CarテクノロジーWatch

ガソリン車トップの燃費性能を支える「ENE-CHARGE」

 スズキの「アルトエコ」は2013年2月20日のマイナーチェンジで「スズキグリーン テクノロジー」を採用。さらなる低燃費化を推し進め、JC08モード燃費33.0km/Lを達成した。この時点で日本国内のガソリン車ナンバー1であり、ハイブリッド車とも肩を並べる驚きのスペックである。

 スズキグリーン テクノロジーは、スズキが投入する、環境技術/低燃費化技術/軽量化技術などの新技術の総称だ。2012年秋にデビューした新型「ワゴンR」から採用がスタートし、2月のマイナーチェンジの「アルトエコ」、3月のフルモデルチェンジ&名称変更された「スペーシア」(旧名・パレット)と、次々と採用を拡大。アルトエコの33.0km/Lを筆頭に、ワゴンRの最高28.8km/L、スペーシアの29.0km/Lという、優れた低燃費性能実現に貢献している。

ワゴンR
アルトエコ
スペーシア

 「スズキグリーン テクノロジー」には、リチウムイオン電池を使って回生エネルギーを利用する「ENE-CHARGE」(エネチャージ)や、エンジン停止時間を拡大した「新アイドリングストップシステム」、アイドリングストップ中の室内温度上昇を抑制する蓄冷材を使うエアコンシステム「ECO-COOL」(エコクール)などが存在する。

 そうした中、今回は回生専用のリチウムイオン電池を搭載するという大胆な手法を取ったENE-CHARGEに注目したい。

 ちなみにアルトエコは今回のマイナーチェンジにより、JC08モード燃費が30.2km/Lから33.0km/Lに向上した。プラス2.8km/Lであり、従来比約10%の向上だ。その向上は、主に「スズキグリーン テクノロジー」「パワートレインの高効率化」「約20kgもの軽量化と走行抵抗低減」という3つのアプローチによって達成された。向上の寄与率は、スズキグリーン テクノロジーとパワートレインの高効率化が、それぞれ約40%で、残りの20%が軽量化&走行抵抗軽減。つまり、ENE-CHARGEは約40%となる燃費貢献の内訳の1つとなる。

リチウムイオン電池を回生エネルギー専用に用意する

四輪電動車設計部 河村和宏氏

 今回、ENE-CHARGEの取材には、アルトエコをはじめワゴンRやスペーシアなどにシステムを導入するにあたって、その最適化を担当した部門のエンジニアの河村和宏氏から話を聞くことができた。

 「ENE-CHARGEによって、一般的な市街地走行において使用する電力は、回生エネルギーで賄うというのが狙いです」と河村氏は説明する。

 ENE-CHARGEは、従来の鉛電池とは別途に、回生エネルギー専用のリチウムイオン電池を搭載するのが大きな特徴だ。車両が減速するときに、エンジンに備えられたオルタネーター(発電機)が発電。その電力を、鉛電池とリチウムイオン電池の両方に供給して充電を行う。

 2つの電池を使うのには理由がある。鉛電池は、急速な電力の出し入れが苦手なため、減速で生まれた電気エネルギーをすべて受け取ることができないのだ。それに対して、リチウムイオン電池は、鉛電池よりも急速な充電が可能だ。つまりリチウムイオン電池を用意することで、これまで取りこぼしていた減速エネルギーを、より多く救い取ろう! という考えなのだ。

ENE-CHARGEのしくみ
ENE-CHARGEのリチウムイオン電池

 また、ENE-CHARGEに関していえば、なるべくコストを抑えようという姿勢も見える。そのため、鉛電池に対して高額なリチウムイオン電池は、なるべく小さなものを採用している。具体的には、ENE-CHARGEで使うのは東芝製のリチウムイオン電池で、容量は36Whしかない。ちなみにピュアEVである日産リーフは24kWh。単位にk(キロ)とあるように1000倍もある。文字通りにケタ違いであり、ENE-CHARGEの容量がいかに小さなものかが分かるだろう。

 「この36Whという数字は、走行中に使用する電力とコストなどをバランスさせて出したものです」と河村氏は説明する。また、36Whの容量をすべて使い切るのではなく、SOC(State of Charge:充電率)30~80%程度で使用するという。

 走行中に電力を使用するものといえば、ECUや電制スロットル、燃料ポンプ、CVTオイルポンプ、ストップランプ、オーディオなどだ。これらを回生エネルギーで賄う。ENE-CHARGEの場合、アイドリングストップを最長で2分間維持できるが、このときにリチウムイオン電池のSOCは10%程度減少に留まるという。走行中に使用する電力を回生エネルギーで賄うことに主眼をおいた容量になっていると見ていいだろう。

 減速エネルギーで回生されるエネルギーは、どれくらいかといえば、「時速60kmで減速したとき、1秒間に1%ずつ充電率が上がる程度」だという。つまり30%までに減っていても、時速60km程度で減速・回生すれば、約50秒で80%にまで戻る計算になるのだ。

車両に合わせたENE-CHARGEの最適化

 ワゴンRに始まり、アルトエコ、スペーシアというようにENE-CHARGEの採用は拡大してきた。そのとき「システムのハードウェアは、ほとんど流用できたが、ソフト的な最適化が必要であった」と河村氏は言う。

 減速エネルギーで発電を行うときに重要になるのが、車両の重量だ。780kgのワゴンR、710kgのアルトエコ、840kgのスペーシアでは、同じスピードで減速しても、生まれてくる電力に違いが生じてしまう。もちろん重量が多いほど、発電量は多い。しかも、減速エネルギーによる発電は、「回生ブレーキ」と呼ばれることがあるように、発電時にブレーキ方向に力が生じる。そして、生じる電力の変化によって、ブレーキ力も変化してしまうのだ。

 また、ENE-CHARGEは方針として、「回生していることを、できるだけ感じさせない」というものがあるという。回生を積極的にブレーキとして活用するのではなく、誰もが違和感のないようなフィールを狙っている。

 これは興味深い方針だ。ドライバーが回生ブレーキの効き目を6段階から選ぶことのできる三菱自動車「アウトランダーPHEV」や、シフトレバーに回生ブレーキを強くする「B」モードを用意するトヨタ「プリウス」などは、逆に、積極的に回生ブレーキを利用しようというスタンスだ。

 それに対して、ENE-CHARGEは、ドライバーに特別な操作を求めないという考えのようである。強い先進性を売りにするアウトランダーPHEVやプリウスと異なり、軽自動車に展開するENE-CHARGEでは、ユーザーが求めるものも違っているという判断があるのだろう。先進技術でありながらも、あまりマニアックにならず、誰もが親しめるように工夫しているのもENE-CHARGEの特徴なのだろう。

 同じハードウェアを使いながらも、多車種に展開する中で、ENE-CHARGEは、重量によって異なる発電力を揃え、さらに回生に生じるブレーキ力の変化も目立たせないような制御の最適化が行われていた。発電は、オルタネーターやシステムを流れる電流や電圧をコントロールで調整される。また、そうしたソフトウェアのブラッシュアップによって、ENE-CHARGEは進化し続けているという。

 ワゴンRから始まったENE-CHARGE採用拡大の動きは、今後も続くことだろう。その技術の進化に注目したい。

(鈴木ケンイチ)