【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第55回:2位との差はわずか4.5ポイント。結果が求められる第7戦もてぎレポート

今回は天王山の戦い

 GAZOO Racing 86/BRZ Race クラブマン・エキスパートシリーズは、いよいよ残すところ2戦。僕はシリーズランキングトップをキープしながらも、2位との差は4.5ポイントという接戦で迎えることになった。すなわち今回は天王山の戦い。ここでのポイント獲得がシリーズランキングに大きく影響する。舞台は関東のツインリンクもてぎだから、ホームコースと言ってもいいところだ。僕はこのツインリンクもてぎにおける、クラブマンシリーズのコースレコード保持者でもあるから、勝てる可能性はある! ここでシリーズ2番手につけるダンロップタイヤユーザーの水野大選手を少しでも引き離せればと考えていた。

プロクラスドライバーである佐々木雅弘選手がセッティングなどについてレクチャーしてくれた

 自宅から比較的近いサーキットということもあり、今回はレース開催1週間前に事前練習を行なった。コースレコードを取った春先とは違って気温が高い状況であり、ラップタイムはそのタイムに及ばなかったが、手応えは十分だった。まだ上を目指せないかとセッティングを変更したり、走り方を変えたりとトライを続け、そのすべてが順調に進んでいた。同じチームのプロクラスドライバーである佐々木雅弘選手が勧めてくれたセッティングは、やや乗り方が難しい部分があったのだが、周回を重ねるごとに自分のものにできている感覚がある。これならイケそうだ!

 けれども、レースウィークに突入すれば、ライバルはかなりの好タイムをマークしているらしく、こちらはそこに追いつけていないことが見えてきた。1週間前よりも涼しくなってきたことが要因か!? クラブマンクラスとはいえ、ライバルは日々進化しており、かなりの劣勢。このままではマズイと、さらにセッティングを変えたりタイヤの空気圧を変えたりとトライを続ける。

 だが、その劣勢に追い打ちをかけるかのごとく、トランスミッションが悲鳴を上げた。1コーナーでシフトダウンした際に、1速と3速、もしくは3速と5速の間にシフトレバーが引っかかってしまい、抜けない症状が出たのだ。ツインリンクもてぎは縁石の外側にあるグリーンゾーンの幅が2018年よりも大きく広がっていて、そこにガンガン乗り過ぎたのが要因かもしれない。エンジンやトランスミッションが揺れている状況でシフトを繰り返した結果、トランスミッションを痛めることに繋がったのか? はたまたそこでトラクションがいきなりかかったりしてトランスミッションを痛めたのか?

 原因は定かではないが、交換時期には到達していなかったトランスミッションを急遽交換することに。周囲を見ても今回はトランスミッショントラブルが頻発していたから、おそらく広がったグリーンゾーンが何かしら影響しているのだろう。メカニックさんにはいらぬ苦労をかけてしまったが、その甲斐あって、金曜日に行なわれたクラブマン・エキスパートクラスだけの占有走行において、3番手のタイムをマーク。足りない点を修正すれば、トップも射程距離範囲内にいると自信を持つことができたのだ。

現地で急遽トランスミッションを交換することに
余談だが、占有走行でニュータイヤを入れた人で一番遅かった人がジュースを奢るという大会(?)が密かに行なわれた。そこでの最下位は松井選手。そしてこのメンツで予選最下位だった人が再びジュースを奢る大会も行なわれ、そこでは花里選手が最下位。2杯もコーヒーをご馳走になった(笑)。レースはピリピリだが、その後は和んだ雰囲気でいい感じであります

“お仕置き制御”とは?

 レースウィーク土曜日に行なわれた予選は、1発アタックで決めなければならない。装着タイヤのブリヂストン「POTENZA RE-12D」は、連続周回をしてもタイヤのタレが少ないが、やはり新品一発のタイムは突出している。そこをきちんと活かし、さらにエンジン各部の温度が高まり切っていない時にタイムを出さなければトップは取れない。かつては失敗したら「もう1回!」なんてユルい予選アタックでも戦えていた時期があったが、クラブマン・エキスパートクラスはもうそんな感覚ではトップを取れなくなってきている。

 コースインラップできちんとタイヤを温めてアタックを開始。すると、早朝に行なわれた予選ということもあってか、リアタイヤがまだグリップを発揮できていない感覚があった。前を走っていた同じブリヂストンユーザーの花里祐弥選手は同じことを感じたらしく、1コーナー先でアタックを中止。この時、同じくやめようかとも思ったのだが、それよりもエンジンがヒートしきってしまう方が不利だと、そのままアタックを続けた。これが吉と出るか凶と出るか?

