2012 全日本 袖ヶ浦EV50kmレース大会

 初めてEV(電気自動車)レースに参加させていただきました。袖ヶ浦フォレストレースウェイで行われたこのレースはパイクスピークのような個人が一発の速さを競うものと違って、ライバルとのバトルです。しかしそこに求められるのは、速さよりもバッテリーのマネジメントが重要。つまりエコランをしながら順位を競うんです。

 このようなレースですから、観客が激しいバトルや激走ぶりを期待して観戦するタイプではなく、参加型のレース。私とっても新鮮な体験であり、このようなEVレースは新たなモータースポーツのカテゴリーの登場を感じさせてくれます。「とても静かなんだけど、とてもエキサイティング!」というギャップも、これまでのレースとは違う点です。

 15台の参加車は、テスラ「ロードスター」や日産「リーフ」、「MINI E」、「AE86」にバッテリーとモーターを搭載したコンバートEV、そして私も乗った三菱「i-MiEV」。参加者は個人や有志のグループ、実習を兼ねて参加している自動車学校の生徒さん、それに私を含む数名のゲストドライバーたちで、私のライバルは3台のi-MiEVでした。クラスごとに表彰されるこのレースでは、何とか表彰台を目指したいと思っていたのですが……。

出走車にはタイム計測用のトランスポンダを装着。モーターを積んでいるのと反対側、つまりi-MiEVやテスラ・ロードスターならフロント、リーフやMINI Eならリアに取り付ける
公式車検。車検を通ったら日本電気自動車レース協会のステッカーを貼る
AE86のコンバートEV。エンジンをモーターに置き換え、バッテリーを助手席に搭載している

 

 ブリーフィングと車検を終えると15分間のウォーミングアップ走行と15分間の予選がありました。このコースに不慣れな私は、つい攻め込んで走ってみたくなるのですが、「あまりガツガツと走ってバッテリーを消費すると、その後充電しても決勝時にフル充電状態で走れなくなる可能性があります」と脅されたものだから、慎重になります。初参加の私はi-MiEVのバッテリー残量計と睨めっこしつつ、コースの特徴とエコランのコツを探りながらの走行をしてみました。決勝はどうせみんな全開で走ったりできないわけですから、予選順位はあまり関係ないのです。

 トータルで30分の走行を終えると、このレースのために持ち込まれた急速充電器による充電、もしくはピットで充電を行います。急速充電についてはCHAdeMO規格(EVの充電方式)を持つクルマに限られ、各車30分という制限がありましたが、私のi-MiEVはこれでほぼ満充電になったのでヨカッタ……。

フリー走行と予選が終わると、各車30分間の急速充電を行う。急速充電器はこのレースのために持ち込まれたもの
CHAdeMOに対応していない車両は通常充電する30分間の急速充電で足りない車両は、レーススタートまでの間に通常充電する
エキシビジョン走行したシングルシーターEV
電動スクーターのデモラン
i-MiEVを走らせた千葉県自動車総合大学校チームi-MiEVとともにドライバーも充電パイクスピークでEVレーサーを走らせる塙郁夫さんがパドックに出現。“EVレーサーマイスター”のアドバイスは……

 

 21周で行われた決勝は、競馬やマラソンのようなレース展開でした。クラス毎にグループができて、互いにバッテリー残量を意識しながら集団についていき、残りの数ラップでそろそろと順位を意識してペースを上げていくんです。どこでしかけるかは探り合い?

 エコランですから、ブレーキはなるべく踏まないでなるべく一定の速度で周回できるように心がけること。さらにi-MiEVの場合、ギヤのセレクターに、アクセルを戻した際により強い回生エネルギーが得られる「Bモード」があり、それもうまく使って走りました。

 改めて様々なEVと一緒に走ると、それぞれの速さの違いにも新しい発見がありました。テスラやリーフは速い! 彼らが集団でやってくるのが分かると、いかに自分がエネルギーロスすることなくうまく抜いてもらうかにも気を使います。「私がバトルするのはリーフではなく、前方を走るi-MiEVなんだぞ~」。

