ニュース

シャープ、新技術説明会で「タッチパネル対応」「アーチ型UI」のフリーフォームディスプレイを公開

2017年には自動車に搭載して市場投入を予定。「高感度インセルタッチパネル」なども展示

2015年3月10日発表

フリーフォームディスプレイの技術を応用し、自由な形状の画面を指先などで操作できる「フリーフォームタッチパネル」を紹介するデモ機

 シャープは3月10日、東京都港区にある東京支社で液晶タッチパネル新技術に関する説明会を実施。車載機器としての製品化を明示して自動車業界からも注目を集めている液晶ディスプレイ「フリーフォームディスプレイ(FFD)」の新しい技術展開のほか、独自技術である「タッチパネル高感度化技術」を使った液晶ディスプレイの新しい商品展開などについて紹介した。

シャープ 代表取締役 専務執行役員 デバイスビジネスグループ担当 方志教和氏

 説明会ではまず、シャープ 代表取締役 専務執行役員 デバイスビジネスグループ担当の方志教和氏が登壇。液晶事業における現状認識や同社の組織体制強化、今後の事業展開などについて解説した。すでに2月に行われた「液晶事業説明会」(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20150213_688256.html)でも明らかにしているように、今後はスマートフォンや液晶テレビといった一般向け製品である「BtoBtoC」から、車載機器や電子黒板などをメーカー向けに納入する「BtoBtoB(非コンシューマ向け)」の比重を高める方向にシフトしていくと説明し、BtoBtoBの事業構成比を2014年度(見込み)の約15%から、2021年度(計画)では約40%まで引き上げる方針を示した。

 方志氏は、液晶ディスプレイの高精細化はすでに人間の視覚神経に迫る、または追い越す領域まで進化が進んでおり、今後は現在の主流である高精細化や狭額縁化といった技術は競争軸としては薄れていき、液晶市場全体では中型、大型へのサイズアップやセット商品の創出といった新しい付加価値で利益を生み出す構造になっていくという市場予測を語り、自社ですでに基幹技術をしっかり貯えているほか、基幹技術として取り組んでいるIGZO技術が中型液晶の高精細化などに貢献できることが大きな強みになるとアピール。「BtoBtoBの安定した事業ポートフォリオを造っていくために、非常によいポジションに我が社はある」とコメントしている。

新規独自技術の開発で新たな競争軸を創出し、市場をリードするという戦略
事業拡大に向けたロードマップ。現在の中核技術となっているIGZO液晶の技術をさらに高めつつ、UI技術、デザイン領域、異分野への展開などを積み重ねて利益率を高めていきたいという考え
ディスプレイに「紙とペンの使用感」を与え、大型の電子黒板として利用してもらう「フリードローイング技術」を新しいコンセプトとして紹介。ディスプレイの使用場面を拡大してニーズを高めることが目的となる
シャープ ディスプレイ開発本部 本部長 伴厚志氏

 新戦略となる新しいディスプレイUI技術については、シャープ ディスプレイ開発本部 本部長 伴厚志氏が解説を担当。伴氏は「独自のUI技術を使って新たな価値、新たな体験を提供したい」と語り、そのポイントとして「あらゆるディスプレイでのタッチパネル高感度化」「ディスプレイの形状とタッチ機能の融合」「ディスプレイにタッチパネル以外の新たな機能の追加」の3点を挙げ、それぞれの技術について説明した。

ディスプレイUIを革新させる3ジャンルの新技術について解説する伴本部長
デザイン性が高く、幅広い用途に使えることで注目されているフリーフォームディスプレイ(FFD)に、自由な形状の魅力をさらに高める使いやすいUI(ユーザーインターフェイス)を新たな魅力として追加
アーチ状のディスプレイ外周を指先で触って操作する「アーチ型UI」、FFDの開発技術を応用した「フリーフォームタッチパネル」などをFFD関連技術として紹介した
さまざまな新技術の基幹となる「高感度インセルタッチパネル」は同社の高感度コントローラーが成立させる。一般的な「貼合せ方式」ではカバーガラスのすぐ下にタッチパネルを独立させて配置しているが、新しい「インセル方式」ではタッチパネルと液晶を一体化。カバーガラスからの距離が遠くなり、液晶自体が持つノイズに影響され感度が低下するところだが、独自の高感度コントローラーによって問題をクリア。これにより、製品の薄型化やパーツ点数を減らすことによるコスト削減、高感度化による性能向上などを実現する
液晶ディスプレイの新しいUI技術として紹介されたカードリーダー機能搭載ディスプレイ。画面全体がNFC(近距離無線通信)のリーダーとなり、直感的に利用できるようになるという。使用例として、自動販売機のディスプレイに表示された商品にNFCカードを近づけてその商品を購入する、というシーンなどが紹介されていた
入力方法、形状、カメラセンシングなどの新しいUI技術を融合させ、さらなる多機能化によって利益拡大を目指す

 ディスプレイのタッチパネル高感度化は同社独自のコントローラーの採用により、タッチパネルのセンシングを一般的な逐次駆動から並列駆動にして検知速度を高め、ノイズを抑えて信号を検知する高SN比との組み合わせで実現する。これにより、1mmのペン先でのタッチにも反応し、1度に多数の検出も可能となったことで接触している面積も把握できるようになる。さらにタッチパネルと距離ができる厚みのある板越しにも検出可能となることで、タッチパネルの用途が大きく拡張されるようになる。

 これに加え、タッチパネルの高感度化を実現したことで、従来型の「貼合せ方式」とは異なる「インセル方式」のタッチパネルも生産可能となる。貼合せ方式ではガラス板によって挟み込まれた液晶の上にタッチパネルを重ね、その上にカバーガラスを設置しているが、インセル方式では液晶にセンサー機能を搭載。これまでよりディスプレイの薄型化が可能で、パーツ点数が少なくなることによってコストも削減されるという。

