【特別企画】岡本幸一郎、スタッドレスタイヤ「BLIZZAK REVO GZ」を履いて故郷の雪国へ REVO GZ長距離&重量車実走リポート |
各社から春夏シーズンに向け、新しい低燃費タイヤが相次いで発表されているが、季節はいまだ冬真っ盛り。昨年末紹介した(前編、後編)東北地方の高速道路の無料措置も3月末まで実施されているし、長野や新潟などのスキー場はこれからもっともコンディションのよい時期を迎える。雪国はもちろん、雪がそれほど降らない地域でも雪国に行くために必要になるのがスタッドレスタイヤだ。本特別企画では、モータージャーナリスト岡本幸一郎氏による、ブリヂストンのスタッドレスタイヤ「BLIZZAK REVO GZ(ブリザック レボ ジーゼット)」の長距離&重量車実走リポートをお届けする。
■重量級の愛車にスタッドレスタイヤを装着
筆者は、豪雪地帯として名高い富山県の生まれ。昨年や一昨年の帰省時期では、けっこうな降雪に見舞われたのも記憶に新しい。
GWやお盆は都合がつかず帰省できないこともあるが、年末年始だけは毎年必ず帰って、両親や親戚、旧友に元気な姿を見せることにしている。そして2011年末の帰省を控え、そろそろスタッドレスタイヤを新調したいと思っていたところで、先日の記事でお伝えした、東大和のスケートリンクでその威力を見せつけてくれた「BLIZZAK REVO GZ」がとても気になっていた。
筆者の愛車、W140型メルセデス・ベンツS600L。15年落ちのクルマだが、まだまだ元気に走ってくれる |
筆者の愛車は1997年式のW140型メルセデス・ベンツS600L。15年落ちで走行100,000kmオーバーだが、しっかりメンテナンスをしているので機関は絶好調。ただし、車重は2,170kgと重量級で、しかもロリンザーのフルエアロを装着し、車高もローダウンしてあるので、雪道を走るにはけっこうシビアなクルマである。
W140型のS600Lの標準タイヤサイズは235/60 R16のところ、筆者の愛車は19インチ仕様に変更し、標準サイズと外径の近い255/40 R19サイズのサマータイヤを履いていた。そしてスタッドレスタイヤも同じサイズをと思ったのだが、255/40 R19というサイズは、ブリザックの場合、旧モデルの「REVO2」にはあるのだが、REVO GZには設定がない。調べてみると、このサイズは世界的にもラインアップが少ないことが分かった。
とはいえ、どうせならやはり最新のREVO GZを試したいところ。そこでREVO GZに設定があり、255/40 R19サイズと外径の近い、245/40 R19 94Qサイズ(外径687mm)か、245/45R19 98Qサイズ(外径712mm)のどちらにするか検討した。ロードインデックス(LI)は前者が94(=670kg)、後者が98(=750kg)と、結構な差があり、もちろん余裕があればあるほどよい。また、245/45 R19というサイズは、レクサスLSやBMW7シリーズあたりのFセグメントの高級サルーンにおける、定番的なタイヤサイズとなってきている模様。
どうせならそのサイズのレビューをと考え、245/45 R19サイズに決めた。交換作業をお願いしたのは、筆者の住まいからも近く、国道246号沿いにある「タイヤ館 パドック246」だ。ちなみにREVO GZは左右非対称だが、回転方向指定のないタイヤとなる。「INSIDE(内側)」「OUTSIDE(外側)」の表示に従って装着すればOKなので、将来的には、左前輪と右後輪、右前輪と左後輪を入れ替える、いわゆる「たすき掛け」のローテーションが可能だ。
■5名乗車で大晦日に出発
出発は大晦日の夕方。妻と、同じ東京・世田谷区内に住んでいる弟一家3名の計5名というメンバーだ。
実家のある富山県滑川市というのは、富山湾に面しており、富山市の1つ新潟側の隣りに位置する。高速道路網の整備が進んだおかげで、今では東京からアクセスするルートが何通りもある中で、滑川市に向かうには、練馬IC(インターチェンジ)から関越自動車道に乗り、群馬県に入ってすぐの藤岡JCT(ジャンクション)で上信越自動車道に移り、そして日本海側に達する新潟県の上越JCTで北陸自動車道に進むというのが定番。ルートの大半が高速道路となるし、距離も近いのでリーズナブル。最近は、ほぼ毎回そのルートで帰省している。