 しかも前を走っていたライバルは、レースのプロ中のプロである服部尚貴選手だったため、彼を意識し過ぎると(燃費ならぬ)「電費」マネージメントがくずれるやもしれず、自分の心のマネージメントも大変でした。しかしエコラン程度の速度ならプロにもついていけるんじゃないかと考えていたのですが「バカだね~。そういうところこそプロの走りは違うんだよ~」と先輩ジャーナリストでありレーサーでもある桂伸一さん(MINI Eで参加)にたしなめられ、実感した私(苦笑)。

 結果は、最後に服部さんに離されてしまったけれど、2位でチェッカーを受け、銀色のメダルをいただきました。

スターティンググリッドまでクルマを押していく気合の入る飯田チーム。両脇はピットクルーをお願いしたお友達スターティンググリッドには15台が並んだ
レース初盤はEV-1クラスのテスラ・ロードスター2台、EV-2クラスのリーフとEV-CのMINI E、EV-3のi-MiEVと、クラスごとに分かれて集団を形成。周回を重ねるうちに、テスラ・ロードスターがリーフやi-MiEVをラップするシーンも
圧倒的な速さで早々に「1人旅」状態になったテスラ・ロードスター服部選手に着いていく飯田選手白熱したバトルの末、スピンする車両も
ゼッケン1のテスラ・ロードスターがぶっちぎりでチェッカーチェッカー後の周回で電欠になり、自力でピットまで戻れない車両も飯田車もきれいに電気を使い切った
優勝はテスラ・ロードスターの井上智洋選手。もう1台のロードスターはバッテリーの温度上昇に苦しみ、4位に飯田選手はクラス2位に!リーフのワンメイク状態であるEV-2クラスのポディウム

 今年で3シーズン目となる全日本電気自動車グランプリシリーズ(EVGP)は、予選と決勝が1日で行われる1Dayレースです。主催者側の意向でレースの敷居が低く、ノーマルのEVで参加できるのが魅力です。なんてったって、ロールバーもバケットシートも5点式シートベルトも不要。レーシングスーツやヘルメットなどサーキットを走る準備と、普通自動車免許があれば誰でも参加できます。

 ただ、始まったばかりのこのレース、課題もまだ少なくはないようです。参加台数が増えると、充電を賄うのも主催者としては大変かもしれません。それに会場が遠方になると、自走してサーキットにたどり着くまでの充電も不安。レースでバッテリーを使い切ってしまうと、帰りの道中も不安。実際に今回もトランスポーターに積んでくるクルマも少なくはなく、せっかくの参加型レースも余計に経費がかかってしまうという結果になりかねません。もちろん自走でいらしていた方もおり、レース終了後には急速充電してから帰られたそうです。急速充電器もレースのときには臨時でやって来てくれますが、練習走行時は通常充電を長時間かけて行う必要があります。

 主催者側のお話しをうかがうと、まだまだ改善すべき点はたくさんあると理解されているようでした。でも今はEVが増えていく過程にあり、今からEVレースの発展のためにトライしていく必要があるとおっしゃいます。ガソリン車では、サーキットで得られた技術やノウハウが市販車に活かされ、発展しました。このレースは、EVの開発にも役立っているのです。

 今回、MINI Eはバッテリーの温度が上がる傾向があり、ドライバーたちは電費のみならず温度計をも睨みながらレースする必要がありました。さらに1台のリーフは日産の有志たちで走らせており、そこにはリーフの開発に携わった方もいて、「あくまでプライベート参戦してるんですよ。でも市販車でできなかったことを試しています(ニヤッ)」なんて言ってました。どうしたらEVがもっと使いやすくなるのか……そこには一般道を走るうえでも課題や理想はあるわけで、レースが走る実験場になり、もっと進化していくことを期待したいものです。

 最後に「誰でも参加できるサンデーレースみたいだから、ピットクルーとしてレースに参加してみない?」と声をかけ、i-Phoneでタイムを計測し、スケッチブックに毎周ラップタイムを書いて表示してくれた私のお友達の里香ちゃんとご主人の大野さん、ありがとう! 2人はピットクルーとして参加して、楽しかったと言ってくれました。さらにGTレースなど本格的なレースを実際に観に行ってみたいとも……。こんなところからもレースに興味を持ってくれる人が生まれるわけで、EVGPにももっと興味を持ってくださる方が増えるといいなぁと願います。

 静かなレースなのだから、お台場や熱海のような市街地でも開催できれば、参加者も観客も増えるかもしれない? 実現したら面白いのにな……。

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2012年 4月 23日