インプレッション

トヨタ「プロボックス」「サクシード」

12年ぶりにモデルチェンジした「プロボックス」「サクシード」。写真はプロボックス
コマーシャルバンの試乗のため、背広できめてみた

 自動車メーカーの礎を築いたのは多くの場合、商用車である。トヨタ自動車とて例外ではなく1935年に登場したG1型トラックの登場以来、脈々と続く商用車の系譜がある。トヨタのラインアップは用途により選択できるように豊富だが、身近なものとしては「ハイエース」、そして「プロボックス」「サクシード」(以下、2車種をまとめてプロ・サクと表記)がある。王者ハイエースはよく知られた存在だが、コマーシャルバンのプロ・サクも2002年に登場以来、その使いやすさ、広い荷室、高い経済性を武器に大きなシュアを誇り、12年の長きにわたってモデルチェンジなしに愛用されてきた。

 つまりプロ・サクは12年ぶりのモデルチェンジになるが、好評な現行型を継承して、実際に使うドライバーの立場に立って開発された。

 フルモデルチェンジとは言え、ほぼ同じように見えるのは従来のプロ・サクの美点、使いやすいアッパーボディー後半部をそのまま使ったからで、それに合わせる形でアンダーボディーを作りこんでいる。

プロボックス F 2WD。1.5リッターエンジンを搭載する最上級グレード
ラゲッジルームを確認中
エンジンルーム確認中
寝心地確認中
テーブルや鞄を置く場所などがよく考えられているので車内での事務作業も便利。本当はノートPCなどを使うのが今風なのだろうが、筆者は手書きメモ派
従来モデルと変わらないラゲッジルームの広さ。形も同じため、企業がクルマを代替えする際に新たに検討する手間を減らせる
インパネ全景
ステアリングまわり
シンプルかつ十分な情報量のメーターパネル
使いやすい空調ダイヤル
マルチホルダー。スマートフォンやメモ帳を置くことができる。飛び出しを防ぐため、ガッチリとした作り
A4サイズのノートPCが置けるインパネテーブル。最大重量は10kgとなる
ドリンクホルダーにもなるセンタートレイ。コストパフォーマンスに優れる1Lの紙パックを置けるのがポイント。500mLクラスのペットボトルも安定して置けるような工夫がされている
シフトレバーまわり。コンビニ袋を引っかけるためのフックが用意されている
VSCやUSB電源コネクタなど今の時代に求められる装備も加わった

 下村チーフエンジニアからの説明では、購入決定者からは荷物が積めて、丈夫で長持ち、ランニングコストが安く、安全であることが求められる。実際に使うドライバーからはクルマの中で過ごす時間が長いため、楽に使えるクルマが求められるといい、この両者の購入用件を満たすべく開発を進めたという。

プロボックスの開発者である下村修之チーフエンジニアと、旧型、新型の違いについて確認
旧型プロボックス。デザインは今見ても飽きのこないもの

 基本的なサイズはほぼ変わらないが、全長が50㎜伸びて4245㎜となった。ほぼ安全対応の要素が大きい。全幅は1690㎜と変わらないが、最小回転半径は0.1m長くなり4.8mから4.9mとなったが、実質的にはほぼ変わらない。ホイールベースは2550㎜と共通、そしてトレッドはフロアパネル変更の関係で1455/1465㎜から1485/1465㎜へとフロントが広がっている。全高も1525㎜とこちらも変わらず、使いやすさの基本は抑えている。

 特にラゲッジコンパートメントはアンダーボディーも含め従来型から踏襲しているため、プロ・サクの魅力であるしっかりと荷物が積める用件は受け継がれている。サスペンションも基本的に同じだが、4リンクのリジットでリファインされており、スタビライザーも22φから24φにサイズアップされている。

 フロントのフロアパネルは「ヴィッツ」などと同じモノに変更されていて、トレッドが拡大されており、同じストラット形式でもレイアウトなどは先代と少し異なる。これが最少回転が僅かに大きくなった要因だろう。前後のサスペンションの設定方向はバネ/ダンパーはしなやかなに、そしてスタビライザーは張る方向に持って行き、バンとは思えないような快適性を持たせることになった。

 さて実際にハンドルを握ってみよう。

 新しいプロ・サクの大きなポイントの1つに使う人にとってより使いやすい室内が挙げられる。これまでのプロ・サクもコマーシャルバンらしい細かい配慮が行われていたが、新型では一層使いやすくなっている。例えば現場の声から、従来型であまり使われなかったキー付のセンターボックスは廃止され、1Lの紙パックが収まるドリンクホルダーに置き換えられた。引き出し式のインパネテーブルも大型化してコンビニ弁当が楽に置けるようになっている。

 さらにパーキングブレーキを足踏み式にして稼ぎだしたセンタースペースにはビジネスバッグが収まるトレイが作られた。実際に使ってみると便利で、コマーシャルバンだけでなく乗用車にもあると重宝するアイテムだ。またA4ファイルが入るインパネトレーもインパネテーブルの下にあり、大きなオープンタイプのフリーラックもいかにも働くクルマだ。

