【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第54回:夢でうなされるほどのプレッシャー。第6戦 十勝を終えてのポイントランキングは?

第1戦不参加、第2戦30ポイント、第3戦17ポイント、第4戦31ポイント、第5戦20ポイントを獲得してきた橋本洋平選手。第6戦 十勝の結果はいかに?

 シリーズランキングトップで、2番手とは21.5ポイント差で迎えることになったGazoo Racing 86/BRZ Race クラブマン・エキスパートクラスの十勝大会。今回のレースは2ヒート制で行なわれるため大量得点が可能だから、ここでシリーズランキングに王手をかけておきたいところ。21.5ポイントもリードしていると聞けば余裕かと思いきや、最終戦までの最大得点を計算すれば88ポイントも獲得できる状況だけに、気を抜くことはできない。1回でもノーポイントとなれば、あっという間にランキングは逆転されるのだから……。

 おかげで、ここ1か月はプレッシャーの連続だった。レースのことを思い浮かべれば心拍数が高まっていたし、就寝中には夢でうなされることもしばしば。十勝スピードウェイのコースに入り、タイムアタックを行ない始めた瞬間、逆走車がいて正面衝突! マシンは大破してノーポイントだった、なんて夢を見てしまった。ポイント的に有利であっても決してラクじゃない、そんなことが初めて見えてきた。

 だが、だからといって十勝に向けて努力のしようもない。事前テストを行ないたいところだが、東京から北海道まで行ってテストをし、帰ってきて車両メンテナンスをして再び北海道へ行くプランも考えてはみたが、どう考えても予算オーバー。ただでさえ十勝戦へ行くだけでも十分にお金はかかるのだから。お盆時期の開催ということもあって宿代も移動費も高く、どうやりくりするかで頭を悩ますばかり。2018年のインカービデオを見てお茶を濁すくらいしかやりようがなかったのだ。

 ただ、1つ朗報だったのは台風が日本列島に接近していたことだ。移動さえ済ませて北海道上陸となればこっちのもの。週間天気予報がほぼ雨となれば、相棒のブリヂストン「POTENZA RE-12D」の独壇場。それならトップを取れると信じていた。事実、十勝入りしてからはずっと雨で、事前練習も公式占有走行でも周囲を寄せ付けずにトップタイムをマークしていた。これなら十勝で王手も夢じゃなさそうだ。

予選8位に沈む

 予選が行なわれたレースウイークの土曜日。サーキットに訪れてみると、台風一過という言葉がふさわしいくらいの状況だった。路面は縁石付近が濡れてはいるがおおむねドライ。しかも快晴になりつつあり、北海道とは思えない暑さになってきた。ライバルは数人が水曜日入りしてドライ路面を試せているらしく表情が明るい。一方のこちらは木曜日に北海道入りしたためにウェットしか走っておらず、その状況を見て眉をひそめた。

ドライ路面を試せなかったこともあり、表情は曇ったまま

 苦肉の策というわけではないが、15分間で行なわれる予選は最後の最後で出て行こうというプランを立てた。縁石付近にある水が各車が走ることで吹き飛び、完全ドライに近づけば有利ではないかと考えたからだ。けれども、その読みも見事にハズレてしまうことになる。コースインして路面をチェックすれば、何台かがコースアウトしてそこから復帰してきたため、路面は赤土だらけ。見るからに滑りそうなところが点在していた。それも時間が経てば次第になくなって路面μも復帰してくるだろうが、遅れてコースインしたために、それがどのタイミングなのかを見極める時間もない。

 アタックラップに入るが、ドライを試せていないこと、そして先述した路面状況もあるから、1周目は安全マージンを持って走ることに。2周目に全開アタックしようと決めた。だが、今考えてみればそれが間違いの始まりだった。1アタック目はブレーキングを抑えすぎたせいかタイムは伸びず。2周目はタイムを着実に刻んでいることをラップモニターで確認。これが僕の予選タイムとなるだろうと想像していた。

 が、しかし、セクター3の途中で目の前のクルマがスピンして、オフィシャルが黄旗を2本振動させていたのだ。ここでタイムを記録しても抹消されることは確実だと判断してタイムアタックを中止。3周目にかけることにしたが、そこではそもそも高めでスタートしたタイヤ内圧が高まりすぎ、明らかにピークのグリップを失っていた。結果としてタイム更新はならず8位に沈んだ。

 ちなみにシリーズランキング2位の水野大選手はポールポジションを獲得。早くもシリーズチャンピオンへ向けて黄色信号が点滅し出した。悪夢は現実に近づき、正直言って気分は腐るばかり。目の前にスピン車両が出てくるタイミングのわるさを恨むばかりだった。ただ、よくよく考えてみれば自らが守りに入って1周目で安全マージンを持ちすぎたことがわるい。1台でも多く抜いてゴールしようと気持ちを切り替えた。

 予選と同日開催となる第1ヒートは、お昼に行なわれたこともあってかなり暑い。8番グリッドについた時点で息が上がるほど。ここからまずは14周、かなりキツイレースとなることは間違いないだろう。

