トピック

Modulo X初となるSUV「ヴェゼル Modulo X」、高速道路とワインディングで“走る歓び”を体感した

見た目だけでなく実効のある空力を徹底的に追及

試乗は都内から一般道と高速道路を乗り継いで箱根エリアへ。一般的な生活圏と、ちょっとした小旅行で走るような道路を選んで行なった

 ホンダ車のチューニングコンプリートモデルである「Modulo X」に新たな仲間が加わった。それはこのブランド初となるSUV「ヴェゼル」をベースに、空力と足回りを中心にチューニングしている。SUVブームをけん引してきたといっていいヴェゼルが、どのように生まれ変わるのかは興味深い。そして「N-BOX」から始まり「N-ONE」「ステップワゴン」「フリード」「S660」に続く Modulo X第6弾として登場した「ヴェゼル Modulo X」は、これまでのコンプリートモデルとはどう違うテイストを生み出しているのかも気になるところだ。とはいえ、Modulo Xが掲げるコンセプトに変わりはない。「4輪で舵を切る感覚」と評されてきた“意のままに操れる操縦性”を筆頭に、所有感を満たす機能美を持ち、さらに視覚、触覚、乗り味にまで上質さを追求している。

見た目ではなく、実際に効果のある空力を徹底的に追求

橋本洋平:2003年に自動車雑誌の編集部から独立し、自動車からタイヤ単体まで、インプレッションの引き出しは広い。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収め、ドライビングレッスンのインストラクターも行なっている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

 実車を見るとエクステリアに関しては、これまでのModulo Xのテイストをしっかりと踏襲していることがうかがえる。ベースモデルに与えられていたメッキパーツが生み出すきらびやかな雰囲気は抑えられ、ブラックアウトされたフロントグリルが印象的。また、実効空力を狙う専用のエアロバンパーを前後に備えていることも特徴といっていいだろう。そのバンパー中央下部には、ナンバープレートと同じくらいの幅でフィンを付与し、車体下部中央に風の流れを1本作ることで、ロール軸を中心に設けることが可能となり、直進安定性や旋回時の安定性が高まっているとのこと。その形状は北海道鷹栖にあるテストコースなどハードなコンディションでテストが行なわれ、走っては削り、時には削り過ぎた部分を再び盛ったりと、試行錯誤を繰り返してたどり着いた結果である。風洞実験だけに頼ることなく、走り込んで人の感覚で仕上げた職人技が生み出したというその形状は、見ている段階から走りに対する期待が高まってくる。まさに機能美といっていいだろう。

価格は、ハイブリッド Modulo X(FF/2WD)が346万7200円、ハイブリッド Modulo X(4WD)が361万7900円、ガソリン車のツーリング Modulo X(FF/2WD)が352万8800円となっている。リアゲートにはこのクルマが「Modulo X」だと、ひと目で分かるエンブレムが付く
ボディカラーは上から順に「プラチナホワイト・パール」「クリスタルブラック・パール」「プレミアムクリスタルブルー・メタリック」「プレミアムクリスタルレッド・メタリック」の計4色のみ
フロントグリル、テールゲートスポイラー、ルーフレール、ドアミラー、ホイールアーチプロテクター、サイドシルガーニッシュをブラックアウトすることで、端正さと力強さが増している
ナンバープレートの真下にある小さな2本のフィンの間に入った空気が、そのまま真っ直ぐに車体の真ん中を抜けてリアへいくように、何度も微調整を行ない完成させたという。イラストの赤い部分がフィン
リアは中央部分に1つだけフィンが付与されている。これにより車体中央部に目には見えない空気のロール軸ができあがる

まさに職人によって鍛え上げられた乗り味

 一方、スタビリティもまた、イチから走り込んでセットし直しているModulo X。開発アドバイザーに土屋圭市氏を迎え、共に多くのステージや速度レンジを走り込んできた結果がそこにある。変更箇所はスプリング(車高は標準車と同じまま)、ショックアブソーバー、そしてホイールといったライトチューンながら、バネレートや減衰力、そしてホイールの剛性までもこだわり続けたという。以前「S660 Modulo X」でホイール剛性の違いを体感する機会があったが、そこでライントレース性がかなり変化することを学ばせていただいた。あれと同じことがこのヴェゼルにも行なわれたというから、かなり贅沢なSUVに仕上がっていることは間違いなさそうだ。

サイズや装着するタイヤ銘柄はもちろんのこと、剛性まで見直されているホイールは2WDが18インチ×7.5J、4WDが17インチ×7Jの設定となっている
サスペンションもハイブリッド2WD、ハイブリッド4WD、ツーリング2WDと、それぞれ異なるセッティングが施されている

