奥川浩彦の「撮ってみましたF1日本グランプリ 2011」【前編】


 今年もF1日本グランプリが鈴鹿サーキットで開催された。富士スピードウェイで開催された2年を含めると、1987年から25年連続となるアニバーサリーな日本グランプリとなった。毎年書いているが、1987年から続く筆者の金、土、日、25年間皆勤賞は今年も継続。Car Watch創刊から4年連続となる筆者の撮影記「撮ってみましたF1日本グランプリ」を今年もお届けしよう。

 鈴鹿サーキットにF1グランプリが戻ってきて3年目となった。2009年は3日間全席指定だったが、2010年は金曜はグランドスタンド(V1/V2席)以外の席が自由席となり好評だった。カメラマンシートという新たな試みも始まり、レース写真ファンには大満足の企画となった。筆者自身も昨年はカメラマンシート(の撮影エリア)を中心に撮影を行った。

 昨年の撮影記の最後に「カメラマンシートを購入する方は、席はいらないのかもしれない。その分1万円でも安くしたほうが、喜ばれるような気もする」と書いたところ、一昨年日本グランプリで知り合った方と富士スピードウェイで偶然会った際に「自分の席には1度も座らなかったから席はいらない」と、筆者の記事に賛同をいただいたので、多くの方がそう感じたのかもしれない。

F1日本グランプリでのシートマップ

 毎年進化するF1日本グランプリだが、今年はカメラマンシートがカメラマンエリアとなり指定席はなくなった。それにともない価格は5万5000円から4万円に値下げ、カメラマンエリアは完売になったらしい。鈴鹿サーキットの柔軟な姿勢には頭が下がる思いだ。

 筆者自身は昨年が2コーナーのB2席だったので、今年は久しぶりに西コースのJ席を購入した。昨年フリー走行1回目をJ席で撮影し、友人達も「この席いいねぇ」とのことだった。ここ数年はオッサン3人での観戦だったが、たまたま取引先の外資系企業の女性(推定年齢35歳、TOEIC800点台)が「観てみたい」とのことだったので4人分のチケットを購入した。

 昨年は鈴鹿サーキットから取材用のパスが支給され、今年はFIAから取材パスが支給されたので、筆者自身はチケットを購入する必要がないとも考えられるが、来年以降もチケットは購入するつもりだ。昨年の原稿の最後に「サーキットに足を運ぶF1ファンも、テレビで観戦するF1ファンも、1人1人がF1日本グランプリを支えていく気持ちを持っていただければと思っている」と書いた。25年間続いた日本グランプリだが、日本の経済状況などをみるといつ途絶えるかわからないと思われる。日本グランプリが今後も継続されるように、筆者自身も小さな貢献を続けていくつもりだ。

 今年のF1日本グランプリは個人的に慌ただしい雰囲気で迎えることになった。9月4日にフォーミュラ・ニッポン(鈴鹿:雨で中止)、翌9月11日がSUPER GT第6戦(富士)、続く9月18日がINDY JAPAN(もてぎ)。1週空いて10月2日がSUPER GT第7戦(オートポリス)。F1以降もSUPER GT最終戦(もてぎ)、WTCC(鈴鹿)と8週間に7回サーキットへ行くこととなる。九州から戻り原稿を書き上げ、バタバタと当日を迎えることとなった。


金曜フリー走行
 朝6時30分に友人1人を乗せ名古屋市内の自宅を出発。毎年同じ時刻だ。今年は神戸から女性が参加するので白子駅でピックアップとなる。来年以降、関西から観戦される方の参考に時間を書くと、
元町(5時03分、JR)→鶴橋(6時11分、近鉄)→白子(7時55分着)
で8時前に白子駅に到着することが可能だ。

 いつもどおり伊勢湾岸道のみえ川越IC(インターチェンジ)で降り、国道23号を経由して鈴鹿に向うルートだが、金曜日は平日のため朝の通勤ラッシュと重なる。今年は国道23号の渋滞が高速出口までつながり、料金所手前から渋滞となった。

