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ノーマルタイヤ・スタッドレスタイヤ装着車で雪道を限界走行

豪華講師陣のNEXCO東日本「雪道体験ドライブレッスン」

プロドライバーから雪道運転のコツを無料で学べる「雪道体験ドライブレッスン」。写真左から、岡村貴之選手、勝田範彦選手、村田信博選手
2013年1月26日~27日開催

 NEXCO東日本(東日本高速道路)は1月26日、27日の2日間にわたり、長野県佐久市の佐久スキーガーデン・パラダで「雪道体験ドライブレッスン」を開催した。

 2009年から毎年開催されているこのイベントは、雪道での交通事故を防ぐための交通安全啓発活動。当日受付のイベントのため、会場まで足を運べば誰でも参加できる手軽なドライブレッスンとして、毎回予定人数を上まわる人気となっている。

 講師陣も豪華で、2012年の全日本ラリー選手権でシリーズチャンピオンを獲得した勝田範彦選手、2012年のVitzレース東日本シリーズのチャンピオンである村田信博選手、ジムカーナで活躍する岡村貴之選手という3人のプロドライバーがインストラクターを努めていることも人気の理由の1つ。取材に訪れた26日もイベント開始時刻の10時より前から多くの参加希望者が受け付けに並んでいる状態で、最終的には当初予定の1日あたり50人を超える70人以上がドライブレッスンを受講した。

レッスン中に路面の状況などを確認し、イベント内容のアレンジや講義内容の変更を話し合う、勝田範彦選手(写真右)と岡村貴之選手(写真左)
同乗走行で「とにかく思い切りよく運転しましょう!」と参加者に語りかける村田信博選手

 レッスンは、まずテント内に用意された解説パネルなどを使っての座学講習を受ける。ここでは、雪道を走るときに憶えておきたい基礎的な注意点、冬季のクルマのメンテナンス方法、雪道を走る前にクルマに載せておくと安心なアイテムなどについて解説を実施。とくに走行面では「普通のノーマルタイヤ(サマータイヤ)でも、走ること、つまり前進は意外にできてしまうものです。しかし、曲がったり、ブレーキをかけて止まれるかは別問題なので注意が必要です」「タイヤチェーンは手軽に使えますが、ブレーキングでは横側のチェーンとチェーンの合間でタイヤがロックして止まらなくなるケースが出てきます。スタッドレスタイヤにチェーンを装着するのが万全な対策と言えるでしょう」と紹介していた。

勝田範彦選手から座学講習を受ける参加者
「チェーンを装着して走っているときは、ステアリングを切ったときにクルマの後輪が滑って車体が横を向くこともあります。とくに下り坂ではブレーキを踏むだけでも後輪が滑るケースもあるので慎重な操作を心がけてください」と語る勝田選手
座学講習で使われた解説パネル

 10分ほどの座学講習を受けたあと、本番とも言える雪道でのドライブレッスンがスタート。スキー場である北パラダのゲレンデ脇にある駐車場を利用して特設コースを設定。スタッドレスタイヤ装着車、ノーマルタイヤ装着車の2台で同じコースを走り、グリップ力の差や車両挙動の違いについて体感する内容となっている。

ゲレンデのすぐ近くにある駐車場を閉鎖し、パイロンを使ってコースを設定。平らで広々したスペースなので、少しぐらいタイヤがグリップを失っても安心して運転できる環境が整えられている
走行開始前に、実際のコースを見ながらレッスンの目的や注意点をインストラクターから解説される
今年度の教習車にはFFのマツダ「デミオ」を使用。新しい試みとしてフロントドアに「スタッドレスタイヤ」「ノーマルタイヤ」と書かれたマグネット式のステッカーを装着。受講者やコース脇にいる見学者が、どちらのタイヤで走っているのかすぐに分かるよう工夫されている
ドライブレッスンでは2人1組でスタッドレスタイヤ装着車とノーマルタイヤ装着車を交代で運転し、タイヤの違いなどを体感できる
最初に、インストラクターが運転するクルマに同乗してコース設定を学ぶ
スタッドレスタイヤ装着車の前輪。ヨコハマタイヤの「アイスガードiG30」
スタッドレスタイヤ装着車の後輪。トーヨータイヤの「ガリットG4」。レンタカーのためか、前後で銘柄が違っていた
ノーマルタイヤ装着車は純正採用のヨコハマタイヤ「ASPEC A349 BluEarth」を4輪に装着

同じコースでスタッドレスタイヤとノーマルタイヤを乗り比べ

 コース設定は、緩やかに曲がりながらの発進加速から始まり、ステアリングを左右に切り返しながら通過するスラローム路、ステアリングを大きく切り込んで旋回するヘアピンコーナー、全開加速からABSを作動させて停車する直線路という組み合わせで構成。それほど長いコースではないが、雪道運転で注意したいエッセンスが凝縮されている。

