連載

三宅健のクルマで音楽! クルマでiPhone!

第4回:AVナビ「ケンウッド 彩速シリーズ」でiPhoneオーディオを実践

 クルマとオーディオに関心がある人にとって、新しくカーナビを買うというのは一大事だろう。市販されている各社のカーナビはクルマにできるだけスムーズに付くようにさまざまな工夫が施されてはいるが、よほどDIYに強いか心得のある人以外はまず自分のクルマを自らの手でバラして取り付けようと思わないだろう。そこで多くの人はカー用品店を訪ねることになるが、慣れない人にとってはこれも気軽な作業とはいえない。

 機種ごとの機能・性能の比較は意外に難しく、価格の相場もよく分からない。取付工賃がかかることは分かっても、作業には一体どれくらい時間がかかるのだろうか。最低でも数時間、場合によっては1日以上クルマを預ける覚悟、とまではいかなくても心の準備がないと気楽には頼みにくいかもしれない。漠然とカーナビを換えようと思ってみても、まあそこまでしなくても、と考え直してそのまま使い続けている人も多いと思う。

 そこで今回はそのような方々の背中を後押ししてみたい。当連載では前々回にビットパーフェクトのリッピング、前回はロスレスフォーマットによるライブラリ構築と話を進めてきた。時間があいてしまったが、今回は構築したiPhoneライブラリのサウンドを活かすAVナビをセレクトする。そして次回で実際に取り付けを行い、音質設定を実践するところまで話を進めていきたい。

iPhone再生を意識したAVナビ選び

 高性能なAVナビはかつてはカー用品の中でもトップクラスの人気商品であった。しかし近年は車両純正のナビの性能や使い勝手も向上し、その上カーナビの機能自体はスマートフォンに最初から無料でついてくる時代だ。最盛期と比べるとAVナビの販売数量は減少したのは事実だが、それでも市販AVナビ市場は競争の激しいジャンルで、各社入れ替わりの大変早いサイクルで次々と魅力ある新商品が投入されている。

 現在市販されている主要なAVナビは、出力段に効率の高いMOS-FETを採用したハイパワーアンプが搭載されていて、高出力・高音質であるのが特徴だ。古いタイプのナビや機能が限定された純正モデルから交換したときの音質向上は、現在でもかなり大きいはずだ。

 どうせ買い替える、もしくは新車を購入するなどの際は、より音質のよいモデルを選びたい。カー用品量販店に行くと主要機種に通電して比較試聴ができる大きな展示台が置いてある。これは「デモボード」と呼ばれ、ユーザーが好きなように操作できるスタイルになっている。気兼ねせずに自由にどんどん試聴するのがカー用品量販店のルールだ。

 ユニットの切替方法やナビ操作が分からない時は遠慮なくお店の人に声をかけ、あとは自分の慣れ親しんだミュージックソースで納得ゆくまで比較をするとよい。最新ナビはUSB/SDメモリ再生に対応しているので試聴用の曲を何曲かメモリーに入れて持参してもよい。もちろん手持ちのiPhoneを接続することもできる。その場合に備えてUSB接続ケーブルを持参しておくとよいだろう。

 おおざっぱに言えばUSB端子が搭載されていて、iPhoneダイレクト接続に対応しているモデルであれば基本的にはどのモデルでもよい結果が得られるはずだが、今回は数あるAVナビの中からJVCケンウッド・彩速ナビシリーズの「タイプZ」MDV-Z701をセレクトすることにした。

ケンウッド 彩速ナビMDV-Z701

●JVCケンウッド MDV-Z701
http://www2.jvckenwood.com/products/carnavi/mdv_z701/

ケンウッド彩速ナビシリーズ

 今回選んだMDV-Z 701は彩速ナビシリーズの最上位モデルで、人気の高いモデルだ。

「彩速ナビ」誕生のストーリーは興味深い。業界で別々の道を歩んでいたケンウッドとJVCは2008年に企業統合を果たすことになる。ケンウッドは1980年代より市販カーオーディオの有力なブランドとして一定の地位を占めてきた。一方でJVCは主要メーカーの陰に隠れがちではあったが独自の製品開発を継続してきた。企業統合を機に両者はカーナビ開発を一度振り出しに戻し、それぞれの技術を持ち寄って開発を再スタートさせた。その成果が彩速ナビだ。

 2011年より発売されたこのシリーズは現在で4世代目だが、2013年からはAndroidベースのプラットフォームを採用して一気に先進性を高め、従来のナビとはひと味違う快適な操作性でヒット商品となった。彩速ナビの詳しい内部構成については次の記事が詳しい。

●【インタビュー】ケンウッドの2DINカーナビ「彩速ナビ」の内部アーキテクチャについて聞く
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20130614_600526.html

 今回のテーマである「iPhone再生」を取っても彩速ナビは最適な1台だ。このモデルをセレクトしたポイントがいくつかある。その第1はメディア対応力だ。

 彩速ナビ「タイプZ」には金メッキ処理されたUSB端子が最初から2系統装備されていて、その内の1つがiPhone急速充電に対応した高出力タイプだ。USBハブによる拡張にも正式に対応しており、公式にサポートはされていないがUSBバスパワー式のポータブルHDDの動作も確認している。iPhoneに入りきらない音楽ファイルは、複数のUSBやHDDでクルマに持ち込み自由に切り換えて聞くことができる。このようなことができるAVナビは少ない。