第1ヒートのスタートシーン

 スタートに集中していつも通りのロケットスタートを、と深呼吸。レッドシグナルが消灯してクラッチを少しずつミートさせれば、2速にシフトアップした時点で前の2台を抜きにかかっていた。まずはこれで6位。ここから少しずつなんて考えていたが、十勝は抜けないコースとして有名な場所だから、その後はそうそう簡単にはいかない。

 一方、背後につけていた北見洸太選手は元気みなぎる走りであり、特に最終コーナーから2コーナーくらいまでの速さが際立っている。比べてみれば最終コーナーのトラクションがどうやらコチラは劣っているようで、セッティングを外していることが明白だった。足まわりもLSDのセットもドライ路面においては微妙だということが、今さらながらに見えてきたのだ。おかげで終盤は北見選手を抑えることで精一杯。なんとかスタートで得た6位をキープすることで第1ヒートは終わった。

どんな状況でも最善を尽くせばいいこともある

 翌朝6時30分、車両保管が解除される。前日のレースを終えた車両を一番で出迎えに行き、ピットに戻して整備を開始してもらう。そこで前日感じたセッティングのダメなところを解消してもらうよう、メカニックさんにお願いした。頼んだのはリアスプリングのプリロードのアップ。ただし、LSDに関しては重整備となるため、セッティング変更は許されていない。また、オイルを交換。1レースを終えたオイルは真っ黒に焼けていたから、交換は必須なのだろう。少しでも各部のライフを伸ばすための安全策だ。

第2ヒートのスタートシーン

 昨日よりは1つだけ前列に移動した6番グリッド。1ヒート目を勝利した水野選手の後ろ姿が少しだけ大きくなったことにホッとするが、まだまだその差は大きい。今日もまた少しでも上にと、スタンディングスタートに集中する。レッドシグナルが消灯してスタートすると、なんと目の前の2台が完全にスタートを失敗していることに気づく。前方の4位・大島和也選手がエンジンストール気味!? そして左前にいた3位の神谷裕幸選手はトラブルなのか、完全停止していたのだ。

 5位の松井宏太選手は慌てて前列2台の間に鼻先を突っ込んで神谷選手との衝突を回避。僕も同様に大島選手を慌てて避けて松井選手の後ろに続いた。その時点で松井選手との差は完全テール・トゥ・ノーズ。1コーナーまでその状況が続いた。そこで松井選手はインへ、僕はアウトにクルマを振って1コーナーに。アウトからまくるように立ち上がり、2コーナーまでに松井選手をかわすことに成功した。これで気づけば3番手。トップの2台の背後にまで迫った。

 そこから先は水野選手がトップを死守。2番手は僕と同じくブリヂストンユーザーの鶴賀義幸選手が続く。3番手となった僕は、前の2台の動きを冷静に見物できる位置だ。2台がやり合えばチャンスが来るに違いない。無理をせずに淡々と走ることにした。

 すると予想通り、2台はバトルを開始。鶴賀選手は水野選手を見事に抜き去った。そこで失速していた水野選手をヘアピンコーナーで抜き去り、ここで2番手まで浮上できたのだ。これでシリーズ的に見れば再び有利な展開になるかもしれない。そんなことを思った瞬間に、再び水野選手は最終コーナー立ち上がりからうまくスピードを乗せて僕をあっさりと抜き去っていった。まだまだセッティング変更がしきれていない僕のクルマは、最終コーナーがどうも安定しない。水野選手はうまくそこを突いてきたのだ。

 背後についてしばらく走ったが、その走りには無駄がなく、クルマもドライバーも相当にまとまっていることが感じられた。今回は正直言って完敗だ。その後、水野選手はトップに返り咲いてそのまま優勝。ポールポジション、第1ヒート優勝、そして第2ヒート優勝に加え、第2ヒートにおけるファステストラップも記録。結果として32ポイントも持ち帰った。

 こちらはその後、4位の松井選手の追撃を抑え込むのでやっとという展開で、辛うじて表彰台を確保するに留まってしまった。結果として十勝大会における獲得ポイントは、第1ヒートの6位で3ポイント、第2ヒートの3位で合計12ポイント。これでシリーズの総合ポイントは僕が113ポイント、水野選手が108.5ポイントとなった。シリーズランキングトップは守れたものの、その差はわずか4.5ポイント。ほぼ振り出しに戻ったのだった。

4位の松井選手の追撃を抑え込むのでやっとという展開で、なんとか3位に入ることができた

 予選が終了した時点で諦めず、最後まで戦ったからこその展開。腐る気分を振り切って走ったことがこの結果に繋がったのだ。どんな状況でも最善を尽くせばいいことあるもんだな、なんてプラス思考になれたいいレースだった。最後にはジャンプアップ賞(予選から最も順位アップした選手に贈られる賞)をいただくこともできたし、今回はスタートがわるかったにしても最後は少し笑顔になれてよかった。

 ここまで来るともはや開き直れる。守りに入ってドキドキしてプレッシャーを受けている場合じゃない。万全の体制で次戦のツインリンクもてぎを走り、最終戦の岡山国際サーキットでシリーズチャンピオンを取る!

厳しい戦いだったものの、諦めずに頑張ったことで3位という結果に。9月14日~15日に行なわれる第7戦 もてぎでは、開き直って攻めの姿勢で上位入賞を目指す!

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:益田和久