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ハイブリッドでもスバルらしく
(2013/5/8 00:00)
3月29日、ニューヨーク国際自動車ショーにて、スバル(富士重工業)はハイブリッド・システムを搭載する「XV クロストレック ハイブリッド」を発表した。トヨタとアライアンス関係にあるスバルであるが、ハイブリッド・システムはスバル独自のものが開発されていたのだ。
そして4月18日、同社は日本国内メディア向けに国内仕様の「XV ハイブリッド」(プロトタイプ)の公開とシステムの説明会を開催。そこで取材したスバル・オリジナルのハイブリッドの仕組みをリポートしよう。
変更を最小限にしてハイブリッドシステムを実現
説明役をかっていただいたのはスバル技術本部 HEV研究実験部HEV研究実験第二課の行木稔(ゆうき・みのる)氏であった。
スバルのハイブリッド・システムで特徴的なのは、燃費はもちろん優先しているが、2WD化せずに、フルタイム4WDにこだわったところにある。燃費向上も大切だが、あくまでも走りのよさを優先させようというスバルらしい姿勢が見て取れる。
そのため、モーターはエンジンとトランスミッション(CVT)の間ではなく、進行方向で言うとトランスミッションの後ろ側に設置されている。その場所は会場に展示されたエンジン&トランスミッション(写真1)からも分かる。
モーターを備えたトランスミッション部は、4つのパートから構成されており、前からトルクコンバーター/クラッチ、バリエータ(CVTのプーリー部)、モーター、トランスファーとなる。オレンジ色のコードのある3番目のセクションの上部がモーターだ。
なぜ、ここにモーターを設置したのか? その理由はエンジンの位置を変更したくなかったからだという。エンジンとトランスミッションの間にモーターを設置することでエンジン位置が前進すると、車軸に対してオーバーハング部の重量が増大してしまう。つまり、運動性能に悪影響が生まれる。それだけは避けたかったという。
前輪の位置を自由にできるFR駆動ではなく、エンジンが縦置きで、そのうえトランスミッション前部に前輪車軸が存在するフルタイム4WDシステムを使うスバルならではの苦労といえるだろう。
また、トランスミッションの後ろにモーターを置きながらもシステムの全長拡大を最小限に抑えることで、プラットフォーム側の改良を最小に抑えるようにしたという。これによってハイブリッド化にかかるコストを抑えているのだ。
ハイブリッドでもスバルらしく
続いて、スバルのハイブリッド・システムの構成内容を詳しく見ていきたい。最初に、簡単なシステムの構成図を見てほしい(図1)。エンジンとトランスミッションの間に最初のクラッチ(その1)があり、トランスミッションの出力側に2番目のクラッチ(その2)がある。
モーターはトランスミッション(CVT)のプライマリープーリーと直結される1モーター2クラッチのシステムだ。CVTを挟んで両側にエンジンとモーターがあるため、システム合計出力は、単純にエンジン(110kW)とモーター(10kW)のパワーを足したものとなる。
クラッチを2つ備えることで、エンジンとモーターという2つの動力源を自由自在に利用することができるのが、このシステムの強みだ。具体的に言えば、エンジンの力のみで走行するときは、モーターから余分なトルクがかからないように制御し、モーターの存在が抵抗(=燃費ロス)にならないようにする。モーターのアシストが必要なら、バッテリーから電気をモーターに流して、モーターのトルクを駆動力にプラスする。電気の流れを逆にすれば、そのままエンジンの力で発電・充電ができる。
減速エネルギーを回生するときは、エンジンとトランスミッションの間のクラッチ(その1)を切り離す。モーターだけが回転して発電/充電を行うのだ。また、その状態でモーターに電気を流してモーター走行とすれば、EV走行となる。停車中にクラッチ(その2)を切り離せば、エンジンの力でモーターを回して発電することができるのだ。
ハイブリッド・システムのもうひとつの重要パーツである電池は、ニッケル水素電池を採用した。ホンダのハイブリッドカーと同様の丸形タイプで、XV ハイブリッドでは0.6kWh弱をリアのラゲッジルーム床下のスペースに設置。ベースモデルではスペアタイヤが置かれるところに、インバーター類と共にきれいに収められている。そのためハイブリッド化されていても、ラゲッジスペースは、ベースモデルと比べても十分なスペースを確保できた。ニッケル水素電池を採用したのは流通量や実績に基づく信頼性に加え、性能面でも目標を充分達成できるレベルにあったのが理由だという。
2リッターの水平対向エンジンも、ハイブリッド化に合わせて大きな変更が施された。ピストンヘッド形状変更による圧縮比変更をはじめ、ピストンリング変更、ポート隔壁形状変更、クールドEGR採用、吸気レイアウト変更、インテグレーテッドスタータージェネレーター(ISG)の採用などだ。
インテグレーテッドスタータージェネレーターは、スターターとジェネレーターの役割をひとつでこなすもの。スターター時と発電時の、どちらでも適切なベルトのテンションを保つために振り子式ベルトテンショナーも採用されている。
こうしたスバル独自のハイブリッド・システムにより、XV ハイブリッドは、ベースモデルから約30%の燃費向上となる20km/Lを実現。EV走行は時速40km程度まで可能であり、満充電状態で約1.6kmを走るという。アイドリング・ストップからの復帰/始動にかかる時間は約0.32~0.38秒。
また、EyeSightとハイブリッド・システムの連携も開発したという。EyeSightによってハイブリッド・システムが走行状況を把握し、より効率的なエネルギー・マネジメントを行うという。これによる燃費向上率は10%を想定する。
スバルのハイブリッド・システムの特徴は、トランスミッション部にシステムをコンパクトに納めたこと、エンジン/モーターの動力を自由自在に使えること、EV走行も4WDであることにある。また、ベースモデル同様に低重心でハイブリッドを実現するのも特徴だ。
つまりは、ハイブリッドであっても、低重心&4WDという、いかにもスバルらしさが大切にされたシステムであったのだ。