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NVIDIA、「Maker Faire Tokyo 2016」でディープラーニングをDIYで行なう方法を解説

「AIを使う電子機器が簡単に設計できる」とNVIDIA 矢戸氏

2016年8月6日~7日 開催

NVIDIAブースに展示されていたJetson TX1ベースのキャタピラ型ロボット「Panther」
東京ビッグサイトで「Maker Faire Tokyo 2016」が8月6日~7日に開催

 半導体メーカーのNVIDIAは、8月6日~7日に東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で開催されたメイカーと呼ばれる電気工作DIYユーザー向けのイベント「Maker Faire Tokyo 2016」に出展。NVIDIAがメイカー向けに販売している自作キット「Jetson TX1」「Jetson TK1」を利用する各種ソリューションについて説明したほか、メイカー向けに特別価格で販売を行なった。

エヌビディア ジャパン テクニカルマーケティング・エンジニア 矢戸知得氏

 初日の8月6日には、会場内に設置されたイベントステージにおいてエヌビディア ジャパン テクニカルマーケティング・エンジニアの矢戸知得氏による「DIYで人工知能:オープンソースでAIデバイスを作る方法」と題する講演が行なわれ、自動運転の開発ボードとなる「DRIVE PX」にも採用されているNVIDIAのSoC(System on a Chip)「Tegra X1」を搭載するJetson TX1を利用し、ディープラーニングを活用したAIデバイスを自作する方法が解説された。

 このなかで矢戸氏は「ディープラーニングは以前は大規模な企業でしか活用できなかったが、現在はフレームワークやディープラーニングの学習データなども公開されており、個人でもディープラーニングを活用したAIデバイスを作ることが可能だ」と述べ、実際に矢戸氏によるAIデバイスの制作する過程を紹介しながら、ディープラーニングを活用する方法などを紹介した。

個人でもディープラーニングを利用する環境が整っている

 Maker Faire Tokyo 2016は、元々米国で行なわれていたメイカーの祭典である「Maker Faire」の日本版で、メイカー自身が販売などを行なうコミックマーケット的な側面と、NVIDIAのように企業がスポンサーとして出展し、自社のソリューションを展示するという両方の側面を持っている。今回、NVIDIAはMaker Faire Tokyo 2016でTegra X1を搭載している開発ボードのJetson TX1、Tegra K1を搭載しているJetson TK1の即売を行ない、Jetson TX1は通常より25%OFFの7万円、Jetson TK1は通常より35%OFFの1万9000円で販売していた。

Jetson TK1、Jetson TX1の即売も行なわれ、市場価格よりもやや安価な価格で提供されていた
ディープラーニングが多く進化した2015年

 矢戸氏のプレゼンテーションでは、Jetson TX1を使ってAIを利用したデバイスを自作する方法についての説明が行なわれた。矢戸氏は「昨年はディープラーニングが大きく進展した年で、ImageNetの画像認識でコンピュータが人間を上まわったり、GoogleのAlphaGoが世界チャンピオンを破るなど大きな躍進が起こっている。これまでも何度か人工知能のブームはあったが、そのたびにうまくいかなかったが今回は本物だと考えている人が多い」と語り、2015年に起きたさまざまなディープラーニングの発展によりAI(人工知能)の研究が進歩し、実用化への目処がついている状況を説明した。

 さらに「ディープラーニングが加速している3つの要因は、ビッグデータにより学習させるデータが増えていること、よりより学習モデルが登場していること、さらに弊社が提供しているGPUが強力なアクセラレータとして利用されていること」と矢戸氏は述べ、ディープラーニングは人間の神経回路を模した「人工ニューロン」がつながっていき、それを複数の層に重ねていく仕組みで学習を行なっていくことなどを説明。「ディープラーニングの一番の恩恵はロバスト性。従来のプログラミングモデルではイレギュラーなことが起きると精度が上がらない。しかし、ディープラーニングの学習を利用すると、安定して性能を発揮できる」と述べ、GPUの並列演算などをうまく活用することでパフォーマンスが大きく向上することなどを説明した。

