【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第45回:第6戦優勝、第7戦2位。シリーズチャンピオンの可能性を残した十勝ラウンド

2018年シーズン初の優勝となった第6戦十勝

今回のレースの難しさのポイントは予選

 北海道の十勝スピードウェイで行なわれた今回のGAZOO Racing 86/BRZ Race クラブマンシリーズは、2017年と同様に2レース制。だが、2017年とも2016年ともレギュレーションは異なり、今回は日曜日にすべてのプログラムをこなすというもの。予選は朝イチ、午前中に第1レース、午後に第2レースという流れだ。第2レースの予選順位は、予選中のセカンドラップタイムによって決定される。2レースともに何とか勝ちたい。それがなければ今シーズンのシリーズチャンプの可能性はほぼなくなる。

 実は、今回のレースの難しさのポイントはその予選にある。使えるタイヤの本数は8本。ワンラップアタックをした後にピットインして、ニュータイヤによって走り出すか? それとも同じタイヤで走り続けてセカンドラップを刻むのがベストか? はたまた……。考えているだけで鼻血が出てきそうであるが、いつもと違う状況をどう乗り越えるのか。そこが面白さの1つかもしれない。

 予選時間は15分。メカニックは大変だろうし、プライベーターはどうすべきか? 問題は山積みだ。もしも、かつてのように僕とメカニックの2人体制だったら、作戦の幅は狭まるだろう。ドライバーがクルマから降りて作業をしたら、それはそれでレギュレーション違反だし……。現在はレボリューションのメカニックが4人いてそんな心配はいらないが、クラブマンクラスという特性を考えると、予選で8本のタイヤを使えるというのはどうなんだろう? 人手不足、そしてピットでクルマが交錯するという危うさも考えると、やっぱりタイヤ交換はできるだけ避けたいような気がしてくる。

 そのレギュレーションがあんまりだとプロクラスのドライバーたちが話し合いを行ない、主催者に向けてリクエストした。予選を土曜日にもう1回行なったらどうか? そんな提案もあったらしいが、十勝側のコースオフィシャルの数に問題があるらしく、それができないという事情もあったようだ。

 コースオフィシャルの人手不足は今やどこでも問題らしいのだが、北海道ではそれが大きくなりつつあるようだ。1DAYレースになった背景もどうやらここにあるらしい。シッカリとしたギャラを支払うなど、人材を充実させるための策は必要ということだろう。そこで、互いの意見をぶつけ合った結果、予選時間を20分にするということで折り合いがついたようだ。そのレギュレーションはクラブマンシリーズにも適用となった。

ガス欠症状が発生、でも結果オーライ?

 果たしてどう戦うか? 僕らが考えた作戦は、念のため1セット目のタイヤで連続周回を行ない、セカンドラップを記録した後にピットインし、アウト側2輪のみを交換。ふたたびタイムアタックを行なうことにした。これは予選時間が朝早く、路面温度が低すぎるために、タイヤが温まり切らないと判断したからだ。十勝スピードウェイは左コーナーが2つしか存在せず、結果として右のリアタイヤがとにかく温まらない。練習日からその問題を解決できずにいたから、そんな策に出たのだ。

 予選の1アタック目では、ブリヂストンユーザーでトップタイムとなる1分35秒967を記録して4番手。これはトップから0.020秒落ちという結果だったのだ。正直に言えば本当に悔しいが、路面温度が低い時に旨味があり、一発のタイムを記録しやすいライバルのダンロップタイヤにここまで肉薄できたことは嬉しい誤算だった。決勝ラップの安定性や暑さに強いわがブリヂストン「POTENZA RE-12D」の威力は決勝に期待できる。前回の富士でも最後までラップタイムが一番安定していたおかげで、予選7位から2位まで上がれたのだから。

 続くセカンドラップは1分36秒278。これは2ラップ目としてはわるくない。だが、1ラップ目のタイムを見る限り、タイヤ交換を行なえば上のグリッドを目指せる可能性が残されている。そこでピットイン。作戦通り、アウト側のタイヤだけを交換して走り出す。だが、やはり左右で違う状況のタイヤは乗りにくく、いくら温まりの早いアウト側だからといって、グリップバランスが良好にはならない。

 1周多くウォームアップを行ない、アタックをしてみる。しかし、左コーナーとなる複合の4コーナーを立ち上がっている最中、なんとガス欠症状が発生してしまったのだ。ガソリン残量をギリギリまで切り詰めた結果がそれを招いたわけだ。チームの明らかな作戦ミスである。予選中の給油はできないためにこれで終了となった。けれども、1アタック目のセカンドラップは3番手だった。これはギリギリのガソリン残量がもたらしたという考えもできるだろうし、セカンドラップでも安定したタイムを記録できるRE-12Dの特性があってこその結果ともいえる。いずれにしても結果オーライだ。

 タイヤを交換して、シッカリとしたアタックを行なったはずのライバルがタイムを記録できなかったのは、クルマがヒートしたからではないかと推測している。2アタック目に挑んだ時、エンジンのパンチが1アタック目よりも落ちていると感じたからだ。全開走行した後にクルマをピットに止めると、必ずといっていいほど若干パフォーマンスが落ちる。熱が溜まるからなのだろう。微々たるものではあるが、ワンメイクレースではそれが命取り。今回のガス欠によるミスは、そんなところに救われたのかもしれない。

第6戦で今シーズン初優勝!

