インプレッション

スバル「XV ハイブリッド プロトタイプ」

あくまでスバルらしいハイブリッドを目指し、XVを選択

 スバル(富士重工業)初のハイブリッド車であり、ガソリンエンジン搭載車を含むXVシリーズのトップグレードという位置づけとなる「XV ハイブリッド」。その正式な発売に先立ちプロトタイプに試乗することができた。

 試乗会の1カ月前に行われたスバルのハイブリッドシステムの技術説明会に参加し、開発陣からいろいろな話を聞いた際にも、燃費だけでなく走りにも注力したことを伝えられ、XVハイブリッドが一体どのようなクルマに仕上がっているのか、とても興味深く思っていたところだ。

 ご存知のとおり、スバルはトヨタ自動車と2005年より提携関係にあるが、XV ハイブリッドに搭載されたシステムは「THS(トヨタ ハイブリッド システム)」とは基本的に関連性のない、まったく独自のものだ。あくまでエンジンが主役で、モーターがそれを補う形で働くマイルドハイブリッドであり、むしろ本田技研工業の「IMA(インテリジェント・モーター・アシスト)」に近い。

 そもそもスバルは、ハイブリッドを初めて手がけるにあたって、なぜ普通のインプレッサではなくあえてXVを選んだのかが気になるところ。それを開発関係者に聞いたところ、普通のインプレッサでハイブリッドカーを作ってもインパクトが薄いなどの理由で埋没してしまうおそがあるから。そこでキャラクターの確立したクロスオーバーSUVであるXVでハイブリッドを作ることに決めたという。

 また、スバルがこれまでハイブリッドの研究開発を進めてきた中で、最終的に重視したのはあくまで「スバルらしいハイブリッド」だった。そのスバルらしいとは言うまでもなく“走り”である。どうせ作るなら「WRX」のように楽しいクルマを目指そうと、走りを意識して開発したという。

 前置きが長くなったが、試乗したのは富士スピードウェイのショートサーキットと、レーシングコースの周囲に設置された外周路と呼ばれる一般道に条件の近い構内のコースだ。

ボディーサイズは4450×1780×1550mm(全長×全幅×全高)とガソリンのXVと同じスペック。インテリアでは専用開発のブルーメーターを装備するほか、MFD(マルチファンクションディスプレイ)にエネルギーモニター画面を追加した

ガソリンのXVよりも乗り心地がよく、乗りやすい

タイヤはヨコハマタイヤのブルーアース(225/55 R17)を装着

 XVシリーズは、「アーバンアドベンチャー」をコンセプトに、ハッチバックのインプレッサをベースに地上高を高め、外径の大きなタイヤを履かせ、SUVテイストのデコレーションを施すなどした、シティユーザーに向けたモデルである。

 重心高が高くなることに対する操縦安定性の確保のため、「インプレッサ」よりもサスペンションが強化されている。そのため乗り心地がやや硬く感じられる面もあるが、サイドウォールが厚く、エアボリュームのたっぷりあるタイヤ(ヨコハマタイヤ ブルーアース 225/55 R17)が、それを緩和しているような感覚の乗り味となっていた。

 これに対してXV ハイブリッドは、ガソリンのXVよりもさらに120kgほど重く、そのためバネレートやダンパー減衰力など、さらにサスペンションが強化されている。ところが実際にドライブしてみるとカドの取れた、しっとりとした印象の乗り味になっていた。

 会場にはガソリンのXVも用意されていて乗り比べることができた。ガソリンのXVに比べるとハイブリッドは、やはり第一印象として全体的に重さを感じるのは否めないが、その重さがよい方向にも作用しているとご理解いただければと思う。

 その重量増を補ってあまりある動力性能をXV ハイブリッドは備えている。モーターのスペックは10kW/65Nmと、けっして強力ではないものの、回転しはじめて即座に最大トルクを発生する特性により、ゼロスタートはもちろん、60km/h程度までの加速を繰り返すような状況ではほどよくアシストしてくれるので、乗せたい速度に到達するまでに要する時間も短く、いたって走りやすい。

パワートレーンでは水平対向4気筒 2.0リッターのFB20型ガソリンエンジンの効率を高め、これに駆動用モーターを内蔵するハイブリッド・リニアトロニックを組み合わせた。モーターのスペックは10kW/65Nm。JC08モード燃費は20km/Lを実現した
SIドライブは「I」「S」の2モードから選択でき、さらにモーターのみで走行できるEVモードを設定する

