フォルクスワーゲン/アウディの生命線「中央部品倉庫」を見学
6万点のパーツと98%の即納率を維持するシステム

中央部品倉庫

2010年10月24日



中央部品倉庫の内部

 輸入車ユーザーや輸入車を検討している人々の心配のタネの1つに、「パーツの供給」がある。どんなにすばらしいクルマでも、パーツが供給されなければパフォーマンスを発揮できないし、最悪の場合はただの鉄の塊になってしまう。

 今ほど国際的な流通システムが整備されていなかった頃から輸入車を愛用している人に尋ねれば、必要なパーツが手に入るまで1カ月や半年はざらにかかった、あるいはついに手に入らなかったなどという話が、いくらでも聞けるだろう。

 世界の中で日本の市場が重要性を増し(現在は落ち込みつつあるものの)、輸入車が増えるにつれて、こうした状況は大きく改善された。よほど特殊なモデルならともかく、自前でインポーターを日本に置いているようなメーカーのクルマであれば、もうパーツで気に病む必要はないと言える。

 まさに輸入車の生命線と言えるパーツ供給だが、その実態はどのようになっているのだろう。それは想像を超えるほど大規模で、緻密な管理に基づいて運営されているシステムだった。

 アウディのアフターサービス競技会「ツインカップ2010」の取材(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20101027_402711.html)時に、あわせてフォルクスワーゲンとアウディのパーツセンターを取材することができたので、その模様をリポートする。

1000の入荷を1万に小分けして出荷
 アウディ ツインカップ2010の会場は、愛知県豊橋市明海町のアウディ豊橋事業所のトレーニングセンターだったが、ここはフォルクスワーゲン グループ ジャパン(VGJ)の「豊橋インポートセンター」と呼ばれる施設の中にある。

 豊橋インポートセンターの17万8000m2に及ぶ敷地内には、VGJの本社ビルのほか、自動車運搬船が着く専用岸壁と車両保管施設、PDI(プレ・デリバリー・インスペクション:納車前整備)施設、サービス要員のトレーニング施設、そして本稿の舞台「中央部品倉庫」などがあり、まさにVGJとアウディ ジャパンの中枢となっているのだ。

 中央部品倉庫は豊橋インポートセンターとともに1992年に竣工、2002年には自動倉庫の導入とともに拡張され、現在は1万8845m2の床面積を持つ。この面積はだいたい、幕張メッセの北ホール(9~11ホール:2007年の東京モーターショーでは商用車・二輪・車体・部品の展示館となった)と同じだ。

 この中央部品倉庫の業務は、ドイツからやってきたフォルクスワーゲンとアウディのパーツを受け入れ、仕分けして整理・保管し、サービス拠点からの注文に応じて発送すること。

 中央部品倉庫の責任者である中村剛氏によれば、この倉庫では、1つの品が入荷し、出荷されるまでを1ラインという単位で呼んでいる。入荷は1日に約1100ラインなのに対し、出荷は1万ライン/日。つまりまとまってやってきたパーツを小分けにして出荷するのが、この倉庫の仕事とも言える。

豊橋インポートセンター。白くくるまれた、PDIを待つ車両が見える
中央部品倉庫の内部責任者の中村氏

即納率98%は絶妙な設定
 中央部品倉庫の規模をお伝えするために、すこし数字を羅列しよう。

 この倉庫に保管されているパーツは約6万点で、ディーラーへの即納率98%を維持している。どんなパーツも即納、つまり即納率100%が理想の状態ではあるが、即納率を現在から1%上げるとなると、13万点、つまり倍以上のパーツを保管しなければならないと言う。逆に、即納率が95%でよい、ということになれば、保管するパーツは1万点で済むと言う。

 販売店に過度のプレッシャーをかけず、かつ運営コストが最適になる絶妙な即納率として98%という数字が設定されているのだ。

 この98%という数字は、世界的に見れば非常に優秀だ。独フォルクスワーゲンAGは、各国のインポーターに対して即納率の維持基準を96%と通達しているのだ。日本の顧客はそれでは満足できない、ということで独自に98%が設定されている。