料金所手前で止まってしまった料金所の出口には日本グランプリのノボリ一般道への分岐には案内の看板


白子駅西口。時計は8時10分。シャトルバスに多くの観客が乗り込んでいた

 四日市ポートタワーの手前で裏道に入り、地元の通勤ドライバーの方々と一緒に走行し、四日市市内まで抜け国道23号に戻り鈴鹿市内へ。白子駅には予定よりやや遅れ、8時10分頃に到着。初観戦となる神戸の女性をピックアップした。

 毎年お世話になっている道伯町の民間駐車場に寄って、オヤジさんにご挨拶、3日分の駐車代を支払いそのままサーキット内の関係者駐車場に移動した。近くに駐めると帰りの渋滞に巻き込まれるので、今回は初日だけ中に駐め、土、日は外に駐める作戦だ。鈴鹿サーキットは周辺の駐車場が充実している。少し離れた民間駐車場に駐め、自転車でサーキット入りするのが最強だと思っている。

 駐車場で同乗の2人をヘアピンに送り出し、筆者はピットビルのメディアセンターへ。関係者駐車場は1コーナー手前のA席の後ろ側、メディアセンターはピットビルの最終コーナー側、この間の移動はかなり時間が掛かる。10時のフリー走行開始まで時間がないので、すぐに駐車した車に戻り、積んできた自転車を降ろし、撮影機材を持って西ストレートゲートへ。ゲートから坂と階段を駆け上がり、ヘトヘトになって先にヘアピンに向かった2人と合流したのはセッション開始7分前だった。

 国内レースでは数年前からコースサイドの報道エリアで撮影しているが、今年の日本グランプリは報道カメラマンのビブスが用意されたので、コースサイドでの撮影が可能となった。しかし、地上波の放送が1週間後となるSUPER GTなどは報道視点でレースを紹介しているが、F1グランプリは多くの方が当日の放送を視聴していると思われるので、今年もレースの紹介ではなく撮影記(観戦記)を観客視点でお届けするつもりだ。

 最初にヘアピンを選んだ理由は、混雑を考慮したためだ。昨年は金曜午後のフリー走行2回目でヘアピンを訪れたが、ヘアピンのスタンド自体が大混雑、カメラマンエリアは隙間があったが、今年はさらに混雑する可能性が高いと思い、一番観客の少ないフリー走行1回目に撮影することにした。

 F1グランプリの撮影日程で筆者が最も重視しているのは金曜日だ。走行時間は金曜日が1時間半のフリー走行が2回、土曜日が1時間のフリー走行と約1時間の予選、日曜日は約1時間半の決勝なので、合計6時間半のうち3時間、半分弱が金曜日の走行となっている。フリー走行1回目はトップチームの周回数が少な目とはなるが、グランドスタンド以外は自由席、望遠レンズの制限なし、観客数も最も少なく撮影しやすいということを考えると、撮影目的なら金曜日がお勧めとなる。

 午前10時、セッション開始時はヘアピン常設スタンドが3割程度は空席、常設席下のカメラマンエリアもそこそこ隙間がある状態だ。筆者は昨年途中からレンズまわりの機材を変更している。望遠系は元々100mm F2.0、200mm F2.8、300mm F4.0の単焦点構成だったレンズを70-200mm F4.0、300mm F2.8に変更、カメラはEOS 7D、EOS 40Dで昨年と同じだ。300mm F2.8にEOS 7Dと一脚を取り付け、セッションが始まったのでノコノコとカメラマンエリアへ移動した。

セッション開始直後のカメラマンエリアはそこそこ隙間があった。常設席の下段にも撮影する人が集まっていたクリッピングポイント側のカメラマンエリアはかなりゆとりがある進入側も隙間がたっぷり

