【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記
第53回:天候に悩まされた第5戦 富士。赤旗中断を挟むも今季3勝目を獲得!
2019年7月12日 15:02
前戦のオートポリス大会が終了した時点で8大会中4大会が終了となった今シーズンのGazoo Racing 86/BRZ Race。すなわち、今回の富士大会は後半戦の幕開けとなる。オートポリスで2ヒート共に優勝したことで、クラブマンシリーズ・エキスパートクラスにおいてシリーズトップに立った。シリーズ2位の水野大選手とは16.5ポイント差をつけることに成功したのだが、それで安心はしていられない。シリーズランキングトップを死守するためには、この富士でもっと引き離しておきたいところだ。
梅雨真っただ中に行なわれた第5戦の富士スピードウェイは、やはり予想通りの雨予報が並んでいた。1週間前から発表される週間予報を常に気にしていたが、雨が弱まる可能性は低い。これならイケるかもしれない。そう期待していた。それは装着しているタイヤ、ブリヂストン「POTENZA RE-12D」が雨を得意としているからだ。オートポリスでも雨ではぶっちぎり。あの展開をもう1度と、日々行ないをわるくして雨乞いをしていたのは言うまでもない。
だが、期待は見事に外れていくことになる。天気予報には雨マークこそ出ているものの、実際の富士スピードウェイはそれほど雨が降らないという状況が続いたのだ。レースウィークの木曜日にはウェットもドライも試したが、やはりドライでは周囲に比べて今一歩遅れている様子。空気圧やエンドレスのブレーキパッドの銘柄を変更するなどの対策を行なったが、これで正解かどうかはやってみなければ分からないという状況だった。けれども、金曜日に行なわれた占有走行では、ハーフウェットということもあってなんとか一番時計を記録することに成功したが、路面はみるみる乾いていく方向にあることは明らかだった。これで勝てるのだろうか? トップを取りながらも不安ばかりである。
ちなみに金曜日のタイムスケジュールは、午前中にほぼすべてのスケジュールが終了となり、後は時間を持て余すばかり。メンテナンスガレージのレボリューションはホットプレートを持ち込み、そこでバーベキューを開催。心中穏やかではなかったのだが、このリラックスムードでそんな気分も癒されたのだった。
M3って?
土曜日に行なわれた予選。そこは狙いとは外れたドライ路面だった。しかし、曇天ということもあって、路面はそれほど熱くはない。86はそんな状況になると主にリアタイヤの温まりがわるく、アタックラップに入ったとしてもテールスライドを引き起こしやすい。そこでウォーミングアップを1周挟んでアタックを行なうことにした。
すると、1コーナーからコカ・コーラコーナー、そして100Rまでは見事なグリップを展開。とにかく踏んでいける感覚にあった。だが、これならイケると調子に乗り出したところでミスをした。それはダンロップコーナーの進入で、ブレーキングで行き過ぎてしまったのだ。狙ったところよりもクルマ半分くらい先まで行ってしまっただろうか? そこでやめようかとも思ったのだが、タイヤ的にはこの1周がよいはずだとアタックを続け、セクター3の上りはとにかく慎重に立ち上がり重視で走ることに。すると、予選開始10分くらいの段階ではトップタイムを記録していたらしい。
そこでちょっとした珍事件が発生する。ピットからはサインボードが出されているのだが、そこにはこんな記録があった。上から、Revolution84、P1、+0.1、M3……。これすなわち、ポジション1、0.1秒2位を引き離していることを示しているのだが、最後のM3がどうにも理解できなかったのだ。完全なる打ち合わせ不足によるものなのだが、M3とは果たして!? 優勝をあと3回できればシリーズチャンピオンという意味のマジック3? BMW M3は今欲しいクルマだから、勝てばそれをくれる? それともポジションは3番で、トップから0.1秒遅れているってこと? いやはや、これはかなり難解なピットとドライバーのクイズ合戦である。こうなればアタックを終了してピットには戻れない。クーリングラップを挟みつつ、もう1回最後にアタックをしたのだった。だが、そこでタイムアップはならず。最終的には前回の富士大会でもポールポジションを獲得した松沢隆弘選手がトップに立ち、僕は0.034秒差の2番手で予選が終了した。ちなみにM3の正解は「ラスト3分」とのこと。色々と考えすぎでしたね……。反省。