 このように高感度化でタッチパネルが進化することで、筆圧の認識による表現内容の拡大、多点検出と大型化による電子黒板などでの利用、保護性能の高い厚板ガラス越しの屋外サイネージや手袋などを着用したままのスマホ活用などディスプレイが使われるシーンを増やすことが可能になると語られた。

高感度インセルタッチパネルのデモ機
一般的な2mm厚のカバーガラスに加え、画面右半分には5mm厚のガラス板を設置。さらに厚手の手袋を装着した指先でもしっかりとタッチ入力を検知している
高感度インセルタッチパネルは最大10mmのカバーガラスまで対応
高感度タッチパネルコントローラーが新技術の中核となる
インセルタッチパネルを使った5.7型 WQHD(2560×1440)のスマートフォンデモ機

車載FFDの製品化は2017年を想定

 2014年6月に発表されて市場投入が待たれているFFDを核としたディスプレイの形状とタッチ機能の融合では、自由な形状にできるデザインの革新に加え、形状にマッチする独自のUI技術を設定する「FFD-UI」を提案。従来のディスプレイは表示領域の外周に「ゲートドライバ」と呼ばれる駆動用回路を配置する必要から形状が四角となっているが、FFDは表示領域内である画素内にゲートドライバを分散配置して構成している。このゲートドライバの分散配置をタッチパネルに応用したのが新しい「フリーフォームタッチパネル」で、さまざまな形状のタッチパネルディスプレイが可能となった。

 説明会の会場では、以前の発表会で円形メーターとして展示したFFDと同様の製品にフリーフォームタッチパネルを付加し、円盤形のスマートフォンとして提案した。丸い画面上の外周にアイコンを並べて配置し、ダイヤルを回すように開展させてアイコンを選択したり、使用中のアプリの終了も回転操作で行う「円形UI」が紹介された。また、FFD-UIの異なる提案としては、クルマの車内のインパネ中央に設置するディスプレイを想定したかまぼこ形のFFDも用意。こちらはディスプレイの上部右半分がエッジセンサーとなっており、手探りの操作でもエアコンの温度設定やナビ画面の拡大/縮小、バックビューカメラなどの切り替えなどが可能になると解説された。

 また、伴氏や方志氏から明言はされていないが、展示品の解説員からはFFDはすでに自動車メーカーから具体的な製品化に向けた引き合いが来ており、要望を満たす製品作りと自動車メーカーによる検証を経て、2017年の市販に向けて開発が続けられていると説明された。

円形ディスプレイを持つスマートフォンというイメージ
本体の形状に合わせ、アプリのアイコンが黒電話のダイヤルのように並ぶ。フリック操作によって回転させることも可能。手のひらサイズだが高精細なので地図なども鮮明に表示
円形ディスプレイ(右)の展示風景。左側に並ぶのは、狭額縁ディスプレイで本体横のスライド操作で画面選択する「フレームレスUI」を紹介するデモ機
電話帳アプリ
フェイスブック表示
ミュージックプレーヤー
円形UIの解説パネル
円形スマートフォンと合わせ、スマートウォッチの展開も予定。小型化についても問題なく実現できるという。説明員からは「FFDで円形スマートフォンを販売するときにはスマートウォッチの用意もマストだと考えている」と語られた
極限まで額縁を狭く抑えたデモ用のスマートフォン。ボディー外周部が非常に薄いので、手に持った状態で上下に指をスライドさせると指の一部がタッチパネルに触り、画面を広く見ながら操作できることが特徴。同社独自の「グリップマジック」によって誤動作を防ぐ
アーチ型UIを紹介するFFD
ディスプレイ上部の両サイドをカーブさせ、インパネ中央に設置しても視界を遮らないという形状
デモ機は本体外周の右上にエッジセンサーを内蔵。運転中に指先の感覚だけでエアコンの温度調節などの操作が可能になるという提案
アシストカメラの表示切り替えなども直感的に操作できるとアピール

 タッチパネル以外の機能追加については、「カードリーダー機能搭載ディスプレイ」を紹介。アンテナを透明化したNFCのカードリーダーを液晶とカバーガラスの間に設定し、画面全体をカードリーダーとして機能させるというUIを提案。別にカードリーダーを用意する必要がなくなり、表示内容を工夫して分かりやすくカードが使えるようになるほか、液晶ディスプレイが利用される幅が広がることになると説明した。このほかに会場では、さらに解像度を高めて近接ジェスチャーセンサーと組み合わせたデュアルビュー液晶、筆による入力に対応する大画面液晶ディスプレイなども展示されていた。

FFDのアーチ型UI展示と並んで紹介されたカードリーダー機能搭載ディスプレイ。デモ機のようにPCモニターに使ってネットショッピングの決済に利用したり、自動販売機やゲームでの利用が想定されている
デュアルビュー液晶は従来技術では横方向の解像度が半分になる欠点を持っていたが、同社の新技術では左右それぞれで通常の解像度を実現。自然で美しい表示が可能になる。さらに画面両脇に近接ジェスチャーセンサーを設定。見ている側の表示内容をジェスチャー操作できる
正面から見ると左右の表示が重なり、やっと別の内容を1つのディスプレイで表示していることが確認できる
高精細デュアルビュー液晶の解説パネル
専用の筆を使って文字を書く大画面液晶ディスプレイ。墨がかすれたりにじんでいるような表現は内部のソフトで再現しており、切り替えて電子黒板としての利用も想定している

(編集部:佐久間 秀)