レビュー

【タイヤレビュー】最高のウェットグリップ「ブルーアース・エース」と、最高の低燃費性能「ブルーアース AE-01F」

コンパウンド変更で、性能をラベリング制度最高クラスに

コンパウンド変更で低燃費タイヤ2製品の性能を向上

 ヨコハマタイヤ(横浜ゴム)の主力製品である低燃費タイヤ「BluEarth(ブルーアース)」シリーズには、乗用車用やミニバン用のほか、ドライグリップ、ウェットグリップ、転がり抵抗性能の違いなどにより、さまざまなバリエーションがある。

 今回、そのブルーアースシリーズの中から、トレッドパターンの変更を行わず、製品の特徴となる性能を引き上げた、トータルバランスタイプの「BluEarth-A(ブルーアース・エース)」と、スタンダードタイプの「BluEarth AE-01F(ブルーアース エーイー・ゼロワン・エフ)」を、ヨコハマタイヤのテストコース「D-PARK」で試すことができたので、それぞれの特徴と印象をお伝えしたい。

 まずは、ブルーアースシリーズの中核をなす、ブルーアース・エースから。ブルーアース・エースは、2012年2月に発売され、コンパクトカーから高級セダンまで対応するマルチパフォーマンス性を狙ったモデルとなる。2012年の段階でマルチサイズに転がり抵抗性能「A」の低燃費タイヤを展開しつつ、ウェットグリップ性能を「b」まで引き上げた製品として登場した。

 2013年7月には、ウェットグリップ性能を「b」から、最高グレードの「a」まで引き上げるマイナーチェンジを実施。トレッドパターンの変更を行わなかったためか、同じ製品名のままとなっている。

ウェットグリップ性能をラベリング制度最高性能の「a」に引き上げた「ブルーアース・エース」
トレッドパターンは、従来と同様の非対称パターンを採用する。右がアウト側
タイヤ側面にはディンプル(穴)も刻まれる。ブロックのピッチも変化しており、走行音に配慮されているのが分かる。写真左がイン側から、写真右がアウト側から見たところ

 転がり抵抗性能「A」を実現する低燃費タイヤでありながら、最高グレードのウェットグリップを実現し、それを195/65 R15 91H~245/35 R20 95Wの45サイズに展開するのは、他社を含めておそらくこれが初めて。そのほかのサイズとなる175/65 R14 82H~235/30 R20 88Wの18サイズについては「b」のまま継続販売されるので、その点は注意が必要だ。ウェットグリップ「a」の実現がいかに難しいかを示している部分だろう。製品名が同じで、かつトレッドパターンが同じであり、A/aとA/bの相違点はサイドウォールの刻印のみ。A/aには「AE50 Z」、A/bには「AE50」と刻印されているのが見分けるポイントだ。

ブルーアース・エースは、すべてのサイズがウェットグリップ性能「a」となった訳ではなく、サイズによっては「b」のままのものもある。タイヤのサイドウォールの製品記号から判断でき、従来タイプは「AE50」、新タイプは「AE50 Z」と刻まれている。写真は、左が従来タイプ、右が新タイプ

 A/aのブルーアース・エースを、コース内のさまざまなシチュエーションで試した。まず、装着した車両をドライの周回路&特殊路で試乗。車種は、「ゴルフ」「V40」「アテンザ」「マークX」になる。

 ブルーアース・エースのよさは走り出せばすぐに分かる。安価な低燃費タイヤにありがちな、突っ張ったような感じのイヤな硬さがない。路面のさまざまな凹凸が再現された特殊路を走行しても、路面からの入力のカドが上手く丸められ、その入力を包むような優しさがある。

 高速巡航時もそれは変わらない。平坦な直線やコーナー、バンクを高速で巡航しても、しっとりと落ち着いた印象で、音も静か。加えて、ステアリングレスポンスも上々だ。今回の試乗は運動性能の高い車種が多く、とりわけV40はサスペンションブッシュがハードで、ハンドリングがクイックなのだが、それにも負けることなくついてくるのが印象的だった。

