特別企画

【特別企画】橋本洋平がアルパインスターズの魅力に迫る

サーキットビギナーに“レーシングギアの安心感”を提供するエントリーモデルは要チェック!

アルパインスターズのレーシングギア一式を愛用している筆者。2013年の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」にもこのセットで参戦した

 今をさかのぼること十数年前、僕はレースの世界へ飛び込んでみたいと考えていた。何も分からず愛車でサーキット走行会へと参加。それだけでは飽き足らず、とあるジュニアフォーミュラチームの門を叩いたのだった。

 憧れのレーシングカーに乗れるとウキウキだったその当時。だが、目の前に立ちはだかった最初の関門は、レーシングスーツ、グローブ、シューズなどのいわゆる“レーシングギア”を自前で揃えること。「1回目の走行までに用意しとけよ!」とチーム監督から言われたのだ。

 そこでレーシングギアを扱うショップに足を運んでみると、それぞれの価格に度胆を抜かれた。全て買えは軽く10万円オーバーなのだ。見た目は一緒ながら、半額以下で買えるカート用のもので何とかならないかと店員に食ってかかった。それまで普通の長袖に長ズボン、2輪用ヘルメットとそれっぽいグローブ、靴はいつも履いていたコンバースというのが“これぞサーキットのユニフォーム”だった若造には、カッコつけだけに大枚をはたくことが理解不能だったのだ。

 だが、もちろん現在は理解しているが、レーシングスーツはなにもカッコだけのために存在するのではない。まず最大の狙いは、クルマから出火したときに身体を守ってくれることだ。万が一にも全身が火に包まれてしまったとしても燃えにくく、さらに長時間火にさらされてスーツが燃えたとしても、焼けた繊維が皮膚に貼りつかないように設計されている。これによって火傷の治りが違ってくるという。そして車内で気を失うようなクラッシュがあったとき、車外から両肩に備えられた「肩章」によってクルマから引きずり出してもらえるように造られている。カート用ではこうはいかないのだ。

 そんなことをショップ店員から諭されたが、けれどもしかしである。金がない“クルマ馬鹿”にしてみれば、そんないつ起きるか分からないアクシデントに備えて金を使っている余裕はない。必要最小限、とにかく安いものを用意してくれと頼み、上から下まで一式揃えた。

 はじめはそれで大満足だった。ドライバーっぽい自らの姿にも、そしてイザというときでも対策されているという安心感にもである。けれども、ときが経つにつれて自分が購入した安物の性能が、周りが使っているものに比べて劣っていることに気づく。必要最小限で揃えた品々はとにかく暑く、そして動きにくいのだ。

 先輩ドライバーたちが汗ひとつかかずクールに走り終えているのに対し、コチラといえば汗だくだ。走行後に車両のメンテを行う気力さえ残っていない現状がそこにはあった。聞けば一流品は薄く造られており、通気性に優れており、さらに動きやすいときている。まるで羽毛布団かと思えるような僕の安物とはまったく違うのだ。

冬場は冷え過ぎて寒いほどの通気性を誇る。最初の“羽毛布団”とはまったく別物だ

 それから数年後、今度は通気性や動きやすさを考えて少しだけ高いレーシングスーツに切り替えた。そのころはサーキットでツーリングカーにも乗るようになっていたから、できるだけ涼しいものを手にする必要があったのだ。市販車をベースに造られたツーリングカーの場合、車内にはほとんどといっていいほど外気が入ってこない。おまけにエンジンの熱が上がり過ぎればヒーターをつけて対処する場合があるという世界である。羽毛布団レーシングスーツではどうにも対応できなかったのだ。

 こうして環境的に恵まれた状況に身を置くようになると、僕の刻むラップタイムも安定するようになった。それまではレース後半でタイムが落ちていたにも関わらずである。つまり、クルマがタレるよりも先にドライバーが根を上げてしまうような状況が払拭された瞬間だった。

 レーシングギア選びで結果が違ってくることを知った僕は、今から数年前にアルパインスターズのレーシングスーツに辿り着いた。当時の最上級モデルで、F1ドライバーも使っているというグレードの製品を思い切って購入してみたのだ。そして実際に着てみると通気性は抜群! 冬場には走り終えてクルマを降りると、逆に寒くて仕方がないほどである。また、2輪用のツナギも古くから手がけているだけあって、動きやすさも優れている。軽く仕上がっているところも特筆すべきポイントだ。全ての領域において「こんなラクな世界があったのか」と感心するばかりだった。