 フリー走行1回目は各車がマシンチェックのため1~2周走行するとしばらく走行がない。トップチームは最初の10分でゆっくり1~2周したら10分休憩といった感じだ。最初の10分は撮る側もウォーミングアップ的な要素が強い。シャッター速度を1/250秒で撮影開始。これくらいのシャッター速度ならタイヤが回転し、サイドウォールの文字も流れ「走ってる」という感じに見える。普段から露出補正は-1/3にしているが、モニターでチェックすると露出オーバーなので-2/3に変更、まだ少しオーバー気味なので-1にして準備完了だ。

 カメラマンエリアは昨年より足下の土嚢を積み増したのか、金網が低く感じられ、かなり撮影はしやすくなった。だが、撮影をしているとなぜかカメラの位置が低くなっていく。足下を見ると一脚が土嚢に突き刺さり徐々に低くなっていたためだ。もはやF1撮影の定番スポットなので、そろそろ土嚢からステップアップし、しっかりした足場にして欲しいというのは贅沢だろうか。

 セッション開始から20分が過ぎ各チームが本格的に走行を開始した。ヘアピンから立ち上がってくるマシンをフレームからはみ出す位置まで連写。AFは最も性能の高い中央1点を使用。最終的にトリミングするのでフレーミングのバランスは無視してヘルメットにフォーカスポイントを合わせての撮影だ。

ヘアピンを立ち上がるマシンをフレームに入る位置からフレームをはみ出す位置まで撮影した
その画像をトリミングし、1920×1080ピクセルにリサイズしフォトギャラリーに掲載した画像(1920×1080ピクセルで掲載)

 Car Watchでフォトギャラリーに掲載する写真は、フルHDサイズの1920×1080ピクセルとなっているが、EOS 7Dの元画像は5184×3456ピクセルのため、かなり小さくリサイズするケースが多い。現在のデジタル一眼レフの性能は凄まじく、元画像には細かなところまで写っている。これからデジタル一番レフを買ってレース写真を撮りたいと思っている方の参考にヘルメット部分だけを切り抜いた画像を用意してみた。

 ロズベルグのバイザー下のnicorosberg.comの文字や、ハミルトンのバックミラー、バイザーのJOHNNIE WALKERの人のロゴマーク、ヒュルケンベルグのバイザーのForceindiaの文字など、テレビ映像では見えないところまで、デジタル一眼レフの静止画では見ることが可能だ。走行するマシンでここまで写せるオートフォーカス性能や解像度は驚異的だと思っている。

元画像からヘルメット部分だけ切り抜いた画像。デジタル一眼レフの性能は凄まじいものがある

 10時45分まで実質25分ほど撮って、撮影ポイントを常設スタンド左端、ヘアピンのクリッピングポイントを通過するマシンを正面から撮れる位置へと移動した。真っ直ぐ横へ移動したほうが距離的には近いが、この部分の土手はかなりの傾斜があるのと、常設席の下段にも望遠レンズが並んでいたので、遠回りだがスタンドの最上段まで上がって5分ほどかけての移動だ。この頃には東名阪の渋滞で遅れてきた友人もヘアピンに到着、オッサン3人と初参加、推定年齢35歳の女性という今年の観戦メンバーが揃っていた。

 ヘアピン常設席の左右の土手はかなり隙間があり、撮影ポジションは選べる状態だった。今年は常設席下、左右のカメラマンエリアの金網も黒色に塗装されていた。鈴鹿サーキットの金網は緑色なので、晴れた日は反射がきつく、金網越しに撮ると緑色が被ってしまう。昨年から一部黒色に塗装され、今年はその対策がさらに拡大されている。細かな配慮が嬉しい。

 このエリアのすぐ下は報道用の撮影エリアなのだが、ほとんど同じ距離、同じ高さからマシンを撮影することが可能だ。微妙な差はあるが、おそらく撮った画像だけ見たら観客席で撮ったのか、報道エリアで撮ったのか判別できない画像もあるだろう。

