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スバル、走れるエンジニアを育成する「スバルドライビングアカデミー」
200km/hで走る編隊走行を披露
2016年8月9日 19:38
- 2016年8月7日 実施
スバル(富士重工業)は8月7日、車両開発に携わるエンジニアのドライビングスキルと評価能力を高める「SDA:スバルドライビングアカデミー」のトレーニングを公開した。
SDAには車両開発に携わる20名のエンジニアが参加。超高速領域や限界領域での車両コントロール技能を習得する走行訓練などをつうじて、エンジニアが同じような基準でクルマをきちんと評価できる能力を高めようという取り組みになるという。
同日開催された説明会で、SDAチーフインストラクターを務める藤貫哲郎氏は「我々は“安心と愉しさ”をキーワードにしてクルマを作っています。しかし、“安心と愉しさ”といっても非常に抽象的です。何を“安心”や“愉しさ”と感じているのか、抽象的なものを図面にするときは、とにかく走って自分は何を感じているのかを考えて物理に置き換えていくことが大切。ですのでエンジニアがきちんと走らないといけない、さらにエンジニア自身の評価能力が低いと皆さんに喜んでいただけるクルマができないということで、ドライバーの評価能力を高めるのは、いいクルマを作る上でたいへん大切。そういった人づくりの取り組みになります」と、SDA開設の狙いを話した。
スバルの車両開発では、計測や実験を専門に担当するテストドライバーを置かず、エンジニアがテストまで一貫して担当することが特徴という。
藤貫氏は「スバルでは計測やテストだけをする、いわゆるテストドライバーという専門の人はいないんです。エンジニアが実際に乗って感じた細かいニュアンスまで開発に取り込めるといったところが我々の強みじゃないかと思い、SDAはこの強みをもっと活かしていきたいという取り組みになる」と話した。
スバル社内のライセンス区分は「初級」「中級」「高速」「特殊」と設定されている。エンジニア自らが走らせてテストする伝統はあるものの、以前より走らせる機会が少なくなり会社として危機感があったという。
藤貫氏は「初級、中級、高速までは講義を受けて訓練をすれば取れるライセンスですが、一方で特殊ライセンスはある基準タイムや条件をクリアしないと取れないライセンス。技術本部は約3000名いますが、今、特殊ライセンスを持つ者は10名いません。いままでは自らモータースポーツをやっているといったところに甘えていましたが、会社としてきちっと人間を育てていかないということで、20名を受講生として選んでトップエンドの人材を育てる取り組みになる」と話した。
スバルドライビングアカデミーのプログラムを体験
今回の取材会では、SDAに参加するエンジニアがインストラクターとなって、筆者も「WRX STI」「BRZ(改良前モデル)」を使って、高速周回路で180km/hの高速走行や特設ジムカーナコースでのタイムトライアル、ウエット路面における旋回プログラムなどを体験することができた。
高速周回路を使った体験プログラムでは、トレーニングとして行なわれている180km/hの一定速度で走らせることにチャレンジ。アクセルを一定にすれば一定速で走れるというものではなく、道路の形状や勾配に合わせて速度が変化してしまい、先の状況を予測しながらアクセル操作をしていく必要があった。同乗したインストラクターによると、車両を評価するためには一定速で走らせる能力が必要といい、一定速で走らせることで車両ごとの特性に気づくことができるという。
また、特設ジムカーナコースではタイムトライアルを実施。タイトなコーナーを連続してクリアするためには、コーナリングワークの基本となるブレーキング⇒ターンイン⇒旋回といった一連の運転操作を正確に行なうことが必要となる。タイヤの摩擦円を意識した走行も求められ、つい“タイムを出したい”という気持ちを抑えきれず、ブレーキングが遅れて速度が高いままコーナーに進入するとステアリングを切っても曲がらない、といったことを体験することができた。
SDAの受講生として集まった20名のメンバーについて、藤貫氏は「運動性能を開発するメンバーだけでなく、パワーユニットの実験、アイサイトの実験、電動車の実験。そういった幅広い部署からメンバーを集めて、スバル技術本部として全体的なレベルを上げる。将来的には彼らが全体的な底上げをする役割を担う」と話した。
新型「インプレッサ」の開発において、リアスタビライザーの取り付け位置を変更
また、取材会では新型「インプレッサ」の開発主査 阿部一博氏がゲストとして登場。阿部氏はエンジニアが実際に走って評価するスバル独自の開発手法を象徴するエピソードとして、新型インプレッサの開発の中で、リアスタビライザーの取り付け位置を開発途中で変更したことを明かした。
当初計画でリアスタビライザーはサブフレーム一体で取り付けていたが、エンジニアたちがスタビライザーを車体に直付けしたほうが特性がよいことに気がつき、エンジニアたちの提案により設計が変更されたという。
阿部氏は「車体に直付することでサスペンションを硬くせずにロールを抑えられる、乗り心地はいいのにロールはしない。乗った時の第一印象は“すごいなこれは”と言って、途中から言われても苦労するしかない」と、取り付け位置を変更することに腹をくくったという。
新たな取り組みとなるSDAに関して、阿部氏は「プラットフォームを新しくすればクルマがよくなるとは限らない。クルマがよくなる技術を持った人間が開発をやってくれるからプラットフォームを新しくすることが活きる」などと、参加するエンジニアたちの成長に期待感を示した。