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スバル、衝突安全性能評価で過去最高点の新型「XV」64km/hオフセット衝突試験を公開

「“笑顔をつくる会社”の重要な要素として“安心と愉しさ”がある」と岡田広報部長

2017年5月24日 開催

オフセット衝突試験が行なわれたスバル「XV」

 スバルは5月24日、群馬県太田市のスバルビジターセンターと群馬製作所で報道関係者向けの「スバル テックツアー」第5弾として「衝突試験見学会」を開催した。

 スバルの歴史や技術などを紹介しているこのスバル テックツアー。5回目の開催となる今回は、4月にNASVA(自動車事故対策機構)から発表されたJNCAP(自動車アセスメント)の衝突安全性能評価で「インプレッサ」と「XV」が過去最高得点の199.7点を獲得し、NASVAから「衝突安全性能評価大賞」が贈られ、同時にインプレッサとXVの全車で「歩行者保護エアバッグ」を標準装備していることが高く評価され、JNCAPの「衝突安全性能評価特別賞」にも認定されたことを受け、このW受賞を記念して、このように高く評価されているスバルの安全性能がどのように生み出されているのかについて紹介された。

今後の課題は「衝突安全」「歩行者保護」

株式会社スバル 広報部 部長 岡田貴浩氏

 見学会では最初に、スバル 広報部 部長の岡田貴浩氏が登壇。岡田氏は「我々は先月、株式会社スバルと社名を変更しました。このなかで『モノをつくる会社から笑顔をつくる会社へ。』と宣言させていただきました。これがどういった意味かと言えば、お客さまがクルマを買っていただいたあと、いかに『安心と愉しさ』を感じて、笑顔になっていただけるかということだと思っています。その『安心と愉しさ』の重要なポイントとして、スバルの総合安全があると思います」と述べ、スバルが掲げている「SUBARUの走行安全」について紹介。

 また、交通事故の現状などを紹介し、スバルの先進安全技術「アイサイト」の展開によって追突事故の発生率は大きく引き下げることができた半面、歩行者事故では死者数が半減程度に止まっていることを語り、「そこの部分をいかに広く、早く対応できるかといった対応を行ない、さらなる進化をさせていこうとしているところです」とコメント。アイサイトで成果を挙げることができた「予防安全」に加え、今後の課題とする「衝突安全」「歩行者保護」などに関するスバルの取り組みを見学してもらい、質問や意見を聞かせてほしいとした。

“笑顔をつくる会社”の重要な要素として“安心と愉しさ”があると岡田氏
「SUBARUの走行安全」
政府目標は「2020年までに交通死亡事故者数を2500人まで引き下げる」というもの
この10年でクルマの乗車中の死者数は大きく低下したが、歩行者についてはあまり減少していないという
アイサイト(ver.2)の登場で追突事故を84%減少させたが、歩行者の事故は49%減に止まっている
交通死亡事故ゼロを目指して安全性能を追求しており、「インプレッサ」「XV」が2016年度のJNCAPで「衝突安全性能評価大賞」を受賞
交通死亡事故ゼロの目標達成に、歩行者保護は大きなポイントとなる
今後は「衝突安全性能」「歩行者保護」に注力していく
当初は登場予定のなかった株式会社スバル 代表取締役社長 吉永泰之氏も一瞬だけ飛び入り参加。「今日はどーん!とクルマをぶつけたり、いろいろとしますので、スバルの取り組みをいっぱい見ていってください」とコメントした

「歩行者保護性能の根本解決」「乗員胸部保護性能の進化」「後席シートベルトの着用率向上」の3点に注力

株式会社スバル 第一技術本部 車両研究実験第2部 部長 古川寿也氏

 岡田氏のプレゼンテーションに続き、スバル 第一技術本部 車両研究実験第2部 部長の古川寿也氏がスバルの安全思想や安全技術の開発の歴史などについて解説したあと、現在重点的に取り組んでいる衝突安全性能と歩行者保護に関する採用技術や開発の狙いなどを紹介した。

 このなかで古川氏は、日本の交通事故では交通事故死亡者数の半分以上が歩行者と自転車の乗員となっており、これは諸外国と比べて極めて高い比率であり、全般的に治安が良好で夜間になっても歩行者が多く、また高齢者になっても自分の足で歩いて外出する人が多い日本社会の特色であると分析。死亡者数の削減には歩行者保護をしっかりと高めていくことが重要だとの認識を紹介した。

 また、クルマに乗っている人の交通事故にあったときの死亡原因では、2004年は頭部の受傷が41%となっていたが、10年後の2014年は割合が31%に低下。代わって胸部の受傷が34%でトップになっているという。これについて古川氏は、頭部の受傷がエアバッグの進化で緩和傾向になった一方で、高齢化によって事故が起きたときに肋骨を痛めて死亡原因になるケースが多くなったと解説。そこで、乗員保護では胸部の障害値をいかに減少させるかが焦点になるという。

 このほか、後席の乗員のシートベルト着用率は2008年の「後部座席シートベルト着用義務化」に前後して2007年の8.8%から30%台に増加したが、それから10年近くは横ばい状態で、この面でも対策が必要であると述べている。

中期経営計画「Motion-V(モーションファイブ)」の6つの取り組みの1つに「安全」が掲げられている
事故を「安全状態」から「被害拡散」の4つのフェイズに分け、事故が起きる前の「予防安全」ではアイサイトによって大きな成果を挙げている
スバルでは1965年に「スバル 360」で前面衝突試験を行なって以降、独自の安全技術開発を続けているという
衝突安全性能の開発の歴史
初期の「正面衝突」「後面衝突」から現代では研究領域が多様化、複雑化している
新世代プラットフォーム「スバルグローバルプラットフォーム」を採用したインプレッサとXVではJNCAPで「衝突安全性能評価大賞」を受賞する結果に
諸外国と比べ、日本では歩行者と自転車の死亡者数が倍以上の割合となる
2004年と2014年の交通事故における死亡要因
後席のシートベルト着用率も4割以下に止まっている
「歩行者保護性能の根本解決」「乗員胸部保護性能の進化」「後席シートベルトの着用率向上」の3点に注力してインプレッサやXVを開発

