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【SUPER GTインタビュー】横浜ゴム、GT300のタイトル奪還を目指す

 日本で最も人気があるレースシリーズとなるSUPER GTは、世界的に見て非常にユニークなレースシリーズの1つである。観客を飽きさせないために特定のクルマだけがぶっちぎるレースにならないようにウェイトハンデ制を敷いているのもそうだし、もう1つの大きな特徴としてタイヤのコンペティション(競争)があることが挙げられる。

 世界的に見ると、F1を含めてほとんどのシリーズがタイヤはワンメイク供給となっているのに、SUPER GTはGT500もGT300も複数のタイヤメーカーが各チームにタイヤを供給しており、タイヤの性能でも競争するレースとなっている。言うまでもなく、クルマを路面に接地させているのはタイヤなので、タイヤの性能こそがレースの結果を左右していると言っても過言ではない。

 そうしたSUPER GTで、今最も激しい競争が繰り広げられているGT300クラスのほとんどの車両にタイヤを供給しているのが、ADVAN(アドバン)のブランドでタイヤを供給している横浜ゴムだ。横浜ゴムは、全日本スーパーフォーミュラ選手権、全日本F3選手権などの日本のトップクラスの選手権、さらにはWTCC(世界ツーリングカー選手権)といった世界規模の選手権にタイヤを供給しているほか、各種の草の根レースにもタイヤを供給しており、日本のレースシーンで「ADVAN」や「YOKOHAMA」のロゴを見かけない日はないと言ってよいほど、日本のレースシーンを文字どおり足下から支えている。

ヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル株式会社 第一開発部 部長 藤代秀一氏

 そうした横浜ゴムのSUPER GTでの2016年の活動について、ヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル 第一開発部 部長 藤代秀一氏にお話をうかがってきた。

2015年、GT500の第4戦富士で2010年以来の優勝

2015年のSUPER GT第4戦富士。GT500で優勝した24号車 D'station ADVAN GT-R(佐々木大樹/ミハエル・クルム組)

 2015年のSUPER GT活動は、横浜ゴムにとってはよい年だったとも言えるし、あまりよくない年ではなかったとも言える。

 そのよかったほうから言えば、上位クラスであるGT500において富士スピードウェイで行なわれた第4戦(その時の模様はこちら)で、24号車 D'station ADVAN GT-R(佐々木大樹/ミハエル・クルム組)が、横浜ゴムにとって2010年の開幕戦(鈴鹿サーキット)で当時の24号車 HIS ADVAN KONDO GT-R(J.P・デ・オリベイラ/安田裕信組)が優勝して以来、5年ぶりの優勝を勝ち獲ったからだ。特に2014年に新車両規定が導入されてからの初優勝でもあるので、その意味で横浜ゴムにとっては大きな価値のある1勝になった。

 藤代氏は「GT500の新車両規定で2年目となり、弊社のタイヤ開発も進んだ。特に進んだのは速さという部分で、2014年は予選Q1を突破することが少なかったが、2015年は半分突破できた。第4戦富士で勝つことができたのは、ロングランのタイムが安定して速かったからだ」と説明する。

 実際、第4戦富士の予選で24号車は予選6位で、決して予選上位に来ていた訳ではない。しかし、レース後半、特に佐々木大樹選手に交代してからは、ロングランのペースが安定しており、次々と前走車をオーバーテイクして見事勝利をつかんだ。そうした勢いで2016年もといきたかったところだが、開幕戦の岡山に関しては今一歩という結果になった。

 藤代氏は「岡山は毎年鬼門で、苦手としている部分が取り切れていないというのが実情。その中で19号車が予選Q1を突破してくれ、レースでも9位に入ってくれた。実は19号車は去年のタイのレースからずっと連続ポイントを獲得しており、チーム力が安定している」と述べている。

 開幕戦の岡山に関しては、多くのドライバーが現在のSUPER GTのタイヤ競争は先鋭化しており、想定してきた温度レンジを外すと大きな差がつくと指摘。そうした中で、開幕戦は明らかに当たったメーカーと外したメーカーの差が出るレースになってしまった。そうした中でも、19号車は予選Q1を突破して、決勝レースでも9位に入るというしぶとさを見せている。そうした安定性がどんどん増していけば、今後は上位でレースを争うということも十分にチャンスがある。

2016年SUPER GT第2戦富士。19号車 WedsSport ADVAN RC F(関口雄飛/国本雄資組)

 また、昨年の富士のレースで優勝した24号車は、昨シーズンから残留している佐々木大樹選手のパートナーとして、新たに柳田真孝選手を迎えている。柳田選手は2011年、2012年と連続でGT500のチャンピオンになった実力の持ち主で、勝ち方を知っているドライバーの1人だ。ベテランとなった柳田選手と若手の佐々木選手のペアが今後どう進化していくのかが楽しみだと藤代氏は説明した。

チャンピオン獲得を義務づけられているGT300。今年はその奪還を目指す

 GT500では2010年以来の優勝が飾れたという意味では2015年シーズンは横浜ゴムにとってよいシーズンだったと言えるが、GT300の方は惜しいシーズンになってしまった。複数回優勝は飾ったものの、最終的にチャンピオンを他メーカーのタイヤを装着した車両が奪っていくというシーズンになってしまったからだ。

