インプレッション
ボルボ「S60 ポールスター」「V40 R-DESIGN Carbon Edition」
Text by 日下部保雄(2015/11/19 11:50)
2016年仕様の「S60 ポールスター」の在庫はすでに2台
ボルボは従来からポールスターのネーミングを与えたホットモデルをラインアップに加えていた。ポールスター社とボルボはこれまで深く関わっていて、このようなコラボレーションが生まれていたが、最近ボルボに吸収されて1部門となった。と言っても、これまでのポジションが大きく変わるわけでなく、ボルボの特異な1部門としてさらに密接に関わっていくことになる。簡単に言ってしまえば組織の形態は異なるが、メルセデス・ベンツのAMGやBMWのMに対するボルボのポールスターといった位置づけになると言えばよいだろうか。
また、ポールスター社から独立した公式モータースポーツパートナーであるシアン・レーシングが、これまで同様にボルボと連携を取りながらWTCC(世界ツーリングカー選手権)などに参戦していくことが発表されているのもトピックの1つだ。
今回紹介する「S60 ポールスター」は、実は50台限定のスペシャルモデル。2016年仕様のS60 ポールスターはすでに2台しか残っておらず、これを購入できたオーナーはラッキーだ。V60 ポールスターはまだ18台ほど在庫があるという。
ボルボ最後の直列6気筒エンジン
S60 ポールスターは、実は“ボルボ最後の直列6気筒エンジン”を搭載するT6をベースとして開発されている。世界でも稀有な6気筒を横置きにしたFFをベースにAWD化したモデルだが、ノーマルのT6からは基本をそれほど変えずに、ファインチューニングを施されたスペシャルモデルだ。
ベースは304PS/440Nmを低回転から発生するパワーユニットだが、ポールスターでは350PS/500Nmまでパフォーマンスを上げている。排気量などの基本スペックは変えず、直列6気筒ならではの振動の少なさ、回転の滑らかさにはさらに磨きがかかってスーパースポーツサルーンに相応しい仕上がりだ。しかもパワーの出方はごく自然で、よく躾けられている。
アクセル開度が小さい市街地では適度なトルクで粛々と走り、アクセル開度の大きなランプウェイでの加速などではたちどころに交通の流れをリードできる。0-100㎞/h加速が4.9秒というデータを裏付ける加速力だ。パワースペックは2015年モデルと変わらず、ボルグワーナー製のツインスクロール・ターボチャージャー、専用インタークーラーを備えている。最大トルクの500Nmは3000-4750rpmの幅広い領域で出しており、それ以下の回転でのトルク特性も立ち上がりが早くて粘りとパンチがある。
エキゾースト・システムは左右2本に分かれており、電動フラップ付で低速では右のフラップが閉じて比較的静かに、4000rpmを超えると左右のフラップが開いて図太く迫力のあるエキゾースト・ノートに変わる。また後述のスポーツモードでも力強い音が楽しめる。
JC08モード燃費は9.6km/Lと意外と(?)良好で、おとなしく走ればそれなりに燃費は稼げそうだ。トランスミッションはスポーツモデルでは常識となったパドルシフト付の6速トルコンAT。ワイドレシオで100km/h時のエンジン回転は約1800rpmだが、その回転でも粘り強い加速ができる。もちろんシフトダウンしてからの加速は迫力あるものだ。気持ちよくトップエンドの5500rpmオーバーまで振動もなく回る。ここまで回すことは日常的にはほぼないだろうが、大排気量のスポーツエンジンの迫力を堪能できる。
サスペンションはスウェーデンのダンパーメーカー「オーリンズ」と共同開発した前後とも30段階の調整式で、デフォルトはフロント/リアともに10段階(数字が少ないほど硬い)に合わせているという。スプリングもR-DESIGN比で80%高められ、スタビライザーも15%強化されている。
ドライブフィールは設定された減衰力に対してややスプリングが勝っている感じで、時間があれば色々とセッティングにトライしてみたくなる面白さを感じさせた。作業する際にちょっと手を汚さなければならないが、このような楽しみが残されているのは嬉しい。乗り心地はスプリングの硬さがあるのでスタンダードのS60に対してゴツゴツした感触はあるが、過度に強い突き上げを感じることはない。
AWDシステムにはスウェーデンのハルデックスを使っているが、ポールスター用にチューニングされており、通常のDレンジでも弱いアンダーステアを維持して乗りやすい。フロントエンドに決して軽くないパワーユニットを搭載している割には素直なハンドル応答性を持っているが、これがSレンジに入れてESCをカットすると性格が豹変。後輪への駆動力が大きくなり、AWDのスペックも旋回力が高くなる方向に働く。ステアリングの応答性もさらにシャープになって、曲り込んでいくようなコーナーもグイグイと旋回して面白いようにワインディングロードを駆け抜ける。しかもAWDらしい安定性は維持したままなので、ドライバーにとって安心感と楽しみの両方を併せ持つ大人のスポーツサルーンだ。
ブレーキはブレンボ製の6ピストンで、重量1780㎏の重量を受け止めるのに不足はない。ブレーキのタッチは剛性感があり、かつストロークも適度にあるので市街地からワインディングまで扱いやすい。どんなブレーキでも重量級セダンで連続使用するとフェードリスクがあるが、安定性のあるブレーキだ。
S60 T6はすでに生産を終了しているので、ボルボ最後の直列6気筒をポールスターで味わうのはいかがだろうか?
特別限定車「V40 R-DESIGN Carbon Edition」にも試乗
特別限定車「V40 R-DESIGN Carbon Edition」は、R-DESIGNのルーフをカーボンにして軽量化を図ったモデルで世界限定343台のみの生産。微妙な数字だが、日本には88台が割り当てられる。カラーはアイスホワイト1色のみで、ルーフのカーボンファイバーが目立つ仕様だ。
今回の試乗車はさらにロムチューンの「ポールスター パフォーマンス パッケージ」を加えたもので、搭載する直列4気筒2.0リッター直噴ターボのDrive-Eエンジンはベースの245PS/350Nmから253PS/400Nmにパワーアップされている。1510㎏の重量なので馬力荷重は約5.97㎏/PSに過ぎない。
トランスミッションはアイシン製の8速ATで、トルクバンドの広さとともにクイックシフトで途切れのない加速が味わえる。また、ロックアップ領域が広く、マニュアル操作ではダイレクト感があるのも好ましい。さらにスロットルOFF時のレスポンス、そして再加速でも中速トルクが盛り上がって即座に反応し、スポーツエンジンとしてまったく不足はない。
ちなみにV40は日本導入3年目に入るが、イヤーモデルごとに洗練されており、乗り心地などもその例に漏れない。R-DESIGNであっても初期のV40よりも快適で、リアからの突き上げもそれほど強くない。
装着タイヤは235/35 R19。8Jのグロッシーブラックに塗装された軽量ホイールを装着する。このホイールの重量増とカーボンルーフの軽量化分で車両重量は相殺されるが、ルーフトップが軽量化されたことでハンドリング性能は十分に体感できるほど異なっていた。ルーフトップの軽量化で慣性モーメントが小さくなり、S字などのハンドル応答性に優れている。フットワークのよいV40 R-DESIGNがさらに軽快なハンドリングを手にして、気持ちのよいスポーツハッチバックだ。19インチタイヤとのコンビンネーションも重さは感じず爽快なドライブが楽しめた。
多彩になって進化を続けるV40は、イヤーモデルで安全装備も進化している。価格はポールスター パフォーマンス パッケージを加えて478万8000円。日本に88台だけだと考えると結構魅力的だと思うのだが。