの実現により、セカンドシートのステップ位置を先代モデルから60mm下げ、約300mmという低床化を達成している

 1994年に初代オデッセイはデビューした。ボクが初代を購入した理由は、4WDと室内のユーティリティの高さだ。当時はサーキットのピットのすぐそばにマイカーを駐車できたので、サーキット内での休憩や打ち合せ、またレーシングスーツに着替えるための部屋として、そのマルチな使い勝手にとても満足していた。

 しかし、3代目からコンセプトが変わった。乗用価値の走りとフォルムを優先させて、ミニバンらしい魅力に欠けていたのだ。ミニバンらしさは「ストリーム」や「ステップワゴン」、そして大きさを求めるユーザーにはエリシオンに譲り、オデッセイは我が道を歩き始めた。このあたりでボクはオデッセイ卒業となっていたわけである。

 3代目~4代目までの走り重視のコンセプトは、ライバル車がスペース重視で次々とヒットを飛ばした現実と対照的。しかし、新型となる今回のオデッセイには“あのころのオデッセイ”がみごとに蘇っていたのだ。

 まず目につくのが初採用となったスライドドア。2代目を購入したとき、これさえあれば完璧なのにと悔やんだものだ。まずスライドドアを開けてみるとサイドシルの突起を取り去り床と平らなフロアを実現していて、乗り降りがとても楽チン。ステップ高は約30㎝とこれからの高齢化社会に優しい設計だ。

 座席は7人乗りと8人乗りがチョイスでき、3列目シートは3人それぞれの背もたれを個別にリクライニングさせることができる。3列目シートは後輪タイヤハウスに干渉するので2列目シートに比べて若干狭め。そのため3列目シートに3人掛けはちょっとキツイが、この個別リクライニング機構によって肩と肩が触れ合う位置を変えることができ、ちょっとした心配りが感じられる。また、この3列目シートはラゲッジスペースに収納させることで完全にフラットな床となり、さらに2列目シートを前方にスライドすれば広大なラゲッジスペースが現れる。

 また、7人乗りの場合、2列目シートは前席と同じように左右が独立した、いわゆるキャプテンシート(ホンダではプレミアムクレードルシートと呼んでいる)を採用した。こちらはオットマンを内蔵し、背もたれもセンターで角度が変えられる中折れ機構を採用。細かなシート調整が可能となっていて、実際その乗り心地は社長さん気分。素晴らしい座り心地だ。

アブソルート EX(7人乗り)の2列目シート(写真上)と3列目シート(写真下)に座ってみたところ。3列目シートに3人掛けはちょっとキツイが、オットマンを内蔵するとともに背もたれもセンターで角度が変えられる中折れ機構を採用した2列目シートは素晴らしい座り心地。社長さん気分を味わえる
アブソルートは黒木目調パネルとブラック内装を組み合わせ、スポーティかつ上質な空間に仕上がっている。撮影車はオプションの本革シートを装備。室内サイズは2935×1625×1325mm(室内長×室内幅×室内高)。先代と比べ車両全長が約30mm、ホイールベースが70mm拡大されたことで、前後のタンデムディスタンスが155mm拡大している
本革巻ステアリングホイールは標準車のEXおよびアブソルートシリーズに標準装備
ホワイトとレッドの照明を組み合わせるアブソルートのメーター。スピードメーター中央に外気温、平均燃費、瞬間燃費、推定航続可能距離などを表示可能な液晶ツイントリップメーターが備わる
中折れ機構付のシートバックとオットマンが備わる2列目シート。背もたれを倒すと連動して座面前部が持ち上がり、ゆりかごにいるかのような座り心地を体感できる

ミニバンとして次元を超えたハンドリング

 では走りは、ハンドリングはどうなのか? 今回試乗したアブソルートを中心にお伝えしたい(標準車のインプレッションはこちら)。ドライビングに重要なドラポジ。テレスコピックのリーチが長いのでボクのような小柄なドライバーにもしっくりとくる。シートのサイズ感もよし。特にサイドサポートがよいのでドライビング中の姿勢をしっかり保持してくれる。その割にスポーツシートにありがちな締め付け感が少なく、ツアラーとしての機能をきちんと兼ね備えている。もう1つ、見切りがよく1820mmという横幅の割に左前端の感覚がつかみやすい。