エントリーモデルから安全性を確保するアルパインスターズ

 そんなアルパインスターズの2014年モデルが発表となった。新たなるラインアップの特徴は、エントリーモデルの拡充と、数多くの色合い豊かなモデルを取り揃えたところだ。さらに詳しい情報を手に入れるため、今年からアルパインスターズ製品の取り扱いをスタートさせたSPKに行って説明を受けてきた。

アルパインスターズ製品のこだわりや2014年モデルの変更点などを再確認。説明してくれているのはSPK カスタマイズドパーツ部の舘岡氏
左側の青いスーツが新登場したGP START SUITで、右側はトップモデルのGP TECH SUIT。重量はSTARTが400g/m2、TECHが285g/m2と3割ほどTECHのほうが軽い

 まず、レーシングスーツのエントリーモデルにあたる「GP START SUIT(6万2895円)」は、なじみやすい価格ながらもレースに出場できるようFIA規格をしっかりとクリアした公認モデル。つまり、エントリーモデルといえども耐熱性に関しては上級モデルと同じ基準を満たしているというわけだ。それでいて、実際に製品を見るとかつて僕が買った安物とは異なり、羽毛布団のような状態にはなっていない。手ごろな価格ながら軽量で、通気性も十分に確保されているところに感心した。また、最新モデルらしくドライバーの首を保護する「HANS(Head and Neck Support)」に対応する縦型の肩章を装備。ドライバーの救出性もしっかりと確保している。エントリーモデルでもここまで充実しているのかと驚くばかりである。動きやすさに関してはサイズにゆとりを持たせたした造り。見た目には若干ダボッとしたところもあるが、ドライビングする上では全く問題がない。

エントリーモデルのGP START SUITでも「FIA 8856-2000公認」を取得してレーシングスーツのキモとなる安全性をしっかり確保
2014年モデルから胸元にアルパインスターズのロゴが入るようになった。エントリーモデルを手に入れるユーザーはスポンサーのタグなどを貼らないケースが多く、見た目が寂しくならないようにとの配慮だ
背面などの生地にゆとりを持たせ、上体を動かす妨げにならないよう設計されている

 続いてはワンランク上に位置する「GP RACE SUIT(10万3950円)」。これは耐熱性に優れるアラミド繊維を3レイヤー構造(GP START SUITは2レイヤー)にすることで、着用時の通気性をより高めることに成功している。また、腕部をフローティング構造にすることで可動性を高めていたり、腰まわりには伸縮性を持たせた「腰背パネル」を採用し、ドライバーズシートに腰かけたときに突っ張らないよう設計されている。結果として、STARTと比べて立ち姿がスッキリしている。グレードが上がると通気性や可動性といった実用面だけでなく、見た目もよくなってくることが理解できる。

 そして最後はトップモデルとなる「GP TECH SUIT(19万8450円)」。こちらは超軽量な「3レイヤーNOMEX構造」を採用することで、とにかく薄く、そして軽いところが特徴的だ。実は僕が使っているスーツもこの製品の前身となるモデルで、その効果は前述したとおり。かなりの威力を発揮してくれている。ただ、最新型モデルはそれだけにとどまらない。腕や腰まわりの伸縮性はGP RACE SUIT同様だが、それが膝まわりにまで展開されていたのだ。試着させていただくと、動きやすさはかつてのモデルを大幅に上まわっていることが明らかだった。

GP TECH SUITなどは伸縮性のある素材を使っているので、身体のフォルムに合わせたスマートなルックスとなっている
インナー素材は価格差がはっきり実感できる部分。高い製品ほど通気性がよく、さらに手触りもソフトで高級感がある
背中や腰などに使われている「アナトミカルストレッチパネル」が伸び縮みして上下一体構造のレーシングスーツでも自在に身体を動かせる
肩まわりはフルフローティング構造
GP TECH SUITでは内股から膝にかけてもアナトミカルストレッチパネルを採用している

 また、2014年モデルではレーシンググローブでもラインアップの変更が行われている。こちらでもエントリーモデルを担当する「TECH 1 START GLOVE(1万2390円)」が新登場。さらに1050円差で立体裁断となる「TECH 1-RACE GLOVE(1万3440円)」、2014年モデルに一新されて袖口を斜めカットデザインにした「TECH 1-Z GLOVE(1万8690円)」、トップモデルの「TECH 1-ZX GLOVE(2万2890円)」の4種類になっている。

