ニュース

ルネサス、車載コクピット向けSoCのエントリーモデル「R-Car E2」発表会

普及価格帯のクルマでの採用を意識したエントリー向け製品

2014年10月22日開催

 半導体メーカーであるルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は10月22日、都内で記者会見を開催し、同社が車載コクピット向けと呼ぶ車載向けSoCとなるR-Carシリーズの最新製品「R-Car E2(アールカーイーツー)」を発表した。同社がGeneration2(第2世代)と呼ぶ車載向けSoCとしてR-Car H2(ハイエンド向け)、R-Car M2(ミッドレンジ向け)をリリースしているが、R-Car E2はエントリー向けとなり、普及価格帯のクルマでの採用を意識した製品となる。同社によると量産は2016年6月から開始される予定で、2017年6月には月産50万個を見込んでいる。

車載向けSoCとなるR-Carシリーズの最新製品「R-Car E2」を搭載したソフトウェア開発ボード(写真右)

 同時に、これまでティア1と呼ばれる大手OEMメーカー(例えばデンソーやボッシュなど)だけを対象としていた開発ボードのラインアップを拡充し、ミドルウェアやアプリケーションを開発するISV(独立系ソフトウェアベンダ)向けとなる低価格な開発環境を開発し、低価格で提供していくことも発表された。

ルネサスの統合コクピットソリューションは柔軟性、発展性、個性化の3つのポイントを提供

ルネサス エレクトロニクス 執行役員 兼 第一ソリューション事業本部 本部長 大村隆司氏

 ルネサスは、三菱電機と日立製作所の半導体部門が合流して成立したルネサス テクノロジと、NECの半導体部門だったNECエレクトロニクスが経営統合して成立した日本の半導体メーカーで、日本という地理的な特性を生かして特に自動車向けに強い半導体メーカーとして知られている。同社によれば、2013年までに累計で1億2000万個の車載向けSoCを出荷しており、グローバル市場において70%のシェアを実現しているという。

 そのルネサスの執行役員 兼 第一ソリューション事業本部 本部長 大村隆司氏は「現在のクルマのビジネスは車載情報と車載制御が両輪になりつつあり、ルネサスはこの両方の分野に製品を投入し、スマートカーの実現を支援していく」と述べ、ルネサスが自動車のIT化分野と車両制御分野の両方を重視しながら製品展開を行い、自動車メーカーのスマートカーの実現を支援していきたいとした。

 その上で、「最近さまざまな半導体メーカーがデジタルコクピットという言葉を使っている。ルネサスとしては、フレキシビリティ(柔軟性)、スケーラビリティ(発展性)、パーソナライズ(個性化)の3つがポイントだと考えており、それらすべてを提供できるのはルネサスだけだと考えている」と述べ、自動車メーカーやティア1の要求に合わせた半導体を提供していきたいとした。

現代の車載向け半導体は車両側の制御だけでなく、ITへの対応も要求されている
スマートカーを実現するには車両制御だけでなく、クラウドとの連携やリアルタイム認識などが必要とされている
ルネサスの統合コクピットのコンセプトはフレキシビリティ、スケーラビリティ、パーソナライズの3つのポイントを重視
R-Carシリーズのロードマップ。今回発表されたのは第2世代R-Carのエントリー向け製品となるR-Car E2だ

R-Car H2、R-Car M2、R-Car E2と3つの選択肢でOEMメーカーの発展性を確保

ルネサス エレクトロニクス 第一ソリューション事業本部 車載情報システム事業部 車載情報戦略部 部長 吉田正康氏

 引き続き登壇したルネサス エレクトロニクス 第一ソリューション事業本部 車載情報システム事業部 車載情報戦略部 部長 吉田正康氏は、今回ルネサスが発表したR-Car E2に関する技術的な解説を行った。

 吉田氏は、統合コクピットと呼ばれるメーターやIVIなどが、すべてデジタルで実現されるシステムを構築するにはさまざまな方法があると説明した上で、「重要なのはフレキシビリティ、スケーラビリティ、パーソナライズといった3つのコンセプトをすべて実現できること。今回のR-Car E2の登場により、それらを実現することが可能になる」と述べ、それがルネサスが主要なOEMメーカー16社のうち11社で採用され、グローバル市場でのシェアが70%になっている理由だと説明した。

