ルネサス、次世代ハイエンドカーナビ向けSoC「R-Car H1」
5コア構成で、フルHDデコード、画像認識、ARが可能に

次世代ハイエンド車載情報端末向けSoC「R-Car H1」

2011年10月18日発表



 ルネサス エレクトロニクスおよび、その子会社であるルネサス モバイルは10月18日、次世代のハイエンド車載情報端末向けSoC(Sytem on Chip)「R-Car H1」を発表した。10月からサンプル出荷を開始し、量産は2012年12月、2013年には月産10万個を予定している。サンプル価格は未定。パッケージは、832ピンのFCBGA。

 ルネサス エレクトロニクスは同日、都内でR-Car H1の説明会を開催した。

ルネサス エレクトロニクス マーケティング本部 自動車システム統括部長 金子博昭氏

R-Carシリーズのハイエンド製品となる「R-Car H1」
 マーケティング本部 自動車システム統括部長 金子博昭氏は、R-Car H1を同社のSoC「R-Car」シリーズのハイエンドとなる製品と紹介。R-Carシリーズはこれまで、ARM Coretex-A9 533MHzを搭載する「R-Car E1」、ARM Coretex-A9 800MHz+SH-4A 800MHzを搭載する「R-Car M1A」をラインアップしていた。R-Car H1では、ARM Coretex-A9 1GHz×4 +SH-4A 800MHzの5コア構成となっている。



R-Car H1のブロック図R-Car H1の開発キットで、デモが行われていた豊富なインターフェイスを持つことが分かる
開発キットはファンを用いていたが、もちろんファンレス動作も可能と言うXGA(1024×768ピクセル)の画像を60fpsで生成、描画するピクチャー・イン・ピクチャーで動作し、左上の方向表示板は透過処理がされているのが分かる

 SoCのため、その5コアに加え、3Dグラフィックスコアとして40Gflosの性能を持つデュアルコア搭載の「PowerVR SGX543MP2」、画像認識エンジンとしてデュアルコア構成の「IMP-X3」、オーディオ機能としてサウンドプロセッシングユニット×2チャンネルなど多様なコアを統合している。

 それらによりもたらされる性能は、SoCでは業界最高となる12GIPS(1GIPS=1000MIPS)のCPU性能、同社従来品の約8倍となる83M(メガ)ポリゴン/秒の3Dグラフィックス性能、同じく従来品の4倍の画像認識性能など。フルHD画質である1920×1080/60pの動画再生も行える。

 サポートするインターフェイスは、メディアローカルバス(MLB)×1、コントローラエリアネットワーク(CAN)×2に加え、Ethernetコントローラ(PHYデバイスと接続可能)など。ストレージインターフェイスとして、USB 2.0×3、SDホスト×4(SDXC対応、UHS-I対応チャンネルあり)、MMC、シリアルATAを、拡張インターフェイスとして、PCI Express 2.0(1レーン)、データバス(16bit/32bit)などを備える。

 このような圧倒的性能を持つことで、高級車などに搭載されるカーナビをはじめとする車載情報端末の処理を担うことを狙っている。

ルネサス エレクトロニクス 自動車情報システム技術部長 平尾眞也氏

 R-Car H1の詳細については、自動車情報システム技術部長 平尾眞也氏から解説が行われた。平尾氏は、最初にR-Car H1のターゲットとする市場について説明。「ハイエンドカー(高級車)のニーズについて、いろいろ言われているが、クラウドサービスにネットワーク経由でつながること、大容量のデータを扱えることが求められている」と言い、モニターに表示するグラフィックスにも、高品位なものかつ、移動しながら使用されるため、分かりやすいものが必要であるとする。

 主な市場としてはそうした高級車およびハイエンドカーナビなどを想定し、アジア市場の伸張が著しいことから、これから需要は伸びてくるとした。



ハイエンドカーナビ市場におけるニーズR-Car H1のターゲット市場R-Carシリーズのファミリーロードマップ

 R-Car H1では、ネットワークに接続しながらの大容量データ処理のために汎用(オープン)OSに対応するARM Coretex-A9 1GHzを4コア搭載し、高速な起動速度が求められる処理や、音声データのフィルター処理などのオーディオルーティングのためにリアルタイムOSに対応するSH-4 800MHzを搭載している。この12GIPSという性能は、とくに北米などで必要となりつつある自然言語認識などにも使えるものであるとした。

 画像認識については、画像認識エンジンIMP-X3をデュアルコアで搭載したことにより、視界支援系のアプリケーションと、ナビゲーション機能の同時実行が車載情報端末用SoCで初めて可能となった。これにより、走行レーン認識や先行車認識をしつつ、その結果を処理。ヘッドアップディスプレイにAR(拡張現実)としての投影を実現できるようになるとする。

 これら、さまざまな処理には高速なメモリーアクセスが必要となるが、DDR3メモリーインタフェースを2チャンネル持つことで、Coretex-A9とSH-4がそれぞれのメモリーにアクセスでき、遅延を小さくできる。なお、モバイル用途では、より低消費電力動作が可能なLDDR3が普及し始めているが、LDDR3には車載仕様のものがなく、DDR3を採用したとのこと。

R-Car H1で実現できること従来の約5倍となる12GIPSの処理性能を持つ4つのARM Coretex-A9と、1つのSH-4で、複数のアプリケーションの同時実行が可能
デュアルコアのPowerVR SGX543MP2で、40Gflops、83Mポリゴン/秒の性能を実現高性能グラフィックスエンジンにより、質感の高い描画が可能となるユーザーインターフェイスにも、グラフィックスエンジン処理を活用できる
1920×1080ピクセルのHDプログレッシブ映像の再生が可能画像認識エンジンIMP-X3のデュアルコア化で、運転支援アプリケーションの同時処理を実現DDR3メモリーのインターフェイスは2チャンネル持ち、独立してアクセスが可能

 いずれにしろ、これだけの大規模なSoCのアプリケーション開発には、従来よりも開発工数が必要になる。R-Car H1では、従来のR-Carシリーズとのソフトウェア互換性を確保したほか、R-Carシリーズの開発支援を行うR-Carコンソーシアムによって、アプリケーション開発の負担を減らしていく。また、そういった仕組みが、ルネサスの強みであるとした。

R-Carコンソーシアムによって、アプリケーション開発をサポート

(編集部:谷川 潔)
2011年 10月 19日