日産、「リーフ」「フーガ・ハイブリッド」のリチウムイオン・バッテリーを解説
クルマの用途を考えた、低コストで高性能なバッテリー

日産のEV「リーフ」

2010年2月26日開催
神奈川県横浜市 日産本社



 CO2を削減し、化石燃料への依存から脱するため、自動車メーカー各社が電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)などの開発を急いでいる。こうした開発のポリシーは各社で異なるが、日産自動車は独自開発のリチウムイオン・バッテリーをエネルギー貯蔵装置とするEV、HEVに活路を見出そうとしている。

 同社は2月26日、EV「リーフ」と、HEV「フーガ」の発売を2010年後半に控え、リチウムイオン・バッテリーについての報道関係者向け勉強会を開催。同社EVエネルギー開発部の宮本丈司エキスパートリーダーが、リチウムイオン電池の原理や、日産のリチウムイオン・バッテリーの特長、EV「リーフ」について説明した。

日産のHEV「フーガ・ハイブリッド」
EV用とHEV用バッテリーの違い

EV用とHEV用のバッテリーは違う
 宮本氏によれば、「電池は、化学反応による電子の動きを、電気エネルギーとして取り出すもの。材料次第で、その電池のポテンシャルが決まってしまう」と言う。鉛電池やニッケル水素電池よりもリチウムイオン電池のほうが、容量、出力ともに優れているのはこのためだ。ただし、EVとHEVではバッテリーのスペックが異なり、EVでは容量が、HEVでは出力(瞬発力)が重視される。このため、同じリチウムイオン・バッテリーでもEV用とHEV用では設計が異なり、実際にリーフ用とフーガ用のバッテリーが作り分けられている。

奥がEV用、手前がHEV用のバッテリーモジュールバッテリーモジュールを構成するセルも、EVとHEVで異なるちなみにEV用バッテリーモジュールの大きさはこのくらい

 リチウムイオン・バッテリーは、簡単に言ってしまえば、正極と負極で電解液を挟んだもの。外部から電子を送り込むと、正極のリチウムイオンが外部からの電子を持って負極に移動し、これが「充電」となる。「放電」は、負極のリチウムイオンが正極に移動し、その際に電子が外部に取り出される。

 つまり、充電・放電中は、リチウムイオンが正極と負極の間を移動している。このとき、すべてのリチウムイオンが正極や負極に移動すればよいのだが、100万個のリチウムイオンが移動する度に1個ほどは移動しない。これが積み重なると充電容量が落ち、「バッテリーが劣化した」ということになる。

リチウムイオン・バッテリーの仕組み。セパレーターで仕切られた負極と正極の間をリチウムイオンが行き来し、同時に電子が電気エネルギーとして充放電される。左が放電された状態。中央が充電中で、右が満充電

 

日産のEV/HEV開発の歴史

安全な材料と、安価な構造を採用
 日産は、1992年に、家電用のリチウムイオン・バッテリーの登場とともに、自動車用途への開発を開始。1998年に北米に約30台の「アルトラ(日本名:ルネッサ)EV」を導入、同じ電池だが搭載量を減らした2人乗りコミューターEV「ハイパーミニ」も1999年に販売した。また2000年にはリチウムイオン・バッテリーを搭載した2モーターHEV「ティーノハイブリッド」を100台限定で発売した。

 こうした過程を経てリーフ、フーガのリチウムイオン・バッテリーが開発されたが、日産のバッテリーの特長は、2つある。

 1つは正極にマンガン系材料を使用していること。コバルト系などほかの材料に比べ2割ほど容量が小さくなるものの、安価で信頼性が高いと言う。特に、ひところ話題になったノートパソコン用などのリチウムイオン・バッテリーの発火は、電池内に異物が混入したことが原因だったが、日産の材料は異物が混入しても問題が起きないものだと言う。

 もう1つは、電池の最小構成単位である「セル」を、一般的な円筒形でなく、レトルトパックのようなラミネート型としたこと。円筒形セルでクルマの出力に耐えるものを作るには、複雑な構造が必要になるが、ラミネート型なら部品点数が少なく低コストになる。また、表面積が大きく冷却性能に優れているため、バッテリーの熱付加が少なく寿命が長い。

 さらに、薄く軽いため、セルを束ねてバッテリーパックにするときにも、形状が自由になる。クルマに積む場合はバッテリーの搭載量や居住性を両立する必要があるため、形状が自由になるのは重要なことだ。

 なおバッテリーパックは防水構造で、クルマが水没しても壊れない。また、あまりクルマに乗らないドライバーが、残量計がエンプティーの状態で3カ月放置しても、バッテリーが空にならないようにできていると言う。

 ただ、どうしても外気温により性能差が出てしまう。今後は、出荷地域の気温に合わせて最適な設計をしたバッテリーを作り分ける予定と言う。

HEV用バッテリーモジュール。手前がセルで、これを8枚たばねてバッテリーモジュールとするモジュールを束ねてバッテリーパックにバッテリーパックは防水構造で、EVやHEVが冠水路を走っても漏洩したり感電したりしない
比較的形状を自由にレイアウトでき、リーフでは床下にバッテリーパックを搭載する右は日産が過去に試した円筒形セル
ラミネート型セルの中にはこれらのような板状の材料と、電解液が封入されている
日産が正極に採用するマンガンは、スピネル構造という安定した結晶構造になっており、充放電でリチウムイオンが出入りしても、取り残されるリチウムイオンが少なく、寿命が長い。ただし、スピネル構造はリチウムイオンの量がほかの材料よりも少ないため、エネルギー密度も2割ほど減るラミネート型セルのメリットNECと共同でバッテリーの新会社を設立、世界規模で生産する

 日産ではこのラミネート型セルを、EV用で192個、HEV用で96個束ねて、バッテリーパックとしている。パッテリーパックはこのように多数のセルで構成されるため、セルごとに容量や出力にバラつきがあるが、これをバッテリーマネージメントシステムで揃えている。

 ちなみに、ノートパソコンなどには、「18650」という規格の円筒形のリチウムイオン・バッテリーが使われている。この18650バッテリーは大量に生産されており、安価で性能が安定しているため、米テスラ・モーターズのように、18650を束ねてEVの動力源としている例もある。宮本氏はこの手法を「過渡的な時期には、18650を使う戦略もありだと思う。しかし、サプライヤーに18650によるEV用バッテリーパックを提案してもらったが、あまり魅力的な答えではなかった」とのことだった。

 日産は、NECと共同でバッテリーの生産を行っている。

(編集部:田中真一郎)
2010年 2月 27日