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無限、2017年のマン島TTレースに参戦する電動マシン「神電 六」テストレポート

「4連覇と記録更新、ワンツーフィニッシュを狙う」とチーム監督の宮田明広氏

2017年4月10日 開催

神電 六を駆るガイ・マーチン選手

 無限(M-TEC)は4月10日、電動バイク「神電 六(SHINDEN ROKU)」のテスト走行を千葉県・袖ヶ浦フォレストレースウェイで行なった。

 神電 六は、英国王室属領・マン島で5月27日~6月9日までの日程で開催される公道レース「The Isle Of Man TT Races 2017」(マン島TTレース)の「TT Zero」クラス参戦車両。2017年のTT Zero参戦ライダーであるガイ・マーチン選手とジョン・マクギネス選手がテストのために来日し、設計通りに稼働するかどうかの確認も兼ねて走行テストが繰り返された。

 取材した午前中のセッションでは、初めて無限の電動バイクに触れるマーチン選手が、まずは慣熟を主目的に走行した。前日までの雨の影響で路面のところどころにウェットパッチが残っていたため、1時間ほど遅らせて走行を開始したことも影響したのか、挙動や感触を確かめるように慎重に走らせ、何回かのマシンチェックを挟みながら計31周のテストを滞りなくこなした。

テスト走行前の整備が進む2号車、ガイ・マーチン選手のマシン
これから初ライドすることになるマシンを見つめるマーチン選手
チームメイトのジョン・マクギネス選手やスタッフらと談笑する姿も見せ、リラックスしている様子も
準備が整い、新品タイヤにタイヤウォーマーが巻かれた
フロントカウルにはライダーの名前と国旗が刻まれる
こちらは1号車、マクギネス選手のマシン
残念ながら午前中はマクギネス選手が走るチャンスはなかったが、またがってフィーリングの確認(?)をするシーンも
神電 六に乗車するマーチン選手
音もなく、ゆっくりピットを出て行った
最初はかなり慎重に、確かめるように走っていたマーチン選手。セッションを重ねるに従って徐々にペースを上げ、タイムを縮めた
午前のテスト走行が終了。バッテリーを冷却しながら充電していた
マン島TTレース参戦マシン「神電 六」の走行動画(37秒)

進化・熟成が進む神電 六の最新テクノロジー

 2017年型の神電 六は、2016年にTT Zeroクラス3連覇を達成した「神電 伍(SHINDEN GO)」の熟成版と言えるもの。車体ディメンションや動力となるモーターのスペックは昨年同様で、車重がおよそ2kgほど軽量化している以外はスペック上に目立つ変更点はない。

 ただしコントロール性を向上させ、効率よく電気を使えるよう、バッテリーやモーター等制御系のハードウェア・ソフトウェアを改善。エアロダイナミクスの改良も合わせて行ない、最高速アップと騒音低減を果たした。「4連覇と記録(ラップタイム)更新、ワンツーフィニッシュを狙う」と、チーム監督を務める同社モータースポーツ事業部の宮田明広氏は意気込む。

神電 六の心臓部である油冷式三相ブラシレスモーター。最高出力120kW(163.2PS)、最大トルク210Nm(21.4kgm)を発生
カーボンモノコックフレームに格納された日立マクセル製ラミネート形リチウムイオンバッテリー

 大きな変更点がないように見える神電 六だが、コンポーネントを細かく見ていくと進化した最新の電動レースバイクならではの技術がふんだんに盛り込まれていることが分かる。例えば前後サスペンションは、この神電 六のためにショーワが「今出せる最新のもの」を投入した。フロントサスペンションは金属バネを一切使わない「SFF(Separate Function Front Fork)-Air」を採用。右側はバネ代わりとなる窒素ガスが封入され、左側はダンパーのみという非対称構成のエアサスペンションだ。

フロントサスペンションは神電 六専用品と言ってもいい「SFF-Air」
右フォークに窒素ガスを封入。左フォークにはダンパーとオイルのみが入っている

 エアサスペンションはモトクロス競技の現場ですでに採用が進んでいるが、その技術を元にロードレーサー用にモディファイを施したものになる。他のロードレースも含め、神電 六以外にはまだどこにも提供していない“特別品”となっており、徹底的に軽量化・低フリクションを目指すとともに、耐久性にもこだわった。神電 六が248kgという市販のビッグネイキッドかそれ以上の車重であることも理由の1つだが、マン島のコース上では「ジャンプするポイントもある」ことから、通常のスーパーバイクレース用サスペンションより1.3kgほど軽量化しながら3~4割程度耐久性の高い「一生モノの頑丈さ」に仕上げているという。

 窒素ガスのガス圧のバランスによって金属バネのような反力を得る仕組みで、従来のサスペンションとは異なるフィーリングになる部分もありそうだが、車両開発時、テストライダーを務めた宮城光氏の意見はポジティブなものだった。と言うのも、電動バイクはエンジンの振動がないため、その分通常のサスペンションではバネの微細な振動がハンドルなどに伝わって違和感を覚えやすいのだとか。エアサスペンションは、そういった振動が発生する部品自体がない点がメリットの1つでもあるようだ。

 SFF Airは今後市販車への採用にも期待がかかる。部品点数が少ないことから、量産できれば将来的には従来型サスペンションよりコスト低減の効果は高いのではないかと担当者は見ている。

 なお、リアは「BFRC-lite」(Balance Free Rear Cushion-lite)という、最新型のホンダ「CBR1000RR」などに採用されている小型・軽量化した高性能サスペンションを採用する。バネはレース専用の軽量・高剛性な素材を採用し、これをクロスリンクロッカーという神電 伍から採用している独自の方式で、ガルアームタイプのカーボン製スイングアームに取り付けられている。

カーボン製スイングアームにクロスリンクロッカー方式で取り付けられたリアショック「BFRC-lite」

 ブレーキキャリパーも神電 六になって変わったパーツの1つ。神電 伍から引き続き前後ともニッシン製を採用するが、フロントは昨年までの6ピストンから4ピストンにスイッチした。公道で競われるマン島レースは「意外にハードブレーキするポイントが少ない」うえに、マン島の気候自体も穏やかであることから、通常のレーストラックと違って「(ブレーキパッドやブレーキディスクの)温度が上がりにくい」のが特徴だ。そのため、レースバイク用のブレーキとして軽さとコントロール性を追求すると同時に、マン島レース特有の環境に最適な(高い)ブレーキ温度を維持しやすくなる設計を施しているという。

 冒頭で述べた通り、公道レースの「The Isle Of Man TT Races 2017」は、マン島で5月27日~6月9日までの日程で開催される。6代目となり進化・熟成の進む神電 六が、TT Zeroクラスで4連覇を達成できるか、ガイ・マーチン選手とジョン・マクギネス選手の活躍に注目したい。

スクリーンの内側にはGPSユニットとバッテリーの異常を知らせるLEDを配置。テスト走行時は搭載されていなかったが、今後は本番に向け小型カメラも車体に取り付けられることになる