 一番高いモデルでも2万3000円弱と、さすがにレーシングスーツと比べれば手ごろ感もあるが、これぐらいのサイズの製品でエントリーモデルと倍近く価格差があるというのはなかなかに高級品とも言える。グローブでもスーツ同様にきちんとFIA規格を満たして安全性を確保しているのだが、安いSTARTは素材こそグリップ性の高いスウェードインサートと難燃性を確保するNOMEXアウターの組み合わせを使っているものの、構造的には一般的な手袋とそれほど大きな違いはない。これが前出のようにRACEになると立体裁断で構成され、Zでは生地を裏表だけでなくサイドも分割して縫い合わせることでより手になじむ構造を採用。ZXになると運転中にボタン操作などが必要になる親指と人差指以外の指がフィーリングを重視した手間のかかる外縫い構造になり、手のひらに施される滑り止めのシリコンパッドがステアリングを握った状態で最適な状態になるよう複雑な形状にデザインされる。単純にステアリングをしっかり握れるというだけではなく、価格差も納得という凝った技術によって作り上げられているのだ。

左から、TECH 1-ZX GLOVE、TECH 1-Z GLOVE、TECH 1 START GLOVE。それぞれ手のひらや指先に施される滑り止めなども大きく違いがあるが、スーツと同じように全て「FIA 8856-2000公認」を取得
ステアリングを握って指先が曲がった状態を基本にした立体裁断を採用
同じように3つの生地で構成されているが、トップモデルのZX(写真右)は中指と薬指に外縫い構造を使って快適な装着感を追求
滑り止めのシリコンパッドはオーバルタイプとなり、ステアリングを握ったときに最適化される形状で配置。人差指と中指はパドルシフトなどを操作するときに引っかかりすぎないよう、敢えてシリコンパッドを使っていない

 アルパインスターズでは、スーツやグローブ以外にもレーシングシューズ、難燃性のインナーなどを販売しているが、そのどれもがスーツ同様、動きやすさやグリップ感などをきちんと考えて設計されているところがポイントだ。また、グレードが上になるほど快適性が増していくというのが基本的な流れだが、どんなグレードを選んでも、それぞれのレーシングスーツに合うグローブやシューズのカラーバリエーションが取り揃えてあるところはさすがだ。昔は上から下まで「赤」「青」「白」ぐらいしかカラーがなかったものだが、アルパインスターズの製品群は選んで組み合わせる楽しみがあるほどに充実している。イイ時代になったものだとつくづく思う。

見た目にもカラフルなアルパインスターズのレーシングシューズ。左から「TECH 1-Z(5万190円)」「TECH 1-T(4万1790円)」「SP(3万1290円)」。2014年モデルで新色が追加されている
左のTECH 1-Tはつま先の両サイドに頑丈なペダルガードを設置しているのが、右のSPとの大きな差
ベルクロは装着時のホールド性だけでなく、結んだ靴紐がペダルなどに絡まないようカバーする役目も担っている
筆者がアルパインスターズのシューズでとくに気に入っているのが、薄さと剛性を兼ね備えたソール部分。しっかりと思い通りにペダル操作できる逸品だ

 このように、一見するとどれも同じに見えてしまうレーシングギアの世界。だが、1つ1つのグレードにきちんとした意味があり、上級モデルになればなるほどドライバーが快適になることは明らかだ。

 だが、「安全性に関してはどれも一緒」というところが良心的だ。かつての僕のように「カッコだけに大枚をはたけるか」と考える人もいるだろう。ならば、エントリーモデルでもいいからきちんと規格をクリアしたレーシングスーツを用意してサーキット走行に挑んでほしい。

 実は昨年、僕は取材中に乗っていたクルマが突然炎上して“あわや火だるま”というようなアクシデントに直面した。サーキットまで普通に走って持ち込んだクルマだから大丈夫だと思っていたのが大間違いだったのだ。限界走行になるとクルマは何が起きるか分からない。そのときは、結果的に自ら消火器を持って消火作業を行ったのだが、安心して冷静に火に立ち向かうことができたのも、アルパインスターズのレーシングギアをきちんと装備していたからこそである。

 サーキットビギナーだから着るものは長袖長ズボンで十分という認識は大間違い。ビギナーだからこそクラッシュの危険性は高いし、それが要因となって炎上する可能性だって高いのだ。休日にサーキット走行を楽しみ、明日からまた会社に向かう必要があるという人なら、なおさらレーシングギアを取り揃えることをオススメしたい。

製品解説をしてもらったSPKから、アルパインスターズ製品取り扱い開始を記念して「アルパインスターズ ヒストリーブック」を提供してもらった。詳しい応募方法などは別記事のプレゼントコーナーで(http://car.watch.impress.co.jp/docs/present/20140217_635253.html

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。