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ダッソー、9月から新サービス「3Dプリンティングバリューネットワーク」スタート

「3DEXPERIENCE FORUM JAPAN 2017」で最新のCFDやVRを紹介

2017年6月6日 発表

展示会場に用意されたヘッドマウントVRの体験コーナー

 ダッソー・システムズは6月6日~7日、東京都港区のザ・プリンス・パークタワー東京で年次イベント「3DEXPERIENCE FORUM JAPAN 2017」を開催している。

 この年次イベントでは、ダッソー・システムズが提供している「3DEXPERIENCE」やソフトウェア群などの最新情報を、多彩なセッションや製品展示などで紹介。さらに初日には仏ダッソー・システムズ 社長兼最高経営責任者(CEO)取締役副会長のベルナール・シャーレス氏などによる記者説明会が実施された。

仏ダッソー・システムズ 社長兼最高経営責任者(CEO)取締役副会長のベルナール・シャーレス氏

 記者説明会でシャーレス氏は「本日はみなさまに4つのトピックをお伝えしたい。まずは『ビジネスアップデート』。我々の3DEXPERIENCEプラットフォームはたくさんの業界、セグメントで採用が進んでいます。2番目は『第4次産業革命』が起こっているということで、これは2年前にスタートしたものです。『デジタルエコノミー』が立ち上がってきたということです。3番目には『なぜ、今、ビジネスプラットフォームの時代なのか』『ビジネスエクスペリエンスのプラットフォームはなぜ必要なのか』です。最後は私たちがお客さまとどういったことを進めているのかについてご紹介します」と語り、プレゼンテーションを始めた。

 ダッソー・システムズのビジネスは高水準の成長を続けており、前年度に引き続いて自動車・輸送機械のセクターが全体の成長を牽引していると紹介。地域別では中国やアメリカ、欧州で業績を伸ばしており、とくにシリコンバレーでEV(電気自動車)や自動運転車の開発に3DEXPERIENCEが採用されているという。

 また、2016年12月に流体解析ソフトウェア「XFlow」の開発元であるNext Limit Dynamicsをダッソー・システムズが買収したことを受け、この6月にXFlow製品の日本国内向け販売やサポートを行なっているISID(電通国際情報サービス)と戦略的アライアンス契約を締結したことを紹介。さらに2016年度のソフトウェア収入で31%がハイテク、船舶・海洋、エネルギープロセスといった新規産業での採用拡大によるものだったと明かし、造船業界ではとくに高度な分野で開発が進められ、中国で劇的な伸びを見せているという。

2016年度も新規ライセンスの伸長で高水準の成長をキープ
南北アメリカで6%、欧州、アジアで各8%の成長率となった
営業地域を拡大し、アジアや南米、東欧などの新しい市場にも積極的に展開
クルマの燃費向上や排出ガスの環境負荷抑制などにも利用されている「XFlow」の開発元であるNext Limit Dynamicsを買収。さらに6月からは日本での販売やサポートを手がけるISID(電通国際情報サービス)ともパートナーになった
ソフトウェア収入ではハイテク、船舶・海洋、エネルギープロセスといった新規産業が31%となり、自動車・輸送機械と並んでいる

 ビジネスアップデートについて紹介を行なう理由についてシャーレス氏は「お話ししたいのは数字のことだけではなく、我々が獲得しているビジネスの性質を理解してほしいのです。新しい業界に対して、3DEXPERIENCEプラットフォームが新しい波を起こしています。我々の戦略は、地球環境の持続可能性を担保し、技術革新を実現して人々の生活と製品の調和をもたらすこと。COP21が多くの国によって調印されたことを誇りに思っており、アメリカで起きたできごとで議論が起きているとしても、この流れは止まりません。我々のお客さまに対し、ダッソー・システムズは環境に優しいイノベーションを起こすお手伝いをしているのです」とコメントした。