 この場所ではヘアピンのクリッピングポイントを通過するマシンをシャッター速度1/500秒から1/400秒くらいで撮影を開始。フォーミュラーカーの場合、タイヤがむき出しのため、あまり速いシャッター速度で撮影するとタイヤの接地面が止まって写ってしまう。そのためマシン速度にもよるがヘアピンでは1/500秒くらいが上限だと思われる。

 マシン速度が遅く、シャッター速度が速めなので一番簡単な撮影ポイントだ。スローシャッターで違う表現も可能だが、シャッター速度を1/15~1/30秒での流し撮りは成功する確率が低くなる。このセッションの間にスプーンまで移動を考えていたので「鉄板」な撮り方だけとした。

 撮影時間は10時50分から11時までの10分間と決め、その間に通らなかったマシンは諦める作戦だ。途中マシンが1台も来ない時間があったので、隣にいた夫婦と思われる2人にプチ取材。夫婦2人で埼玉から来たそうで、「エンゲル係数ならぬ、レース撮影係数が高そうですね」と聞いたら笑っていた。奥様も望遠レンズで撮影してたのが印象的だった。今年はカメラマンエリアのビブスではなく、報道カメラマンのビブスを着ていたので、こういった取材をするときは相手も自然に対応してくれた。

常設席左側の土手に移動。今年は常設席の金網も黒色に塗装され撮影時の反射が抑えられている。金網の下が報道エリア。カメラマンエリアはほとんど同じ高さから撮影が可能だ常設席の左右の土手はかなり隙間があり撮影場所は選べる状態だった。このお二人はご夫婦で埼玉から撮影に来ていたクリッピングを通過するマシンの撮影は簡単(1920×1080ピクセルで掲載)


事前の情報にはなかった常設席スプーン側のカメラマンエリア。遠くに見えるスタンドがJ席

 予定どおり10分だけ撮影し、友人達の席に置いた他の機材を持って小走りにスプーンに移動を開始すると、常設席のスプーン側にもカメラマンエリアが設置されていた。事前の情報にはなかったはずだが、かなり広めのスペース。チラっとのぞくと係のお姉さんが「どうぞ」と言うので中に入って様子だけ撮影。流し撮りにはよさそうなエリアだと思われる。

 ヘアピンからスプーンまで、マシンは数秒で駆け抜けるがオッサンには微妙に遠い距離だ。だが200Rからスプーン進入はアクセル全開で音がいい。その先のスプーンも1台だけ走行するとアクセルワークの違いがハッキリ分かる観戦ポイントだ。その音を楽しみながら10分ほどでスプーンに到着。残り時間が少ないので奥の方へ進むのは諦め、スプーン進入部分の土手の途中まで降りて撮影することにした。

 まずはシャッター速度を1/200秒から1/160秒でマシン真横から流し撮り。背景がシンプルなので、それほどシャッター速度を落とさなくてもスピード感が出る撮影だ。天気がよく絞りがかなり絞り込まれそうなので、光の回折による小絞りボケを避けるためにND4フィルターを装着した。セッション終了が近付いたところでスプーン1つ目のブレーキングを1/30~1/40秒のスローシャッターで撮影。ここまで撮影してフリー走行1回目が終了した。


スプーン進入を横から流し撮りスプーン1つ目のブレーキングをスローシャッターで撮影

 2年前はスプーン全体がテントで覆われ撮影ポイントがなくなっていたが、指定席も1つだけとなり、ノンビリした昔のスプーンに戻ってきた感じだ。進入部分は完全な自由席状態。ノンビリ見る(&聞く)もよし、撮影するもよしといった雰囲気だ。ヘアピンに戻る途中で灰皿を見つけ、久々に一服。昨年も書いたがカメラマンにもスモーカーにも優しいサーキットだ。

セッション終了直後のスプーン進入の土手。自由席化されノンビリしていい感じだスプーン1つ目のこの辺りがカメラマンエリア……のはずスプーンの指定席はここだけとなっていた
スプーンの売店はこれだけ。焼き肉ランチが人気だったカメラマンにもスモーカーにも優しいサーキット。灰皿はマールボロ

