CES 2016

基調講演で未来像を示したフォルクスワーゲン

謝罪からスタートし、未来を示し、ディーゼル問題への対応を約束

2016年1月5日(現地時間) 開催

フォルクスワーゲン・ブランド社長 ヘルベルト・ディース氏

 2016年のCESが開幕する前日、1月5日(現地時間)のプレスデーの夜に行なわれるキーノート(基調講演)は、CESの顔とも言える存在だ。2015年にはダイムラーが自動運転機能を持つ燃料電池プラグイン・ハイブリッドという将来技術満艦飾の「F015」を持ち込んで華々しくプレゼンテーションを行なったのは記憶に新しい。それと比べれば、確かに2016年のコスモポリタンでのキーノートを担当したフォルクスワーゲンは、いささか地味に感じる発表だったのは否めない。しかし、アメリカで年初に開催される世界最大の家電見本市であり、全米どころか、世界中のメディアの注目が集まるCESという場での発表だったことを考えると、キーノートへの登壇を決めて、わずか3カ月でこの場に出てきたのは大英断と言わざるをえない。

 フォルクスワーゲンのヘルベルト・ディース社長によるキーノートは、異例の謝罪からスタートした。冒頭からアメリカでのディーゼル車の排ガス不正問題に触れて、全世界では約110万台がこの問題の対象車であり、迅速な対応を進めているという。とはいえ、台数が台数だけに、ソフトウェアのようにデバグソフトのダウンロードで対応というわけにはいかないため、2016年一杯で対応するということだ。米国内では約50万台が今回の問題の対象となり、その対応については、現在、米EPAとカリフォルニア州CARVEと相談しているという。

 謝罪をしたあとは、非常にオプティミスティックな展開になった。2015年7月からフォルクスワーゲン・ブランドの社長に就任したヘルベルト・ディース氏は、「自動車は、究極のモバイル・デバイス」と宣言。クラウド・ベースのITサービスを強化していくとした。同時に、1970年代にアメリカのヒッピー文化とともに大ヒットした同社の「Type2」、通称“バス”に触れて、「クルマはホイール上の第2の家」と位置づけ、3段階での将来戦略を伝えた。

「クルマはホイール上の第2の家」と紹介された“バス”

 近い将来のソリューションとして発表された「e-ゴルフ タッチ」は、CESを運営するCTA(Consumer Technology Association)のCEOを務めるゲイリー・シャピロ氏による運転での登場だった。2015年に発表した「ゴルフ R タッチ」の進化版となるHMI(Human Machine Interface)を搭載している。ベース車のパワートレーンは何の関係もないが、あえてスポーティ仕様の「R」からピュアEV(電気自動車)の「e」となったのは、ディーゼル問題を受けてのことだろう。

フォルクスワーゲンの新戦略
「e-ゴルフ タッチ」が登場
e-ゴルフ タッチを運転していたのは、CESを運営するCTAのCEOを務めるゲイリー・シャピロ氏

「スマートで、安全で、楽しめることをキーワードに、スマートフォン“on the wheels”」を開発しました。フォルクスワーゲンにとって、クルマとは複雑なものではなく、インテリジェントなものです。」というのは、電子・電装開発部門専務であるフォルクマル・タンネベルガー氏だ。

電子・電装開発部門専務 フォルクマル・タンネベルガー氏

「e-ゴルフ タッチでは、排気ガスゼロのクルマをベースに、非常に直感的なユーザー体験を提供することを目指しました。フォルクスワーゲンにとって、クルマとは複雑なものではなく、インテリジェントなものです。操作はボタンなしで、論理的に、インテリジェントに行なうことができます。9.2インチのタッチ式ディスプレイには、新世代のインフォメーションシステムが搭載されています」(タンネベルガー氏)。

 具体的には、アップデータブルな車載インフォテイメントシステムといったところだ。デモンストレーションでは、「ハロー、フォルクスワーゲン」と英語で呼びかけて立ち上げ、「家にナビゲートして」といったコマンドで目的地を設定したり、近隣の画像を表示したりすることができる。スマホをワイヤレス充電できる機能とUSB Type-Cコネクタが備わる。また、アップルのCarPlayやGoogleのAndroid Auto、MirrorLinkに対応する。さらに、スマートウォッチと連携するためのアプリも用意される。

 このようにクルマがつながる結果として、駐車場で自分のクルマを見失ったときにどこに停めたかが分かったり、家族の誰が無謀な運転をするなど、“クルマが今どうなっているか?”という状況を、同時にスマホやタブレット端末で知ることができる。2017年のCESでは、このあたりの技術を具体的に見せる予定とのことだ。

スマートウォッチ用アプリも用意

 もう1台、前述のバスをほうふつとさせる「BUDD-e」の発表に大きな注目が集まった。新しいアーキテクチャを採用し、230マイルの巡行が可能で、30分での急速充電に対応する。電池を低く積んだことにより、重心を低め、高い路面追従性を発揮するという。IoT(Internet of Things、モノのインターネット)によって、「本当のバディ(親友)」のように付き合えるという。

 ドアハンドルはないが、ジェスチャーやボイスコントロールでドアが開く仕組みだ。当然、HMIは最新のものを採用し、フルHDディスプレイにタッチして、プレイリストから好みの曲をクルマで再生したりといったスマホ風の操作ができる。家のドアフォンとクルマがつながって、訪問者を映す機能を持っているのもユニークだ。ロックを解除して、家に招き入れるなどが可能。これはベルリンのベンチャーが開発した「ドアバード」というクラウドベースのドアフォンの機能で、スマホや車載ディスプレイからでも、ガレージや家のドアフォンの画像を見たり、応答したりできる。「BUDD-e」では、1度だけ使える電子キーを宅配業者に送ることで、クルマに宅配便を運ぶこともできる、としている。

 LGエレクトロニクスでクラウド事業部門を率いるリチャード・チョイ氏も登壇した。「クルマが家と、そして掃除機のような家電までつながるオープンなエコシステムを構築します」という。

“バス”をほうふつとさせる「BUDD-e」
写真中央がLGエレクトロニクス リチャード・チョイ氏、写真右がドアバードのサービスを提供するバード ホーム オートメーション CEOのSascha Keller氏
フォルクスワーゲン BUDD-e インテリア

 さらに、その先の未来として、運転、充電などを自動で行なったり、インフラまで含めて開発することでモビリティをより使いやすくするという。自動運転の分野では、ダイムラーやBMWとともにデジタル地図会社のHereをノキアから買収することで合意したり、車載カメラ大手のモービルアイと戦略的パートナーシップを結んだりするなど動きの多い分野だ。

BUDD-eの各機能を紹介

 自動化の流れは、なにもフォルクスワーゲンに限ったことではないが、世界有数の量販車メーカーである利点を活かして、「Innovation for everyone」を旗頭にこれらの自動車の将来技術の開発を進めていこうとしている点が、フォルクスワーゲンの特徴といえる。

 最後に再び、2016年はアメリカでのディーゼル問題への対応をすることを約束し、しっかりしたソリューションを提供できる自信があることを宣言して、キーノートの幕を下ろした。

(川端由美)