【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第46回:シリーズチャンピオンの夢潰えるも、白熱の決勝となった第7戦もてぎ

万全の態勢でもてぎに

 前回の十勝2連戦で優勝と2位を獲得。チャンピオン争いに向けてこれで首の皮一枚で繋がった。残るレースをすべて勝てばというわずかな願いに賭けて、もてぎへと向かった。十勝で他車と接触した部分を修復し、クルマもバッチリ整備。念には念をと、今回は積載車に86を積み込み、久々のトラック野郎でサーキットへ。

 まさに必勝態勢といったところだが、今回は残念ながらスケジュールの都合で事前練習をすることができなかった。そこで、レースウイークの木曜日からサーキット入りすることを決意。4日間の戦いが始まる。木曜日早朝に自宅を出発。サーキットに到着したのは7時くらいだっただろうか。当然ながら寝不足気味である。だが、そうも言っていられないので早々にクルマを積載車から降ろし、練習走行を開始する。およそ1年半ぶりとなる86でのもてぎはどうだろうか?

 だが、コースインするといきなりクルマは絶不調。トランスミッションの入りがとにかくわるく、思うように走れない。1周するのがやっとという状況でピットに戻る。すると、メカニックに心当たりがあったのか、走行を中止しようと言うではないか……。どうやら作業ミスがあったらしく、これで木曜日の練習走行はTHE END。レース本番となる土曜日と日曜日はドライ。そしてドライが走れるのは木曜日だけで、翌日の天気予報は雨。これはかなり流れがわるい。結果的にトランスミッションを載せ換えることでトラブルは解決したのだが、それが完了したのは木曜日の夜。こんなことになるのなら、チェック走行も兼ねて自走で来ればよかった。万全な体制を敷いたはずだったのに……。まあ、メカニックを責めたところで始まらない。こちらのミスでレースを台なしにすることもあるわけだし、そこはガマンである。

 翌日の金曜日は予報通りの雨。ウエット路面で走るのもイヤだったが、チェック走行も兼ねてコースイン。クルマが問題ないことはこれで確認できたからよしとしよう。その後、参加者のタイム計測を行なう占有走行時間があったが、そこでもまずまずのタイムを記録。ドライは試せないが、これなら勝負になるだろう。

 今回のもてぎラウンドに対して万全の態勢を敷いたのは、われわれだけではない。ブレーキパッドをサポートしていただいているエンドレスもまた、新作のパッドを持ち込んでいた。そのフィーリングをドライで確認できていないことが心配ではあったが、ドライで使った周囲のドライバーの話ではわるくはない模様。予選一発勝負で行くしかない!

ウエットコンディションで練習走行を重ねる筆者の84号車

うまくいかなかった予選

 土曜日に行なわれた予選は参加者が多いことから2組に分けられていた。シリーズランキングの1位と2位は他の組。ラッキーはまだまだ続いている。予選が開始されると即コースイン。2台目に並んで走り出すと、前を行く選手がすぐに譲ってくれたこともあって、視界は完全にクリアだ。路面はまだウエットパッチがところどころにあるように見えたが、ライン上は問題ナシだということも確認。アタックラップに入る。新作のブレーキパッドも確実な制動を発揮。どのコーナーも行き過ぎないように慎重にアタックを重ね、かなりまとまった感じでコース後半のダウンヒルストレートを行く。コーナーはあと3つ。これならよいタイムが期待できそうだ。

 だが、そう思った瞬間にレコードライン上をスロー走行する2台を発見。どうやらアタックラップに入る前のクルマのようだ。2台で仲よくアタックしたいのだろうが、頼むからラインを譲ってくれ! そんなことを思いながら、どれだけパッシングをしただろうか? 外から見ていたカメラマンによれば、尋常じゃないほどヘッドライトはチカチカとしていたようだ。けれども2台ともに譲ってくれず、せっかくのアタックラップは台なしに。ちょうと2台の間に入るようになってしまい、2ラップ目もアタックを続けることにした。