 ヘアピンに戻り友人達と合流。東コースへ移動を開始した。昨年は各自が自転車を用意し迅速な移動が可能だったが、今年は初参加の女性に加え、友人1人も直前にご不幸がありチケットだけ持って愛知県の実家に戻っての参加となったため徒歩が2人、ノンビリと逆バンク裏のオアシスのテントまで移動した。筆者はといえば、報道ビブスで肩に望遠レンズ、ママチャリ(パパチャリ?)のカゴにカメラバッグという異様なスタイルで移動していた。

逆バンク裏のオアシスの売店には長蛇の列

 逆バンク裏のオアシスの売店は長蛇の列。2年前に鈴鹿サーキットで知り合い、その後も連絡を取り合っている方が逆バンク、D席のカメラホール付近にいるというので席まで行ってその友人ともしばし雑談。9月のINDY JAPANで偶然会い、金網越しに話した際には不参加と聞いていたが、F1直前に金曜日だけ撮影に行くと連絡があった。「金曜日にたっぷり撮影して4000円は安い」と金曜チケットの復活に満足そうだった。その友人はカメラマンエリアが4万円に値下げされたことに満足している様子。毎年進化する鈴鹿サーキットのF1日本グランプリ。来年はどう改善されるか楽しみである。

 午後のフリー走行2回目は14時から1時間半。初参加の女性は土曜から東コースのスタンドに入ることができないのを考慮して、午後は東コースで撮影することにした。C席で2コーナーから撮影を開始し、徐々にS字、逆バンクと尺取り虫的に移動しながら撮る作戦だ。

 オッサン2人は2コーナーからS字が見渡せるD4席付近から動かず観戦。筆者は25年皆勤賞だが、残りの2人も20回以上は観戦しているのでノンビリしたものだ。筆者と初観戦の女性は午後のセッションに備え2コーナーへ移動した。

 フリー走行2回目は各チームがセッション開始からコースインするので周回数が増える。今回の日本グランプリのフリー走行1回目、2回目のラップ数をみるとバトンが20周と32周、ベッテルが22周と35周と1.5倍ほど多く周回している。撮影視点でみればシャッターチャンスが1.5倍になるということだ。

 14時、フリー走行2回目が始まった。最初の撮影ポイントはC1席、2コーナーのクリッピングポイントが正面から撮影できる位置だ。高い金網の切れ間から撮影する定番ポイントで10人前後が金網からスタンド中段までまばらに集まっていた。

 コースまでは少し距離があるので、300mmのレンズに1.4倍のコンバーターを装着した。報道エリアはコースに近く、より短いレンズで撮影できるため最近はコンバーターを使用することがない。今年初めてコンバーターを使用しての撮影だ。

 最初はシャッター速度を1/500秒にして正面の撮影。徐々にシャッター速度を落とし立ち上がり側の流し撮りは1/250秒とした。撮影位置も流し撮りに合わせやや右側に移動。ある程度撮ってC1席の真ん中付近まで移動した。

最初は正面を中心に撮影立ち上がり側を撮ると鉄骨が入ってしまう少し撮影位置を右へ移動。鉄骨は入らなくなったがコースマーシャルのポストの屋根が右下に入った

 C席は観客もまばらだがB2席は満席に近い状態。A2席はそこそこといった感じだ。B2席は元々人気のスタンドだが、今年はDRSでリアウィングがパカっと開くところが見える影響があるかもしれない。

1コーナーのA2席はやや空席あり2コーナーB2席は多くの観客が集まっていた

 次の撮影は観客で埋まるB席スタンドをバックに縦位置でマシンを撮影した。個人的にはマシンが豆粒のように小さく写っている画像が撮れるとうれしい。続いて多少場所を調整しながら金網が邪魔にならない高さまで降りて2コーナーからS字へのストレートを加速マシンを流し撮り。下段の席からは200mmで少しフレーミングにゆとりがある距離となる。横に長いC1席は撮影の宝庫だ。C席のS字側の位置からS字を抜けるマシンを見ると、その速さは驚異的だった。トップチームの速さは撮った後に見入ってしまうほど魅力的だった。S字の上から見下ろすよりもこの位置から見た方が速く見えたような気がした。