今シーズンはクリスマス前後に冬将軍が到来し、かなり大雪が降ったことが報じられたばかりで、年末年始はどうなることかと思っていたのだが、直前に調べた道路情報によると雪の規制もなく、天候予報もよさそうな感じだった。
通常であれば、規制ナシで好天と聞けばうれしいところだが、今回は逆に、せっかくのREVO GZの実力をあまり試すことができなさそうで、ちょっと残念……。
■ドライ路面は好印象
関越道に乗った頃には、すでにあたりは真っ暗。交通量は思ったほど多くない。東京のお土産が豊富に選べる最後のSA(サービスエリア)である埼玉最北端の上里SAで小休止。そして藤岡JCTで上信越道へ。軽井沢あたりから路面に融雪剤を散布したような痕跡が見受けられ、さらに北上するにつれて徐々に雪壁も見えてきたものの、路面はずっとドライコンディションだ。
それにしても、こんなときに限って冬タイヤ&チェーン規制に遭遇することもなかったわけだが、ドライ路面の高速道路では、乗り心地と直進性のよさ、そして静粛性の高さが印象的だった。スタッドレスタイヤに初めて搭載した「非対称形状」も少なからず効いているのだろう。
また、一昔前のブリザックというと、雪上性能こそ高いものの、オンロード性能にやや頼りなさを感じることもあったものだが、REVO GZはそんな印象があまりない。柔らかさの中にもコシのある印象で、レーンチェンジ時の操舵に対する応答遅れも小さく、こんな重量級のクルマでも、重さに負けている感じがしない。タイヤのケース剛性が高く、雪上性能との両立が難しいブロック剛性も十分に確保されているからだろう。
北陸道に入ってすぐの名立谷浜SAで休憩したあと、せっかくなので一般道での印象をチェックするため、糸魚川ICで高速道路を降りてみた。新潟と富山の県境に近い親不知というあたりは、海岸線に沿ってツイスティなワインディングが続くのだが、さすがにサマータイヤと同等とまではいかないものの、接地感や運動性能において、スタッドレスタイヤというハンデをあまり感じさせない走りを体感することができた。
ほどなく富山県へ突入。県境から40kmほど走ると実家のある滑川市になる。首都圏で40kmというと、そこそこ長い移動距離という印象だが、このあたりでは日常的な距離。大晦日の晩の国道8号はクルマもまばらで、そのまま一般道を走る。路肩にうず高く積まれた雪が目に入るところも多々あったものの、筆者の走る道はほぼキレイに除雪されていた。そして、年を越える約1時間半前に実家に到着した。
せっかくなので雪道を走りたいと思い、弟一家だけ降ろして、ちょっと山のほうへ。20分も走れば小高い山があるのだが、標高が上がるにつれて、積雪量がみるみる増していく。残念ながら(?)すでに除雪されていたものの、広範囲にわたり路面が凍結していて、助手席から降りた瞬間に妻がステン!と転んでしまうほどであったにもかかわらず、安定したグリップを得られることを実感。途中、凍結しやすい橋の上で、一瞬ヒヤッとしたシーンもあったのだが、ESPが作動しすぐにグリップが回復。ちょっとラインがふくらんだだけでことなきを得た。発泡ゴムが瞬時に接地面の水の膜を取り去ってグリップを回復させているからだろうか。氷上グリップは、さすがに高いと感じた。
ちなみに、実家近くのショッピングセンターなどで駐車してあるクルマのタイヤをざっと見てみたところ、ブリザック比率は非常に高い。北海道や東北地方ではブリザック装着率が高いと聞くが、感覚としては、富山県もほぼ半分がブリザックユーザーという印象だ。
筆者の実家でもPMシリーズの頃からブリザックを愛用していて、両親のクルマは、MZ-03、次いでREVO2を装着している。もちろん筆者も運転する機会があるので、ブリザックの進化については、けっこう肌身で感じていたしだいだ。
個人的な見解として、かつてのブリザックは雪には強いけれど、オンロードではちょっと頼りないという印象もなくはなかったのだが、それはまったく過去の話。「REVO」と名乗り始めた頃からキャラクターが変わって、REVO2では雪上性能だけでなく、欧州勢に対しても遜色のないほど高速巡航が得意になり、オールマイティなタイヤになったなと感じていたら、REVO GZでは、そのレベルがさらに上がっているように感じられた。