 ここまででも十分と思えるチューニングメニューではあるが、今回のヴェゼル Modulo Xは、これまでの同シリーズにはなかったチューニングメニューを取り入れていることがポイントだ。それは専用開発のフロントシートである。ベース車とは異なる専用フレームを使い、プライムスムース×ラックススェードの表皮で覆われた専用セミバケットシートが奢られたのだ。リアシートについてはベースモデルとは形状こそ変化はないが、ウルトラスエード×合成皮革の表皮に変更して、同乗者も滑りにくくするための工夫を凝らしている。

肩と脇の部分がほどよく膨らみを持ち、横方向の荷重に対して体をしっかりとサポートしてくれる。また、サポートしてくれることで疲れにくくなるのもありがたい
ヴェゼル Modulo Xの内装は、走りに集中しやすいように、落ち着きのあるブラックに統一されている。また、専用フロアカーペットマットにはModulo Xのエンブレムが付く

 結果としてヴェゼル Modulo Xは、乗り込んだ瞬間からベースモデルとはひと味違っていることが伝わってくる。包み込まれるようなホールド性と体の滑りをまったくといっていいほど感じさせない仕上がりがあったのだ。けれども太ももまわりを支えるサイドサポートはほとんど張り出していないので、乗降性が悪化するようなことは皆無。腰まわりや肩まわりをサポートすることで、バランスよく体をホールドしてくれるのだ。それは走り始めてからも効果を発揮。コーナリング中でも視線がブレることなく、安定感の高い感覚にひと役買っている。SUVという車体を想像すれば理解しやすいと思うが、座っている位置が高いというクルマの特性上、どうしても体が振られやすい環境にある。それを見事に抑え込むことに成功したことは特筆すべきポイントの1つといっていい。Modulo Xが新たに挑戦したシートの開発は、きちんとした成果となって表れていた。

高速道路のつなぎめの段差や、一般道のちょっとした轍や段差も、しっかりとサスペンションが吸収して、何事もなかったかのように走ってくれる

 走って感心したのは、Modulo Xならではの世界観がこのヴェゼルでもきちんと踏襲されていたこと。ステアリングはフロントタイヤの情報を常に的確に伝えてくるのだ。接地感豊かなこの造りは安心感に繋がっている。特に高速道路における巡行状態において、ニュートラル付近の操舵の座り感がきちんとしており、直進安定性に優れていることに感心した。真っ直ぐ走るということは簡単なようでなかなか生み出せていないクルマが多い中、このクルマはそのあたりを当然のようにやってのける。これは足まわりのみならず空力も煮詰めたからこそ達成できたポイントらしい。リアバンパー下部には1本のフィンが与えられているが、これが直進安定性にかなり寄与しているそうだ。

 また、荒れた路面に差し掛かっても路面からの入力をいなし、ピッチングもわずかにフラットさをキープしていることも心地いい。さらにワインディングにおいて微操舵域から切り込み応答まで連続したリニアな動きを展開していることも好感触だった。ステアした瞬間からリアタイヤが即座に追従してクルマ全体が旋回していく動きは、かねてから4輪で舵を切る感覚とModuloは評してきたが、ヴェゼルでもその動きは変わらない。SUVというよりむしろホットハッチといったほうが的確かもしれない。一体感のある動きは、走りを愛する人々にとってありがたい仕立てだ。クルマとの一体感をどこまでも味わえる、そこがヴェゼル Modulo Xの真骨頂といっていいだろう。空力、足回り、そしてシートといったトータルで、SUVでもこの世界観を生み出したことはさすがだ。

 ちなみに今回は試乗しなかったが、ヴェゼル Modulo Xにはハイブリッドの4WDもラインアップしている。こちらはホイールサイズやサスペンション形式も異なるが、それに合わせて足まわりのセットアップを変更。グレード別にきちんとしたセットをやり直しているのもModuloらしい部分だ。こちらは今回試乗したFFモデルとは違い、若干マイルドな乗り味となるが、重量アップして4WDになったとしても、基本的な走りの質感は変わらない。Modulo Xとしてはこれが初の4WDモデルとなるが、これによって雪国を走るユーザーでもModulo Xを味わえる環境が整ったのだから、それをトライしてみるのもアリだろう。

 Modulo Xとして初のSUVであり、初のシートへの挑戦があり、さらに4WDモデルもラインアップした今回のヴェゼル Modulo X。このクルマが登場したことで、Modulo Xというブランドがより多くの人々へ浸透し、職人たちがこだわり抜いた奥深い走りのテイストが伝播していくことを期待したい。

ワインディングではステアリングを切り足したり、戻したりをすることもなく、ビシッと決まったラインをトレースしてくれる気持ちよさがあった