ウェットグリップ性能「b」と「a」では大きな違いが

 ウェットグリップ性能については、新旧ブルーアース・エースを装着した同じ仕様の2台のゴルフで、ジムカーナのような細く曲がりくねったコースと定常円旋回コースに水をまいたウェット路面を走って比較することができた。

 最初はA/bで走行、次にA/aで走行した。

 同じように走行しても、コースインした瞬間から印象がまったく違って、圧倒的にA/aのほうがグリップは高い。タイトコーナーでは、あえてオーバースピード気味に進入して反応を比べたところ、A/bでは最初から滑り出して旋回半径が大きくなってしまうところ、A/aでは初期から向きが大きく変わり、奥に進んでから滑り出すので、狙ったラインから外れる度合いがずっと小さい。ウェットグリップaは、bとは異なる粘着感がある。路面への追従性はそれだけ上がっているはずで、雨天走行時などの安心感にもつながることに違いない。

 ウェット円旋回でのグリップ感もずいぶん異なる。一定速からの緩加速や、ステアリングの切り増しに車体がついてくる感覚にも違いがある。旋回の限界速度は、場所によって路面のミュー(摩擦係数)や角度が微妙に異なり、一定していなかったのだが、A/bが40~45km/hだったところ、A/aでは45~50km/hと、約5km/hの上昇幅だった。

 ステアリングを直進状態にしてフルブレーキングを試みても、A/aのウェットグリップ力が高く、短い距離で制動できた。

 比較走行は、プリウスでのウェットスラロームも実施。差は歴然としたもので、A/aではステアリング入力に対する応答遅れが小さく、運転操作に対してリニアに反応する。ウェットグリップ性能が「b」と「a」では、これほど大きく違うことに驚かされた次第である。

 マイナーチェンジしたブルーアース・エースのタイヤサイズは、195/65 R15 91H~245/35 R20 95Wの45サイズと、豊富に揃えられている。ウェットグリップ性能「a」は、ラベリング制度導入以降に発売された同社製タイヤでは、195/65 R15の1サイズのみでAAA/aを達成した「BluEarth-1(ブルーアース・ワン)」と、グリップパフォーマンスを引き上げたフラグシップタイヤ「ADVAN Sport V105」(C/aを26サイズ)のみ実現していたもので、ブルーアース・エースの登場で、低燃費タイヤでありながら、多くの人がラベリング制度で最高峰のウェットグリップの恩恵を受けられるようになったと言える。「a」と「b」の性能差は明らかなだけに、175/65 R14 82H~235/30 R20 88Wの18サイズについても、技術的な課題はあるのだろうが、ウェットグリップ性能「a」への進化を望みたい。

ウェットパイロンスラロームによるライントレース性能の違い。左はウェットグリップ「b」の従来タイプ、右がウェットグリップ「a」の新ブルーアース・エース。従来タイプのブルーアース・エースのほうでは、スムーズにパイロンを抜けていくのが難しい

抵抗感なく惰走する「AAA」の感覚が驚かされるブルーアースAE-01F

 ブルーアース AE-01Fは、2013年11月に発表され、2014年2月より発売されるスタンダード低燃費タイヤ。2010年7月に発売され、転がり抵抗性能AAを達成したブルーアースAE-01がマイナーチェンジし、ラベリング制度最高の転がり抵抗性能AAAを達成したモデルとなる。発売サイズは165/70 R14 81S~205/55 R16 91Vの19サイズ。145/80 R13 75S~175/60 R16 82Hの16サイズはブルーアースAE-01を継続販売する。ちなみに、新たに末尾に加わった「F」は、「Fuel Saving(燃費を抑える)」「Friendly(親しみやすい)」「Fit(ぴったり合う、ふさわしい)」を意味する。

 165/70 R14 81S~205/55 R16 91Vのサイズラインアップから分かるように、コンパクトカーやエコカーに対応するサイズが豊富に揃えられており、選びやすいのも特徴だ。装着することで、JC08モード燃費で4%の向上が期待できるという。

