【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記
第51回:“通せんぼ爺”登場!? 表彰台に上がるものの反省点いっぱいだった第3戦菅生
2019年5月24日 19:52
東高西低の気圧配置で、屋久島では50年に一度の大雨で豪雨被害があったという週末、GAZOO Racing 86/BRZ Race 第3戦が開催されるスポーツランド菅生は風が吹き荒れていた。特設ピットとなる高台の駐車場は、テントが飛ばされるかと思うほどの状況であり、それにどう対策するかに追われていた。わがレース活動を支えてくれているメンテナンスガレージのレボリューション・青木社長はマリンスポーツに長けている男で、天気図にもうるさい。それを見るなり「こりゃ、週末はずっと風が強いままだろうなぁ」なんてボヤきながら、テントが飛んでいかないように重りを乗せたり、重たい荷物とテントをくくりつける作業に追われていた。だが、そんな状況でも天気予報はずっと晴れ。レースの開催を心配することはないだろう。
今回の菅生ラウンドは、前回の富士スピードウェイと同様2ヒート制。富士では予選4位から第1レースの1コーナーでトップに立ち、そのまま優勝。第2レースもポール・トゥ・ウィンで2連勝を手にすることができた。2ヒートで4本までしかタイヤを使用することが許されていない初めてのレースでは、摩耗やタイムダウンが懸念されていたが、相棒となるタイヤ・ブリヂストン「POTENZA RE-12D」はそんな心配をよそに安定した摩耗と走りを展開。これならイケるという自信にも繋がった。
今シーズンは開幕戦を欠場し、2戦目の富士からの参戦となってしまったが、シリーズポイントも一気に30ポイント獲得できたことで3位に浮上。まだまだ戦える状況に持ち込むことができた。これなら菅生も目指すはダブル優勝でシリーズトップ! 気合いは十分である。今回は事前にガレージでトランスミッションを新品に交換。菅生まで自走してきたこともあり、トランスミッションのナラシ運転もバッチリだ。
ちなみに、クラブマンシリーズ・エキスパートクラスで自走してきたクルマはたったの4台だったとか。「そんなに少ないの?」とちょっとビックリだったが、マシンを労りトラックに積載してくることはもはや常識。シビアなレースになってきたものである。しかし、どんな移動をしようとも準備は万端なのだからよしとしよう。
あれ、去年とルール変わった?
だが、練習走行中からどうも一発のタイムが伸び悩んでいる。自分的には得意と思っていた菅生なのに、一体どうしてだろう? 周囲のタイムと比較するとあと一歩及ばずの状況が続き、レースを想定したロングディスタンスのタイムも安定していない。そんな状況を周囲は把握しているらしく「三味線弾きまくっているね」なんて声をかけてくる。前回のレースで優勝したこともあって、きっとマークされているのだろうが、それはお門違いというもの。ハッキリ言ってグダグダだったのだ。
その状況を打破することなく突入してしまった予選。今回割り当てられたピットは最も1コーナーに近い位置だった。開始2分前にファーストレーンに進入すると、後ろからぞろぞろと何台かがついてきた。手本になるだろうと後ろにつけたのだろうが、今回ばかりはゴメン! 当てにならないヤツだと早く分かってくれと思いながらシグナルがグリーンになるのを先頭で待っていた。
今回の予選の作戦はこうだ。まずクリアな状況で1周タイムを記録。その後クーリングを挟んで、速い選手の後ろについてスリップストリームを使いながら、もう1周アタックするという感じだ。上手くいくかは分からないがやってみよう。すると予想通り、1アタック目のタイムは伸び悩んで全体の5番手。その後、クーリングしながら速そうな選手を探してはみるものの、お友達は見つからず。何台かのスリップを使ってアタックを試みるが、最後の最後で引っかかってしまってタイムロス。結局は最初に記録した5位のタイムで15分の予選は終了となってしまった。せめて2列目4番までに入っていれば前回のように可能性はあっただろうが、3列目となると未知数。というより、優勝するのは至難の業といって言いだろう。
ガッカリしながらピットに戻るとメカニックが駆け寄ってきた。「橋本さん、今すぐタワーに行ってください。どうやら違反があったようで……」。頭には疑問符が浮かぶばかり。一体どうして??? 聞けば開始2分前にピットのファーストレーンに進入したのが違反だったとのこと。あれ、去年とルール変わった? 競技委員に聞けば、今シーズンが始まってから、ピット出口にある信号が青になってからでないと、自己ピットから出てはいけないというルールになったそうで……。「ドライバーズブリーフィングでもお知らせしたんですがね」と言われた。
そういえばブリーフィング中に大き目の地震が発生し、建屋がグラグラと揺れ、避難すべきか否かと意識がそっちに飛んでいたことを思い出した。「お話を聞いていなかった僕がわるかったです」と謝罪。グリッド降格を覚悟した。だが、競技委員からは「今回は厳重注意ということで」というお言葉が! 全身の力が一気に抜けそうなほどホッとしたのは言うまでもない。助かった。ありがとうございます! そして、僕をあてにして何台か出てきてしまった方々、同様に注意されてしまったみたいで本当にごめんなさい。何から何までまだまだなヤツです。84号車を頼りにしないようにご注意を!
