山中湖のKABA

旭ヶ丘バス停を出発したKABAは、しばし林間コースを走る。これからは紅葉の中を走るKABAが楽しめるかも

 今年の6月、試乗会で御殿場から山中湖へとシトロエンを走らせていたとき、一時ですが試乗を忘れるほど気になる車両が目の前に現れ、思わず追いかけたことがありました。バスにしては車高が高く、バスにしては鼻先が飛び出ている。窓にガラスはなく観光用の乗り物だと察するもこれまでに見たこともなく、楽しそうなイラストの入った白地のボディはやけに真新しい白さを放っていたのでした。

 夏色の葉をつけた深緑の林の中を走るその観光用バスはその後、湖畔に出て私の走行ルートとは逆方向に行ってしまいました。試乗には時間制限があって、残念ながら最後まで追いかけることができなかったのです。

 「あれは何だったのだろう……」と気になりながら湖畔にC4をおいて撮影をしようと思っていると、湖上の少し遠くに例の白いバスと思しき四角い船がいるではありませんか。まさか水陸両用車? 「日本にもそんな観光乗り物があるの~?」

 あったんです。インターネットで「山中湖 水陸両用車」と検索したら出てきました。それは「KABA」という、山中湖の陸と湖の観光ができる水陸両用車で、7月から正式運行を開始していました。11.9×2.48×3.7m(全長×全幅×全高)。楽しそうなイラストはカバで、定員34名分の黄色いシートにもブルーのカバ模様が入っていました。「楽しそう!」、そして「乗りたい……」。ムズムズとそんな気持ちを抱いたまま数十日を過ごし、先日やっと念願かなってそのKABAに乗ってきました。

 コースは山中湖旭日丘バスターミナルからスタートして、林の中を走る陸上ルートから、湖上をめぐる行程になっており、所要時間は30分。私が試乗中に偶然にもKABAと出会えたのは、KABAの陸上ルートを走っていたためでした。乗用車なら見上げるようにして眺める木々の葉も、手を伸ばせば届きそうな高い目線と着座位置が、普通のバスの乗車感覚と少し違います。車内ではガイドさんとカバじいさん(録音)のやりとりを聞きながら、KABAという名前の由来や山中湖、富士山にまつわるクイズなども楽しめ、あっという間に陸路から湖上に向かう湖畔へと到着。

 陸路を走る状態でも、車高の高いKABAの乗り心地は決して悪くはなかったのですが、気になるのは陸から湖へと入る瞬間です。ジャブーンと入る際には衝撃はないのか、横揺れなどしないのか、興味津々でした。

 まずは湖畔でドライバーから船長さんへと交代。そして、注目の瞬間は満席のお客様たちとの掛け声とともに訪れ、ザブーンと湖へと入っていきました。衝撃はなく、非常に安定した姿勢で水の上へと移動していきます。KABAは映画などで観たことがあるような、タイヤを格納し、代わりにスクリューが現れるような装置転換はなく、そのまま湖を進んでいくことができるそうです。

いよいよ山中湖へ……。お客さんみんなで号令をかけてザップーン!ヤッホーイッ!やっぱり水陸両用車。湖上での乗り心地はやはり“船”だったお天気がよい日には湖上から真正面に富士山を眺めることができる
窓にガラスはなく、開放感タップリ!陸上はハンドルで、湖上では左下の舵で走る。4つのタイヤ+後方には当然ながらスクリュー

 

もともとは軍用に開発された水陸両用車は、今、世界のあちこちで観光用のモデルが運航中。楽しいね。オモシロイね~!

 スイスイと進むKABAは観光バスから遊覧船へと早変わり。私の思い描いていたとおりの水陸両用の旅が、心地よく楽しめました。晴れていたら富士山を湖上から眺めることができ、これからの季節は黄金色のススキの原野が山裾に広がる様子も見られるのではないでしょうか。

 果たして30分の行程はあっという間に終了。これまでに体験したことのない山中湖ドライブを陸と水上で楽しむことができたのでした。

 ところでKABAの名前の由来は……実際に乗って確かめていただきたいと思いますが、想像はつくのでは?

 ちなみに、KABAのような水陸両用の観光乗り物は、全国7カ所で運行中です。チャンスとご興味があれば、ぜひ1度ご試乗されることをおすすめします。

 実は今、山中湖の近く、御殿場のホテルでこの原稿を書いています。こちらは夕方になるともう肌寒いくらいです。秋は確実に訪れている模様。夏が去ってしまうのは淋しいですが、それなら秋のドライブを思い切り楽しまないともったいない。そして、これから山中湖でKABAに乗られる方はなるべくなら事前予約と防寒対策を忘れずに……。

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2011年 9月 13日