ブルーアースAE-01Fもエースと同様、パターンを変更せずにコンパウンドのみで性能向上を図った。エースがウェットグリップを引き上げたのに対し、AE-01Fは転がり抵抗性能を低燃費タイヤラベリング制度最高の「AAA」に引き上げた
スタンダードクラスの低燃費タイヤとなるため、トレッドパターンは左右対称タイプ
スタンダードタイヤでありながら、製品名は凹文字で刻まれる。安価なタイヤでも、最近はコストをかけた造形のタイヤが増えてきた
サイドウォールに刻まれた製品記号は「AE01F」
ブルーアースAE-01Fのトレッドパターン。前述したエースと比べると分かりやすいが、エースよりも曲線を意識してデザインした溝が刻まれている
転がり抵抗比較

 試乗車として「アクア」「フィット ハイブリッド」「ノート」「カローラ ハイブリッド」「フィアット500」「up!」が用意されていた。ブルーアースAE-01Fの試乗は、ドライの周回路&特殊路のみだったが、ラベリング制度最高の転がり抵抗性能AAAで抵抗感なく惰走していく感覚に、あらためて驚かされた。他メーカーの製品でも体験したことはあるとはいえ、ひさびさに味わった「AAA」の感覚は、やはりインパクトがある。

 その中で「アクア」は、もともとボディーサイズのわりに重量感があり、乗り心地は硬めながら、ハンドリングの一体感が高い味付け。AE-01Fを装着してもOEMタイヤに比べて、あまり大差はない印象で、意のままに動く感覚はそのままだ。

「フィット ハイブリッド」は、実際の車両重量はアクアよりも重いのだが、引き締まった足まわりにより姿勢変化は小さく、走りには軽快感がある。もともと跳ね気味のところがあまり変わらないのは仕方がないが、こうしたキビキビとした味付けのクルマのほうが、このタイヤには合っているように思えた。ダブルレーンチェンジの走りやすさはフィットがもっとも上だった。

「ノート」は、OEMタイヤでは操縦安定性にやや頼りなさが感じられるところ、AE-01Fのほうがしっかり感が増している。「カローラハイブリッド」は、前出の3台に比べるとクルマ自体のサスペンションがよく動く印象で、いくぶん硬さ感は薄い。OEMタイヤのマッチングもよいが、AE-01Fのほうがコシのある印象だ。

「フィアット500」にAE-01Fを履かせると、ツインエアエンジンの独特の加減速フィールもあって、より転がり抵抗の小ささが強調される印象。反面、もともと乗り心地はソフトで、ハンドリングはゆったりとしたファジーな味付けであるところ、タイヤの硬さだけが浮き出した感があり、マッチングとしてはいまひとつ。

 逆に「up!」は、運動性能はそれほど高くなく、こちらももともとの乗り心地がソフトながら、高速巡航時の安定感や操舵時の正確性は損なわれておらず、マッチングはまずまずだった。

 全車を通して印象的だったのは、低燃費タイヤに見受けられがちなノイズがあまりうるさくなかったことだ。音についても今後ラベリングの導入が検討されているが、ヨコハマタイヤでは、それへの対応も視野に入れてAE-01Fを開発したとのことで、納得である。

 上級車もターゲットに、走りの質感にまで気を配ったブルーエース・アースに比べると、販売レンジの違いによる明確な差を感じるが、普及版のECOS EF31に比べると、転がり抵抗の小ささは圧倒的である上、音対策や走りのしっかり感などに関しても、あえてAE-01Fを選んだユーザーは、その恩恵を実感できることだろう。

 ヨコハマタイヤの2つの新商品に触れて、少し前まで難しいと思われたことも、技術の進化により短い期間でどんどん当たり前のものとなっていくことに、大いに感心させられた次第。より環境に貢献し、安全に走ることのできるタイヤの選択肢が増えていくことは大歓迎だ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学