CES 2017
Qualcommの基調講演に、フォルクスワーゲン 電気・電子開発部門責任者 フォルクマル・タンネベルガー氏登壇
5Gや自動運転に向けた方向性を示す
2017年1月11日 07:59
半導体メーカーのQualcommは、1月5日~1月8日(現地時間)に行われた世界最大のテクノロジーイベント「CES 2017」の会期2日目(1月6日、現地時間)に行なわれた基調講演に登壇し、同社や業界各社が開発を進めている5G(第5世代移動通信システム)についての開発状況、同社の自動車向けソリューションなどに関する説明を行なった。
Qualcommは自動車向け半導体メーカーとして、キープレイヤーの1社になりつつあり、2016年の末には自動車向けの半導体ではトップシェアのNXP Semiconductorsを買収することで合意したことを明らかにしている。NXP買収のプロセスは現在進行形で完了していないが、完了すればQualcommは自動車向け半導体でトップシェアとなり、同社の強みである携帯電話回線向けのモデムやSoCと合わせて、自動車産業で欠かすことができない半導体メーカーとなっていくことになる。
そのQualcomm CEOのスティーブ・モレンコフ氏の基調講演には、同社との提携を発表したばかりのフォルクスワーゲン 電気・電子開発部門責任者 フォルクマル・タンネベルガー氏が登壇し、Qualcommとフォルクスワーゲンの提携に関しての説明や5Gへの期待感などを表明した。
NXPの買収で世界最大の自動車向けの半導体メーカーとなるQualcomm。5Gの開発に注力
半導体メーカーのQualcommは今、急速に自動車産業での存在感を高めている。もともとQualcommは携帯電話回線のモデムを製造するメーカーとしてスタートしたが、2000年には携帯電話向けのSoC(System on a Chip、1チップでコンピュータを構成できる半導体)であるSnapdragonシリーズが大成功を収め、スマートフォン向けのSoCではトップシェアの半導体メーカーだ。
自動車向けにはスマートフォン向けSoCをベースに開発したSnapdragon、および携帯電話回線用のモデムSnapdragon X modemなどを武器に本格的に参入することを2016年のCESでアナウンスしており、1年後となる「CES 2017」ではそれらの製品がフォルクスワーゲンに採用されることがアナウンスされた。今後、自動車はインターネットへの常時接続(英語ではConnected)が一般的になっていくと考えられており、携帯電話回線モデムに強い、Qualcommは注目を集めている。
また、2016年の暮れには、欧州の半導体メーカーのNXP Semiconductors(以下NXP)を買収することで合意したことを発表している。NXPは2015年に米国のFreescale Semiconductorを買収(僚誌PC Watchの記事「NXP、Freescaleを買収」)し、自動車向けの半導体メーカーとして現時点で1位のシェアをもっている。
そのNXPをQualcommが買収するというニュース(僚誌PC Watchの記事「Qualcomm、NXPを約470億ドルで買収」)は、Qualcommが本気で自動車ビジネスに打って出ることだと受け取られている。
Qualcommはコンピューティングに強く、NXPは自動車の制御系向けの半導体に強いという特徴を活かせる買収だと考えられており、買収が完了すれば(現在は当局の承認などのプロセスが行なわれている)、世界最大の自動車向け半導体メーカーはQualcommということになる。
そうしたQualcommを率いるCEOのスティーブ・モレンコフ氏は、今回の基調講演では主に5Gに関する説明に時間を割いた。5Gは、現在日本や主要国で利用されている4Gの次世代となる携帯電話回線の規格で、ミリ波など超高周波数帯を利用することで、回線全体の伝送速度を上げたり、遅延を削減したりということが可能になる。特にその恩恵を受けると考えられているのが、IoT(Internet of Things、インターネットに常時接続されている機器)や、そのIoTの代表例と言える自動車だと考えられている。
モレンコフ氏は「我々の依頼で独立の調査機関が調査したところ、5Gの経済波及効果は2035年まで12兆ドルを超えるという予想が出ている。この規模は中国、日本、フランス、ドイツ、イギリスの一般消費者が昨年消費した額よりも大きくなっている」と述べ、5Gが登場することによる経済的な波及効果は日本円で約1400兆円に達するとした。
モレンコフ氏は、5G用のモデムとしてSnapdragon X50 modemを昨年から提供しており、2016年の終わりから2017年の始めにかけてミリ波に対応した製品を投入するとロードマップについても一部言及した。同社がこれま1G~4Gまでの技術開発で担ってきた役割について触れながら、Qualcommが5Gの開発に積極的に取り組んでいくという姿勢を明確にした。
フォルクスワーゲンなど自動車メーカーと協力して自動車の常時接続を推進
講演の後半で、モレンコフ氏は同社の自動車ソリューションについて触れ、「米国では2015年に3万8000人もの方が自動車事故で亡くなっている。我々は自動車をもっと安全にする必要がある」と述べ、自動運転やADAS(先進安全運転システム)などを導入して、交通事故を削減する取り組みが必要だと訴えた。その上で、自動車メーカーとのパートナーシップとして、1月3日のQualcommの記者会見で発表されたフォルクスワーゲンとの提携について触れ、フォルクスワーゲン 電気・電子開発部門責任者 フォルクマル・タンネベルガー氏を壇上に招いた。
タンネベルガー氏は「我々とQualcommはインターネットに常時接続されている時代のビジョンを共有する。すでに210万台のフォルクスワーゲンの車両がインターネットに常時接続されている。しかし、これはスタートでしかない。今後はEVの導入でもチャレンジがあり、それを解決していく必要がある。今回我々はQualcommのLTE-Aの600Mbpsでの通信に対応したSnapdragon X12 modemを採用したオンライン接続ユニットを2018年に出荷し、Snapdragon 820Aを搭載した新型車両を2019年に導入する予定であることを明らかにした」と述べ、Qualcommの半導体を使った製品を2018年~2019年に順次導入していくことを明らかにした。
また、タンネベルガー氏は「フォルクスワーゲンはデジタル機能をどんどん車両に搭載していくことで、より高い利便性や体験をユーザーに提供していきたい。例えば、パーソナライゼーションはその1つで、自動車に乗れば自動でシートポジションが変わるなどの機能を導入していく。そうした機能を導入するためには、クルマの中でも、クルマの外にも、高速で信頼性や拡張性の高い回線が必要になる。それが5Gであり、自動車における鍵となる技術になるだろう。我々もできるだけ早く導入していきたい」と述べ、Qualcommと協力して5GやセルラーV2Xなどをできるだけ早期に自動車に導入していきたいという意向を表明した。
その後モレンコフ氏が壇上に戻り、セルラーV2Xの実証実験を、アウディやエリクソンと共同でドイツで今年から開始すること、さらに冒頭でも説明したNXPの買収についても触れ「NXP Semiconductorsの買収計画により製品のラインアップが拡充され、ADAS向けや自動車向けの革新に向けた我々のポジションは強化されるだろう」と述べ、CESの会場ではLVCCの北ホールで行ったADASのデモ(別記事「クアルコム、「Android 7.0」を統合した「Snapdragon 820A」搭載IVIを初披露」)の一部を紹介し、Qualcommがこれまで注力してきたIVI向けだけでなく、今後はADASや自動運転といった技術にも力を入れていくという方向性を示唆した。