USBケーブルは直接本体から出ている。白いカバーが付いているほうがiPhone充電対応の高出力タイプ。ここにiPhoneのUSBケーブルを接続する

 iPhoneとは直接関係ないが、彩速ナビは初代モデルからFLACファイル再生にも対応し、現行モデルは96KHz/24bitのファイル再生が可能だ(16bit相当での再生)。液晶画面はVGAであるものの、動画についても720pまでのHDファイル再生に対応。2013年モデルからHDMI端子も搭載し、2014年のモデルは業界唯一のWi-Fiによるメディア再生への対応も果たした。

 残念ながらナビ本体でのAppleロスレスファイル再生に対応していないため、iTunesのライブラリファイルを直接再生することはできないが、前回説明したようにiPhoneをソースとすれば原理上音質の劣化なくAppleロスレスの楽曲再生は可能だ。このように彩速ナビのメディア対応力は他のナビと比べて一歩進んでいる印象で、クルマの中のAVセンターとしての応用力が極めて高い。

 新プラットフォームの採用でスマートフォンとの親和性が高い点が第2のポイントだ。iPhoneの通信機能をフルに活用して渋滞情報、駐車場情報、音声検索などのオンラインサービスがシンプルな操作で活用できるのはポイントが高い。せっかくのiPhone、音楽再生だけなく様々な用途で使いたい。この点では彩速ナビは最も先進的な機能と操作性をあわせ持つ1台だ。

 そして重要なのが音質への配慮と音質調整機能だ。彩速ナビはiPhoneやUSBメモリの信号もすべてデジタル伝送され、信号を劣化することなく内部のDSP(デジタルシグナルプロセッサ)に送り込まれる。彩速ナビのDSP音質調整機能は極めて秀逸で、音質劣化の少ない構成で高度な調整機能が活用できる点が3つめのポイントだ。

●彩速ナビオーディオ部分の構成
http://www2.jvckenwood.com/products/carnavi/mdv_z701/sound/avnavi.html

iPhoneとAVナビの接続

 iPhoneはUSB接続対応の最新のAVナビで聴くのがベストだ。現在のiPhoneで採用されている「Lightningコネクタ」が登場したのは、今から約2年前のiPhone 5発売時だ。それまで長い間使用されていた30ピンDockコネクタに存在したアナログ信号(映像・音声・コントロール信号)が廃止され、これらの信号を前提としたAVナビでは映像や音声が出なくなり当時はかなり混乱をきたした。音声に限ってはデジタル-アナログ変換回路を備えた純正のアダプタを使うことで使い続けることができたが、現在ではアダプタを使う過渡的な状態は終わりUSBケーブル1本でデジタル伝送できるスタイルが標準となり、従来のアナログ式とくらべて音質的にも有利になった。

 ところでiPhoneとAVナビとの接続にはUSBケーブル以外の方法もある。ワイヤレスであればBluetooth、あるいはWi-Fi接続。さらに最近のAVナビはHDMI端子を搭載しているモデルも多いのでHDMIケーブルによる接続も考えられる。しかしこれらの方法はiPhoneの音楽再生に限って見ると弱点も多い。

 Bluetoothの音声伝送プロファイルであるA2DPは、伝送の際に非可逆圧縮が施されるため音質的に不利だ。彩速ナビ「タイプZ」は音質に配慮されたaptXとAACの両コーデックに対応しているのでAACファイルであれば信号の劣化のない伝送が可能であるが、Appleロスレスファイルについてはそのままでは伝送はできず、どうしても非可逆のAACで再圧縮されるため、せっかくのビットパーフェクトが保てなくなってしまう。

 Wi-Fi接続(Wi-Fi DMS)は現在彩速ナビ「タイプZ」だけが対応していて、原理的には信号の劣化のないワイヤレス伝送が可能だが、まだまだ機能、接続方法が限定的で、iPhoneで接続する場合は別途ワイヤレスルーターが必要となるため手軽さに欠けるのが欠点だ。しかしこの方式は将来的には注目される方向性で、今後の進化を期待している。

 HDMI接続はiPhoneの画面・音声をそのまま映し出すミラーリング表示が可能で、Youtubeやカメラ映像の動画再生には非常によいが別途Lightning-HDMI変換アダプタ(Apple Lightning Digital AVアダプタ)の購入が必要で、太いHDMIケーブルの取り回しも厄介で気軽に音楽を楽しむには手間と出費が大きい。音楽再生に限れば選曲などの操作性も決してよいとはいえない。

 このようなことを考えると、音楽再生においてはUSBケーブルで接続するのが現時点のベストだ。iPhoneはAVナビでは「iPod」と認識され、ナビのタッチパネルで自在にコントロールすることができる。その状態でBluetooth接続との併用ができるのでペアリングをしておけば音楽再生中でもハンズフリーによる通話が可能だ。彩速ナビの「タイプZ」と「タイプX」は現時点で業界唯一の「高音質ハンズフリー」(HFP 1.6)に対応しているので、電話の通話音声も格段に高音質である点も魅力だ。

iPhoneをUSB接続するとiPodのアイコンが点灯して「iPod」ソースとして認識される。接続はデジタルで原理的に音質劣化のない再生が可能だ
操作はナビのタッチパネルで行うが、モードを切り換えることでiPhone側から操作を行うこともできる。ナビ画面にはアルバムの写真も表示される

 さて、ナビが決定したところで、次回は実際にショップに出向いて取付作業、設定を行うプロセスを詳しくご紹介する。

三宅 健