【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記
第44回:酷暑とも言える気温の中、参加台数110台のレースで表彰台獲得!!
2018年7月27日 22:18
富士スピードウェイで行なわれたGAZOO Racing 86/BRZ Race クラブマンシリーズは、ナント参加台数が110台にも達したという大盛況ぶり。これで優勝できればまさに百獣の王である(笑)。まあ、そんなくだらない話はどうでもいいのだが、問題は予選。ここをどう切り抜けるかが不安タップリ。なぜなら、予選は3つの組分けが行なわれるほどの異例な状況だったからだ。
これまでは最大でも2組に分けられ、予選トップタイムを記録した選手がいる組が奇数列、もう1つが偶数列となっていた。だが、3つに分けてどう配列するのかが疑問だった。ひょっとして3列でスタートするの? 昔の富士のレースみたいでそれはそれで面白そうだが、危険な香りがたっぷりなのも事実。実際には各組のトップのタイムを比較して順番にグリッドを振り分ける方式となり、2列でのスタートとなった。
僕が配属された2組目は、シリーズ上位の選手が2名もいる激戦区。そこでトップを取るのは至難の業であり、ハッキリ言えば今回のレースはハズレを引いたようなもの。レースをする前から各所でアタリだのハズレだのという会話が飛び交うのは残念極まりないが、盛況すぎるとこうなるのも事実である。
けれども感触はわるくはない。公式練習中のタイムを見れば、ライバルの間に入って2番手タイムをマーク。路面温度が高まってくればトップを取れそうだというところも見えていた。わがパートナーのブリヂストン「POTENZA RE-12D」はとにかく夏場に強く、路面温度が上がった状況でこそよさが発揮される。希望は高まるばかりだ。
レースウィーク土曜日に行なわれた予選は珍しく午後に開催となり、路面温度が60℃近くになるほどの暑さ。その暑さがきっかけとなり、前日の同時刻ごろには舗装が剥がれるトラブルがあったほど。猛暑というより酷暑である。ただ、有利な状況が訪れるのであればそれもラッキーか?
予選の戦い方は遅れてスタートして、クリアラップを取ることを優先しようとなった。予選時間はたったの12分。ややギャンブルだが、引っかかって満足にアタックできないことが多いこのレースを考えれば、イチかバチかやってみるしかない。すると、コースインしてからラッキーなことにそれほど前走車に引っかかることなくアタックできた。ただ、ほんの一瞬、目線に引っかかる車両があり、ブレーキングポイントをミスったことを白状する。結果は2組の3番手。総合順位は7位ということになった。2組目のトップが全体トップのタイムだったからこれで済んだが、最悪の場合は9番グリッドの可能性もあったわけだ。それを考えれば7番グリッドでも文句は言えない。
だがしかし、僕の前には僕より遅い予選タイムを記録したクルマが数台いる状況。これらをいかにパスするのか? 決勝レースはかなり危険な戦いになりそうである。そしてもう1つ触れておきたいのは、やはり予選でトラブルがあったことだ。他の組ではあるが、タイム差がある2台が予選中に派手にぶつかったというのだ。
110台の参加者が集まることは嬉しいことかもしれない。だが、そろそろ交通整理というか、組分けの問題など考え直す時に来ているように感じる。ドライバーのレベルで分けるのが難しければ、せめて前期と後期で別のレースにするなどすれば、少しはそれらのトラブルが回避できるはず。そもそも前期と後期が混走している時点でワンメイクレースではないわけだし……。このままでは重大事故が起きてもおかしくはないと思うのだ。主催者さま、ご検討のほどよろしくお願いいたします。
予選日と同じく60℃近い路面温度で波乱の決勝レース、スタート
さて、そんなこんなで翌日の決勝を迎えるわけだが、天候は相変わらずの酷暑である。今回よりクールスーツの装着が許されたというのがトピックの1つなのだが、1セット10万円という値段を聞いて躊躇。やはりガマンして立ち向かうしか方法はない(涙)。それだけでなく、7番手グリッドとは泣けてくる。どう戦えば上位に食い込めるのか? そんなことを考えていると、いつものように同じチームのプロクラスドライバー佐々木雅弘選手がアドバイスをくれる。「とにかくタイヤに無理をさせないようにして走って、相手のタイヤがタレてきたらチャンスだから。落ち着いてね!」とアドバイスをもらった。確かにな、なんて思いながらも、そう上手く行くかね?なんて疑心暗鬼状態だったことを思い出す。
