自転車レース「SUBARU presents 2012 ジャパンカップサイクルロードレース」開催 スバルが大会メインスポンサーを務めサポート車両を提供 |
10月19日から21日、アジア最高カテゴリーのロードレースを含む自転車レース「SUBARU presents 2012 ジャパンカップサイクルロードレース」(以下、ジャパンカップ)が栃木県宇都宮市で開催された。スバル(富士重工業)はメインスポンサーとして特別協賛したほか、メインイベントのロードレース(21日開催)には、レガシィ 2.0GT DITやスバル XVなど、計40台の大会関係車両を提供し、レース運営を支えた。
40台もの車両を提供したスバル。中でも、ヨーロッパのホイールメーカー、MAVIC(マヴィック)のコーポレートカラーに彩られた「マヴィックカー」はレース中にも非常に目を引く存在だ
今年で22回目の開催となるジャパンカップは、1990年に宇都宮で開催された自転車世界選手権のメモリアルレースとしてスタート。2010年からロードレース開催日の前日、宇都宮駅前の公道を利用した「クリテリウム」という周回レースも併催されるようになり、初日の開会式&前夜祭と合わせて3日間かけた「自転車レースの祭典」に進化している。また、競技としての国際的な格付けも高く、特に2008年からは国際自転車競技連合(UCI)が定めるレースカテゴリーの最上級「HC(オークラス)」へと格上げされており、ワンデーレース(1日で完結するレース形態)としてはアジアで最高ランクとなった。シーズン終了直前のこの時期に、自転車レースの本場ヨーロッパから遠く離れた地で開催されるレースながら、バリバリのトップスター選手や将来が期待される選手が集まることで知られており、自転車ファンなら一度は生観戦したい一大イベントだ。
今年のロードレースには国内外14のプロおよびナショナルチームが参加。ヨーロッパのレースシーンで高い実績と人気を誇るイアン・バッソやペーター・サガン(リクイガス・キャノンデール)、2010年チャンピオンのダニエル・マーティン(ガーミン・シャープ)らのほか、ヨーロッパで着実に実績と実力を積み上げた別府史之(オリカ・グリーンエッジ)、宮沢崇史(サクソバンク・ティンコフバンク)、土井雪広(アルゴス・シマノ、今回は日本ナショナルチームから出場)、さらには日本国内およびアジアを中心に活動する日本国内のトップチームが参戦している。
■自動車のサポートが欠かせない自転車レース
自動車で知られるスバルが、なぜ自転車レースへの大規模なスポンサー参加を?という疑問もあると思われるが、自転車ロードレースには自動車によるサポートが欠かせない。
自転車ロードレースは1日の走行距離が100kmから200km、250kmを超えることも少なくなく、競技時間は7時間に及ぶこともある。ジャパンカップは例年、1周約14km超のコースを10周+αする約150kmの周回レースとなっているが、本場ヨーロッパのレースでは、街から街へ、平原や山岳、海岸沿いを疾走していく。これだけの長距離・長時間のレースには、各チームのレース中の戦略展開を行う監督、公平なレース運営や選手・レースの安全の確保、パンクをはじめとした自転車機材のトラブルへの対応など、選手以外の人員が数多く帯同するし、自転車とはいえレース中の速度は40km/h前後(平地だともっと速い場合も)なので、選手に近い場所からレースをサポートするには自動車の力が必須なのだ。
ジャパンカップでは、長年スバルが大会関係車両を一括提供している。提供された車両の役割としては、チームの監督車、レースの審判車、中立の立場からレース中の選手をサポートするニュートラルサポート車、大会関係者がゲストがレースに並走するゲスト車など。なかでも、自転車のホイールメーカー、マヴィックの黄色いニュートラルサポート車は、「マヴィックカー」の愛称でロードレースファンに広く知られているが、ジャパンカップでは、スバルが提供したレガシィ 2.0GT DITがこのマヴィックカー仕様で選手の間近を走った。
レガシィ 2.0GT DIT。屋根には自転車のフレームが一杯 |
主に選手のホイール関連のサポート業務を行うマヴィックカー。車体上部には何組ものホイールと緊急用の自転車車体を搭載。このほか、後部座席には追加のホイールや、選手に提供するためのミネラルウォーターなども積んでいた。
シマノのニュートラルサポート車 |
スバル提供以外にも数台のスバル車がジャパンカップを走っている。自転車の変速装置などを提供するシマノが自社所有しているニュートラルサポート車。イタリアの自転車パーツメーカー、カンパニョーロの代理店、日直商会所有のニュートラルサポート車もスバルだ。
自転車ロードレースが行われるコースは、曲がりくねったアップダウン、歩いて登るのも大変な急峻な山岳地帯、さらには未舗装路から日本では考えられないような荒れた石畳の悪路まで、バラエティに富んでいる。そのため、帯同する自動車にも一定以上の能力が求められる。ジャパンカップの場合、1周回中の登り下りの距離自体は短いものの、レース速度が20km/h台まで落ちる急坂区間、その直後にコーナーの多い下り区間が登場する。コース中最も長い下り区間では、レース中の選手は60~80km/hで下っていくが、コーナーが多いため、自動車で追走するのはかなり大変だと言う。