それにしても予選はかなりシビアだった。トップとの差もわずかだったが、3位との差も0.036秒差。トップから20位までが1秒以内という大混戦である。先述した通り、「ミスった!」なんて思っているようじゃポールポジションは難しい。1周を本番1発でまとめる難しさが、いよいよクラブマン・エキスパートでも出てきたということだろう。15分の間にクイズ合戦をやっている場合じゃない。
そして疑問が残ったのは、ドライ路面で涼しい状況だったのも関わらずタイムが伸びなかったことだ。トップタイムを見ても2分6秒505。僕も2分6秒539である。本来なら5秒台が出ていてもおかしくはない。これ、どうやら同日に開催されていた他のレースのラバーグリップが影響しているらしく、後半になればなるほどタイムが出しやすい環境にあったのではないかというのだ。同日開催のレース車両が装着するタイヤがどんな特性で、僕らの86が履くタイヤとの相性はどうなのかを見極める必要があったのではないか? そんな見方もあるそうだ。なかなかひと筋縄ではいかないですね、レースって。次からの課題として頭に叩き込んでおきたい。
赤旗中断後、3周のウルトラスプリントレースに
そんなわけでポールポジションを逃したわけだが、それでもフロントローの2番手。前方の視界はクリアだし、スタート勝負となればこちらには縦トラクションが優れているRE-12Dがついているのである。これなら1コーナーまでにトップに立てる可能性はかなり高い! 気負うことなく普段通りをモットーに決勝スタートに挑めば、狙い通りのドンピシャで1速を使い、2速へとシフトアップした時点ですでに松沢選手を抜きにかかっていた。これで1コーナーでは難なくトップに立ち、クリアしていた。一方の後続は接触があり、1コーナーでゴタゴタ。オープニングラップが終わった時点では2秒の差をつけるまでにリードすることに成功したのだ。
これなら楽勝かと思いきや、3~4周目に差し掛かったあたりでライバルが息を吹き返し、タイヤが温まったところでそのリードを縮めてきたから厄介。こちらはスタートするときのタイヤ内圧が低すぎたらしく、オーバーステアに悩まされていた。曇天の環境だったから、もう少し空気をいれておけばよかったと思うのは後の祭り。何とか堪えなければ、そう思いながらミスをしないように慎重に走っていた。
そんなドキドキの状況で、またしてもセーフティカーの導入を示すSCボードが各ポストから示された。後続であったクラッシュ車両がグラベルから引き出せないようだ。その直後に赤旗が提示され、SCを先導にスタートライン近くで停止した。これで終わりなのか? それならそれで嬉しいのだが……。
しかし、その直後にグリッドに並べとの指示がオフィシャルから出る。どうやら残り3周のウルトラスプリントレースを開催するらしい。これはかなりの緊張だ。わずかにあったリードはチャラ。SCスタートで1周をゆっくりとまわり、残り2周がスタートとなる。13コーナーあたりから加速を始めて、やや後続をリードした状態を作り出し、グリーンシグナルが点灯。再スタートを順調に切る。
いったん冷えてしまったタイヤは、ウェービングをしてきたとはいえ本来のグリップは出ていない。そこに来て1コーナーだけは雨が降っているという難しいコンディションになったのだ。1コーナーは何m手前からブレーキングすべきなのか? トップで知らぬ環境に飛び込む難しさは、心臓バクバクものだった。だが、無理をして失敗すれば抜かれてしまうに決まっている。安全策を取り、きちんとブレーキングして脱出する走りを心掛けて1コーナーをクリア。その後も無理をすることなく、背後にライバルが迫ってきても気にしないように走った。最終ラップはベタベタに迫っているように感じたが、そこでは若干のブロックラインを走り、どうにか逃げ切りに成功! 本当にハラハラするレースだったし、決して楽勝ではなかった。
これで今季3勝目を獲得! 20ポイントをゲットしたのだった。これでシリーズランキングのトップを死守することに成功し、2位の水野選手と21.5ポイント差に広げた。まだまだ十分なリードとは言い難いが、シリーズチャンピオンに一歩近づいた。後半戦の開幕は上出来といえる展開で始まった。続く十勝ラウンドも、少しでもポイントを稼げるように挑もうと思う。