アタックラップ中にスロー走行する2台に引っかかってしまった

 しかし、2ラップ目もハプニング。前を行くクルマは僕の存在に焦ったのだろうか、3コーナーでなんとスピン! クラッシュを避けるためにそこでもブレーキしてしまい、2アタック目も台なしになってしまった。その後はクーリングを挟んで再びアタックを行なうが、タイヤもブレーキも万全の状態からは落ちていた。さらには残り時間も少なくなり焦りもあったのだろう。自分としてはどこか不完全燃焼で予選を終えた。結果は2組目の7番手。総合13番という結果に終わってしまった。これで首の皮一枚で繋がっていたシリーズチャンピオンへの夢は消えたといっていだろう。これぞさまざまなドライバーがいるクラブマンシリーズの難しさだ。

 その夜は正直に言えば、腐り切った気持ちになった。酒を飲んでちょっと荒れた。そばにいた嫁さんよ、本当にごめん。とにかくやりきれない。もてぎから帰りたいくらいだ。明日はどうにでもなれ、そんな投げやりな気持ちだった。

コントロールライン手前で横並び。白熱のゴールシーン

プロクラスに参加する佐々木雅弘選手も応援に駆けつけてくれた

 とはいえ、1日寝てしまえばスッキリ。13番手からどこまで這い上がれるのか。やってやろうじゃないか! 決勝レースは前半勝負と決め込み、ローリングラップではいつも以上にタイヤとブレーキを温め、臨戦態勢でスターティンググリッドにつく。そんなおかげもあったのだろうか、スタートはバッチリ。混戦をスルリと抜け、1周終えてみれば9位へアップ。その後も周回を重ねる度に順調にポジションを上げていた。気が付けば6位である。

 だが、レース終盤でガンガン行き過ぎたツケが回ってきた。それはブレーキのフェードだ。もてぎはブレーキが冷却される時間が短く、その一方でハードブレーキが多い。それをスタートからずっと続けていたのだから、当然と言えば当然の話である。ちなみに「ブレーキをセーブしながら戦えば、ゴールまでは問題なく走れます」とは、同じパッドを使い、パッドのテストも行なっていた3位入賞の花里選手。初めてのパッドはなかなか難しい。

 そんなこんなでダウンヒルストレートエンドで止まり切れずにラインを外した瞬間に、抜いたクルマに抜かれて7位へ。その後はブレーキをいたわってブレーキングポイントを手前にしてみるが、それでもギリギリ止まれるかどうか。最終ラップには8位を走っていたブリヂストンユーザーの元クラブマンチャンピオン・松原選手にピタリと背後につかれてしまった。それでもダウンヒルストレートエンドはなんとか抑えきり、最終のヴィクトリーコーナーを立ち上がる。

 しかし、松原選手はコチラのブレーキが辛いことを理解しており、間合いを取って立ち上がり重視。なんとコントロールライン手前では横並び。チェッカーを受けた時、鼻差で負けてしまった。その差なんと8/1000秒! なんだか漫画みたいなゴールシーンで笑えてしまった。その光景も面白かったが、競り合っている時の松原選手の目線も楽しめた。だって、前を見ずにウィンドウから僕のクルマの鼻先をずっと見ているんだもの。ゴールした直後はお互いに見合って大笑い。ちょっとでも笑顔になれるシーンがあっただけでも救われた気分だ。

その差8/1000秒。元クラブマンチャンピオン・松原選手と漫画のような競り合いに

 結果として夢破れ、シリーズチャンピオンは若手の庄司選手が獲得した。薄々感づいてはいたが、やっぱり敵わなかった。共に戦え、一瞬でもアナタの前を走れた事実を老後の支えにしたいと思う(笑)。おめでとうございます! 今後の活躍に期待しています。

 というわけで、最終戦鈴鹿は目標が1つ消えてしまったが、シリーズランキングで1つでも上に行けるように努力したいと思う。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学