 これらを受け、新しいインプレッサやXVでは、新世代プラットフォーム「スバルグローバルプラットフォーム」の採用で衝突事故の発生時にもしっかりとキャビンを保護して乗員を守るようにしたほか、日本の情勢を鑑みて「歩行者保護性能の根本解決」「乗員胸部保護性能の進化」「後席シートベルトの着用率向上」の3点に注力して開発を行なっているという。具体的には、歩行者保護性能では「歩行者保護エアバッグの全車標準装備」、乗員の胸部保護では「ニーエアバッグとダブルプリテンショナー+ロードリミッター付シートベルトの全車標準装備」、後席シートベルトでは「インジケーター+警報音で注意喚起する後席ベルトリマインダー」で対応していると述べ、それぞれの技術詳細を解説した。

 このほかに古川氏は、「衝突安全性能評価特別賞」を獲得した歩行者保護エアバッグについて、他社製品ではエアバッグの展開時にボンネットを付け根部分から少し持ち上げ、広くなったスペースからエアバッグを広げていることに対し、スバルでは技術開発によって通常状態のままで展開可能としたことで低コスト化を実現していることを紹介。さらに開発時にさまざまなダミー脚部などを使ってエアバッグ展開が求められる状況をしっかりと把握。これにより、必要なときに確実に作動するようにした一方で、不要なときは開かないような制御を行なっていると語り、公開する試験でも複数の状況で「歩行者保護エアバッグが展開しないシーン」を用意した。

歩行者保護性能の課題となっていたAピラー付け根部分の障害指標を歩行者保護エアバッグで解消
歩行者保護エアバッグはT字型に展開することで、ブレーキで前方に荷重がかかっても狙った位置に止まり、しっかりと歩行者を保護する
歩行者保護エアバッグは、バンパーに内蔵するシリコンチューブの内部にある空気の圧力変化をセンサーで計測。温度センサーも通常の1つから2つに増やし、外気温に影響されやすい車外でもきちんとエアバッグが展開できるよう制御する
歩行者保護エアバッグの展開すべき状況を、ダミーを使った試験でデータ化
歩行者との衝突以外のシチュエーションでは、エアバッグが作動しないようにしている
ニーエアバッグの展開で運転席に座っている乗員の下半身を拘束。シートベルトとエアバッグが適切に乗員を保護できるようにしている
プロペラシャフトが200mmまで縮んで衝突エネルギーを吸収する
他社ではインジケーターのみとなる後席ベルトリマインダーも、乗員を適切に判定できるので警報音を出せるとアピール
「レヴォーグ」のユーザーアンケートでも、後席のシートベルト着用が増えたとの結果が出ているという
スバルグローバルプラットフォームは今後も改良を進め、2025年までにさらなる衝突安全性能の向上を見据えているという
スバルグローバルプラットフォームの改良ポイント
スバルグローバルプラットフォームの採用と3つの点に注力したことで、JNCAPで高い評価を得たと分析している
このほか、スバルでは一般的な「フルフラップ」「オフセット」といった衝突試験以外にも、多彩なシチュエーションで衝突試験を実施。さまざまな視点から安全性を高めているといしている

オフセット衝突試験

新型XVを64km/hのスピードでカタパルトで牽引。アルミバリアにオフセット衝突する瞬間

 プレゼンテーション後には、まず64km/hで走行する車両の全幅の40%をアルミバリアに衝突させる「オフセット衝突試験」を実施。衝突後もすべてのドアがしっかりと開閉可能な状態に保たれ、乗員をスムーズに救出できること、衝突側のボンネットがヒンジ部分で山折りになり、フロントウィンドウに刺さらないように設計していることなどが紹介された。

オフセット衝突後のXV
衝突後もドアが開くこと、ボンネットがヒンジ部分で山折りになってフロントウィンドウに刺さらないようになっていることなどを解説
運転席ではニーエアバッグがしっかりとドライバー(ダミー)の下半身を拘束した痕跡も確認された
運転席に大柄な男性のダミー、後席に小柄な女性のダミーが乗せられて試験が行なわれた
アルミバリア

歩行者保護エアバッグの静展開試験

歩行者保護エアバッグの静展開試験はシルバーとブルーのインプレッサで実施

 歩行者保護エアバッグの試験は、停車状態の車両で擬似的にエアバッグを展開させる2種類の「静展開」と、衝突したものを歩行者と判定せず、エアバッグが展開しない2種類の試験が行なわれた。

圧縮空気を使ってインプレッサの歩行者保護エアバッグを展開する試験。大きな音を伴って瞬間的にエアバッグが展開
車両のフロントバンパーの一部を外し、衝突した物体を判定する圧力センサーとシリコンチューブについて解説
2種類目に試験は、土砂や雪などがボンネット上に溜まっていてもエアバッグが展開することを示す内容。試験用のダミー素材を巻き上げ、エアバッグが展開した
水が入ったペットボトルを載せたショッピングカートに衝突する試験。大きな衝撃でショッピングカートも跳ね飛ばされたが、歩行者保護エアバッグは展開しなかった
最後の試験は水深200mmの水壕に突入するシチュエーション。やはり歩行者保護エアバッグは作動していない
試験前のプレゼンテーションは歴代スバル車などの展示が行なわれている「スバルビジターセンター」が会場として使われた