そのB席の観客をバックに縦位置でマシンを撮影2コーナーからS字へのストレートは流し撮りのポイント。金網の向こう側の右は報道エリア。ほぼ同じ距離での撮影だS字に進入するマシンを200mmで流し撮り

 さらにS字側に移動しC席横の土手までやってきた。ここは斜めにロープが張られていて、ロープから先はカメラマンエリアとなっている。S字進入で左へ切り込むところを流し撮りしたかったので、カメラマンエリアではなくC席常設スタンドと土手の切れ目あたりの下段で流し撮り。この辺りはずっと200mmのレンズで撮ることができる。

 ちなみに撮影ポイントの移動のタイミングだが、目の前を走るマシンが減ったらiPhoneアプリの「Formula1.com 2011」でライブタイミングを見て、上位陣がピットインすると次の撮影ポイントに移動している。

C席横の土手は撮影ポイント。斜めに張られたロープから向こうはカメラマンエリアC席側の土手の下段に降りてS字を撮影S字を通過するマシンを200mmで流し撮り


Formula1.com 2011の画面キャプチャ。P2残り21分、カーナンバーが赤いのはピットインの印。移動のチャンスだ

 カメラマンエリアは同行の女性が入れないので、パスしてS字にあるD席へ。D5スタンドは満席状態なのでパスしてD4まで移動。オッサン2人を見つけ合流。筆者だけ撮影できそうな空間を見つけやや逆バンクよりの中段で撮影を再開した。

 S字から逆バンクへ左ターンとなるこの辺りも定番の撮影ポイントだが、久しぶりに観客席から撮ると「撮りやすい」と感じた。撮りやすい理由の1つ目はマシンの速度が安定していることだ。正確にはレンズを振る速度が安定していると言ったほうがよいだろう。

 筆者は流し撮りが一番行いやすい距離は回転半径の中心だと考えている。100Rのコーナーのイン側で100m離れて回転中心からマシンを見れば距離は一定、マシン速度が一定ならレンズを振る速度も一定となる。同じ100Rのコーナーでマシンが通るラインのすぐ近くで撮影すると、マシンが通過するときはもの凄い速さでレンズを振らないと撮影ができない。

 このS字2つ目の左ターンは観客席から撮ると安定した速度でレンズを振れるが、報道エリアはコースまでの距離が近すぎて撮りにくいポイントとなっている。

 2つ目の理由は被写体との距離によるマシンの美しさだ。観客席から撮ったマシンは美しい。ところが報道エリアから同じ位置を走るマシン撮ると、距離が近いためデフォルメされ美しくないのである。これも例を挙げてみると、歩道に立って通りの向こう側を走る自転車を撮ると普通に自転車らしく撮れる。では歩道のすぐそば、手前側の車道を走る自転車を広角レンズで撮るとどうだろうか。その姿はかなりパースペクティブの掛かったデフォルメされた絵になるはずだ。この点でもこのコーナーは観客席から撮ったほうが美しいバランスの絵となる。


S字2つ目のクリッピングポイント。この位置はマシンが美しく見える。しかも撮りやすい

 加えてマシンの背景は路面と縁石と芝。極めてシンプルなのでシャッター速度を1/200秒にしてもスピード感がある絵になる。1/125秒と比べれば格段に成功率は上がるので、久しぶりに撮るS字観客席は1人興奮しながらの撮影となった。

 残りセッションもわずか。最後に逆バンクに移動した。途中で最下段のカメラホール越しの撮影ポイントを見ると、普段2~3人しか撮れない1つの場所に7人が集まっての撮影となっていた。F1人気、恐るべし。