ハイテク産業ではエリクソン、サムスン・エレクトロニクスで採用されるなど、収入増を実現
船舶関連ではオーストリアの潜水艦導入プロジェクトでも3DEXPERIENCEが採用された
エネルギー産業ではエクソンモービルをはじめ、ロシアの原子力・水力発電にも使われている
ダッソー・システムズの理念
「第4次産業革命」は1970年代からスタートしているとシャーレス氏は解説
変化する各国の製造産業に適応するため、ダッソー・システムズは各地に拠点を持っており、先週3DEXPERIENCEラボを韓国にオープン。将来的には中国の北京にも立ち上げることになるという

3DEXPERIENCEの新サービス「3Dプリンティングバリューネットワーク」

仏ダッソー・システムズ エグゼクティブ・バイス・プレジデント 最高戦略責任者 モニカ・メンギニ氏

 続いて具体的なビジネス内容について、仏ダッソー・システムズ エグゼクティブ・バイス・プレジデント 最高戦略責任者のモニカ・メンギニ氏が解説。メンギニ氏は2010年に行なわれた事業再編のタイミングで、ダッソー・システムズでは世界で起きていることを「ソーシャル」「インダストリー」「エクスペリエンス」の3ジャンルに分類。そしてこの3ジャンルに属するすべての同社部門で3DEXPERIENCEを導入することを決定したという。

 また、メンギニ氏は「私たちはGDPが製品を購入しているだけで伸びるとは思いません。今ではエクスペリエンスを購入することでGDPは伸びているのです。お客さまはモビリティや輸送分野からファッションビジネスまで、単純に製品を作って済むとは思っておらず、もちろん市場で勝つために製品は必要ですが、それ以上に消費者にサービスを提供する必要があります。製品だけでなく、エクスペリエンスそのものを提供できなければいけないと私たちは考えています」と語り、ダッソー・システムズではソフトウェアの一部だけを提供しているのではなく、それぞれの業種に関連するソフトウェアのソリューションやサービス、コンテンツなどを提供していると紹介した。

オンラインモバイル製品の使い勝手を高める「ソーシャル」、ビジネスソリューションを提供する「インダストリー」、ソフトウェアやサービスなどを用意する「エクスペリエンス」の3ジャンルで戦略を展開
「2020年までに世界経済の25%がデジタル化される」というエコノミストの試算
すでに75%の企業はデジタル化について試行、調査などを進めているという
新興企業の7割はプラットフォームカンパニーであるという
企業による注目点の違い
ビジネスは社会構造と密接に繋がっている

 さらにメンギニ氏は、エコノミストが「2020年までに世界経済の25%がデジタル化される」と試算していることを紹介し、昨今で誕生するスタートアップ企業の70%は「プラットフォームカンパニー」であると指摘。既存の企業がそれぞれで製品開発を手がけ、製品の売り上げの最大化を目的にしていることに対し、プラットフォームカンパニーでは自分たちのプラットフォームの収益性を高めるべくパートナー獲得に努め、トランザクション数の最大化を目指していると語り、3DEXPERIENCEのマーケットプレイスではこれまでもオペレーティングシステムとして製造企業とプラットフォームカンパニーを繋ぐ役割を果たしてきたが、新たに9月から最大規模となる「3Dプリンティングバリューネットワーク」をオープンさせると発表した。

 この「3Dプリンティングバリューネットワーク」では、プラットフォームカンパニーなどが3Dモデルをアップロードし、予算や製作期間、素材、仕上げのクオリティなどこまかな仕様を提示すると、これを3DEXPERIENCEで認定されている3Dプリントを手がける会社が受注に名乗りを上げるシステムとなっている。これにより、プラットフォームカンパニーは最適な発注先と連絡が取れるようになり、3Dプリントの会社も多くの受注先を得ることができるという。スタート当初は世界140カ国でサービスが行なわれ、この段階では日本は対象とならないものの、将来的にアジアでもサービス展開を視野に入れているとのことだ。

