【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第52回:予選ポールポジション、2ヒート共に優勝とすべてがかみ合った第4戦オートポリス

予選ポールポジション、2ヒート共に優勝で喜び爆発です!

険しい険しいオートポリスへの道

 そもそも出場することすら危ぶまれていたGAZOO Racing 86/BRZ Race第4戦・オートポリス大会。それは以前からもお伝えしている通り、2ヒート制のレースが5大会にもなり、トランスミッションをはじめとする消耗パーツの交換サイクルが早まり、それを捻出することが難しかったからだ。そこでシングルレースの開幕戦・鈴鹿を欠場。あと2レースは休まないと2018年と同様のコストでレースを戦えない。ならばオートポリスを欠場して、そのあと全部参戦すればという考えだった。

 だが、第2戦の富士で2ヒート共に優勝。そこでシリーズ3番手につけたことでその考えが改まってきた。同チームのプロクラスドライバーの佐々木雅弘選手も「前半戦をやれるだけやって、シリーズチャンピオンが見えなければ後半戦を休めばいいじゃない」と楽観視。言われてみればそうだと、オートポリス大会へのエントリーとなったわけだ。ちなみにそのエントリーを終えた後に行なわれた菅生大会では3位に入賞。シリーズランキングは2位に浮上した。できることならオートポリスでシリーズトップへ! 目の前にニンジンがぶら下げられた状態となり、鼻息は相当に荒い。

 だがしかし、貧乏オーナー兼ドライバーである僕からすれば、オートポリスに向かうとはいえ、万全を期して資金を投入するようなことはしなかった、もといできなかった。現在装着しているトランスミッションは、第3戦の菅生大会直前に新品を投入したもので、本来であれば2ヒートを戦ったらオーバーホールしなければシフトの入りがわるくなる。だが、それをあえて継続して使うことにした。丁寧なシフトでオートポリス終了まで乗り切れれば、後の大会を休まずに済むかもしれないという計算があったからだ。ちなみに第2戦の富士で使ったトランスミッションは、現在メンテナンスガレージのレボリューションに保管されている。そのままシングルのレース時に使おうかと考え中だが、オートポリスの結果次第では2ヒート制の時にもう1度使って終わりとなるだろう。いずれにせよ、やりくりは相当に厄介なのだ。

 もう1つソロバン勘定しなければならないのが、オートポリスへ向けた移動手段だ。陸続きだから往復自走でとも考えたが、トランスミッションのライフのこともあるし、往路は大阪~大分間をフェリーに乗ることにして、帰りは出たとこ勝負といった感じで動くことにした。これでもフェリー代は3万円ちょっと。大阪までの高速代や燃料代を考えればサーキット入りするまでに6万円くらいはかかる計算だ。とはいえ、行きは船内で1泊できるし、ホテルに宿泊して万全の体制でサーキットに行けるのだからそれもよし。レースウィークの水曜日お昼前に東京の自宅を出発。夕方に大阪南港に到着して、まずは船旅を楽しむことにしたのだ。

 そこで出会ったのが、同様の考えだった86/BRZレースの面々。クラブマンシリーズ・オープンクラスに参戦している12号車の今井清則選手と、エキスパートクラスに参戦している808号車の木下智裕選手だ。今井選手は2018年も同じ船で過ごした飲み仲間!? チューニングショップBee Racingの代表でもある人物で雑誌やビデオに出まくっていたから、ご存じの方々も多いだろう。大病をしたことをきっかけに、余生は好きなことをやろうと86/BRZレースに参戦することを決意。レースのついでに旅も楽しんでしまおうと、オートポリス大会後は鹿児島まで足を伸ばして温泉めぐりをするそうだ。

 一方の木下選手は、実は自転車競技で活躍した人物。ロードバイクの日本代表として欧州で4年半の選手経験を持ち、現在はロードバイクのコーチングサービスを行なっているという。オートポリス大会終了後は九州各地でコーチングの旅に出るそうだ。三者三様の86/BRZレースとの関わり方ではあるが、共通していることは、いずれもが車両トラブルもクラッシュもなくレースを終える必要があるということである。なんとか無事で帰る、これが共に課せられた使命といっていい。その中でどれだけ万全なレースができるか? 船旅の間は酒を片手に、86/BRZレースのことを遅くまで語り合っていたのだった。

オートポリスへの道中を共にした12号車の今井清則選手と808号車の木下智裕選手。その節はお世話になりました!