 6万点の内訳は、アウディ専用パーツが3割、フォルクスワーゲン専用パーツが4割、アウディとフォルクスワーゲンの共用パーツが3割と言う。両ブランドとも車種は増えつつあり、かつ車両構造の複雑さは増している。プレミアムブランドたるアウディはなおさら、パーツ点数が多い。パーツ点数が増えれば、98%の即納率の維持もそれだけ厳しさを増すことになる。

中物、大物の棚さらに大型のものを置く平置きスペース
小物の整理棚ピックされた小物は手前のコンベアで出荷エリアへ運ばれる

ドイツ直通回線で管理
 ドイツからは週1回の船便でパーツが送られてくる。航空便でもやってくるが、メインは船便だ。1回あたり40フィートコンテナ(約2.5×12.2×2.6m)4本ぶんのパーツが届くと、すべての品番と数量がチェックされる。このとき、クレームの多い部品は抜き取りチェックを行い、ディーラーに不良品が届く可能性を減らす。

 チェックが済んだパーツは、大きさによって小物用の棚、大物用の棚、平置きエリアに整理され、オーダーが入るのを待つ。ディーラーからのオーダーが入れば、棚から取り出され、パッキングされて出荷される。

 6万点の部品のどれかを、フォルクスワーゲンとアウディの350以上の拠点に届けるという細かい仕事なので、当然ながらITの力で管理することになる。

 入荷したパーツはすべてバーコードで管理されるが、この管理システムはすべて独本社に直結。つまり、この中央部品倉庫の入荷エリアでバーコードをスキャンすると、そのデータが海を越えてすぐに独本社に届く、ということになる。

 保管する棚の位置ももちろんコンピューターで管理されるし、小物は自動回転棚や、「ピック&ストッカー」と呼ばれる自動棚に保管される。オーダーが入れば小物はコンベアで自動的に出荷エリアに運ばれる。

入荷エリア。ここで検品も行うドイツからやってきたパーツ。通称「カッセル箱」にさまざまなパーツが混載されてくるので、ここで仕分ける。カッセルとは、ドイツの中央部品倉庫がある街の名前。カッセル箱には日本に導入されていないフォルクスワーゲンブランド「セアト」と「シュコダ」のマークも入っている入荷品のバーコード。ドイツで付けられたものと、日本で付けるものがある
出荷エリア。ピックされたパーツは写真左側の棚に届き、パッキングすると右の棚から送り出されるディーラーへ運送するときにはこの段ボール箱に入れる

 大物、中物は、効率を上げるために「ゾーンピッキング」という手法を採る。保管エリアをいくつかのゾーンに分けて、ゾーン毎に担当者を決めておき、オーダーが入ると必要なパーツのあるゾーンの担当者がパーツを取り出し、出荷エリアへ持って行く。出荷エリアで必要なパーツをまとめてVGJの箱にパッキングされ、正しい出荷先へ送り出される。

 出荷先も350以上と多いので、ランプが点灯している棚に箱を入れれば、指定された出荷先へのトラックに積まれるという仕掛けで間違いを防いでいる。

 ディーラーからのオーダーは15時で締め切られ、18時までにはすべてピッキング(棚から目的のパーツを取り出すこと)とパッキングを済ませて運送業者に渡される。3時間で全国のオーダーを処理するべく、見学した際は出荷作業エリアを増設中だった。

 さらにこの倉庫は、これまで日曜祝日は出荷を休んでいたが、11月からは年末年始とお盆を除く期間は無休となる。取材したのは日曜日だったが、日曜祝日の出荷に対応するためのトライアルが行われていた。

 この倉庫の仕事をまとめると、6万点のパーツを受け入れて保管し、その中から必要なものを選び、350以上ある発送先の1つに送り届ける、ということになる。整理整頓やシステマチックなことが苦手な筆者には気が遠くなる規模の仕事に見えるが、みなさんはいかがだろうか。これほどの規模の部品倉庫を持っているのは、日本のインポーターではメルセデス・ベンツとBMWくらいだと言う。

(編集部:田中真一郎)
2010年 10月 28日