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ルネサス、新コンセプト「Renesas autonomy」で自動運転向けソリューションを加速
“e-AI”でエンドポイントAIを訴求
2017年4月12日 15:39
- 2017年4月11日 発表
ルネサス エレクトロニクスは4月11日、東京都内でプライベートイベント「DevCon Japan 2017」を開催し、同社製品の開発者向けセミナーなどを行なった。午前中にはルネサス エレクトロニクス 代表取締役社長 兼 CEOの呉文精氏といった同社幹部による基調講演が実施され、そのなかでルネサスの新製品や新しい取り組みなどが紹介された。
このなかでルネサスは、自動運転時代に向けた新しいコンセプトとなる「Renesas autonomy」を紹介し、エッジと呼ばれる車載システムからクラウドサーバーなどの自動運転システム全体をE2E(エンド・ツー・エンド)で提供していくと明らかにした。ルネサスによれば、Renesas autonomyは自社の半導体だけでなく、パートナー企業のソリューションを含めたトータルパッケージとして提供することで、自動車メーカーが自動運転車をより実現しやすくしていくという。
各種の課題を解決して、エンドポイントの“e-AI”を強化していく
午前中に行なわれた基調講演では、ルネサス エレクトロニクス 代表取締役社長 兼 CEOの呉文精氏などの同社エグゼクティブがルネサスの戦略などについて説明した。
このなかで呉氏は「AIというと“クラウドにあるAIエンジン”という認識が一般的だと思うが、今後は“エンドポイントにあるAI”、つまり“e-AI”の重要性が増していくと考えている。e-AIを実現するにはリアルタイム制御、機能安全、セキュリティ、低消費電力など4つの課題があり、それぞれを解決しなければならない」と述べ、同社として、今回のイベントのテーマが「e-AI」、つまり、IoT機器やクルマなどのエンドユーザー側(エンドポイント)にあるAIであるとした。
例えばリアルタイム制御という観点では、「クラウドのAIを使うと反応が返ってくるまでに0.5秒かかるが、e-AIでは0.005秒。自動車で言えば28mは進んでしまう時間で、それでは事故が発生してしまう」(呉氏)と、e-AIでは処理時間のレイテンシ(遅延時間)が短くできるとした。このほか、故障などに備える機能、マルウェアなどへの対応といったセキュリティが重要だとした。
消費電力の観点では「AIの処理が増加すると、消費電力が上がり発熱も増える。しかし、自動車に入れていくには消費電力を抑え、発熱も低減していく必要がある」と述べ、ルネサスが買収したインターシルの省電力ソリューションなどを紹介した。
呉氏は「ルネサスはそうした各種の課題を解決できるソリューションを持っている。現実社会は壊れても痛くないような3Dゲームの中のファンシーな世界とはかなり違っており、信頼性が重要になる。現在、PCやスマートフォンの巨人が我々の領域に攻め込んできているが、我々は信頼とパートナーを武器に必ず勝ち残っていく」と述べ、ルネサスの強みである組み込みや、自動車産業に参入が相次いでいるPCやスマートフォン向けの半導体を製造するメーカーとの競争に勝ち抜いていくと強調した。
ITサービスの普及により、自動車産業は大きく変わりつつある
組み込み向けの講演のあと、ルネサスの自動車事業を担当するルネサス エレクトロニクス 執行役員常務 兼 第一ソリューション事業本部本部長 大村隆司氏による講演が行なわれた。
大村氏は「2013年に本部長に就任したときは、震災後で会社も厳しい状況だった。しかし、それまでのプロダクトアウトでは買っていただくのが難しいと考えて、デモを作るなどしてきた。また、震災時にはここにいるみなさまに支えられて乗り越えることができた。感謝したい」と述べ、震災を乗り越えたルネサスが新しい方向性でやってきて、すでに車載製品の新規商談の7割が海外からになっているといった成果が出ていることを強調した。
大村氏は「自動車業界の変化は3つのキーワードで表現できると考えている。それが『エコカー』『コネクテッドカー』『自動運転』だ。こういう話をすると、『クルマは走るスマホになる』と言う人もいる。本当にそういうことが起きるのだろうか?」と述べ、自動車業界で起きているトレンドについて説明した。「自動車業界には2つの潮流がある。それは『オーナーカー』と『サービスカー』だ。それをどのように捉えるか。とくにサービスカーについては、自動車メーカーとITプロバイダーの意図が異なっている、ITプロバイダーはサービスの一環としてクルマを開発する可能性もある」と述べ、自動車産業が大きな転換期を迎えていることを指摘した。
さらにエコカーへの対応では、ルネサスがイベント前日に発表した従来品から4分の1のサイズになるとなる3.9リッターで100kWを実現したモーターインバーターを紹介。EV(電気自動車)としては現在のような小型車だけでなく、SUVや大型車にも展開可能になるとした。