 翌朝、大分別府港に到着した3台の86は、オートポリスを目指して静かに走り出した。まるでオフ会へ向けたツーリング!? とてもレースに行くとは思えないのんびりとしたドライブもまた楽しい。阿蘇の開けたワインディングロードを駆け抜け、道路脇で記念写真をパチリ。こんな優雅な旅ができるのもナンバー付きレース車両ならでは。せっかくの移動だもの、楽しまなければね。

抑えた走りがよかった?

 そんなこんなでオートポリスに到着。これからはのんびり楽しんでばかりはいられない。レースへ向けたセットアップのはじまりだ。1年ぶりに訪れたオートポリスは何度か走っていることもあるが、事前に自宅のグランツーリスモで練習もしてきたから走り出しから好調だ。リビングで100ラップした効果は絶大。やはり、事前のトレーニングって必要なのかもと実感。ちょっと走ったところでクルマに対する要求もすぐに出てくる感じだったのだ。そんな事前準備をしていない場合は、まずコースに慣れる時間が必要で、セットアップまでにはもう少し時間がかかっていたことを思い出す。何年もレースに参戦しながらも、いまさらこんなことに気づくとは……。もっと早くやっておけっていう話ですよね、すみません!

 ただし、すべてが好調というわけではなかった。ドライ路面における一発のタイムがどうしても出せずにいたのだ。周囲のクルマに対して一歩遅れているのはたしか。荒れた路面にマッチするタイヤの空気圧がなかなか見い出せずにいた。そうこうしているうちに天候が悪化。けれども、ウェット路面になればなるほど、タイムは明らかに周囲より上まわっていた。これはブリヂストン「POTENZA RE-12D」がウェット路面も得意としているから。ライバルのタイヤは雨で苦戦を続けている。このままの天候でいてくれ! そう願うばかりだった。

 予選が行なわれたレースウィーク土曜日の天候は願った通りの雨だった。朝からガラス撥水剤を塗り込んだり、曇り止めをこれでもかと吹き付けてみたりとピットは慌ただしい。雨量は多くなったり少なくなったりとコロコロと変化する状況。果たしてどの空気圧がベストなのか? 読み切れない状況が続く。

 そこで予選はまず高めの空気圧でアタックを続け、タイヤが発熱するのを待つことに。走行ラインが乾き出して空気圧が高すぎると感じたら、ピットインして調圧し、再アタックを行なおうという作戦だ。すると、まずは高めの空気圧で1番時計を獲得。だが、レコードラインが見え始めてくるとそのタイムも塗り替えられてきたようだ。そこで調圧が必要だとピットインした。調圧を終えて再びコースに戻ろうとしたところで、ピットロード出口の信号は赤に。どうやら危険箇所でクラッシュ車両が出たようだ。まだ残り時間があるから、もう1回アタックできるだろうと最前列で信号が変わるのを待った。

 コースクリアとなりもう一度コースイン。コース上は前に誰もいない状況で走りやすい。インラップから丁寧かつ大胆にタイヤに熱を入れ、アタックラップに突入する。路面状況が変わり始めていたことから、1コーナーはやや丁寧すぎるくらいに減速してしまったが、それ以外はまずまずのまとまり。感覚的には8割くらいの出来か!? やや不完全燃焼ぎみだった。だが、ピットに戻ればメカニックさんたちが拍手しているではないか! その抑えた走りがよかったのか、これがなんと2位をコンマ3秒チギるポールポジションだったのだ。

天候もレース展開もすべてが見方に

 決勝第1ヒートは、予選と同じくフルウェット。予選での走りを続けられれば優勝だって夢じゃない。

 スタートを無難にキメて1コーナーに飛び込めば、難なくトップに立てた。だが、その後は簡単じゃなかった。前に誰もいない状況の中、コーナーに飛び込んでいかなければならないからだ。オートポリスは標高差が大きく、それ故に川が流れているポイントがいくつか存在する。そこにまともに乗ればハイドロプレーニングを引き起こし、飛ぶようにクルマは動いてしまう。いつクラッシュしてもおかしくない状況なのだ。