マヴィックカーのドライバー(自動車のプロドライバーではなく、自転車競技の経験者とのこと)によると、これまで多くのレースに帯同して歴代スバル車に乗ってきた中でもレガシィ 2.0GT DITの下り区間での能力は段違いだと言い、レース序盤に先頭集団直後を走るマヴィックカーに同乗した際には、後続のDITではない関係車両を下り区間で振り切る、ということもあった。下り区間での差であることから、2.0GT DITのサスペンション設定がとくに優れているのだろう。なお、今回のレースのために集められたスバル車は、本社所有のものや全国各地から集めたレンタカーで、カラーリング以外には特別な手を入れておらず、すべて市販のノーマル仕様とのことだった。
色が目立つこともあってマヴィックカーはかなり知られた存在。そのため、古賀志林道や鶴カントリークラブの登り区間をはじめ、多くの観戦ポイントで観客から熱い声援を集めており、ドライバーや同乗スタッフは笑顔で観客の声援に答えていた。
マヴィックカー車内から、レースコースを見ているところ。マヴィックカーを応援してくれる観客も多かった |
自転車レースの最高峰、フランスで開催される「ツール・ド・フランス」などでは、チェコのシュコダがスポンサーや自動車の提供を行っており、自転車レース中継などでは非常によく見かける。スバルのマーケティング的には米国市場が重視されているとのことだが、「ヨーロッパのビッグレースでスバルの自動車を公式サポート車として走らせてみたいという夢はある」、と会場でお話をうかがったスバル広報部の渡邉聡夫氏は述べていた。近年の日本国内での自転車人気の高まりや日本人選手のヨーロッパ進出、さらにはジャパンカップにおける実績と関係者からの高い評価と支持を背に、日本のスバルがヨーロッパのレースを走って注目を集める、という光景が実現する日を楽しみにしたい。
■レース観戦のポイントとハイライト
簡単に自転車レースの特徴と今回のレースのハイライトをご紹介しよう。
自転車ロードレースは、複数人編成のチーム(ジャパンカップの場合1チーム5人)が一斉にコースを走り、最終的には個人の順位を競う。各チームの選手には大きく分けると、最終順位を競うエース、そして最終局面までのお膳立てを行いエースの勝利を助けるアシスト、といった役割分担があるのが一般的。いかに最終局面までエースを安全かつ万全な態勢で連れて行くか、いかに相手のアシスト陣を疲労させて戦力を削ぎ、相手のエースの態勢を崩していくか、といったあたりがレース観戦のポイントとなる。
最終局面になる前までは、多くの選手が走る大集団から数分先行してレース先頭を走る「逃げ集団」というグループが形成される。逃げ集団は、テレビ放送などで長時間画面に映ることからアピールの場として重視される。ジャパンカップでは、この逃げ集団は日本国内チームの選手を中心に作られることが多く、今回も同様の展開となった。
自転車レースでは多くの選手が1列に並んで高速で走行する。40km/h以上で展開する自転車レースでは、走行時の空気抵抗が非常に大きな負担となる。そのため、選手は密集した集団を作り、ほかの選手を「風よけ」にして走行する。当然先頭を走る選手は負担が大きいので、負担の分散とチーム間の“紳士協定”で、交代しながら集団を牽引する。最終局面に至るまでは集団の先頭を走るのは各チームのアシスト役選手の重要な役割で、エース選手は、アシスト役がコントロールする集団の中で勝利のチャンスを狙う。
最終局面の戦略・戦術はコースの展開やレイアウトによってさまざまだが、ジャパンカップの場合には、エース選手が少人数で集団から抜け出してゴールラインを競う、もしくはその少人数集団からさらに1人で抜け出して逃げ切り勝ちを狙う、というパターンが多い。今年は、最上級チームカテゴリーのUCIプロツアーチームのバッソ、マーティン、ラファル・マイカ(サクソバンク・ティンコフバンク)の3人、さらに第3カテゴリーのUCIコンチネンタルチームのジュリアン・デヴィッド・アレドンド(チームNIPPO)が大集団から飛び出し、ゴールスプリントに持ち込まれた。最終的には、バッソがゴール勝負を僅差で制し、ジャパンカップ初制覇を果たしている。
アジア人最高位は清水都貴(チームブリヂストン・アンカー、写真左)。勝利が期待された別府はメイン集団内でゴール。1997年を最後に日本人選手の勝利はない。夢の実現は来年以降に持ち越しとなった | 山岳賞は、山岳賞は中根英登(チームNIPPO、左)、井上和郎(チームブリヂストン・アンカー、右)が獲得 |
日本では、自転車選手=筋肉ムキムキのゴツい競輪選手というイメージが根強いこともあって、「健康にいいとは聞くけど、スポーツ自転車って太ももが太くなるんじゃ……」と思う人もいるかもしれないが、優勝したバッソをはじめ、自転車ロードレースの選手は、ゴールスプリントに特化した選手を除いては、基本的に「全身たくましくて細い」のがその肉体の特徴。彼らのようなプロの肉体は特別なものではあるが、これは健康作りやダイエットにも通じるもので、長時間無理なく有酸素運動が続けられる自転車は、男女ともに憧れるであろう、たくましくても細身な健康的な体を目指すのには最適なスポーツのひとつと言われている。
また、自転車は、道具(=自転車)を所有して使う、道具を思うままにチューンアップする、という楽しみもあり、自動車同様に趣味性も高い。長く付き合える健康的な趣味として、また、観戦して楽しいプロスポーツとして、この機会に自転車に興味を持っていただけたら幸いだ。
(内田泰仁/和田奈保子)
2012年 10月 26日