 というわけで、1レース目は4番グリッドからのスタートとなる。上にいるのはダンロップユーザーのみ。決勝ラップではコンマ5秒ほど毎ラップリードできるだけに、これは優勝できるチャンスかもしれない。いずれにせよ、かなり期待できる展開だ。前に出られれば勝てる! スタートを確実に行なうために、右側のタイヤをシッカリ温め、グリッドにつく。

 いつものように慎重にスタートをすると、これがタイミング的にドンピシャ! 1コーナーまでにトップと並んでアウトからアプローチ。その後は2コーナー、3コーナーともに並走したままだ。左に曲がる4コーナーでようやくイン側となり、ここで鼻先が前に出たが、インからアプローチしたためにやや失速してしまった。

 だが、ラッキーなことにそこで後ろからシリーズトップを快走する庄司雄磨選手がリアバンパーをプッシュしてきたのだ。普段ならイラッとするところなのだが、そこでターボのブーストがかかったかのような加速ができたのだから許す。というよりむしろ、ありがとう!(笑)。これで難なくトップに立った。

スタートがうまくいくとともに、リアバンパーのプッシュもあってトップに立つことができた

 その後は最大で5車身くらいのリードをしただろうか? あとの14ラップをミスなく丁寧に走るだけである。けれどもそれがプレッシャーだ。実は練習中にアウト側のリアタイヤをコースから脱輪させてスピンしているからだ。景色の変化がなく、似たようなコーナーが多い十勝は、コースを読み間違えて脱輪することがしばしば。ハッキリ言えば僕の集中力のなさがそんな事態を招くのだ。正直言って自分が一番信用できない……。

 そこで、後半はタイムを落としてもいいから、アウト側を余らせて走らせようと心掛け、何とかチェッカーまで持たせることにした。おかげで無事ゴール。今シーズン初優勝だ! つらいことばかりだった2018年、ようやく報われた気分である。

久しぶりのガッツポーズ!
今シーズン初優勝となった第6戦。つらいことが多かっただけに報われました

シリーズポイントは3番手に浮上

 午後に行なわれた2レース目(第7戦)。先ほどよりも1つ前の3番グリッドからのスタートとなる。このレースも優勝して完全勝利で終わりたい。グリッドはレコードライン上となるから、先ほどよりも路面は有利なはずだ。

 だが、レースが始まってみると先ほどのようにはいかない。スタートはまずまずだが3番手を確保するので精一杯。4コーナーまで並走して走ることになるが、そこでお隣さんにヒットされ、ステアリングのセンターがズレてしまう。アライメントが狂ってしまったのだろう。結果として1周が終わった時点では4番手。表彰台すら危うい状況に陥ってしまった。

 とはいえ、14周のレースは淡々と走ればチャンスが訪れるに違いないと、ミスをしないように走っていると、前を走るライバルがタイヤをタレさせて失速してきた。最終コーナーをできるだけ素早くアクセルオンにできるよう慎重に立ち上がり、スリップストリームを使って1コーナーで1台をパス。これで3番手である。トップ争いはダンロップの庄司選手、2番手はブリヂストンユーザーの菱井將文選手がどこでもやり合っている。それを冷静に見ながら背後まで近づき、チャンスを伺う。

 すると、庄司選手がストレートでブロックしたところに菱井選手がはまり、1コーナーを苦しくアプローチすることになったのだ。こちらはレコードラインできちんと走り、1コーナー立ち上がりで菱井選手に並び、2コーナーでパスすることに成功した。

第7戦も決してわるくない3番手スタート。トップと2番手のやり合いを冷静に見つつ、1コーナー立ち上がりで菱井選手に並び、2コーナーでパスすることに成功

 その後は庄司選手の背後にピタリとつけてみるが、抜くまでには至らずという状況。菱井選手と同様に1コーナーで前に出ようとするが、そこで庄司選手はクリッピングポイントあたりで速度を下げ、こちらの行き場をなくすというバトルテクニックを駆使してくるから厄介。カートでバトル慣れしているらしく、彼の前に立つのは至難の業。残念ながら最終ラップまで抜くチャンスは訪れず、2番手で終了となった。

連続優勝とはならなかったものの、第7戦も2位でフィニッシュできた

 結果としてこれでシリーズ3番手まで浮上することはできたが、当初狙っていたシリーズチャンピオンの可能性が薄まったことも事実。3勝を記録した庄司選手がシリーズチャンピオンに王手をかけたのは言うまでもない。僕がシリーズチャンピオンを獲得するためには、残り2戦(第8戦もてぎ、第9戦鈴鹿)の完全優勝しか残されていない。

 しかし、諦めずにやってきたからこその今回の結果なのだから、その考えを変えることなく最後までやり切ってみたいと思う。少しでも上へ、このスローガンが変わることはない。

第7戦十勝終了時点のポイントランキング(上位5名)
順位ドライバー第1戦鈴鹿第2戦SUGO第3戦オートポリス第4戦岡山第5戦富士第6戦十勝第7戦十勝有効ポイント
1庄司雄磨01122☆1623☆◎162198
2神谷裕幸22☆11622☆99978
3橋本洋平110711622◎1672
4水谷大介17◎166◎7131312◎71
5菱井將文-4914◎0111351

☆:ポールポジション、◎:ファステストラップ

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:石原 康