 吉田氏はフレキシビリティ(柔軟性)の観点では、マルチOSプラットフォームを実現していることを挙げた。吉田氏によれば、同社の第2世代R-Carでは、GENIVI Linux、Android、QNX、Windows Embeddedなどの主要な複数のOSをサポートしており、顧客がどのようなOSを使っていても対応できることを挙げた。記者会見では触れられなかったが、同じ会場で行っていた同社のプライベートイベント「R-Car Consortium Forum 2014」の展示会場では、Tizen IVI 3.0のデモも行っており、同社が対応OSを増やすことで顧客のニーズに答えようとしていることがアピールされていた。

 また、スケーラビリティ(発展性)では、R-Car E2を追加したことでハイエンド向けのR-Car H2、ミッドレンジ向けのR-Car M2、エントリー向けのR-Car E2という3つのラインアップがそろい、顧客がターゲットとなる市場に合わせて選択できるという点がアピールされた。吉田氏は「お客様はこの3つのラインアップにより異なるニーズに合わせて製品を選択できる。ティア1のOEMメーカーは、グローバルでニーズが異なる複数の顧客がいるために複数の製品を展開しなければならないが、開発コストの関係からソフトウェア環境を統一したいというニーズがある。第2世代R-Carでは、そうしたニーズに応えることができる」と述べ、R-Car E2の追加で第2世代R-Carのラインアップがそろい、OEMメーカーがさまざまな選択が可能になったことをアピールした。

 R-Car E2では、CPUがARMのCortex-A7のデュアルコア、GPUがPowerVR SGX540というローエンドなIPデザインが採用されている。しかし、これらはR-Car M2のCortex-A15(デュアルコア)/PoweVR SGX544MP2、R-Car H2のCortex-A15(クアッドコア)+Cortex-A7(クアッドコア)/PowerVR G6400という同じ第2世代R-Carの上位製品と命令セットの観点で互換性があり、処理能力の問題があるので若干の調整は必要なものの、ソフトウェアの設計図となるソースコードは基本的に共有することができる。つまり、ある製品向けに作ったソフトウェアを、若干の調整でほかの製品でも使うことが可能になっているのだ。これはOEMメーカーにとって、開発コストを削減できるという明確なメリットを見いだすことが可能になる。

 また、パーソナライズ(個性化)では「車載システムでのユースケースはスマートフォンとは違っている。例えば、車載システムではリアディスプレイにも出力したりとマルチ動作が前提となっており、そうしたシステム開発を行っていく」と吉田氏は説明し、車載ならではのユースケースを実現していく半導体の開発が重要だとした。

ルネサスが提供する統合コクピットのビジョン
統合コクピットを実現するにはさまざまな構成が考えられる
そうしたさまざまな構成を満たすために、フレキシビリティ、スケーラビリティ、パーソナライズという3つのコンセプトが重要になる
フレキシビリティの観点では、GENIVI Linux、Android、QNXなど複数のOSに対応
Tizen IVI 3.0のR-Car版のデモ
スケーラビリティの観点では3つのSKU(ハイエンド向けのR-Car H2、ミッドレンジ向けのR-Car M2、エントリー向けのR-Car E2)が用意される
3つのSKUは互換性のあるIPが採用されており、ソフトウェアの共通化が可能になる
パーソナライズの観点では複数のディスプレイに対応するなどが重要になる
R-Car Consortium Forum 2014でのR-Carシリーズを利用したMiracast関連の展示。MiracastはWi-Fi Directの機能を利用した無線でのディスプレイ出力のソリューションで、最新のAndroidスマートフォンの多くがその機能を実装している。簡単に言えば、Androidスマートフォンの画面をカーナビにWi-Fiで出力することができるようになる。MiracastのUIBC(User Input Back Channel)というオプション機能も実装すると、シンク(画面の受け側のこと、車載ならカーナビなど)からソース(画面の出力側、スマホ側)へとタッチイベントを転送することもできるので、カーナビをタッチしてスマホの画面を操作することができる。なお、AppleのCarPlay、GoogleのAndroid Autoも同じようなことができるが、これらは有線で利用できるアプリケーションが限られるが、Miracastにはそうした制限がないのが特徴。早期の実装が望まれるところだ
R-Car Consortium Forum 2014でのロームの4線式抵抗膜方式タッチパネルを利用して2点タッチを実現しているデモ。通常マルチタッチを実現するには、高価な静電方式のタッチパネルを必要とするが、このロームの方式ではR-CarのCPUを活用することで、抵抗膜方式でも2点タッチを可能にする。それにより、ピンチやズームなどのマルチタッチの機能を抵抗膜方式のタッチパネルで実現することができる。抵抗膜方式のタッチパネルは静電方式に比べて安価なので、普及価格帯の製品でピンチ、ズームを実現できるのがメリットになる

