【インタビュー】新型「フォレスター」の五大陸10万km走破について聞く
「毎日、晩御飯が美味しく食べられるようにしたい」


 いよいよ始まった新型「フォレスター」の五大陸10万km走破チャレンジ。ドライバー:福井守生氏、カメラマン&ディレクター:鈴木修二氏、リーダー:新田耕也氏の3人に、1年間かかるという今回のチャレンジについて話しをうかがうチャンスがあったのでここにお届けする。インタビュアーは、初代フォレスターの市販車24時間速度記録にドライバーとして参加し、モータージャーナリストとして本誌にも寄稿していただいている松田秀士氏に御願いした。


 挑戦、チャレンジ。これらは生産活動ではない。人間の心の奥底に潜む本能なのだ。そして、その本能に挑む姿勢こそが自身を進化させる糧となる。成功しようが失敗しようが、チャレンジから得られるものは数多い。そして、なによりも大切なのはチャレンジする気持ちを持ち続けることだ。

 スバル(富士重工業)には代々新型車のデビューに当たってさまざまなチャレンジを続けてきたという経緯がある。特に記憶に残るのは1998年にレガシィ ツーリングワゴンで打ち立てた270km/hをオーバーする速度記録。実は、それまでの速度記録もレガシィによるもの。敢えてまた新しい挑戦をすることに何の意味があるのだろうか?というのが一般的な企業の思考であるのだろうが、スバルはチャレンジしたのである。自身(スバルの)の記録を塗り替えるためではなく、チャレンジする姿勢を後継者に見せるために行ったのではないかと私は考える。

 そしてそのポリシーは今も引き継がれていることが今回の新たなチャレンジではっきりと確認できたのだ。スバルは11月13日にデビューしたばかりの新型フォレスターによる五大陸10万km走破にチャレンジする。途中、世界各国12個所(予定)において新型フォレスターの新機能及び技術を実証するポイントを設定し動画等をWebサイト「FORESTERLIVE.COM」(http://foresterlive.com/)で発信するという。

 このチャレンジに要する期間は1年間。いやいや、壮大な計画だ。チャレンジは1台の新型フォレスターで行われ、3名のクルーが乗車する。リーダーはパリ・ダカールラリー等の経験も豊富な新田耕也氏、ドライバーはラリーやレースで実績のある福井守生氏、そして撮影&記事ライティングを担当する鈴木修二氏だ。

リーダーの新田耕也氏ドライバーの福井守生氏撮影&記事ライティングを担当する鈴木修二氏

 今回、このクルー3名の方への直接取材を行い、この壮大なチャレンジについてお話をうかがい私も応援を送りたいと思うのだ。

インタビューを行ったのは松田秀士氏。松田氏は初代フォレスターのチャレンジに参加している

 というのも、実は私自身もスバルのチャレンジに係わった経験がある。それは今回の主役となるフォレスターデビューのとき。1996年10月、市販車による24時間速度記録を競うハーマントロフィーに発売前の初代フォレスターで挑戦。24時間を180.082km/hというSUVの平均速度記録を樹立したのだ。このとき、スバルのテストドライバー陣に当時インディ500での活躍を評価された私が加わった。ハーマントロフィーはインディ500で有名なインディアナポリスモータースピードウェイの1周約4kmのオーバルコースを使用し、給油やタイヤ交換などのピットインで止まっている時間も含めて平均速度を争うのだ。新型車ながらトラブルフリーで走りきったフォレスターに驚くと同時に、実際にステアリングを握った私が感じたのはSUVとは思えないフォレスターの高い高速安定性だった。

 あのときのチャレンジは24時間という限られた時間。それはそれで厳しい戦いではあったけれども、今回のチャレンジは1年間というスパン。ハーマントロフィー・チャレンジとは比較にならない壮大な挑戦である。

 地球規模でのこのチャレンジ。その趣旨は単に1年間10万kmを走破するということだけではなく、1年という地球規模での季節の移り変わりの中に飛び込むということだと私は思った。五大陸というそれぞれのエリアに潜む気候の変動という自然との闘いがあるはず。そのあたりどのような計画なのかを聞いてみた。

 五大陸走破のスタートは11月13日、まずオーストラリアから。予定では2013年1月中旬までの約60日間をかけて走破する。オーストラリア大陸だけで延べ2万kmを走破する予定だ。まずは大陸の山間部を走破する。これは荒涼な岩山などいわゆる舗装路が少ないグラベルを走破するまさに自然との闘い。このあたりをパリダカールラリーなどの経験も豊富なリーダーの新田氏に聞いてみた。