 そうなってしまう要因の1つには、横浜ゴムはGT300の大多数にタイヤを供給しているため、ユーザーチームが複数レースを勝ったとしても、勝ち星が分散してしまい、少ないチームに集中しているライバルメーカーに負けてしまうという課題がある。

横浜ゴムは、多数のチームにタイヤを供給する

 藤代氏は「横浜ゴムにとって多くのユーザーチームに供給していくというポリシーは変えていない。昨年はその厳しさが結果に表れた」と自己分析している。横浜ゴムとしてはSUPER GTを足下から支えるというコンセプトの元で、多チームに対して供給することを方針としているため、それをやめることはできないが、それでも競争に打ち勝つやり方が必要だと認識しているということだ。

「特に今年はFIA-GT3車両の新型車が多く、そこへの合わせ込みが重要になる。少ないテストの中でも、圧倒的な差をつけられるようなタイヤを作っていきたい」(藤代氏)と、FIA-GT3の新型車両への合わせ込みやタイヤそのものの性能を上げていくことで対処していきたいとした。

 なお、今シーズンから横浜ゴムは、SUPER GTでの供給に加えて、全日本スーパーフォーミュラ選手権へのワンメイク供給を開始している(横浜ゴムのスーパーフォーミュラへの取り組みに関しては別記事参照)。藤代氏によれば「忙しくなった」ということだが、SUPER GT活動にとってはスーパーフォーミュラからのフィードバックがあるなど、よい影響もあるということだった。

後半戦に向けて夏場の高い路面温度に対応できるタイヤの投入を目指す

2016年SUPER GT第2戦富士。GT300クラス優勝の3号車 B-MAX NDDP GT-R(星野一樹/ヤン・マーデンボロー組)

 そうした昨年の横浜ゴムのSUPER GT活動を総括した藤代氏に、今シーズンの取り組みに関してはどうなのかと聞いた。

「GT500で言うとドラスティックに変えた部分はないが、構造もゴムも変え、昨年からの正常進化版になる。より大きく変えたバージョンは用意はしており、室内試験を繰り返している。ただ、いきなり実戦投入というのはリスクが高いので、まずはテストしてからとなる。今年のテストは7月に行なわれる鈴鹿サーキットのテストが最後となり、そこまでに間に合えばよいが、現時点では未定」(藤代氏)とのとおりで、7月の鈴鹿テストに間に合えば後半戦あたりに投入したいという意向を示している。

 藤代氏によれば後半戦に向けた鍵は、夏場の高い路面温度、そしてウェイトを積んだときの対処方になるという。

「50kgを超えたウェイトはどこのメーカーにとっても未体験ゾーン。14年規定によりフロントのサイズが小さくなり、タイヤにかかる負荷はより厳しくなっている。そうした中でパフォーマンスを維持しつつ耐久性を確保するという相反することに取り組まないといけない」(藤代氏)という。

 そうした中で着々と開発をしていきたいと藤代氏は説明した。また、引き続きピックアップに関しても取り組みを続けていくという。そのためにも、シーズン途中で予定されている公式テストで新開発の技術をどんどん入れていって、その効果が確認出来たものを後半戦に投入していきたいとした。また、昨年はチャンピオンを逃してしまったGT300のタイトル奪回も課題に挙げる。

「GT300に関しては車種が多様で、弊社のユーザー様には有力なユーザーもいらっしゃるが、どこかだけを優遇する訳にはいかず、引き続き全体の底上げを目指していく」(藤代氏)と、例年どおりヨコハマユーザーチーム全体の底上げを図ることでチャンピオン奪回を目指すとした。

 実際、GT300のほとんどのチームがヨコハマユーザーといってよい状況の中で、その中から特定のチームだけに焦点を当てている他のタイヤメーカーと競合していくというのは難しい状況だ。なおかつ、GT300の場合では、車両のBOP(性能調整)に結果がかなり左右されるという側面は以前から指摘されている。必ずしもタイヤメーカーの努力だけではどうにもならないのも事実だが、その中でもハイパフォーマンスなタイヤをユーザーチームに供給していくことで、その中の1チームがチャンピオンになってもらう。それが横浜ゴムの変わらない取り組みということになるだろう。

多くのユーザーチームにタイヤを供給していくというポリシーを掲げる横浜ゴム

 横浜ゴムの目標について藤代氏は「GT300に関しては昨年落としてしまったので、今年はシリーズチャンピオンをドライバー、チームの両方確実にとっていきたい。GT500に関しては、表彰台2回を最低限の目標として、24号車、19号車それぞれが1度は表彰台の頂点を獲り、最終戦までシリーズチャンピオンに絡むことを目指していきたい」とする。

 GT300に関しては現実的な目標だと思うし、GT500に関しても簡単ではないが決して実現不可能な目標ではないと思う。その意味では、ダブルヘッダーとなる最終戦を除き、残り4戦はいずれも“暑い”レースとなる可能性が高いことを考えると、最初の夏場のレースである第4戦菅生が試金石となるだろう。その菅生で横浜ゴムがどんな戦いをするのか、GT300、GT500共に要注目だ。