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女神湖で氷上ドライブレッスン開催
「2013 iceGUARD5 & PROSPEC Winter Driving Park」
(2013/1/29 14:10)
1月26日、プロスペックが主催するスノードライブレッスン「2013 iceGUARD5 & PROSPEC Winter Driving Park」が今年も開催された。
このレッスンは、冬季に全面凍結する女神湖(長野県北佐久郡立科町)において、氷上でのドライブ体験をするというもので、毎年この時期に開催されているイベント。凍結した路面の走行というのは一般道ではできれば遭遇したくないシチュエーションだ。しかしこのレッスンは凍結した湖上で実施するためほとんど障害物もなく、インストラクターの指示に従って走れば事故が起こる確率は限りなく低い。そのため、普段はなかなか体験できない氷上でのクルマの挙動を、自分のクルマで思う存分体験できる貴重な機会となっている。そのため人気も高く、今年は昨年の参加者に事前案内を送った段階でほぼ参加枠がうまってしまったという。
氷結路面を思い切り走行
当日の女神湖の気温は-10度前後。朝から雪が降りしきる天気で、受け付けが開始された7時30分の時点ではほぼ吹雪と言ってよい状況だった。そのため例年よりも湖上に多くの雪が積雪しており、雪の重みで水が染み出してきている箇所があったため、一部コースを変更しての開催となった。
レッスンの冒頭ではまず、プロスペック代表である日下部保雄氏が挨拶し、「昨年は条件がよかったが、今年は視界がわるく雪も降ってきた。一部で氷の状態がわるい箇所もあるが、安全性には問題がない。ここで運転の面白さを体感して、自分の運転技術のお財布を増やしていってほしい」など挨拶した。
また日下部氏は、「今日は路面の状態でどう滑ってしまうのかを学習してもらいたい。運転は事前に何か対処しながら運転しないと、いざ問題に直面したときに手遅れになる。路面を見ながらクルマの姿勢も考えていく。一番これが安全」と、参加者へアドバイスしていた。
レッスンは、直線とS字カーブなどを組み合わせた、走行距離の長いハンドリングエリアと、ブレーキング及びスラローム走行を体験するエリア、小さな円を描いて走行するアクセルワークエリアの3種類。例年だとアクセルワークエリアに設置されていた8の字走行エリアが、湖面の状態がよくないため、今年は閉鎖された形となっていた。日下部氏によると、「雪が降りすぎるのはよくない。雪の重みにより氷結湖面に水がしみ出してくるし、さらに雪がちょうど布団のような状態になって氷結湖面を溶かしてしまう」とのこと。
これらのコースを、午前中はインストラクターの指導を受けながら走行し、午後は自由に好きなエリアを走行することができた。また、レッスンの最後にはハンドリングエリアでタイムアタックも実施され、参加者達は丸一日かけて学んだ技術を活かしながらタイムアタックに臨んでいた。
スタッドレスタイヤの開発者との交流
レッスンは座学も実施。ここではヨコハマタイヤ(横浜ゴム)でスタッドレス開発を行う橋本佳昌氏が同社スタッドレスタイヤについての講演を行なった。
橋本氏はまず、スタッドレスタイヤが氷の上を走れるメカニズムを紹介。氷の上には薄いミクロ単位の水の膜が発生しており、その上を夏タイヤで走行すると、氷とタイヤの間に水が入り込み、雨天時のハイドロプレーン現象に似た状況が発生し、滑ってしまう。
スタッドレスタイヤは、タイヤに氷を接地させるために大きなブロックを配置し接地面積を稼ぎ、さらにブロックに刻まれた「サイプ」(溝)や、吸水ゴムによって水を排出することで氷にタイヤが直接接地するようにしている。さらに、低温でもゴムが堅くなりにくいのが特徴で、目に見えない氷の凹凸にも密着する。
次に雪の上を走るスタッドレスタイヤのメカニズムを紹介。雪上を走るためには、圧縮抵抗、雪柱せん断力、エッジ効果の3つがポイントという。圧縮抵抗とは、スタッドレスタイヤの大きな溝とブロックが雪を踏み固めることによって得られるもので、主にブレーキ時に効果を発揮する。雪柱せん断力は、タイヤの溝により作られた(踏み固められた)雪柱を断ち切る力で、主に発進時や登坂時に効果があるという。
エッジ効果はブロックとサイプの角が雪を引っ掻く力として機能することを言う。また、サイプを入れることで摩擦力が上がるためエッジ効果は増加し、氷上性能は向上するが、多すぎるとブロック自体が弱くなり、氷上制動が逆に低下してしまうという。