 さらにフロントシートのリクライニングは76度まで倒すことができるので、感覚的にはフラットになるイメージだ。これも現場からの強い要望で、リクライニング角度が大きいと休んだ際の疲労度が断然違うという。このほかにもエアコン容量の増大や、花粉除去フィルターなどを加えて、一日中車内で過ごすドライバーにとって優しいコマーシャルバンになっている。優しいのはキャビンだけではない。燃費、乗り心地、取り回しなども大きく向上している。

リクライニング角度が44度から76度になったフロントシート。車内で寝られるようになった
試乗中にお腹が空いたのでコンビニでお買い物
飲み物や弁当を搭載して再び試乗へ

 試乗したのは1.5リッターのプロボックスの上級グレード、Fの2WDだった。価格は約158万円だ。ちなみに試乗車には荷室に100㎏の重量物を搭載していた。最大積載重量は400㎏である。

 まずハンドルのパワーアシストが油圧から電動式になり、操舵力が大幅に軽減された。油圧アシストはそれなりに軽くて使いやすかったのだが、パーキングレベルではちょっと重いと感じるドライバーもいた。それを改善するために車速感応型の電動パワステ(EPS)に変更したが、メリットは細かいチューニングができることで、どの速度域でも軽快で確かな操舵力と操舵感が保たれている。高速ではもう少し保舵感がほしいところだが、耐摩耗性と頑丈さが身上のライトトラック用タイヤを履いている状態では妥当なところだ。かと言って高速でも不安を感じることはなく、街中の取り回し同様に安心感のあるステアリングワークが可能だ。

 軽いフットワークとともに乗り心地は劇的に変化した。従来のプロ・サクはそれ以前のコマーシャルバンよりは画期的に向上した乗り心地を誇っていたが、新型ではさらにコマーシャルバンとは思えない程しなやかな乗り心地を得ていた。街に乗り出すまでもなく、リアからの突き上げがほとんどなく、フラットとは言わないが乗用車とほとんど変わらない乗り心地だ。空荷だともう少し突き上げ感があると思うが、まずは快適。都心で荒れた路面の通過や段差を乗り越すケースもあったが、運転席で衝撃を構えた割には拍子抜けするように通過してしまった。ハンドルの操舵力も軽く、街中でのフットワークはなかなか痛快だ。面圧分布に優れたフロントシートの大幅改良も見逃せない。

 エンジンは1.5リッターと1.3リッターで、1.5リッターは従来の1NZの改良型。吸気ポートを改良して圧縮比をアップするなどで燃費効率を改良した。2WDの最高出力は80kW(109PS)と同じ、最大トルクは136Nm(13.9kgm)と従来の14.4kgmから下がっている。パンチ力は僅かに下がった感じはするが、実質的には大きな体感上の違いはない。JC08燃費は18.2km/Lで大幅に向上している(従来は10.15モードで16.0km/Lだった)。2WD(FF)は取得税80%軽減、重量税75%軽減、4WDは取得税60%軽減、重量税50%軽減となる。

 一方、燃費向上にはトランスミッションも大きな要素だ。従来のトルコン式4速ATから全車CVTになった。よくできたCVTで低速から滑らかで力強い発進と加速が可能だ。エンジン+トランスミッションのコンビネーションは滑らかでストレスがない。中間加速も自然で力強い。加速時だけでなく減速時もエンジンブレーキが適度にかかる設定になっており、荷重時のエンブレも有効に使える。ドライバビリティに優れた動力性能を持っていた。

 1.3リッターのエンジンはガラリと変わり、1NZから新世代の1NRになった。乗用車用と少し違い、最高出力は少し下がるが、最大トルクの発生回転数が下がっているために、商用車らしい低速トルクを重視した設定だ。それほど荷重をかけないユーザーなら1.3リッターで結構間に合ってしまいそうだ。

 さて、ハンドリングはリアサスペンションがフロントに合わせてしなやかにロールするようになったので、追従性が向上して高速道路のジョイント路面でもポンポン跳ねずに行儀よいハンドリングだ。鉄板路ではさすがに横っ飛びする場面もあるが、基本的にヒヤリとするところはない。もし個人ユースだったり、積む荷物が軽かったりする場合は乗用車用のウェットグリップの優れたタイヤに履き換えるだけで俄然性格を変えることが予想される。商用車としては期待値をはるかに上回る4輪の接地力がそんな気持ちにさせる。

 このほかにもVSC、ヒルスタート、緊急ブレーキシグナル(急ブレーキ時にハザードが点灯する)、商用車には特に有難いEBD(荷重による可変前後ブレーキ配分)、歩行者保護ボディーなど安全対応が大幅に向上している。

 今回5ナンバーワゴンは設定されておらず、リアシートも折りたたんで使うことを前提にした短距離移動しか考えられていないが、この割り切りも理解できる。コマーシャルバンとはどうあるべきかを徹底して研究された1つの回答がプロボックス、サクシードで、高速安定性やフットワークも含めて大幅にユーザーフレンドリーに進化している。使い勝手ではコンパクトカーなどが範を取ってもよさそうに思う。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