第1ヒートは棚ぼたの4位
そんなこんなで命拾いした5番グリッドからスタートとなった決勝第1ヒート。スタートでどこまで抜けるのか? 抜きにくいとされる菅生ではスタートこそ勝負だ。富士ではPOTENZA RE-12Dが得意とする縦方向のトラクションを活かし、3台を抜くことに成功しているだけに期待は高まる。
レッドシグナルが消灯してスタートすれば、今回もまたドンピシャのタイミングでトラクションがかかり、4位のクルマをパスすることができた。だが、4コーナー立ち上がりからS字にかけて前を走るクルマが派手にテールをスライドさせることを確認。思わずアクセルを緩めてしまい抜いたクルマに抜かれ、結果的に5番手にふたたび戻ってしまった。昨年はこの場所で他車と接触してリタイアしているだけに、その状況がフラッシュバックしてしまったのだ。2ヒート制のレースは完走してナンボの世界。大事にいかなければという思いから引いてしまったのが原因だ。
だが、13周もある菅生のレースなら何があるか分からない。必死に前のクルマに食らいついていく。だが、そもそもペースが上がらなかったこの週末の走りでは、前に次第に置いていかれる。スリップストリームが効く場所にいればまだ一緒に走れるが、ちょっとミスをして離れただけで、一気に差が出るから厄介だ。強風が吹き荒れるサーキットは、メインストレートを駆け上がってくるところが向かい風。勾配のきつい坂でスリップナシではかなりイタイ。
結果的には6位を走るトヨタカローラ名古屋レーシングチームの岩本選手に終始後ろに張り付かれる展開。パッシングポイントを塞ぐようにして走るのが精一杯の状況に陥っていた。本当に情けないやら申し訳ないやら……。一度は1コーナーでブレーキングをミスして前に出られてしまうが、3コーナーでふたたびインを取って元の順位に戻るということもあったほど。ギリギリのバトルが続いた。けれども、岩本選手がクリーンなレースを展開してくれたこともあって、お互いに無傷。サイド・バイ・サイドの走りをしながらも板金を必要としないレースは、辛かったが楽しめた。そうこうしているうちに2位を走るクルマがスローダウン。どうやら86のウイークポイントであるABSが壊れたらしく、戦線離脱したのだ。おかげで棚ぼたの4位を獲得。翌日に行なわれるレースは2列目からのスタートとなるからラッキーだ。
通せんぼ爺の始まり
日曜日に行なわれることになった決勝第2ヒート。前回の富士では午前、午後で2ヒートを走り切ることを強いられていたが、今回はひと晩休めただけありがたい。前日のレースを終えた直後は、腰が痛くて立っているのも辛いくらい疲れ切っていたが、ゆっくりと寝たおかげでそれも回復。それでも、オッサンにとってはかなり厳しい状況に変わりはないが……。
ただし、第2ヒートは2列目4番手からのスタートだ。再びロケットスタートをキメて前に出てやろうじゃないか! そんな意気込みで4番グリッドにつけば、狙った通りのスタート! 3位の選手を1コーナーで交わし、無理せずに2コーナーを脱出するほどだった。だが、考えてみれば、もっと抜けてもよかったかもしれない。菅生の1コーナーはグリッドからの距離が近く、スタートをキメて勢いをつけてもすぐにブレーキングという状況。これが富士とか十勝なら2位も夢じゃなかったかもしれない。それくらいスタートが上手くいったのだ。
けれども、そこから先は地獄の始まりだった。前日と同じく前を走るクルマには次第に置いていかれ、スリップストリーム圏内から外れてしまえばグッとペースが落ち込むような状況だったのだ。残り7ラップというピットからのサインボードを確認した時には、背後には5位から上がってきた前日同様の岩本選手が……。お互いに手の内を前日にさらしている相手なだけに、ちょっとブロックするのは難しいかも、なんて思っていた。
案の定、終盤にはクロスラインを取ってきた岩本選手が2コーナーのインをついて前へ。だが、直後の3コーナーで再びインを取り、何とかポジションをキープすることに成功した。その後は僕から後ろが数珠つなぎ。“通せんぼ爺”の始まりだ。情けないやら苦しいやらの展開だが、やるしかない! なにせ表彰台がかかっているのだから。最後は後ろがやり合ってくれて大島選手が浮上してきた。大島選手にもチェッカーまでピタリとマークされたが、何とか逃げ切ることができた。
結果として菅生で17ポイントを獲得。シリーズランキングは2位に浮上することができたが、トップとの差は16.5ポイント。まだまだ厳しい展開であることに変わりはない。しかし、イマイチ伸び悩んだレースにも関わらず、最低限の表彰台とシリーズランキングを1つ浮上させることができたことはわるくはなかった。けれども、今思えば予選ではじめからスリップストリームを使うなどの対策をすべきだったと反省するところはイッパイ。最後まで吹き荒れた風を味方につけられなかった菅生ラウンドだった。次戦のオートポリスではレースで旋風を巻き起こしたいものだ。