ローリングラップ開始。すると、各車いつものようにウェービングを開始。それを後ろから見ていると、たいして力をかけていないように見えるのだが、路面にはくっきりとブラックマークが刻まれていく。どれだけタイヤが溶けているんだろう? 路面温度は60℃近く。これはそんなにウェービングをしないほうがいいのかも。ウォームアップもそこそこにグリッドに着く。いよいよスタートだ。いつものように空転を抑えつつ、半クラッチを長めにスタートすると、前を走るクルマがみるみる迫ってくることを感じた。これはキマった! 1コーナーまでに2台をパスして5位で1コーナーへと進入。その後はポジションキープとなった。
だが、Bコーナー進入時に事件が起きた。スタートで抜いたはずのクルマが明らかにブレーキングをミスって僕の右わきから進入してくることをミラーで察知したのだ。一瞬ステアリングを切り込むことをやめてはみたが、その止まり切れなかったクルマは僕の右ドア&右リアフェンダーあたりに接触。瞬間的にクルマはスライドしたが、ギリギリこらえることに成功した。前を行く4台はこの時点で5車身くらい離れてしまったが、それよりも自分のクルマがどうなっているのかが気になってしょうがなかった。このまま走れるのか?それともリタイアするしかないのか? 不安を感じながらストレートに戻ってくると、何とか走れそうだということが分かった。ステアリングのセンターはズレていないし、振動もなにもない。衝撃の感覚からして外装はボロボロに違いないが、レースを続けることはできるだろう。
こんな波乱があってラッキーにも生き残ったために、かえって冷静になれた。あとは淡々とマイペースで周回を重ねて、レース全体のペースを引き上げることに集中しよう。そんな考えに改まったのだ。タイヤのグリップを横方向ではなく、あくまで縦に使い、少しでも無理をかけないように各コーナーを走った。すると、チャンスはすぐにやってくる。前を走る3台がバトルを開始。やり合ってくれたおかげで2周目のBコーナーでは1台をパス。その後も淡々と走っていたら1コーナーブレーキング~Aコーナー進入まででもう1台をパス。このように、1周をするごとに1台を抜くという順調な流れで、いつの間にやら表彰台圏内までこぎ着けたのである。けれども、さらに前を行く2台はかなり離れており、追い付ける感覚はほとんどない。だが、いつ相手がミスをするか分からないし、タイヤがタレてくる可能性だってあるのだ。諦めず、ただ淡々と、そしてタイヤに無理をかけないように周回を重ねて行く。
ラスト2周。その状況が一転することに。前を行く同じBSユーザーの水谷選手の動きが怪しくなってきたのだ。各コーナーでクリップにつけず、大回りしていることが明らかになってきたのだ。トップ争いを続けていたから、きっとタイヤに無理をさせたのだろう。こちらとは明らかに違う。コーナーのたびにクルマがみるみる近づき、ひょっとしたらチャンスがあるかもしれないと思えるまでになってきた。ラスト1周に差し掛かる寸前の最終コーナー立ち上がり。水谷選手のトラクションはなく、対してこちらはバッチリのトラクションで背後に迫る。スリップストリームに入れた感覚が明らかにあった。何とかスピードリミッターに入るまでに横に並びたい……。だが、結果的には鼻先が相手のリアタイヤくらいの位置になるまでが精一杯。2台はスピードリミッターを介入させたまま、その間合いでラストラップに突入する。1コーナーのブレーキング勝負! ほぼ同時に2台はブレーキングを開始して横並びのまま1コーナーへ。すると、両車のドアミラーが一瞬“パコン”という音と共に折りたたまれてしまった。けれども、派手にぶち当たることもなく2台は並走して1コーナーを立ち上がり、結果的に僕が前に出てバトルは終了した。これで最終ラップを終えて、なんとか2位に滑り込むことができた。
レース後、水谷選手に「当たっちゃってごめん!」と詫びると、水谷選手は「僕もギリギリのところで閉めていましたから」なんてさわやかな回答をしてくれた。とてもいいバトルができたことに感謝! 久々に楽しいレースだった。
このように、7位から2位までジャンプアップできたことはわれながら驚きだ。わがレース人生で一番充実していたといっても過言ではない。優勝こそ逃してはしまったが、予選さえもう少しうまくやれていれば、優勝争いだって夢ではなかっただろう。今シーズン初の表彰台を獲得できたおかげで、シリーズ争いは首の皮一枚で繋がった。残りのレースも諦めず、最後まで戦って行こうと思えた富士のレースだった。