2017 デトロイトショー

【インタビュー】日産の新型コンセプトカー「Vmotion 2.0」のデザインをとりまとめた青木護氏に聞く

よりシャープに、ダイナミックに進化した第2世代のVモーションデザイン

2017年1月9日~10日(プレスデー)、1月14日~22日(一般公開日)

デトロイトショーのステージに置かれた「Vmotion 2.0」と並んでフォトセッションに臨む日産自動車株式会社 青木護エグゼクティブデザインダイレクター
デトロイトショーでVmotion 2.0が世界初公開されたあとに、デザインをとりまとめた青木氏から話を伺った

 2017年のデトロイトショーで日産自動車が世界初公開したコンセプトカー「Vmotion 2.0」が、1月10日(現地時間)に同ショーで併催された「EyesOn Design Awards」において「Best Concept Vehicle」を獲得した。

 そのVmotion 2.0のデザインをとりまとめた日産自動車の青木護エグゼクティブデザインダイレクターから話を伺うことができたのでお伝えする。

新型コンセプトカーのVmotion 2.0

このショーカー以降に順次出ていくプロダクションを含めて第2世代のVモーション

日産自動車株式会社 青木護エグゼクティブデザインダイレクター

――Vモーションの2.0ということで、もともとのVモーションの成り立ちや、1.0にあたるものはどう定義されているのでしょうか?

青木氏:ご存知のとおり当初は「1.0」とは呼ばず、単に「Vモーション」と呼んでいました。まず、デザインフォームのボキャブラリーに「エモーショナルジオメトリー」を設定し、日産の紋章となるものをということで、「Vモーショングリル」「ブーメランヘッドランプ・テールランプ」「フローティングルーフ」「キックアップウエストライン」「ブランドシンボルエンハンスメント」の5つをアスペクト(=シンボル)として設定しました。

それに則って最初に造ったのが、2013年のデトロイトショーで公開した「レゾナンス」です。続いて、同年春に上海で公開した「フレンド・ミー」、さらに翌2014年のデトロイトで公開した「スポーツセダンコンセプト」を「日産のトリロジー」と呼んでいましたが、その3つのショーカーを皮切りにVモーションと呼んでいたのが第1世代の始まりです。

レゾナンス
フレンド・ミー
スポーツセダンコンセプト

一方で、もう少し小さいクルマたちで、ブラジルで公開(2014年)した「キックス コンセプト」、ジュネーブ(2015年)の「スウェイ」、フランクフルト(2015年)で「グリップス コンセプト」などのショーカーを公開しました。こうして全ボディタイプとセグメントをカバーしたショーカーを出して、それがプロダクションに移っていったのがVモーションの第1世代となります。

キックス コンセプト
スウェイ
グリップス コンセプト

――Vモーションの第2世代の特徴はいかがでしょう?

青木氏:どこからというのは明確には難しいですが、このショーカー以降に順次出ていくプロダクションを含めて第2世代のVモーションとなります。

それはVモーションの定義を変えているわけではなく、フォームボキャブラリーとしては「よりダイナミックに」「3ディメンショナルに」「よりアグレッシブに」を強調していくということです。その意味で、ボディはかなり強くデザインのテーマを表現したものになっています。

日産自動車株式会社 中村史郎チーフクリエイティブオフィサー

中村史郎さん(日産自動車 チーフクリエイティブオフィサー)はプレスカンファレンスで「Vモーション グリル ストラクチャー」と言っていました。それは2Dのアイコンだけでなく、ボディのコンストラクション(構造)と一体になったという意味でストラクチャーと言っているのですが、強くセンターコアのボリュームを(出し)、それにフェンダーがくっついたという、そのシンプルなコンストラクションの先端にVモーションがある。そういう踏ん張りのよい、安定的なボディコンストラクションを持っているということで、第2世代のVモーション グリル ストラクチャーというふうに言っているわけです。

さらにそれぞれのアイコンを、例えばヘッドライトはより薄くハイテックになって、なかにボディ色を入れたりしていて、要するにヘッドライトのアウトラインではなく、全体のシグネチャーが形として抜かれているふうに強調しています。

Vモーション 2.0というのはグリルのことではなく、ショーカーの名前であり、コンセプトカーは全体を含めた位置づけとしています。

シンプルなコンストラクションの先端にVモーションがある、安定的なボディコンストラクションが「Vモーション グリル ストラクチャー」となる

――では反対に、Vモーション以前はどうだったのでしょう?

青木氏:レゾナンスの前までは5パターンぐらいグリルがありました。セダン、クロスオーバーや「タイタン」にはまだ使っていますが、「アングルドストラット」というトラックのグリルや、EV(電気自動車)の「リーフ」のようにグリルのないタイプ、それからミニバンといった具合です。それでは日産としての統一性が見えないという思いがあったので1つにしたのです。約7年前から始め、約5年前にショーカーに仕立てて、すべて一貫してやったというわけです。

――例えば、ヘッドライトが細くなるのは技術の進化によるものでしょうか? それとも方向性の変化でしょうか?