五大陸10万km走破に向け、南オーストラリアから出発した新型フォレスター

 新田氏によると、一番気を付けなくてはいけないのが動物との衝突なのだそうだ。確かにオーストラリアは広大な土地。自然の中を走りまわるわけだから動物は気になるところ。夜はカンガルーが多く、そのため夜間走行は控えるという。1年間10万キロという数字は、五大陸間の車両の移動を考慮すると仮に200日で走りきるとして1日当たり500km走ることになる。1日500km、日本のように高速道路が整備されているわけでもなく、タフな走行距離である。昼間であっても小動物との接触など気が抜けない走行となる。さらに舗装もされていない険しい山道が待っているわけだ。しかし、このようなシチュエーションこそ4WDとしてのフォレスターの力量が試されるわけで、スタッフは大いなる自信を持っている。

 近年のSUVの傾向はオンロード走行に主体を置いたもの。車高を高くしてアプローチとデパーチャーアングルを深くとるデザインは、実用性ではなくファッションとしてのSUVのシルエットに定着しつつある。最近では2WD(FF)のSUVが走りまわる世の中なのだ。そこにシンメトリカル・フルタイムAWDのフォレスターが持つオフロード走破性能がモノをいうはずだ。そして、その実力がSUVとしてのブランドを構築している。レンジローバーを見れば理解できるはずだ。

 オーストラリアといえばサーファーズパラダイスなど海岸線の美しさを忘れてはいけない。山間部走破の後は海岸線を主体にしたルートが待っている。こちらはほとんどが舗装路でオンロードSUVとしての快適性、高速安定性等が試されることだろう。SUV車の生涯走行距離の中で、その9割はオンロードというデータがあるほどなのだ。

 ところで、このようなチャレンジの模様はインターネットでの配信を予定していることは冒頭でも触れたが、専用サイト「FORESTERLIVE.COM」にアクセス、または専用アプリをインストールすることで動画などを見ることができる。撮影&記事ライティング担当である鈴木氏に話を聞いた。「五大陸12個所の実証ポイントは1カ月に1~2回程度動画で配信し、それ以外ではほぼ毎日写真と文章などによる情報提供を行っていく予定です」(鈴木氏)。なるほど、これは素晴らしい。とはいうものの、ほぼ毎日情報を更新するのは大変なこと。とにかく、鈴木氏には体調を崩さぬよう日々我々の期待にこたえていただきたいと思う。

 オーストラリア大陸を走破した後は舞台をヨーロッパへと移す。来年2月、ヨーロッパへのチャレンジはまず北欧を予定している。現状の予定ではノルウェーのオスローからチャレンジは再開される。極寒の地を走るわけだ。

 極寒の地とフォレスターということでは、話はそれるが私にも想い出がある。例のハーマントロフィーから2カ月ほど経った1月、TV番組の収録でカナディアンロッキーを走破したのだ。バンクーバーからカルガリーまでの往復約2500km。ドライバーは私1人。最低気温は-40度近くになった。窓ガラスをクリーンしようとウインドウォッシャーを出した途端、ウォッシャー液がワイパーで広げられてフロントガラスに薄幕を作り凍りついた。しかし、その薄い氷幕は走行風によって剥がされていつの間にかフロントガラスの汚れは取れていた。強烈な低気温が起こしたエピソードだ。山の中の舗装路だが雪はなく、どこまで走っても動物は1匹も見かけない。こんなところでガス欠でもしたら命が危ないと直感。約120kmごとに現れる町では必ず満タンにしたのを覚えている。

「FORESTERLIVE.COM」では、五大陸10万kmチャレンジの模様を配信。スマートフォン用のアプリも用意されている

 アイスバーンや雪、強烈な自然と対峙しひたすら走る。そんなイメージを想像してしまうのだが、危険な厳冬期・厳冬地域での走行に対する心構えをドライバーの福井氏に尋ねてみた。しかし意外にも、福井氏はごく普通に走ること、フォレスターの性能を信用しているので特別なにかをすることもないといった様子。福井氏は24歳でラリーの世界に足を踏み入れその後はサーキットレースでも活躍、1992年にはパリ・ルカップに出場した経験を持っている走り屋だ。それゆえ普段通りのドライブを心がけることの大切さを熟知している。なんといっても長丁場なのだ。「毎日、晩御飯が美味しく食べられるようにしたい」(福井氏)、という言葉に体調を整えていることが重要であるということを読み取ることができる。

インタビューの最後に記念写真。松田氏はスバルのチャレンジの先輩として3人にエールを贈っていた

 欧州各地を走破した後にはアフリカ、北アメリカ、南アメリカ……を予定していると言う。すべての走行は1台のフォレスターで行う。右側通行の国も右ハンドル車で走ることになる。実は、前述したカナディアンロッキー走破も右ハンドル車だった。左側通行の日本で左ハンドル車を走らせるのと同じだが、右側通行圏で右ハンドルはなかなか見かけず、現地の人たちからは興味の目で見られることと思う。

 水平対向エンジンは現在スバルとポルシェだけが世界で量産技術を確立している。そのスバルのSUV、新型フォレスターのチャレンジに注目したいものである。


(松田秀士)
2012年 11月 19日