2017 デトロイトショー

インフィニティ デザイン担当CVPのアルフォンソ・アルベイザ氏が「QX50コンセプト」について語る

「私にとっての日本に対するオマージュ」

2017年1月9日(現地時間)実施

デトロイトショーで世界初公開した「QX50コンセプト」の車内で「運転席側はドライバーがクルマを支配していると感じさせる空間を意識した」と語るインフィニティ デザイン担当CVP アルフォンソ・アルベイザ氏

 インフィニティ(日産自動車)は1月9日(現地時間)、米国 デトロイトで開催された「デトロイトショー」でコンセプトカー「QX50コンセプト」を世界初公開。会場でこのモデルのデザインを手がけたインフィニティ デザイン担当CVPのアルフォンソ・アルベイザ氏から、インフィニティの次世代中型プレミアムSUVのビジョンを示すと表現されるこのコンセプトカーの内外装に与えられたコンセプトや技術、デザイン哲学などを聞くことができたのでご紹介する。

(以下、本人談の日本語訳)


“和の要素”をちりばめた

日産自動車株式会社 常務執行役員 デザインビジネスマネジメント・デザイン戦略 グローバルデザインセンター エグゼクティブ・デザイン・ダイレクター Infiniti 担当 アルフォンソ・アルベイザ氏

 QX50コンセプトは、1年前に「Q60コンセプト」で披露したデザインコンセプトのDNAを引き継ぎながら、それをクロスオーバーに適用したらどうなるかを体現したものです。どこから見ても確固たる“インフィニティらしいエレガンスさ”を如実に打ち出していますが、インフィニティは現在、デザインコンセプトを移行しつつあります。その過渡期において、インフィニティらしさを損なうことなく、将来像とのバランスをとったデザインを追求しています。

「Q60」など過去の作品を見ていただくと、その流れがよく分かりますが、ひきつづきQX50に採り入れたのは“和”の要素です。ダブルアーチ型グリルを採用しており、インフィニティ元来のヘリテイジのデザインを継承しつつ、上のアーチの部分からボンネットを伝う流れは水の流れを象徴していて、下のアーチの部分の広がりをもたせたデザインは、川の上にかかった橋が反射して、水の流れに影が揺れている様子を表現しています。

2015年のデトロイトショーで世界初公開となった「Q60コンセプト」
2016年のデトロイトショーで市販モデルとしてデビューした「Q60」
2017年のデトロイトショーで初公開された「QX50コンセプト」

 また、グリルを単体で見ると、クルマのほかの部分と繋がっていないように見えます。これは意図的にグリルを浮き出させることによって、グリルはボディではなくエンジンと繋がっているというイメージを表現しているからです。エンジンはイコール、パフォーマンスです。ボディのデザインには太鼓橋のような“和”の要素を採り入れつつ、グリルでパフォーマンスを表現しているのです。

 Q60と同じく、ヘッドライトは人間の目を意識しています。Q60のときと比べてさらにテクノロジーが進歩したので、1つのつぶに5個のLEDを組み込んだものを10個ぐらい並べています。対向車が近づくと片側だけ自動的に減光します。LEDをたくさん使っているので微妙な加減も可能です。歩行者がクルマの近くを通ると、歩行者に一番近いライトがセーフティのために点滅したりします。

多数のLEDを組み合わせて構成したヘッドライトは、対向車を眩惑しないような減光や、歩行者に対する注意喚起といった技術的要素に加え、QX50コンセプトのフロントマスクで大きなデザインアクセントともなっている

日本人らしいものづくりの観念を

 QX50コンセプトでは、すべてが繋がったデザインを意識しています。ルーフからリアに向かってシームレスに流れていくイメージを重要視しています。

 フードに膨らみを持たせたクラムシェルデザインを新たに実現できたのも特徴です。これによりサイドパネルから後ろに向かって繋がるラインを複合的に描くことができていて、Aピラー付け根の切り替えがなくなり、重ねるような造形が可能になりました。

 フェンダーの部分の折り重なるような切れ目の少ないラインは、パネルの上をパネルがすべって、浮いているようなデザインになっています。そしてボンネットの両サイドで、上空に向かって広がりを持たせたデザインになっています。全体をパッと見るとシンプルでありながら細部を見ると作り込まれている。このよさを分かっていただけると幸いです。