ディープラーニングが加速する3つの要因
ディープラーニングの恩恵

 そして、こうしたディープラーニングのメイカーに対するメリットについて「ディープラーニングは新しいモデルとして非常にインパクトがある。従来は大きな会社しかできなかったことが、メイカーであっても学習データさえ用意できれば、AIを利用した新しいないかができるようになる」と述べ、メイカーのような個人や小規模の事業者であっても、ディープラーニングを活用することでAIを利用した電子機器を簡単に設計できるようになるとアピールした。

ディープラーニングに必要な開発環境は整っており、アプリケーションを作るだけ

矢戸氏は雑誌「インターフェース」2016年7月号に記事を掲載

 今回の矢戸氏の講演は、雑誌「インターフェース」の2016年7月号に矢戸氏が書いた「Jetson TX1で人工知能」という記事がベースになっているという。当初、矢戸氏は簡単に記事を書けるだろうと思っていたそうだが、実際には検証などがなかなか終わらず、海外に出張するときも機材を持って行って記事作成したそうだ。

 矢戸氏によれば「今回のプログラムは自分で作った部分は少ない。プログラムはTEDのコンテストで入賞したディープラーニングの論文で、コンピュータが人間が話す自然語で写真の位置関係や背景を説明できるようになる研究成果を使わせてもらった。実際のコードもGithubで公開されており、Ubuntsu Linuxが動くPCを自分で用意すれば利用できる」とのことで、プログラミングがあまり得意ではないというメイカーの人であっても、PCが動かせる知識があれば、比較的容易に取り組むことができると強調した。

「日本ではChainerとかディープラーニングのフレームワークは公開されている。また、ニューラルネットワークのモデルやデータもかなり公開されており、弊社からもライブラリやアクセラレータとなるGPUが提供されている。それらを組み合わせて利用すれば、あとはアプリケーションをつくるだけでよい」と矢戸氏は説明し、そうした公開されているフレームワークやモデルなどを利用して、PC上で簡単にポートすれば、ディープラーニングに比較的簡単に取り組むことができると強調した。そして、実際に矢戸氏が利用したJetson TX1を利用して行なった開発手順が公開され、GPUを搭載しているPCや、AmazonやGoogleなどのクラウドベースのGPUを利用するサービスを使って演算した成果をJetson TX1のシステムに展開していくと説明した。

ディープラーニングを利用する仕組みは公開されている
ディープラーニングを利用したシステムのJetson TX1への展開

 実際に矢戸氏は、PC上で自分のデータ(矢戸氏のご子息の写真やNVIDIA本社の写真)などで学習させた成果を、Jetson TX1ベースの開発キットに展開し、その動作を確認していったという。「ディープラーニングを使って実証してみると、その結果が時間で変わったりと、いろいろなことを気付かされる。それを再度プログラムにフィードバックしていった」と述べ、開発の過程で気がついたことなどにより課題に対処していく楽しさなどについても語った。矢戸氏は汎用的なパーツを利用してJetson TX1ベースのシステムを組み上げ、プログラムを作り(といってもほとんどは公開されているものの応用で、一部だけで済んだそうだ)自作していった。それを持って街に出て、実際の状況からAIがどのように動くのかなどを検証していったそうだ。

学習の様子
矢戸氏が自分でコードを書いたのは青い部分だけ
NVIDIAブースでは矢戸氏が試作したJetson TX1ベースのAIデバイスも展示された

 矢戸氏は「実際にものを作ってみると、期待したほどうまくいかないといった課題もあり、もっと学習用のデータセットを増強する(必要がある)とかの気付きもあった。ディープラーニングの普及はメイカーにとってもチャンスなので、ぜひ取り組んでみてほしい」とまとめ、最後にNVIDIAのSNSアカウント(TwitterFacebook)を紹介してプレゼンテーションを終了した。

街で実際に動作させている様子。タクシーなどをAIが認識している
NVIDIAブースに展示されていたJetson TX1ベースのインドア型ロボット「Dude」
Jetson TX1と、ディープラーニングのフレームワークであるChainerを利用した画像変換プログラム。ディープラーニングを利用してAIが自動で絵を他の画風に変換する
Jetson TX1に"眼"の機能を追加するZEDステレオカメラ
NVIDIAブースで配布されていたノベルティ
矢戸氏のプレゼンテーションで使用されたスライド資料