 だが、コース中盤まではかなりいい感覚で進み、「これならOKでしょう!」なんて思っていたV字コーナー立ち上がりで意図しないことが起きた。テールがわずかに滑り、スロットルを全開で駆け抜けようとした時のことだ。86はそんな状況になると、レブリミットを通常の7500rpmから7000rpmに引き下げてしまう、通称“お仕置き制御”が顔を出したのだ。リアタイヤのグリップがまだ完全でないことが分かっていたのだから、もっとソフトにアクセルを開けていけばお仕置き制御を食らわずに済んだのだが、ついつい先を急ぎアクセルを全開にしてしまったのが敗因だ。

 結果としてそこから次のヘアピンまでの速度が遅くなり、トップから0.2秒遅れの3番手で予選を終了することになってしまった。ほんの一瞬の判断ミスでこうなるのだからシビアである。いま考えてみれば、コースインラップでもっとタイヤを温めておくべきだった。完全に僕のミスでポールポジションを失ったのだ。

最後は0.070秒差で……

 翌朝行なわれた決勝レース。ポールポジションはここがチームもドライバーも地元であるブリヂストンユーザーの鶴賀義幸選手。そしてシリーズランキング争いをしている水野大選手は隣の4番グリッドにいる。なんとしてもロケットスタートをしてトップを取りたい。そればかり考えていた。

 レッドシグナルが消灯し、スタートしてみると、トップの鶴賀選手はやや失速気味で、2位の岩本佳之選手と横並びになり、ストレート上で接触しながら互いにけん制している状況だ。こちらはスタートをキメて鶴賀選手の背後まで迫り、1コーナーでアウト側から並ぼうとするほど。イン側には水野選手がいる。だが、ブレーキングが遅れたと思われる岩本選手は、2コーナーで姿勢を乱してアウト側までスライドしてきたのだ。それを避けようとインに切り込んで立ち上がったが、姿勢を乱した岩本選手は僕の左リアタイヤとヒット。こちらも避けるべきところだったが、イン側には水野選手がいたために、2台にサンドイッチされるように接触となってしまった。

スタートから1コーナーの攻防戦

 結果としてこの時にアライメントが狂ったようで、いつもの感覚で曲がることができないクルマになってしまった。続く3コーナーでは曲がり切れずにアウトに膨らみ、水野選手に抜かれることに。結果、鶴賀選手、水野選手に続く3番手というポジションに落ち着いたのだ。

 そこから何とかしてポジションアップを試みるが、どうもコーナリングがシックリこない。でも、タイヤが取れたわけじゃないし、我慢して乗ろうと落ち着き、水野選手の背後に続くことに。抜けはしないが、前がやり合ってくれればチャンスは訪れるかもしれないと、我慢のレースが続いた。途中、鶴賀選手のペースが上がらず、水野選手と横並びになるシーンもあったのだが、鶴賀選手は落ち着いてポジションをキープ。最終ラップ近くまでそれを間近で見物するだけに留まってしまった。

決勝レースは鶴賀選手、水野選手、筆者というポジションで進む

 きっとこのままレースは終わりなのだろうと諦めていたのだが、最後に事件が起きた。それは周回遅れのクルマが僕の進路を塞いだのだ。クラブマン・エキスパートクラスのレースには、クラブマンオープンクラスで予選落ちしたクルマが最後尾から続いてスタートする。そのうちの1台がユルユルと最終ビクトリーコーナー手前の絶妙なところで走っていたのだ。ウインカーも出して避けてくれているようには見えるのだが、そこはコチラが一番行きたい場所でありまして……。結果として最終コーナーで失速し、岩本選手とコントロールラインまで横並びに走ることに。最後は0.070秒差で辛くも3位でゴールとなった。

無傷で終わることができなかった今回のレース。レース終了後はドアが開かず、窓から降りることに……

 いま振り返るとレース内容は非常にわるかったし、インカービデオを見てみても、もっといい戦い方があったと反省するばかり。勝つことばかりを意識した結果、スタート直後の位置取りがわるすぎたようにも感じている。反省することばかりだ。3位表彰台とはいっても、決して喜ぶことができないものだった。

 そしてシリーズポイント争いも辛い状況に追い込まれた。水野選手が2位に入り、15ポイントを獲得。こちらは3位で12ポイントだから、3ポイント詰められてしまったわけだ。ランキングは辛うじてトップをキープできたが、その差はわずか1.5ポイント。次戦の岡山国際サーキットで上位の者がシリーズチャンピオン獲得となる。いままでの反省点をすべて解決し、最後の決戦に挑んでタイトルを勝ち取りたい。

3位表彰台とはいえ、喜ぶことができなかった第7戦もてぎ。残るは10月19日~20日に岡山国際サーキットで行なわれる最終戦のみ。ここで勝って有終の美を飾りたい

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学