青木氏:両方ですね。ディテールの進化がデザインに影響しているし、デザインでこれをやりたいからといって技術を進化させている面もあります。ランプというのは技術的に難しくて、やりたいことがそのままできるわけではありません。工学テクノロジーなども含めていっしょに開発しているというニュアンスです。

だから、シグネチャーの出し方もどのメーカーもやっていて、わりと似たようなことをやっているように見えるかもしれませんが、どれだけハイテックに違いを出して見せるかということだと思います。

LEDの採用など技術的な進化とデザインがいっしょになり、ランプ類を進化させて新たなフロントマスクやリアビューが生み出されている
Vモーションやブーメランなど、日産における現在のデザイン言語で重要なポイントについて解説する青木氏

青木氏:日産では、ブーメランというのは2回折れで「くの字」があるものだけに定義しています。上が長かったり下が長かったり、車種によっていろいろなパターンが幅広くあるのですが、見ればファミリーだと分かるようにしています。

全体のバランスにおいて、やはりセダンとクロスオーバーでは違ってきます。3台を並べるとよく分かります。ブーメランとVモーショングリルはかなり浸透していると思っています。


――他メーカーとの違いはいかがでしょうか?

青木氏:フローティングはいろいろなところがやっていて、同じようにも見えますが、日産の新しめのクルマは、車種によってではなく、全部やっているのが違いだと思います。

日産ではなにかしらフローティング(ルーフ)はやっています。Cピラーがコネクトしていない(仕様)。Aピラーは黒かったりボディ同色だったりしますが、後方の浮き方は全車でやってるので、三角形のCピラーを使っているクルマは多いですよね。他社もやり出していますが、似たようなことは他のみなさんもやっているんですよ。

クーペやクロスオーバー系でやっている例は多いですが、セダンは上手くできるかどうかということもあって、あまりやっている例はありません。中国専用車のフレンド・ミーは、セダンだけど思いっきりやっていますけどね。

Vmotion 2.0ではルーフアーチ全体をボディとは異なる色合いとして、独自のフローティングルーフを演出

――今回のVmotion 2.0はハッチバックを想定しているのでしょうか?

青木氏:いちおう4ドアセダンで、5ドアではありません。ハッチゲートをやっているクルマもありますが、後席のヘッドルームにヒンジが出っ張ってしまい、かなり損をすることになります。

(ハッチバックは)トランク長に影響しないから、ここ(ヒンジ)を後ろに持ってこられますが、セダンであれをやると厳しいでしょう。一方で、ハッチバックで居住性を稼ごうとして正直にやると、もさっとしたフォルムになってしまいます。Vmotion 2.0では、このフォルムでもちゃんと後席も座れるようにしています。

センターコンソールをキャビン後方まで連続させ、左右で独立した後席を持つ4人乗りのVmotion 2.0。乗員全員が快適に過ごせるよう、頭上の空間もしっかりと確保している
Vmotion 2.0のインパネ

――2013年が1つの節目のように思いますが、青木さんにとってどういう時期だったのでしょうか?

青木氏:今のポジションになって、お伝えしたような感じでVモーションをやっていこうということになって、いろいろなものにトライして決めて、それを全部アダプション(採用)していって、ちょうど形になってきたころです。私は日産ブランドを統括するのが役目なので、その旗振りをしていました。それに2~3年ぐらいは時間がかかっているし、ショーカーといっても造るには1年ぐらいかかります。

――ボディパネルを見るとかなりつまんだ感じで、生産性にも影響するぐらい尖って見えます。

ドアパネルをはじめ、ボディの要所にシャープなラインが使われている

青木氏:そのとおりなんですが、最近では工場ががんばってくれて、他社がやっているレベルは必ずやると言っています。これぐらいは大丈夫。まったく問題ありません。あとは鉄だったりアルミだったりするので、これをそのまま生産すると、再現性の問題があります。

あとは、技術の部分では2回打ちするなどもあり、コストの問題もあるので、どの価格帯のクルマかというのも影響してきます。

――以前のほうが心なしかマッチョで肉感があるように見えるのに対し、新しいものはシャープになったような気がしますが?

青木氏:それは変遷としてやっています。フォームボキャブラリーでは動きのある線を使っていますが、シャープにしています。ドライにしたとも言えるでしょう。第1世代の初期のころは、やはりまだ線がウェービーというか、ちょっとウェットなんですよね。それを今はよりシャープにして、抜けのいい線を使っています。

デザイナーの立場としては、どちらが好きというわけではありませんが、トレンドもあるし、他社との違いをどうやって出すかというのもあるので、将来的にはシャープなほうに行こうとしているところです。

NISSAN Vmotion 2.0(1分30秒)

 青木氏が解説してくれたように、2013年のレゾナンスから始まった日産のデザインに新しい方向性を示唆したVmotion 2.0。このコンセプトを活かしたプロダクトも、そう遠くないうちに市販化されることは間違いない。はたしてどんなスタイリングをまとって現れるのか、期待して待ちたいと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。