 SIドライブは「I」「S」の2モードが選べ、アクセル全開で走ると大差なくなってしまうのだが、ハーフスロットルでの加速感はけっこう違って、「S」モードは明快に加速重視、「I」モードは燃費と加速を上手くバンラスさせた印象の制御となる。ただしモーターの強みで、どちらを選んでも乗りやすいことには違いない。

 モーターのみで走行できるEVモードについては、トヨタのように専用スイッチがあるわけではなく、DレンジでSIドライブのIモードを選択するなど条件がそろった際に自動的に移行する。バック走行でもEVモードが可能となる。車速は約40km/h、走行可能距離は約1.6kmが上限で、アクセル開度としては、20%程度までのごくゆるいときに限られる。ただしマニュアルシフトを使うとキャンセルされる。

 実際に試してみると、現実的な交通の流れの中でEVモードを維持するのは困難ではないかという印象だったが、深夜や早朝の駐車場での出し入れなど、EV走行できたほうがありがたいシチェーションでは、ほぼ確実に期待に応えてくれるはずだ。また、アイドリングストップでエンジンが止まったり再始動したりする際の音や振動も、ガソリンのXVよりも気にならなくなっているように感じられた。

 一方、ブレーキフィールがよいのは印象的だった。協調回生を行っているとのことだが、協調回生するとブレーキフィールが安定しないものが少なくない中で、XV ハイブリッドのそれは、この日乗った限りではなかなか上手く仕上がっていて、ほとんど違和感がなかった。

見えないところが大きく異なる

ステアリングのギア比をクイック化しつつ、より前後均等に近づいた重量配分などがちょうど上手くマッチングしている印象

 シャシーについては、ハイブリッド化にともなう重量物の搭載に見合う変更とともに、XVのトップグレードに相応しいドライバビリティを追求したことにより、ガソリンのXVに対して非常に多くの個所に手が入れられている。外見の相違点はそれほど多くないが、実は見えないところが大きく異なるのだ。

 なかでも、ステアリングのギア比を16:1から14:1へとクイックにしたというのは、ずいぶんチャレンジングだなと思っていたのだが、ドライブしたところ上手くまとまっているように思えた。

 切り始めからスッと向きを変えるのだが、過度にクイックすぎる印象もなく、ちょうどよい。むしろガソリン車よりも走りに心地よい一体感がある。フロントの重量が増すと操舵に対する反応は鈍りがちとなるが、クイックになったステアリングや、より前後均等に近づいた重量配分などが、ちょうど上手くマッチングしているようだ。

 また、リアアクスル上に重たい駆動用バッテリーなどを搭載するため、素早くステアリングを切ると、リアの内輪が浮き上がりそうな気配を感じるが、リアスタイビライザーの強化をはじめサスペンションが巧みにセットアップされているおかげで、危なっかしい姿勢に転じてしまうこともない。

 ただ、ペースを上げてコーナリングを試みると、意外と簡単にスキール音が鳴り始める。OEタイヤ銘柄がハイグリップタイヤではないこともあるが、一気に高い横Gが発生して、重心高のやや高い車体がロールオーバーしないよう、早めに外へと逃げるようにセッティングされているようだ。

 それでも適切な舵角を維持し、スピードの調整さえ確実に心がけていれば、VDCが早めに介入して破綻することなく行きたいラインに復帰させてくれるので、安心感は高い。

 全体としては、これからXV ハイブリッドが出ようかというタイミングで述べるのも恐縮だが、XV ハイブリッドで手を入れた個所を、ガソリンのXVにも流用したほうが、XVシリーズ全体のドライバビリティの底上げにつながって好ましいのではないかと思えてしまった……。

 XVシリーズの頂点となるXV ハイブリッドが、ガソリンのXVに対してよりスポーティで上質な走りを身に着けていることは確認できた。あとは実走燃費がどのくらいなのかが非常に気になるところ。とくに、今回は試せながったが、EyeSight(アイサイト)とハイブリッドの協調によって燃費を向上させるという新設定の「ECOクルーズコントロール」がどのような実力を発揮するのかが気になるところだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。