憧れと現実のあいだ

JRPA展は3月4日まで開催

 先週からアート系の話題が続いてしまいますが、今回は写真です。しかもレース・シーンを切り取った写真展が、東京は六本木のAXISビルにて開催中です。それはまさにアート、なのです。

 いきなり話は逸れますが、私はAXISビル内にあるカーグッズのショップ「Le Garage」がお気に入りの場所。こちらはいわば、クルマ雑貨のセレクトショップです。セレクトショップはセンスが合えば、大好きな場所になるもの。そんなショップも入っているビルの地下ギャラリーで写真展が開催されています。

 日本レース写真家協会(JRPA)に所属する方たちによる写真展「2012日本レース写真家協会展」(通称:JRPA展)は、絵画を見るような静かな中で見るのですが、その雰囲気をかつて話題になった本のタイトルを内容は別として借りるなら、「冷静と情熱のあいだ」に自分がいるような感覚にとらわれます。

 1枚、1枚、1ショット、1ショットの前に立ち、勝利に沸き立つポディウムの様子やサーキットを疾走するマシン、もしくはドライバーの表情の一瞬の切り取りを見るわけです。様々なメディアの1ページや1画面に配置された数点の写真の中の、1カットの説得力の大きさも、クルマ好きやモータースポーツ好きの方ならご理解いただけると思うのですが、写真展に並ぶ写真たちはいつもと違うオーラを放っています。

ギャラリーの入口には2輪のGPバイクを展示していました。こちらは2011年モトGPのチャンピオンマシン(ホンダ)、3月に入ると2010年にチャンピオンを取ったホルヘ・ロレンソが昨年ゼッケン「1」で走ったヤマハのマシンが展示されるそうですこの写真展はプロと直接話ができる貴重なチャンスでもありますお気に入りの写真を1枚、無料でカードにプリントアウトして持ち帰ることもできます

 「写真はその1ショットに撮り手の様々なメッセージがこめられているのですが、それ以外にもその背景にどのような物語があるのか、ぜひイメージを膨らませて見ていただきたいですね」とはJRPA会長の小林稔さん。さらに小林さんは「モータースポーツは当然ながらスピードがあります。そこで目には見えない瞬間を写真でなら見ることもできるんです」とも。

 例えばお話を伺っていたとき目の前に展示されていた三橋仁明さんの写真は、ピットアウトする瞬間をとらえていました。実は制限速度があるピットレーン。しかし「コース・インするぞ!」という勢いが伝わってきます。確かにこういうシーンはTV中継でも感じきれない一瞬だと思いました。

 私がお邪魔した日曜日はWRCやF1、モトGP、ル・マン24hレースやGT選手権などを撮影する4名のプロカメラマンによるトークショーが開催され、大勢の方が詰めかけました。ショーの始まりに、F1運営組織のCEOであるバーニー・エクレストン氏から直々にF1取材の永久パスを発行された金子博さんを、皆で歓び称えた拍手は個人的に忘れられません。そしてときに美しく、そして激しい瞬間を撮影するプロたちによる裏話はとても面白く、もしくは真剣に聞き入ってしまう、とても興味深い内容でした。

2月25日に行われたトークショーには大勢の来場者が詰めかけましたトークショーを行った面々。左からGT選手権やル・マン24時間レースを撮る大西靖さん、WRCを追いかける小林直樹さん、モトGPや鈴鹿8耐を撮り続けている赤松孝さん、F1の永久取材パスを取得した金子博さん

 例えばそれぞれに通常、何台のカメラを国内もしくは海外に持っていくかという話題になりました。皆さん3台のカメラ本体にレンズを数本持って現場に行かれるそうでした。が、WRCを全戦追いかける小林直樹さんの場合、ベストのポケットやウエストポーチにそれらを全て入れ、暑さも寒さも関係なしに3~5kmも歩くのだとか。皆さん、器材の重さと苦労を想像しては「プロって大変だ」と実感されていた様子。さらに肌身離さずに持ち運ぶ理由を聞いて苦笑。機動性が求められるだけでなく、撮影中に機材を地面に置いたりすれば、盗られるような治安のよくないい場所もあるからだそうです。なるほど……。

 ちなみに集まった参加者の方たちは、それぞれのカメラマンのファンしかり、趣味でレースを撮影する方しかり……。「憧れと現実のあいだ」なんて小説はないけれど、そんな内容を沢山聞くことができました。「サーキットでレースや予選中にトイレに行きたくなったら?」なんて話題になれば、しばし下ネタで盛り上がり、コースアウトしてくるマシンを躱した話には一瞬ドキッとさせられたり……。ちなみに最終日にあたる3月4日には、カメラ雑誌の編集長を迎えてのトークショーが開催されるそうです。

 数人の来場者の方に声をかけさせていただいたところ、「モトGP好きで赤松さんのトークショーやマシンの展示を楽しみに来ました」という女性や、F1ファンの男性、海外のF1にも1人で観戦に行くほどはまってしまったという女性、WRCがお好きというご夫婦などがいらっしゃいました。私の突撃インタビューはなぜかいつも理想的な応えをしてくださる方が多いのですが、なぜでしょうか。とは言え、モータースポーツファンと言っても様々で、そんな方たちとお話もできて私自身も嬉しかったのは間違いありません。

ご主人のWRC好きが奥様にも影響し、北海道や海外のラリーを観にいくのが楽しみというご夫婦。モトクロスの写真にも興味深々の様子でした1人で写真をご覧になっているところを声をかけさせていただいたら、F1のファンだそうで……今度、金子さんとサーキットでお会いしたら声をかけさせていただきます! とちょっと嬉しそうにお話しをされていました

 年に1度開催されるJRPA展は、多くのモータースポーツファンをはじめ、この写真展を見ることでモータースポーツへの興味を抱いてくれる方が増えることも願い、プロのカメラマンの渾身の1ショットを展示しています。会場には毎日数名のカメラマンがやって来ていて、直接お話しすることができます。皆さんもぜひ、個性的な写真を撮るプロたちと直接会い、写真やカメラ、モータースポーツの世界を深めてみてはいかがでしょうか。

AXISビルにはショップやギャラリー、カフェなどもあるので、カップルで来てものんびりとよい時間が過ごせそうですインテリア雑貨ショップもあります。女性は好きかもしれませんね~1Fにある「Le Garage」はまさにクルマ雑貨のセレクトショップ
ウェアやレーシングギア、本や雑貨、カーケアグッズまで揃った店内。おっと、私の大好物のミニチュアカーもさまざまな時代のさまざまな価格帯のものが並んでいます。いわば、クルマ雑貨のセレクトショップドイツ車好きの方は特にクルマの聖地「ニュル・ブルクリンク」に憧れる方も多いのではないでしょうか。こちらにはステッカー他、ニュルのグッズが販売されています写真展開催期間中はショップ内では、JRPA会員の方の写真集やフォトカードなども販売されています

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2012年 3月 1日