また、コネクテッドカー時代に向けては、クラウドとの連携ソリューション、さらにはコミュニケーションゲートウェイ向けの製品群などを紹介。それらを利用して自動運転のデモカーを作成し、1月にラスベガスで開催された「CES 2017」で公開したほか、先日に日本でも報道関係者向けのデモ(関連記事「ルネサス、『CES 2017』で展示した自動運転デモ車を日本で初めてデモ走行」参照)を実施したこともアピールした。
また、近年ルネサスが参入したスマートカメラやレーダーの分野で、急速に参入が進んでいることをアピールし、2019年度に量産される海外メーカーの車両でカメラが、同じく2019年度に量産される国内メーカーの車両でレーダーの搭載が決まっていることをアピールした。なお、ルネサスはアナログデバイス(ADI)のRFモジュールを採用する77/79GHz帯レーダーユニットをこのイベントに合わせて発表している。
E2Eで自動運転のソリューションを提供するRenesas autonomy
また、大村氏はルネサスの自動車向けソリューションで新しいブランドとなるRenesas autonomyを導入することを発表した。大村氏は「ルネサスの自動運転のデモカーは自社だけで作っているのではない。『TTTech』やカナダの『Waterloo大学』といったパートナーと一緒に作っている。Renesas autonomyでもパートナーと一緒に、クラウドからセンシングまでエンド・ツー・エンドでサポートを行なっていき、自動運転の普及を目指す」と述べ、パートナー企業約200社が加盟する「R-Car Consortium」などの活動を軸にして、自動車メーカーに対してE2Eでソリューションを提供していくことをアピールした。
現在、自動運転向けの半導体メーカーは、各社ソリューションをエンド・ツー・エンド(最初から最後まで)でパッケージにして提供することが世界的な潮流になりつつある。例えば、IntelがMobileyeを買収したり、QualcommがNXPを買収したりというのは、そうした流れの延長線上にある。
そうした動向に対するルネサスなりの答えがRenesas autonomyと言える。ルネサスの強みは制御系のマイコンを押さえていることで、そこに「R-Car」などの新しいソリューションを提供して、自動運転時代に備えるというのがルネサスの基本的な戦略になっている。それでも一部足りないモジュールなどもあるが、それは無理矢理自社で揃えるのではなく、よいものがあればどんどん他社と手を組んで、業界各社で構成するプラットフォームとして自動車メーカーやティワンの部品メーカーに提供していく。そうした考え方をひと言で表現したのがRenesas autonomyということになるだろう。
自動運転&ADAS向けのスマートカメラに対応するSoC「R-Car V3M」
もちろん、ルネサスは自社製品の拡充も進めている。今回のイベントでは、スマートカメラ向けの新しいSoCとなる「R-Car V3M」を発表している。ルネサス エレクトロニクス 第一ソリューション事業本部 副本部長の吉岡真一氏によれば、R-Car V3Mには画像認識エンジンのアクセラレータが入っており、それをディープラーニングの推論に利用して低負荷での画像認識が可能になるという。
実際に会場で公開されたデモでは、クラウド側でトレーニングしたディープラーニングの結果をエッジ側にダウンロードし、推論をR-Car V3Mに内蔵されているCPU(Cortex-A53/デュアルコア/800MHz)と画像認識エンジンのアクセレータを利用した場合で比較。同じ1Wの消費電力の場合、前者が70.3msかかっているのに対して、後者は3msに過ぎないことを公開した。デモでは動作中のR-Car V3Mを指で触って熱くないことを確認することも可能で、汎用プロセッサであるGPUやCPUを利用することに比べて効率がよいとアピールされていた。
ルネサスによれば、R-Car V3Mのスペックは以下のようになっている。
ARM Cortex-A53(800MHz/デュアルコア)
ARM Cortex-R7(800MHz/デュアルコア/ロックステップ方式)
32ビットDDR3L-1600
画像認識エンジン(IMP-X5-V3M)
ISP(信号処理プロセッサ)
ローレイテンシ ビデオエンコーダ
ビデオ出力(4レーン)/ビデオ入力(4レーン)
CAN-FD(2チャネル)
イーサネットAVB(1チャネル)
FlexRay(2チャネル)
28nm製造プロセスルール
なお、吉岡氏は現在開発中の次世代製品、そして将来製品に渡って、スマートカメラ向けの製品は3Wを越えないよう維持する計画であることも明らかにした。クルマのカメラは非常にスペースが限れた場所に設置されるため、消費電力、そしてそれに伴う発熱が課題となっており、低消費電力が今後も維持されるというのは競争上重要なポイントとなるだろう。