特別企画
【特別企画】ホンダの超小型モビリティ「MC-β」を公道で体験してきた(前編)
熊本での実証実験には“くまモン”も登場。MC-βの走行感覚とは
(2014/4/28 00:00)
“新カテゴリーの創造”に向け自治体と共同で実証実験
「超小型モビリティが公道を走る!」。2013年初頭、こうした文字がWebサイト上や新聞紙面を飾っていたのを覚えているだろうか。必要最小限のエネルギー量で、人間を1人、または2人乗せて移動できる乗り物を「パーソナルモビリティ」と呼んでいるが、日本では国土交通省のもと、この新種の乗り物を「超小型モビリティ」として定義付けした。
この動きを受け、現在、実用化に向けた実証実験が日本各地で進められている。乗り物という特性上、「パーソナルモビリティ」の製造は自動車メーカーが中心になって担当しているが、実際の使用環境で運用するデータを収集するためには国や都道府県などの協力が必要不可欠だ。
現代でクルマを造る場合、企画立案からプロトタイプの製造、各種テスト、そして発表、発売に至るまで公道を走る回数は極めて限られるが、「パーソナルモビリティ」という、いわば“新カテゴリーの創造”となる一大事業では、市街地を走る実証実験が大切な開発工程となる。
「パーソナルモビリティ」として各都市で実証実験を行っている主な自動車メーカーと車両は、トヨタ自動車の「i-ROAD」、トヨタ車体のコムス「T-COM」「P-COM」、日産自動車の「日産ニューモビリティコンセプト」(ルノー Twizyの日産版)、本田技研工業の「MC-β」など。そのうち今回は、ホンダが熊本県と共同で行っている実証実験を取材した。
2013年6月4日、熊本県とホンダは「次世代小型電動パーソナルモビリティによる社会実験に関する包括協定」を締結した。この包括協定はホンダのMC-βを活用して2016年3月31日までの間、熊本県内の各地域において実証実験を行うもの。これを受けて2014年1月末に熊本県で開催された試乗会では、熊本県の職員や関係者などが普段走り慣れた県内の公道をMC-βでドライブする被験者となった。車両にはデータロガーやドライブレコーダーが搭載されていて、収集されたデータは解析されて今後の開発に活かされる。
実証実験に使われているMC-βは、2013年に開催された「東京モーターショー」に出展されていたものと同じ車両だ。定格6.0kW/最大11.0kWのモーターで後輪を駆動し、床下にはリチウムイオンバッテリーが搭載されている。このバッテリー容量に正式なアナウンスはないが、MC-βの車両重量(約570kg)と航続距離(80km以上)、さらには同じタイプのリチウムイオンバッテリー(東芝製SCiB)を搭載する「フィットEV」のスペック(1470kg/225km/20.0kWh)から判断するに、MC-βのバッテリー容量は7.0kWh程度と予想する。
ホンダにおけるパーソナルモビリティの歴史は古く、アイデア自体は30年以上前からあったようだ。しかし、こうして実車を通した開発ではまだ日が浅く、初代モデルが公になったのは2011年11月だった。その後、2012年11月に初代モデルを進化させた「マイクロコミュータープロトタイプ」がデビューし、そこでの知見を活かして開発されたのが今回のMC-βとなる。
第3世代のスリーサイズは2495×1280×1545mm(全長×全幅×全高)と、軽自動車枠と比べて全長で約73%、全幅で約86%となりふた回りほど小さい。しかし、車内は思いのほか広く、標準的な体格なら大人でも十分くつろげるほど。車両の全幅が狭いため運転席シートの横幅に余裕はないが、それでもヘッドレスト一体型のバックレストが肩までしっかり覆ってくれるため、走行中も身体はしっかりと安定する。ヘッドレストレイントが設けられた後席は、前方を向いて座った状態で若干左側(右ハンドル車の助手席側)にオフセットされているのが特徴だ。これは後席にラゲッジスペースを確保するために採られた策だが、同時にドライバーが左側に振り返ったときにタンデマー(後席に座っている乗員)との会話明瞭度を高める効果や、左側ドアを使った後席への乗降性を高める結果となった。
ラゲッジスペースは写真でも紹介しているとおり狭いが、ちょっとしたハンドバッグ程度なら積載できる。しかし、ただ置いただけでは走行中の安定性に欠けるので、バイクなどのシートに荷物を固定するネット状のゴム製荷物バンドが欲しくなる。その際は、市販乗用車に数多く採用されている折り畳み式のコンビニフックのようなものがあればさらに便利だろう。
大型バイクにも近い独自の走行感覚
運転席はステアリングが車体中央にあるため、ちょっと独特の雰囲気だ。市販乗用車に採用されているものと同型の丸いステアリングが付いているが、フロントウインドーから映る世界は4輪車というより大型バイクに近いイメージ。筆者は普段からフルカウルの大型バイクに乗っており、後部両サイドに幅380mmのパニアケースを装着していることから、全幅の車両感覚をつかむまでそれほど時間を必要としなかった。ただ、通常のクルマと違って前後左右のタイヤがボディーパネルから張り出したスタイルなので、縁石に寄せるときなどは慣れが必要だった。
ドライビングポジションは独特だが、メカニズムそのものは一般的なEVと変わらないため運転操作は簡単だ。キーシリンダーを右に回してシステムを起動し、メーター左下に設けられたDレンジボタン(乗用車のサンルーフスイッチを流用)を押したら、あとはアクセルを踏み込むだけで走り出す。日産ニューモビリティコンセプトとは違ってクリープ走行ができるため、微速でのアクセル操作も容易だ。ただ、アクセルペダルのリバーススプリングが若干弱いためペダルの動きが軽く、発進時には必要以上にアクセルを踏み込んでしまいがちで、巡航時はアクセルを一定開度で長時間維持するのに苦労する。このあたりは開発陣も認識しているということなので、実証実験車としての熟成に期待したい。
MC-βを使用した実証実験は熊本県だけでなく、埼玉県さいたま市と沖縄県宮古島市でも行われている。次回は、宮古島市におけるMC-βの実証実験について報告する。