ステアリングを切り込んだ状態からスタートする発進加速。どちらの車両でもイン側の駆動輪が大きく空転する状況だが、スタッドレスタイヤ装着車は空転も少なくグングン加速。また、ノーマルタイヤ装着車はタイヤアングルが大きく、旋回に苦労していることが見てとれる
参加者ごとに走行状況がバラバラだったスラローム。腰が引けたように慎重な人はノーマルタイヤ装着車でもゆっくりと問題なくクリアしていくが、大胆にアクセルを踏み込む人ではパイロンをなぎ倒すケースも
意外なことに、スタッドレスタイヤ装着車でも挙動を乱す人が少なくない。その原因は、スタッドレスタイヤ装着車は発進加速で車速が上がりやすいから。座学講習で注意された「進めるから曲がれるとは限らない」という言葉が現実味を持って実感できる瞬間だ
逆にノーマルタイヤ装着車では、単純に速度が遅いことに加え、最初の右旋回からタイヤがグリップしないことが分かっているので慎重な運転になる人が多かった
スタッドレスタイヤの効果が大きく発揮されていたヘアピンコーナー。進入から旋回していくスピードが大きく違うほか、パイロンで作られたアールに沿ってコンパクトに曲がっていくスタッドレスタイヤ装着車。ノーマルタイヤ装着車はステアリングを大きく切りながらも少し外側を走っていく印象だ
ヘアピンコーナーコーナーからの立ち上がりでも、挙動を乱さず加速していくスタッドレスタイヤ装着車に対し、ノーマルタイヤ装着車はアウト側にノーズが逃げ、ときには曲がりきれなくなる場合も見られた
エンジン音の高まりに呼応して加速するスタッドレスタイヤ装着車。ノーマルタイヤ装着車では前輪が空転してレブリミッターが作動するほどエンジン回転数が上がっても、車体はなかなか進んでいかない
ブレーキを踏み込んだ瞬間から前傾姿勢でグッと踏ん張って路面を掴むスタッドレスタイヤ装着車。ノーマルタイヤ装着車はそれほど車速が出ていないにも関わらず、ブレーキ開始から停車までの距離がスタッドレスタイヤ装着車と変わらない

限界を超えた領域を経験してもらうのが一番の目的

 取材前の予想では、雪道をゆっくりと走りながらスタッドレスタイヤの安心感をノーマルタイヤと比較して参加者に体感してもらうような穏やかなレッスン風景を想定していたが、実際に走行が始まると初期段階からノーマルタイヤ装着車がレブリミッターを作動させながら走り出す姿に驚かされることになった。

 さらに、撮影しながらレッスン風景を見ていると、ノーマルタイヤ装着車と同じように、ときにはそれ以上に挙動を乱してコース外周の雪壁にタイヤをぶつけているスタッドレスタイヤ装着車まで出ている。もちろん、冷静に考えれば、前出の写真説明にも書いたようにスタッドレスタイヤ装着車のほうが大幅にスピードが出ていることがその理由だが、この状況でほんとうにいいのか少し疑問を感じてしまう。そこで、インストラクターの勝田選手に質問してみたところ、「これで狙いどおりです」とのことだった。

 その理由について勝田選手は「このドライブレッスンでは、みなさんに限界を超えるとクルマがどんな状態になるのか経験してもらうことを重視しています。どんな人でもクルマがスリップすると最初は驚いてパニックになってしまいますが、逆に1回体験すれば次からは冷静に対処できるものです。ここは広くて安全ですし、われわれインストラクターも同乗しているので、ここでスリップを体験して帰ってほしいんですよ」と語る。また、参加者には「前回は怖がって普通に運転してしまったが、今回こそ大胆にガンガン走ってみたい」とリピーターになった人も少なくないそうだ。

アクセル全開で元気よく加速するスタッドレスタイヤ装着車
雪を跳ね上げながら勢いよく走り、限界を超えた状態を体感
イベント初日はときおり雪が強く降る時間帯もあり、スタッドレスタイヤの重要性を再認識させられた
ABSでのブレーキング位置は路面がアイスバーン状態になりやすく、ノーマルタイヤ装着車は停車後の再発進でスタックすることがあった

 そんな説明を聞いたあと、レッスン時間の合間に自分でもドライブレッスンを受けさせてもらったが、確かに安全性が確保されたコースなら逃げ腰にもならずにタイヤがどこまでグリップするかチャレンジできる。また、ノーマルタイヤではクリープ走行から少しアクセルを踏んだ状態でもすぐに限界を超えてしまうのに対して、スタッドレスタイヤはかなり日常的な運転感覚に近く、タイヤが滑り始めてもコントロールできる余地があると実感できた。

 コース脇から見ている以上にステアリングの手応えやアクセル操作に対する反応にもはっきりとした差があり、これなら各参加者がタイヤ性能の違いをしっかり理解しているだろうと感じる内容。なにより、運転中から運転後まで笑顔という参加者が多かった理由も納得できた。

 4年目となった今回も好評で、すでに来シーズンの開催も予定されているという。午前中はリピーターなども多く混雑気味だが、午後はゲレンデに流れる紹介アナウンスを聞いてやってくるスキー&スノーボード客が中心で比較的楽に参加できる。雪道であまり運転した経験がないという人、冬季はスタッドレスタイヤを使っているが、どれだけ効果があるのか確認したいという人は来シーズンの開催時に参加することを検討してほしい。

ドライブレッスン後にはインストラクターと一緒に記念撮影
走行の合間に、重機を使ってアイスバーン状態になった路面を掘り起こし、グリップ力を回復。今年度から実施されることになった改良ポイント
最後に、ドライブレッスンの感想や愛車のスタッドレスタイヤ装着の有無、高速道路の利用状況などのアンケートに答えて終了
イベント会場はゲレンデともリンクしている
参加者には具材がしっかり煮込まれたあつあつの豚汁やホットドリンクをプレゼント
会場の一角には近隣にある北佐久農業高等学校もブースを展開。部活動で生徒たちが生産した牛乳を使う乳製品を手渡して学校をアピール
NEXCO東日本の冬の高速道路情報キャンペーンキャラクターを務める「マンモシ博士」(写真左)と、同じくNEXCO東日本のマナー向上キャンペーンで活躍する「マナーティ」(写真右)が来場
マンモシ博士とマナーティ
村田選手と岡村選手が所属するエンドレスがブースを出展。ブレーキのキャリパー&ローターといった製品展示に加え、ゲレンデ脇にデモカーのトヨタ・86を展示した

(佐久間 秀)