ボンネットからフェンダーにかけてのラインに与えた意味合いについて解説するアルベイザ氏

 私が日本での生活を通じて学んだことに、「何かを行なう前に十分に計画を立てる」ということが挙げられます。熟考してから行動に移すという、日本人らしいものづくりの観念に感銘を受けたので、それを表現したいと思います。

 スタイリング全体では世界的に受け入れられるものを意識しながらも、細部を見ると“和の要素”がいたるところにちりばめられていて、日本人にしかなしえないことをやっています。ボディの隙間もぎりぎりまでつめると1.3mmまで縮めることができる。これがいわば「栃木マジック」であり、「ジャパニーズ プレシジョン」なのです。

 静的なイメージだけでなく、パーツとパーツが動き合ったときにどんな形状になり、見え方がするのか、動きが表現できるかというのもエンジニアリングの腕の見せどころです。どんどん区切りのラインを消していくことができて、1つのピースとして見せられるのが最善だと考えていますが、QX50コンセプトは区切りが少なく、ラインが非常にきれいになっています。これが日本で造る日本人のアートであり、私にとっての日本に対するオマージュを表現しています。

インテリアは詩的でアートな表現を

インテリアでのこだわりについて、アルベイザ氏はアートという言葉を使って表現

 インテリアは、部内の「見立て・仕立てチーム」ががんばりました。デザイナーがいろいろな厚さの革を引っ張ったり、縫ったり、色を塗ったりして仕立てをテストして、どういった素材を使うとどういうシェイプになるのか、材質そのものの特性を最大限に生かす仕立てを心がけました。

 今の超高級ブランドを見ると、非常に美しい革のインテリアに仕上がっています。シェイプそのものや縫い目などは比較的オーソドックスですが、素材は上級のものを使っています。一方、QX50コンセプトのデザインで目指したのは、オーソドックから敢えて外れて、縫い目や革そのものでいかに“詩的”表現を打ち出せるか、縫い上げた革がどのように見えるかです。革でもアートを表現したかったのです。

“キルトの新しい見せ方”を駆使して独自の質感を表現したドア内張り

 特徴的なドア内張りについては、見立て・仕立てチームがキルトの新しい見せ方を考えました。まず手縫いでいろいろ表現を試してみて、後ろから縫って切っていく手法を試しました。そして、手縫いで完成した理想のデザインを工場に持ち込んで、大量生産できるかどうかを検討しました。

 アーティストとしてのこだわりを残したい半面、少数生産であればかなり難しいこともできますが、工場で量産するとなると、生産性との兼ね合いで、現実的にどこまでかというのは難しいところであり、むろんコストの問題もあります。一方で、プレミアムモデルの定義としては、レアであり、ほかと似ていてはいけないという要素もあります。手作りしたような仕上がりが理想であり、できるだけそうあるべきです。

スポーティなサイドサポートの張り出しと有機的なプレミアムテイストを融合させたシート

 革の縫製において一番強いのは合わさった部分です。QX50コンセプトでは、その部分をねじってコンソールをつくりました。ひねって伸ばしていくような手法です。助手席側は空間を創出するイメージです。

 運転席側は、あくまでドライバーがクルマを支配していることを感じさせる空間を意識しました。運転席側から見ると革が2トーンになっているのもこだわりです。縫い目をねじって立体的に仕上げています。パネルはサテン、クリア、ラッカーで細かい粒子を吹き付けています。美術館のキュレーターのように異なるアウトピースを集めてきて、いろいろな素材を複合させて1つに仕上げるという作業を行ないました。これも見立て・仕立てチームの腕の見せどころです。

 コンセプトモデルの市販モデルに対するデザイン的な実現度はというと、外側が90%、内側は95%ぐらいです。市販モデルはメキシコで生産予定です。国が変わったときに、こうしたDNAをどのように再現するというのが今後の課題になります。


 このところ優れたデザイン性が高く評価されているインフィニティが披露した、SUVのデザインにおける独自の取り組みの背景を垣間見ることができ、非常に興味深く感じた次第。人にインパクトを与えるものが生まれるには、それなりの理由がある。このコンセプトが市販モデルにどのように反映されるのか、登場を楽しみに待ちたいと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。