ところで、筆者の愛車について、リアはさておき、写真で見てもフロントタイヤとフェンダーのクリアランスがこれで大丈夫なのか気になるところだが、さすがに駐車時や小さな交差点などで大きな舵角を与えた際には少し当たる。ただし、通常の走行時に当たることはまずなかった。もしもローダウンしていなければ、このサイズでもまったく問題なかったはずだ。
正月の三が日は、北陸にしては珍しく好天に恵まれた。1月3日の昼過ぎ、立山連峰の景色がキレイに見える天候のもと東京に向けて帰路につく。ルートは往路の逆で、北陸道~上信越道~関越道を通って、東京に戻った。帰路の途中でわずかに降雪は見られたものの、冬タイヤ&チェーン規制になることもなく、無事に帰京した。
正月に雪が降り積もることもなく、1月3日に東京へ向かった | 実家近くの滑川ICから高速道路へ | この頃には雪道はあきらめ、REVO GZによる快適なドライブを楽しむ気持ちに |
北陸道では、美しい立山連峰や、荒波の激しい日本海を見ることができる | 東京へ向かう途中に雪が降ったものの、積もるほどではなかった |
ということで、帰省でオンロードでのよさはよく分かったのだが、せっかくのREVO GZで雪上性能を試さない手はない。そこで、正月明けの最初の3連休初日に、今度は確実に雪のある湯沢方面を目指すことにした。
■重量級のクルマをしっかり支えてくれたREVO GZ
早朝に出発し、関越道を北上すると、群馬県北部の月夜野ICの少し先の下牧PA(パーキングエリア)から冬タイヤ&チェーン規制となっていて、PAでタイヤチェックを受けたあと、少し進むと路面は、待ってました!といわんばかりの完全スノーコンディションだ。全長11kmの関越トンネルを抜けて、湯沢ICで下り、国道17号へ。早朝ながらスキー場に向かう行楽客により、交通量はそれなりに多い。そんな中を、まずは様子見で大人しく走ると、雪の降る積雪路面では、かつて味わった感覚よりも1段上のグリップ感があるというのが第一印象。
雪上で曲がるには、荷重移動にあまり期待できず、ステアリングだけが頼りとなりがち。しかもステアリングを切っても反応が遅れ気味となるので、ある程度は予測して早めに切ったほうがよいシチュエーションも少なくないのだが、そのタイムラグがとても小さい。緊急回避を想定して、あえて雪道ではタブーといわれる急ハンドル操作も試してみたのだが、ヨーモーメントがスッと出てスムーズに曲がることができる。
空き地でフルブレーキングを試したところ(もちろん、まわりにクルマはいない状態で)、ABSが作動しながら徐々に減速していき、最後のギュッと路面をつかんで止まる感覚が、これまでよりも強い感じ。
REVO2もかなりよくできたタイヤだと思っていたが、REVO GZのほうがさらに止まる性能が高い。全体的に、雪道での、「走る」「曲がる」「止まる」の実力レベルが上がっていて、とくに縦方向のグリップ性能の高さが印象的だ。
REVO GZは、とくに縦方向のグリップ性能が高いのが印象的だった | さすがに雪道になると、ESPが作動する。ESPさえONにしていれば、余裕のある運転が可能だ | 雪国生まれの筆者にとって、雪景色を見ながらのドライブは、どこか懐かしく、楽しいものだ |
ESPをOFFにすると、6リッター V12エンジンの低速トルクにより、いともたやすくテールが流れ出し、この巨体がドリフトし始めるのだが、その際も、横に滑りながらも前に進んでいこうとする力が大きいように感じられた。逆にいうと、ESPさえONにしていれば、アクセルを強めに踏んでも、横滑りしそうになると瞬時にパワーが絞られるし、アンダーステアが出そうになれば、ちゃんと曲がるように介入してブレーキをつまむ。REVO GZのグリップとESPが組み合わされていれば大丈夫。たとえこれほど大きくて重たい後輪駆動車であっても、相当にヘビーな雪道だろうと、比較的容易に雪道走行が可能だ。
新しいスタッドレスタイヤが出るたび、スタッドレスタイヤの性能はいったいどこまで上がっていくんだろうと感心させられてばかりだが、REVO GZについても、ドライ路面、雪上、氷上を問わず、実力の高さを身にしみて思い知らされたしだい。スタッドレスタイヤの進化のスピードには恐れ入る。
日本は南北に長く、まだまだスタッドレスタイヤが必要となる機会はいくらでもあるだろう。オールマイティな性能を求めるユーザーに、そして重量級セダンのユーザーにも、REVO GZはオススメできるスタッドレスタイヤだと思う。
(岡本幸一郎/Photo:清宮信志)
2012年 1月 13日