また、氷上性能と雪上性能のバランスについても解説。氷上性能を上げるには溝面積比を小さくすることで接地面積を拡大し、タイヤの摩擦力を向上させたいが、これを追求しすぎると雪上の性能が下がってしまう。雪上性能を上げるために溝面積比率を大きくすると排雪性や雪柱せん断力が向上するが、接地面積が少なくなり氷上性能が低下してしまう。このバランスをどうするかが、メーカー毎に変わってくるところだという。
次に同社の最新製品である「アイスガード5(iG50)」シリーズについて解説。このタイヤでは同社スタッドレスタイヤとして初めて非対称トレッドパターンを採用。スーパー吸水ゴムによって吸水性も向上している。
スーパー吸水ゴムは、新マイクロ吸水バルーンと、吸水ホワイトゲルによって氷上の水分を吸水することで氷上性能を向上させるもので、従来の製品に比べて約21%向上しているという。
また、非対称パターンでは、イン側に氷上性能に特化したパターン、アウト側に雪上性能に特化したパターンを組み込んだ。
一番気にしたのはシャーベット状の路面で、特にコーナリングなどではアウト側に設けた溝が有効に働くという。またイン側は直進での制動を重視し、接地面積を少しでも稼ぐため氷上性能を重視したパターンを車両重量のかかるイン側に持って来ることで、より性能を発揮しやすくしているという。
また、サイプについても工夫をしており、センターブロックには「トリプルピラミッドディンプルサイプ」と呼ばれるものを採用。これにより氷上での接地、排水効率を向上させたほか、溝の内側を立体的にかみ合わせることでサイプが崩れるのを防ぎ、エッジ効果も増している。
これらによって、アイスガード5では従来製品と比べ、氷上の制動能能力で8%、転がり抵抗としては5%性能が向上したという。
ウインタータイヤとスタッドレスタイヤを乗り比べ
世界の冬用タイヤについても紹介された。今回のレッスンでは、このアイスガード5を装備したプリウスと同社のウインタータイヤである「W.drive」を装備したプリウスも用意され、タイヤの乗り比べもできるようになっていた。
W.driveウインタータイヤは高速性能とドライ・ウェット性能に優れ、主に欧州を中心に使用されているという。日本では雪は降るが気温が高めのため雪が溶けやすく、アイスバーンが発生しやすい。また-6度以上の気温では氷の上に発生した水分によって前述のようにタイヤが滑りやすくなることからウインタータイヤは普及していない。逆に-30度まで冷えるような地域ではそうした水分が発生しないため、夏タイヤでもある程度は走れてしまうくらいだという。
ヨコハマは、スタッドレスタイヤ「アイスガード5」とウインタータイヤ「W.drive」をそれぞれ装着したプリウスを用意。参加者が乗り比べできるようにしていた。実際にこの2台を乗り比べてみたが、明確な差を感じることができる。
今年は雪が午前中に降っていたため、氷結湖面上は雪が残る個所と、氷結した氷の個所とまだらな状態。スラローム路で走ってみたが、雪のある個所ではW.driveで、十分なグリップを得られる。雪をかみ、しっかり加速するため、調子に乗って走っていると、氷結路面になった瞬間にグリップを失いコントロール不能に。いきなりステアリングまわりが壊れたのかと思うくらいだ。
一方、アイスガード5は、雪面でしっかり加速し、凍結個所に来ても粘ってくれる。さすがに雪面ほどのグリップは得られないが、W.driveとのスカスカ感から比べると、圧倒的な差を感じた。W.driveにもサイプは刻まれているが、アイスガード5と比べるとサイプ密度が低く吸水ゴムは使われていない。それらが大きな差になっているだと言う。求められる気象条件、求められる速度域が、これらのタイヤの性格の違いになっているのだろう。
また、今回の氷上ドライブレッスンでは、スペックプラニングによる車載カメラ用HDカメラシステム「M&S cam」を用いた撮影も実施。M&S camは、GPSロガーデータ動画合成システム「GPS Nero Ver.2」との組み合わせにより、GPSで取得したデータと撮影した動画との合成が可能で、スピードメーターやラップタイム、コース表示などさまざまな情報を合成できる。会場では女神湖のコースとスピードメーターなどを合成したものが公開されており、このイベントの模様も、後ほどWebで公開されるそうだ。
広々とした氷結湖面のイベントだけに、多少無理な走行をしても大丈夫なのがこのレッスンのよいところ。安心して走れるせいか走行を終えると、「次はもう少しうまく走りたい」という気持ちが湧いてくる。参加者達もカーブで雪をまき散らしながら、また派手にスピンなどしながらも楽しく走ることができていたようだ。
今回は一般募集を始める前に参加枠が埋まってしまったこのイベント。氷結湖面上に入ることが可能な台数が限られており、1日の参加台数を増やすというわけにはいかないそうだ。そのため、来年は2日間開催にして参加者枠の拡大を考えてみたいと日下部氏は語っていた。