ISVでも気軽に手に入れて開発を行えるソフトウェア開発ボードを提供

 今回ルネサスが発表したR-Car E2の詳細な仕様は以下の通り。

製品名R-Car E2(R8A7794)
CPUコアARM Cortex-A7 デュアルコア+SH-4A
L1キャッシュ32KB(命令)/32KB(データ)/A7+32KB(命令)/32KB(データ)/SH-4A
L2キャッシュ512KB(L2キャッシュ)
メインメモリDDR3(32ビット)
外部拡張Flash ROM、SRAM(8/16ビット)
GPUPowerVR SGX540
ビデオ機能ビデオ表示I/F(2ch、RGB8888)
ビデオ入力I/F(2ch)
VCP3コーデック(H.264/AVC、MPEG2/4、VC1など)
IP変換モジュール
TSインターフェース(1ch)
ビデオ画像処理機能(色変換、画像拡大・縮小、フィルタ処理)
ひずみ補正モジュール(1ch)
オーディオ機能オーディオDSP
サンプリングレート変換(6ch)
シリアルサウンドインターフェース(10ch)
MOST DTCP暗号対応
ストレージUSB 2.0ホストx2(PHY内蔵)
SDホストx3(SDXC、UHS-I)
eMMC
車載インターフェイスMLB(1Ch)
CAN(2ch)
IEBus
暗号処理部暗号処理エンジン(AES、DES、ハッシュ関数、RSA)
セキュアRAM
その他LBSC内蔵DMAC(3ch)/SYS-DMAC(30ch)/Audio-DMAC(13ch)/Audio(周辺)-DMAC(29ch)
32ビットタイマー(12ch)
PWMタイマー(7ch)
I2C(8ch)
SCIF(18ch)
QSPI(1ch、ブート対応)
MSIOF(3ch、SPI/IIS対応)
Ethernet AVB
INTC
CPG(PLL内蔵)
オンチップデバッグ機能
電源電圧3.3/1.8V(IO)、1.5/1.3V(DDR)、1.0V(コア)
パッケージ501ピンFCBGA(21x21mm)
プロセスルール28nm HPM(TSMC)

 最大の特徴は、CPUコアはCortex-A7、およびPowerVR SGX540というローエンドのIPを採用していることだ。これにより、ダイサイズと呼ばれる半導体の大きさは、R-Car H2やR-Car M2などに比べて圧倒的に小さくなっている。ダイサイズが小さければ小さいほど、半導体メーカーは安価に製造することが可能になり、顧客に対しても低コストで提供することができる。その半面、性能はどうしても上位製品に劣ることになるのが弱点になるので、同社はR-Car E2をエントリー向けと位置づけており、普及価格帯のIVIや自動車向けとしている。なお、製造は同社の製造面でのパートナーとなるTSMCの28nm HPMという製造プロセスルールを利用している。

 また、ルネサスの吉田氏はR-Car M2、R-Car E2を搭載したミドルウェア開発ボードを提供していくことも同時に明らかにした。吉田氏によれば「これまでも開発ボードを提供してきたが、どちらかと言えばティア1や自動車メーカーを対象にしたものだった。しかし、これからはISVにアプリケーションやミドルウェアを開発してもらうことが大事になってくるので、そうしたパートナーに対して入手しやすい低価格な開発ボードを用意することにした」と述べ、R-Car M2、R-Car E2にソフトウェア開発ボードと呼ばれる低価格な開発ボードを提供していくと説明した。

 吉田氏によれば、従来の開発ボードはフル機能を持っていたため数十万円とそれなりの価格になっていたが、ソフトウェア開発ボードに関しては数万円台と低価格になっており、ISVでも入手しやすい価格設定になる予定という。なお、このソフトウェア開発ボードに関しては、同時に行われていたR-Car Consortium Forum 2014でも配布が行われる予定だと吉田氏は説明した。

R-Car E2はダイサイズが小さく、低コストで製造することができる
ISV向けのソフトウェア開発ボードの提供を開始する
搭載する周辺部分をソフトウェア開発に必要なモノに絞ることで低価格に提供する
ソフトウェア開発ボードはR-Car M2、R-Car E2で提供される。なお、従来の自動車メーカー/ティア1向けのR-Car E2開発ボードももちろん用意される
R-Car E2を搭載したソフトウェア開発ボード

(笠原一輝)