ホンダ、スマートホームシステムを導入した実証実験住宅を初公開
熱、電気、安心を情報でつなぎ、エネルギーの“家産・家消”を実現

スマートホームシステムを導入した実証実験住宅

2012年4月23日公開



 本田技研工業は4月23日、エネルギー需給を総合的にコントロール可能な「ホンダスマートホームシステム(以下、HSHS)」を導入した実証実験住宅を埼玉県さいたま市に完成させ、報道陣向けに初公開した。

 ホンダは、さいたま市が推進する「E-KIZUNA Project」への参加協定を2011年5月23日に締結。HSHSを導入した実証実験住宅は、そのプロジェクトの一環として取り組むもので、埼玉大学(さいたま市)の隣接地に2棟の1戸建て住宅を建設した。今後、3棟目を建設。この実証実験は、2018年度までを予定している。

本田技研工業 取締役 専務執行役員 山本芳春氏

 このプロジェクトを担当する本田技研工業 取締役 専務執行役員 山本芳春氏は、「ホンダは、自由な移動のよろこびと豊かで持続可能な社会の両立を目指し、再生可能なエネルギー技術や、電動化モビリティの開発、そして事業活動に取り組んできている。低炭素社会の実現に向けては、2輪、4輪、汎用、すべての製品において、2020年までにCO2を2000年比で30%削減するということを目標にしている」と言い、このスマートホームシステムと、ホンダ独自の電動モビリティでCO2を2000年比で50%削減、さらに断熱材などが組み込まれた省エネの家と省エネ家電を組み合わせることで80%の削減を目標として実証実験を行っていく。

 この実証実験住宅には、「日陰や夏場の高温下でも発電力の低下の小さい、ホンダソルテック製のCIGS薄膜太陽電池からの電力」「ホンダ独自の高効率なガスエンジンコージェネレーションユニット(以下、ガスコージェネ)からのお湯と電力」を得ることができ、そのほか商用電力からの給電、電気自動車(EV)からの給電(V2H)ができるようになっている。

日本ガス協会 業務部長 岸野寛氏。このプロジェクトに対する期待を述べた

 もちろん、太陽電池やガスエンジンコージェネからの電力をEVへ給電することもでき、状況に応じて最適なエネルギーを選択できる。

 今回は、燃料電池車「FCXクラリティ」からの家への電力供給(V2H)や、EVへの電力供給(V2V)のデモなども行われた。


屋外エリア

HSHS実証実験住宅エリアへの入口向かって左にFCXクラリティ、右に年内発売予定のフィットEVが置かれていた実証実験住宅の東北側
実証実験住宅の南側南向きの屋根にはホンダソルテック製の太陽電池パネルが多数並ぶ太陽電池パネルを室内から見たところ
もう1棟の実証実験住宅。こちらには、ホンダ社員が4人家族でテスト的に住んでいる2棟の間には芝生があり、その芝生にはロボットタイプの芝刈り機が走っていた。自動充電タイプ
屋外にあるHSHSのメインユニット。下左から、ホームバッテリユニット(SHB、蓄電池)、ガスエンジンコージェネレーションユニット(mchp、発電&発熱)、給湯ユニット。上はコントローラとなるスマート e ミックスマネージャ(SEMM)左のユニットに、太陽電池(PV:Photovoltaic)が加わり、HSHSを構成する
屋外の柱に内蔵されるV2Lコネクター。クルマからの電力を、家に取り込むためのもの
燃料電池車「FCXクラリティ」のDC288V出力をインバーターを介してAC100Vに。そのAC100Vを先ほどのV2Lコネクターを通して、住宅内に取り入れる
上方に取り付けられたブームを使ってフィットEVに給電。太陽電池やガスコージェネから発電された電気を充電できる
フィットEVからも電力を取り出すことができる。やはり別体のインバーターユニットを用いる方式。利用頻度や重量を考えると、EVから電気を取り出すインバーターは、別体のユニットであるほうがメリットが多いとのこと
HSHS実証実験住宅の隅には、計測器が設置されている。これは実証実験データを記録するためのもので、左に見える黒いボックスはバックアップ電源。停電実験なども行う予定とのこと各ブロックの電力使用量、発電量を表示これは、ガスコージェネユニットの回転数

 HSHS実証実験住宅内には、スマートホームシステムで一般的な、電力の発電状況や使用状況を表示するディスプレイが用意されていない。すべての情報はタブレット端末に配信され、複数の端末で見ることや、電気のコントロールが可能となっている。

 たとえば、1階のリビングからタブレット端末を操作して2階の電気を消したり、逆に点けたりすることも可能。さらにHSHSでは、ホンダの情報サービスである、インターナビ経由でのコントロールも可能で、外出先からあらかじめエアコンのスイッチを入れたり、家の施錠状態をコントロールすることもできる。このインターナビからのコントロールに関しては、スマートホン用のアプリが用意されていた。

屋内エリア

メインの配電盤商用電源とPV(太陽光発電)のメインブレーカーガスエンジン、バッテリーのブレーカー。系統ごとに整理されている
HSHSのモニタリングはタブレット端末から行う。各部屋の状態や電気使用量などが分かる家電をタブレット端末からコントロールするためのリモコン装置「iRemocon」。サーバーとWi-Fiで通信する赤外線学習リモコン
インターナビ経由でスマートフォンから住宅をコントロールできる室内の蛍光灯を消すデモを行っていたが、インターナビ経由で信号が送られるためか、それなりのタイムラグが存在した
室内のコンセントでは、どの系統からの給電か分かるようになっている。本来はシームレスに電力を供給すべきだが、法規制に対応するためにこの形になっている。使用者が選ばなければならないのだこれは、V2Lからの給電コンセントコンセント配置図

本田技術研究所 汎用R&Dセンター 主任研究員 髙石敏充氏

 このHSHSの詳細システムについては、本田技術研究所 汎用R&Dセンター 主任研究員 髙石敏充氏が解説。高石氏によると、さいたま市を実証実験の場に選んだのは、世帯あたりのエネルギー需要が全国平均に近いためで、その目的は家庭生活のCO2削減にあると言う。

 熱に使うエネルギーは、家庭内エネルギー消費の約6割を占め、ガスエンジンコージェネを使うことで、電気を発電するとともに、発熱した熱エネルギーを有効利用。これら電気と熱を同時に利用することで、ガスエンジンコージェネのエネルギー利用率は92%に達すると言う。

 ホンダでは、現実的な家のサイズで、エネルギーの“家産・家消”を実現したいと言い、停電時にプロパンガスでガスエンジンコージェネを使用し発電したり、EVに給電、EVから家に給電したりすることで、災害時の暮らしと移動を確保できるとした。

さいたま市で実証実験を行っている理由家庭内エネルギー消費の6割は熱ガスエンジンコージェネでは熱と電気を供給し、エネルギー利用率は92%に
ホンダの目指す、エネルギーの“家産・家消”実証実験住宅の配置HSHSのシステム構成図
充電アーム経由で、EVに給電できる熱関連ユニットの配置図電気関連ユニットの配置図
災害時のエネルギーの流れ停電時に動作可能な機器HSHS+の系統図。+とは、ホンダのシステム以外の機器(たとえば家電機器など)を含んだ総合的な概念を指す
V2H、V2Vなど多様なエネルギー確保を可能としている将来的にはもう1棟住宅を設置し、H2Hという住宅同士のエネルギー交換を実現する

 このHSHSの事業化は3年後を考えており、新築だけでなく、リフォームなど既存の住宅にも提供できるビジネスを考えている。

(編集部:谷川 潔)
2012年 4月 24日