 逆バンク最上段はカメラマンエリアのはるか手前から望遠レンズの砲列。その下のスタンド席にも望遠レンズが並んでいた。パッとみた感じは紫色のビブスを着たカメラマンエリアの人より、倍くらいの人が撮影している感じだ。

 日本人がカメラ好きということもあるが、デジタル一眼レフが普及し、普通に観戦していた人も「撮ってみよう」と思う方が増えているのかと想像した。だとすればカメラマンに優しい鈴鹿サーキットがさらに進化すれば、新しい観戦スタイルが定着するかもしれない。来日したドライバーが「日本人は半分がカメラマンなのか」という時代が来るかもしれない……とレース写真ファンは妄想するのである。

 残り時間は数分。看板がコースの半分に影を落とし微妙な感じだが、セッション終了まで流し撮りをして金曜日の撮影は終了となった。

小さなカメラホールから7人が撮影中逆バンク上段はカメラの砲列。カメラマンエリアはもう10mくらい先の最上段から向こう側
セッション終了後にカメラマンエリアの案内を撮影この時刻は看板の影がコースに入り微妙だった

 セッションが終了したので徒歩組は逆バンクからトンネルを抜けGPスクエア、正面ゲートと売店を見ながら駐車場へ向かってもらった。初観戦の女性がいたので、お店を見るのも楽しみの1つという考えだ。自転車組は逆バンクゲートから出てA席裏の関係者駐車場へ移動。そこで待っていてもらって筆者はピットビルのメディアセンターへ。

 メディアセンターから戻る途中でザウバーのピット裏に黒山の人集りを発見。多分、可夢偉選手がいると思われるがまったく見えない状態。カメラで上から撮影するとインタビューを受ける可夢偉選手が小さく写っていた。人垣の外に元バレーボール日本代表の大林素子さんを発見。記事掲載OKとのことで撮影。CS放送のF1グランプリニュースを見ていない方は知らないと思うが彼女はF1関係者なのである。

 すぐそばに赤いPit-FMのシャツを着た、本誌連載「オグたん式『F1の読み方』」でお馴染みの小倉茂徳氏も発見。ファンからサインを求められていた。今回はフリー走行1回目がCS放送の解説。それ以外のセッションは場内で放送されるPit-FMの解説を担当されていた。小倉さんが「Car Watchコンビで撮りましょう」ということで、小倉さんのサインをもらいに来たファンの方にカメラを渡しメタボ体型の2人の記念撮影となった。

人集りの向こうで可夢偉選手がインタビューを受けていた大林素子さんF1解説、本誌連載でお馴染みの小倉茂徳氏と、筆者

 関係者駐車場に戻り、民間駐車場に移動を開始したがプチ渋滞に巻き込まれた。サーキットのメイン駐車場正面のGPコレクションで徒歩組み2人を拾って民間駐車場に到着。自転車2台を降ろして5時半頃帰路についた。ノンビリしていたので23号線は鈴鹿市内から渋滞。海側の裏道を行くが四日市市内で帰宅ラッシュでまた渋滞。線路脇の裏道に入り四日市市内を通過。その後は渋滞もなく夜7時に名古屋市内まで戻ってきた。

 例年は日曜日は決勝レースだけとなり、ゆっくり移動となるため土曜の晩だけ飲み会となるが、今年は神戸から初観戦の女性がいるため毎日飲み会となった。女性が泊まったホテルは筆者宅の隣駅にあるエクセルイン名古屋熱田。当初土曜日は満室だったが、キャンセルが入ったら電話で連絡をくれた親切なホテルだ。

 オヤジ1人は実家へ帰宅したので、オヤジ2人と女性(推定年齢35歳、TOEIC800点台)の飲み会となった。初観戦の感想は大満足の様子。酔うに付け増殖するオヤジ2人のセクハラ発言を推定年齢35歳の女性は華麗に交わし夜は更けていった。

後編に続く


(奥川浩彦)
2011年 10月 14日