 パワートレーンはアイドリングストップを採用した、直噴の直列4気筒2.4リッターにCVTの組み合わせ。お世辞にもパワフルではないが、燃費は約14km/L。CVTの制御がとても賢いので勾配がきつい箱根を走っていても、1830kgの車体をしっかりと引っ張る。ただ、試乗車は2列目キャプテンシートの7人乗りだが、8人乗りも含めフル乗車時はちょっとトルク不足を感じるかもしれない。その点は来年以降の登場がアナウンスされている、「アコード」と同じシステムを採用するハイブリッドモデルの登場に期待したい。何しろエンジンルームを覗くとスカスカ。そこには明らかにハイブリッドを想定したスペースがあるのだ。

アブソルートに採用する、直噴の直列4気筒2.4リッター「K24W」エンジン。最高出力140kW(190PS)/6400rpm、最大トルク237Nm(24.2kgm)/4000rpmを発生する。JC08モード燃費は13.6km/Lを達成している

 エンジンパワーよりもシャシーグリップが優っていることの方が重要なこと。特に背の高いミニバンともなればコーナーリングでのモーメントが大きく姿勢を乱しがちだ。全高1865mm、しかし新しいオデッセイはそんなことをまるで感じさせない。気がつくとコーナーリング速度そのものが速くロール感も大きくない。これは標準車のGグレードにしても同じで、タイヤもサスペンションもアブソルートよりコンフォート系なのに、コーナーリングは安定していて旋回速度も限界が高いのだ。重いバッテリーを床下に搭載するEVのように低重心な走りのフィーリングを感じさせる。センタータンクレイアウトを含めたホンダの技術がなせる技だろう。

 アブソルートでは直進時からタイヤが路面に吸いつくようで、まるでレーシングカーのダウンフォースを得て走っているかのよう。これは速度に係わらずしっかりと感じられ、ステアリングに返ってくるインフォメーションも直進時のニュートラル域がしっかりとあり、高速走行では疲れ知らずの安心走行ができるはず。そしてコーナーリングに入る時のステアリングの応答性がとてもスポーティ。ヨー方向への曲がる方向の動きと、サスペンションのロール方向への沈み込みのバランスが適切だ。

 新型オデッセイにはレースでも実績のあるザックス製のダンパーが採用されている。ザックスダンパーはF1でも採用される高性能ダンパーで、ザックスを投入した理由は、スペースを稼ぐためリアサスペンションが今回トーションビーム式(独立ではなく左右が繋がった方式)に変更されたことも一要因だろう。2ピストンの新機能を持つダンパーで、乗り心地とハンドリングの二律背反する問題に対処する。まあ、それでもハンドリング重視だが、このザックスのおかげでサスペンションストロークを感じさせないのに路面をなぞるようなしなやかな足さばきがある。これは走り込むほどに感動へと変化する。

新型オデッセイに採用されたザックス製ダンパー

 またボディーがしっかりしていて、締まりの効いたアブソルートの足でも、路面の突起を乗り越える時の振動が後を引かず一瞬で納まる。サスペンションの上下動もこれに同じく一発で終息するから、次のコーナーリングにもすぐに対応できる。このような時にサスペンションの締まり感を実感する。連続する凸凹では乗り心地は悪化するが、この点はハンドリングとのトレードオフだ。はっきり言ってアブソルートを選ぶなら、ある程度の乗り心地は覚悟した方がよい。その代わりにハンドリングはこのサイズのミニバンとしては次元を超えている。

 乗り心地を重要視したいのなら、アブソルート以外の標準車をチョイスしよう。それでもスポーツとしての性能は高くハンドリングで極端に失望することはない。標準車のエンジンは直噴ではなく従来どおりのポート噴射で若干燃費は劣るが、アイドルストップも備えパワーフィールにも大きな差はない。

 2列目シートは前後のスライド量が大きく、3人ないし4人乗車なら広大なレッグスペースが現れる。ラゲッジスペースもゴルフバッグが縦に4つ搭載可能とか。3~4名乗車でよくゴルフへ行かれる方にマジお勧めします。

 最後に、ホンダといえば傘下のショーワ製ダンパーが通例だったが、最近では変化が起きている。前述したように、新型のオデッセイでは韓国製ザックスを採用していて、すでに日産「エクストレイル」などSUVスポーツモデル等にも採用された実績がある。

 今回は振幅感応型という新しい機能が使われていて、入力の大小を別々のピストンで処理する。サスペンションが上下動し、タイヤからの入力の強さによってキャラクターの異なる2つのピストンが減衰処理するというわけだ。大きな突起や連続した凸凹ではかなりダイレクトに衝撃を伝えるが、今回リアサスペンションがスペース確保の見地からトーションビームになったこともあり、このような高機能ダンパーの採用に踏み切ったのだろう。ホンダが乗り心地にかなり苦心している様子がうかがえる。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:安田 剛