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ヘンケル、“コンポジット素材”を使う新製品開発をアシストする「コンポジットラボ(横浜)」開設
ボルボ「90」シリーズの「インテグラル・アクスル」でも採用される技術を紹介
2017年7月19日 19:13
- 2017年7月19日 開催
独ヘンケルの日本法人であるヘンケルジャパンは7月19日、翌7月20日に開設する技術サポート拠点「コンポジットラボ(横浜)」に関する記者発表会、ならびに見学会を開催した。
化学・消費財メーカーであるヘンケルは、一般用・工業用の接着剤やコーティング剤、ヘアケア製品、洗剤など多岐に渡る分野で製品をリリースしており、自動車関連では工業用接着剤やシーリング材、機能性コーティング材などに加え、FRP(繊維強化プラスチック)の材料となるポリウレタンやエポキシなどを自動車メーカー、部品メーカーに供給している。
ヘンケルではサステイナブル(持続可能)な社会実現に向けた貢献策として、クルマを軽量化するFRPや非鉄金属といった「コンポジット素材」の展開に向け取り組みを進めており、自動車メーカーや部品メーカーがコンポジット素材を自社製品で採用するにあたっての技術紹介や、製品化に向けての相談、試作用金型を使った試作テストなどを行なうのがコンポジットラボとなる。
すでにドイツ本国ではコンポジットラボの運用が始まっており、欧州などでは各メーカーによるコンポジット素材の積極的な導入が始まっているというが、この流れを日本を含むアジア全域でも推進するため、世界で2番目のコンポジットラボが、神奈川県横浜市磯子区にあるヘンケルジャパンのアジアパシフィック技術センター内に設置されることになった。
当日はコンポジットラボの見学に加え、FRPパネルを製作する成型実演も実施。また、実際の製品に利用されるポリウレタンやエポキシなどのほか、ガラス繊維やカーボン繊維のシートを重ねるときに事前に一体化させるバインダー、成型時に使われる金型からFRP部材が外れやすいようにする剥離剤なども一括して生産するヘンケルの技術などについても実際の作業を見ながら解説された。
自動車用FRPホイールを「2018年~2019年といった近い将来に発表」
記者発表会では、コンポジットラボの概要やヘンケルの事業展開などについて、ヘンケルジャパン トランスポート&メタル事業本部 技術サービスグループマネジャー 古永博之氏からプレゼンテーションが行なわれた。
古永氏はヘンケルのグローバル展開について紹介したあと、昨今の自動車業界でトレンドになっている軽量化技術について触れ、従来のクルマはボディのほとんどの部分を鉄で構成していたが、世界的なメガトレンドで軽量化を進めるため、アルミニウムやマグネシウムといった、同じ金属でも鉄より軽い素材が使われるようになり、さらに一方でプラスチックなどの樹脂製品も利用されるようになったことで「プラスチックを非常に剛性の高いパーツとしてクルマに使うことが軽量化の大きなファクターになっている」と解説。このためにコンポジット素材を使うことが効果的だとの考えを示した。
軽量化ではメリットのあるコンポジット素材だが、分単位でタクトタイムが設定される自動車生産に使う場合は量産性に対する要求が高く、効率的な生産を実現するには自動車メーカーだけでなく、部品メーカーも一体になった取り組みが必要になると古永氏は説明。また、低コスト化に対してはカーボン繊維を使ったCFRPの例を挙げ、ヘンケルで直接的に取り扱っている樹脂のコストは全体の10%に過ぎず、残りはカーボン繊維が40%、製造・組み立てが50%という比率で、コストを抑えてより使いやすくするには製造・組み立てコストを下げる必要があると語る。さらに量産性を高めることも目的に、コンポジットラボで近年になって確立されたHP-RTM(高圧樹脂トランスファー成形システム)の技術を導入。作業プロセスを再現し、ユーザーとなる自動車メーカーなどにアピールしていくと述べた。
また、従来のようにクルマが鉄中心で構成されていた時代は溶接すればボディを形作れていたが、ここにほかの非鉄金属やFRPが入ってくると、溶接ではなく、接着でパーツを接合することになるが、素材ごとに異なる接着剤が必要になり、接合するパーツで熱膨張率が大きく異なるときは接着部分に大きなストレスがかかるという。このほかにもアルミニウムやCFRPは腐食に対策が必要だったり、接着面が不活性表面だった場合の表面処理、量産時の扱いやすさなど、さまざまな技術的課題をクリアしてようやく市場に出せる製品になると古永氏は解説。これらの課題を解決した製品として、ヘンケルではエポキシを主成分にして接着強度の高い「LOCTITE EA 9065」、ポリウレタンを主成分にして柔軟な伸び率を持つ「LOCTITE UK 2015」を市場導入しているという。
このほかに古永氏は、マトリックスレジンをクルマで使う実例として、ドイツの部品メーカーであるベンテラーエスジーエルの「コンポジット製リーフスプリング」に、ヘンケルのコンポジット用マトリックスレジン「Loctite MAX 2」が採用され、メルセデス・ベンツの商用車「スプリンター」やボルボの「XC90」といった「90シリーズ」に搭載。車両が軽量化されたことに加え、90シリーズではラゲッジスペースの拡大が可能になり、車内の快適性も高まったと評価されているとコメントした。
さらに古永氏は、自転車のレース用ホイールにエポキシ系マトリックスレジン「Loctiht MAX 5」が使われるようになっており、最終目的としては自動車用ホイールとしても製品化を目指して、すでに自動車メーカーや部品メーカーとも協力。「2018年~2019年といった近い将来に発表できると思います」と明らかにした。