3DEXPERIENCEはオペレーティングシステムとビジネスモデルのどちらも備える
3DEXPERIENCEでインダストリー・ソリューション・ポートフォリオを提供
3DEXPERIENCEのマーケットプレイスで売り手と買い手を繋ぐ「3Dプリンティングバリューネットワーク」を9月にスタートする
「3Dプリンティングバリューネットワーク」では「ソリッドワークス デスクトップ」「CATIA V5」などのダッソー・システムズが手がけるデータだけでなく、ユーザーが使っている多彩なソフトウェアに対応
「3Dプリンティングバリューネットワーク」を通じて実際に製作を手がける企業に依頼できるようになる
他社のプラットフォームには不可能な多彩な機能を持つ3DEXPERIENCEを「ビジネス・エクスペリエンス・プラットフォーム」と位置付ける

ダッソー・システムズの製品やソリューションをVRなどで紹介

展示ゾーンの様子

 会場では記者説明会や各種セッションのほか、ダッソー・システムズの製品やソリューションを利用するさまざまなジャンルの技術や製品について紹介する展示ゾーンも用意された。製品開発にとどまらず、医療や素材の開発、各種計測機器、都市計画など幅広い分野で展示が行なわれていたが、本稿では展示内からクルマに関連するブースの一部を紹介する。

ヘッドマウントVR
ダッソー・システムズのソリューションをVRで体感できるコーナー。HTC VIVEを使い、日本未発売の「DS 7 CROSSBACK」の内外装を好きな角度でチェックしたり、ドアやリアハッチの開閉などを確認できる
グラフィックス処理にはNVIDIAのQUADROを使用。運用全般をアスクが手がけている
大型ディスプレイを活用する商品コンフィギュレーター
ソニーの「Crystal LED Display」に表示した3D CGの「NSX」を画面前方のiPadで操作。ボディカラーやシート表皮などのほか、見る位置や周辺状況などを変更しつつ自由にチェックできる商品コンフィギュレーターの提案
「Crystal LED Display」は左の写真の解説パネルと同じディスプレイを自在に組み合わせ、用途に応じたサイズを実現できることが大きなポイント。画面は美しく動きなども滑らかで、3D CADから生成された高精細な3D CGをしっかり表示できるとアピール
スマートフォンを活用する簡易VR
段ボール製のスコープにスマートフォンを固定した“簡易VR”での販促活動の提案。会場では「ゴルフ」の外観とインテリア、仮想の航空機内の映像を体感できた
3D CADによる軽量化やVR検証
ダッソー・システムズのソリューションで制作した3Dデータを3Dプリンターで現物化した各種見本
それぞれ左側が人間が設計したパーツで、これをもとに、3D CADで条件を入力し、強度などの要件を維持しながら大幅に軽量化した例。金属製のパーツは0.7kgから0.295kgと半減以下となっている。ここでは金属、樹脂ともに3Dプリントで構成しているが、マシニング、鋳造などで製作する場合もそれぞれの条件を満たす形状の最適化が行なわれるという
気体と液体を同時に解析できる「XFlow」
新たに戦略的アライアンス契約を締結したISID(電通国際情報サービス)ブースでは、流体解析ソフトウェア「XFlow」のデモを実施。雨のなかを走るクルマがワイパーを作動させると、走行風と雨滴がどのように動くのか、冠水した路面にクルマが飛び込んだときにどのような影響が出るか、ギヤボックス内に設定した空気抜きの穴とオイルの動きの関係性などをグラフィカルに紹介していた
3D CADに「公差」を設定する生産現場向け支援ツール
トヨタ自動車のグループ企業であるトヨタケーラムのブースでは、3D CADのデータに生産公差を算出する解析ソフトを紹介。素材を考慮して公差が算出でき、品質管理の労力を低減できる
DELL×NVIDIAブース
DELLとNVIDIAの合同ブース。VR向けのワークステーション製品を展示
HP×NVIDIAブース
HPとNVIDIAの合同ブース。ワークステーション製品の「Zシリーズ」が備えるリモートアクセス機能を紹介しており、ワークステーションで生成する大がかりな3Dデータを、インターネット経由で左側のMac Bookで動かすデモを実施