 探り探り、けれども大胆に攻めなければポジションの確保さえ難しくなる。そこでまず事件が起きた。ハイスピードコーナーの100Rで、1台が派手にクラッシュ。セーフティカーが導入されたのだ。そこで無難にキメたスタートはチャラに。再スタートで一気に離そうと努力するが、後続のタイミングをハズすことはできずに、またもや無難なスタートに。クラッシュしないように慎重に走っていくと、その後2周目くらいだっただろうか、背後に張り付かれてしまった。路面状況を掴み、グイグイと攻めてくる56号車の鶴賀選手だ。

 この勢いではやられてしまうかもしれない。そう感じていたジェットコースターストレート手前のヘアピンで横並びになった。こちらは路面が食いそうなイン側をキープ。鶴賀選手はアウト側を選んで同時にブレーキすると、鶴賀選手は止まり切れずにアウトへとはらんでいった。これで2位以下とはかなりの差ができ上がり、マージンを残して走ることができた。攻め切っていないから、背後との差はジリジリと詰まってくるが、落ち着いて残り周回数との相談をしながらペースをコントロールした。

 すると、またもやセーフティカーの導入。これでせっかくのマージンがチャラかとも落胆したのだが、結局は最後までセーフティカーは退かず、ポジションキープでチェッカーフラッグを受けることができたのだ。これで今季3勝目! 天候もレース展開もすべてが味方になってくれたレースだった。

第1ヒートでは最後までセーフティカーは退かず、ポジションキープでチェッカーフラッグを受けることができた

辛い状況も吹き飛ぶほどの嬉しさ

 翌日に行なわれた決勝第2ヒートは、ハーフウェットからドライアップする状況でのスタートとなった。タイヤの内圧をどうすべきか最後まで悩まされたが、レースが始まればレコードラインはドライになるはずだと、ドライ内圧でスタートすることにした。

 レッドシグナルが消灯してスタートすれば、ポジションキープに成功。だが、そこからはかなり劣勢であることを感じていた。練習中からドライでのタイムに伸び悩んでいたのが解消されないままだったのだ。後続は活きのいい連中がいっぱい。2位は目まぐるしくクルマが変わるほどの大バトル。ずっとやりあってくれていれば僕は楽なのだが、そんな状況でもなかなか引き離せない。

 結局最後は2017年のシリーズチャンピオンである神谷選手がベタベタにつけてきた。終盤は彼との一騎打ちだ。プレッシャーを感じながらも、丁寧に走ることを心掛けるが、今度はクルマが悲鳴を上げている。懸念材料だったシフトが入りづらくなっており、シフトミスを何度かしてしまう始末。高速コーナーの100Rでシフトミスしてしまい、そこで失速。神谷選手と横並びになって続くヘアピンのブレーキング勝負となった。神谷選手はインへ。僕はアウトへ行くしかない状況。THE ENDか!?

 だが、アウト目一杯からフル制動をして、横並びのまま立ち上がれば、並行したままだったのだ。そこから2つのコーナーはこちらがイン側。その後1回はアウト側になるが、最終的には複合コーナーをイン側で抜けられる計算。サイドバイサイドのまま、そこまで走り切ったことで何とかポジションをキープすることに成功した。

 そんなバトルをしていたら、3位に大島選手が迫って来ており、今度は2位と3位がやりあう展開。これで少しラクになり、チェッカーを受けることができたのだ。これで2連勝! シリーズランキングは2位と14.5ポイント差をつけるまでになったのだ。

第1ヒートに続いて第2ヒートもトップでチェッカー!
同チームであるプロクラスドライバーの佐々木雅弘選手からブリヂストンのフラッグをもらい、ピットロード凱旋
今回の第4戦オートポリスで31ポイントを獲得し、計78ポイントに。現在2位の水野大選手(305号車)が63.5ポイントなので14.5ポイント差で前半戦終了。次戦の第5戦富士は7月6日~7日に行なわれる

 ここまで成功するとは……。色々と厳しい状況だったオートポリスだが、出場してよかった。帰りはコストも時間もないのでフル自走となったが、そんな辛い状況も吹き飛ぶほどの嬉しさだった。この勢いで、今年こそシリーズチャンプを獲る!

東京~オートポリスの往復で2251.9kmを走った。疲れもかなりたまったがそれを吹き飛ばす結果となったのでした

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学