飯田裕子のCar Life Diary

パイクスピークで使われる低燃費タイヤ

 最近、気楽なドライブというのをあまりしていない。クルマで遊びに出かけていないという意味なんだけど、お仕事であちこち走り回っているから季節の変化は楽しめているつもりでいる。と、先日も考えながら東名高速道路を走っていて色々と考えた。まあ最初に思いつくのは、「やっぱりラブリーなドライブがしたいな」ですよ。

 そこから思考は広がり、中学校で習う(もしや今は小学校?)英語の基礎に「5W+1H」があるけれど、気楽なドライブはせいぜい4Wでいいんじゃないかと。When(いつ)、Where(どこに)、Who(誰と)、そして必要ならばWhat(何が目的か)。目的なんていらない……なんて誰かの唄の歌詞じゃないけど、ただぶらり西へ東へ~なんてのもいい。そこで「Why(なぜ)とか、How(どうやって)という疑問詞はココでは愚問詞、なんちゃって~」と1人でボケてみたり(苦笑)。

 ラジオからは、このところ日本列島は広い範囲で空気が乾燥した状態が続いているというリポートが聞こえてきた。つまり、お天気のよい日が続いているということなのだ。「そんな眩い日差しが通勤電車やクルマの窓から感じられたら、週末はどこかに出かけたくなるのは当たり前だな」とか、「みんなスタッドレスから夏タイヤに履き換えたのかなぁ?(私は来週交換の予約をしてるんだった)」とか。移動中の車内で1人、取り留めもないことを考える時間も嫌いではない。クルマにはそういう役割とか魅力があるのです。

 さらに「タイヤと言えば」で思い出したのがヨコハマタイヤ(横浜ゴム)の「ブルーアース・エース」のこと。街でブルーアース・エース装着車に乗せていただいて、さらに毎年取材をしているパイクスピーク ヒルクライムレースでは、オリジナルEVマシンを駆る塙郁夫さんが市販のごくごくフツ-のブルーアース・エースで参戦してその実力を目の当りにしていたものだから、いつかそんなご紹介をしたいと思っていたのでした。

91th パイクス・ピーク ヒルクライムレース
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/20130630_605821.html
新たな“King Of Pikes”が生まれた91th パイクス・ピーク ヒルクライムレース
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/20130705_606533.html

2012年に発売を開始したヨコハマタイヤ(横浜ゴム)の「ブルーアース・エース」は、2013年に同社のコンパウンド配合技術「ナノブレンドゴム」を全面的に見直し、ウエットグリップ性能をはじめとする運動性能を大幅に向上。これにより、ウェットグリップ性能はラベリング制度最高の「a」を達成している

 ブルーアース・エース。“ブルーアース(青い地球)”とくれば想像しやすいと思う。横浜ゴムの主力低燃費タイヤだ。2013年にリニューアルされたこのタイヤは、排水性と剛性をバランスさせた非対称パターンはそのままに、コンパウンド配合技術の「ナノブレンドゴム」の全面的な見直しが行われている。その結果、それまでの当初の転がり抵抗「a」はそのままに、ウエットブレーキを「b」から「a」に性能向上。このグレーディングからも、燃費性能向上につながる転がり抵抗のグレードは高いまま、雨の中でのブレーキ性能を上げ安全性を高めていることが分かる。

 ゴルフに装着されたブルーアース・エースで一般道を走る機会が以前あった。転がり抵抗に優れた性能を持つ低燃費タイヤというと感触が硬いイメージを持つかもしれないが、乗り心地がよい。少々荒れた、ゴツゴツとした路面ではその路面の様子を伝えてくるものの、当たりは角がなく丸く収められ、快適性の高さが実感できる。

 交差点を曲がったり、広い道路で車線変更を行ったりした際のハンドルに伝わる手応えは切り始めからシャキッとしていて、よくよく注意をして直進に戻るまでの様子を確認していくと、その一部始終をドライバーに伝えてくれる誠実さも併せ持っていることが分かる。そしてブレーキ性能も申し分なし。速度や減速時間によってブレーキペダルを踏む強さは変わるけれど、ゆっくりと優しいブレーキをかけると、フラットさが少し柔らかい感触とともに感じられつつ減速から停止。強めのブレーキをかければタイヤの剛性感を感じ、路面を面で捉えている感覚が強まる……という具合だった。

 場面は変わって高速走行。印象は一般道で感じたものそのままなイメージ。付け加えるなら高速でのレーンチェンジの際、足下の感触は硬い粘土のブロックをもっと硬くしたようなグリップ感とともにタイヤが向きを変え車線を移動する。誤解されぬように補足すると、これは“粘る”というのとは違い、路面とのコンタクトをしっかりと取っているグリップ感が頼もしいという意味。ウインカーを出してから数秒で行われるレーンチェンジの間、ステアリングに伝わる手応えはとてもシャキッとしている。

 残念ながら私が一般道で試乗させていただいたときは、天候に恵まれたため性能が向上したというウエットブレーキは体験できなかった。でも、それについて紹介するのにもってこいのシーンがパイクスピークにはある。

市販版のブルーアース・エースでパイクスピークに参戦した塙郁夫さん

 昨年、パイクスピークの決勝は大荒れのお天気の中で行われた。もう一度紹介しておくと、塙さんのマシンに装着されていたのは市販版のブルーアース・エース。サイズさえ合えば誰でも買えるタイヤを履いて参戦していたのだ。ちなみに練習走行はドライ路面ばかりだったが、厳密ではないものの確実にタイムアップしていた。厳密に言えないのは前年と走行距離が変わってしまっていたため。ところが決勝日、塙さんの出走直前にドシャドシャと雨が降り、レースが中断するほどだったのだ。塙さんは結果的にはゴールまであとコーナー2つというところで想定外の雨量によるシステムトラブルによりマシンを止めてしまう。しかし終了後にタイヤの印象を語らせたときの饒舌ぶりが忘れられない。

「そもそも視界はわるくて、とにかくセンターラインだけを頼りにコースを走るしかなかったような状態だった。ヘビーウエットコンディションの中ではコーナリングGを減らして走る必要はあったけれど、コーナリングも含めドライ路面に対し8~9割で走行できたのには満足しているし、楽しかったんだよ。ウエット性能が上がったっていうこのタイヤの性能は嘘じゃないね。ドライ路面に対して8~9割のペースで走ってもドライと変わらぬ走行ができるんだから、凄いことだよ。ドライ路面でもフロントがロックしてスモークが上がったり、そこから切り込んだときにフロントが逃げたりなんてことが、今年は一度もなかったもの。ドライのパフォーマンスが上がり、ウエットはさらに相当いい。フツーのセダンにあのタイヤを履いて、常識的な運転をしている限りはドライとほとんど同じ走りができるウエット性能を持っている。そういう手応えが分かったから、自分はコースから落ちることなんて絶対にないと思えたし、モーター温度の上昇の心配がないと分かった後半は、冷静ながら闘志が燃えた(笑)。だから残るコーナーが2つだったというのは残念」。

 ブルーアース・エースのウエットコンディション下での高い性能を説明するのに、これ以上もってこいのインプレッションはないと思う。

 いかがでしょうか。お気楽なドライブは、疑問詞4Wできっとステキな時間が過ごせると思います。それらが充実していれば、雨が降ったってかまわないとさえ思うのは私だけ? ちなみに4Wと言えば4つのWheel(タイヤ)がついたクルマのこと。タイヤの衣替えは済んでますか? 間もなくゴールデンウィークがスタートします。足下のチェックも忘れずに。

飯田裕子