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HySUT、FCV普及に向け水素ステーションの現状を説明
次世代のエコカーFCVは、インフラ普及のステップへ
(2013/9/19 00:00)
- 2013年9月6日開催
HySUT(ハイサット、水素供給・利用技術研究組合)技術本部は9月6日、水素ステーションに関する現状の説明会を開催した。HySUTは、FCV(燃料電池車)の一般ユーザーへの普及開始を目指した組織で、FCVに必要な水素供給インフラの構築に関する取り組みを行っている。
FCVは、究極のエコカーとも言われる自動車で、車両に搭載した高圧水素を燃料として空気中の酸素と反応させ、水の電気分解の逆の反応によって作り出された電気でモーターを駆動する。理論上排出されるのは水だけで、航続距離は700kmを超えるものもあるなど、実用的な性能をすでに実現している。普及にあたって問題となるのは、車両の価格はもちろん、FCVの燃料となる水素の供給体制。HySUTはこれらの問題を解決するべく、自動車メーカーやエネルギー企業、産業機器メーカー、関連団体などによって2009年7月に設立された。
トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業とエネルギー企業各社は2015年にFCVを国内市場導入することを共同声明しており、HySUTも2015年のFCV市場導入を視野に入れた活動を行っている。今回の説明会では、FCVの普及に欠かせない、水素ステーションの現状について、HySUT技術本部長 北中正宣氏より詳細な解説が行われた。
北中氏によると、水素ステーションは大きく「オフサイト型」と「オンサイト型」に分けられるという。オフサイト型は水素を水素ステーションとは別の施設で精製して水素トレーラーで運び込む形式で、オンサイト型は水素を水素ステーションの近くで精製してパイプラインなどで送り込む形式。オフサイト型は、現状のガソリンスタンドと同様のオペレーションと思えばよいだろう。
また、水素をFCVに送り込む方法にも「差圧充填方式」と「直充填方式」があり、差圧充填方式はタンクにためた水素の圧力とFCVが搭載する水素タンクとの圧力差で燃料(高圧水素)を送り込み、直充填方式は直接加圧しながらFCVに送り込む。FCVには、35MPaタンクを搭載するものと、70MPaタンクを搭載するものがあるが、70MPa FCVでは事前に高圧水素を冷やすプレクールのステップが必要となる。
水素ステーションは、高圧の水素を扱うことから、高い安全性が要求され、「水素を漏らさない」「水素が漏れてもたまらない」「漏れても早期に検知し、拡大を防ぐ」「漏れた水素に火が付かない」「万が一、火災等が起こっても周囲に影響を及ぼさない又は影響を軽減する」という基本的な考え方で構築・運用されている。
水素ステーションの普及のためには、供給安定性や環境適合性も要求され、経済性も要求される。とくに、水素ステーションをFCVより先行して整備する普及期は、FCVの台数が少ないため水素コストが上がってしまい、これをどう乗り越えていくのかが課題であるとした。現在水素ステーションの設置には補助金が設定されているものの、整備コストの低減を図る必要があり、それには材料の規制や立地の規制、運営の規制など、各種法整備を進めていく必要があるとし、それに取り組んでいると語った。
HySUTでは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)とともにJHFC(水素・燃料電池実証)プロジェクトを進めており、JHFC3実証水素ステーションとして17個所が設置されている。各実証水素ステーションは、オンサイトやオフサイトなど形式が異なり、それぞれを運用していくなかで課題解決を行っている。
HySUT FCV・インフラ実証部 副部長 山梨文徳氏は、FCVや水素ステーションの海外の動向について解説。世界各国のFCV・水素ステーション実証実験は、2014年から徐々に商業化フェーズに移行しており、米国カリフォルニア州では水素ステーションの導入シナリオ(ロードマップ)作成が主要業務へと変化している。その導入シナリオによると、2014年には20の水素ステーションを追加し、2015年には水素ステーション37基、追加水素ステーション31基、州内のFCV普及5000台~1万5000台となっている。その後も市場は拡大を続け、2018年は100基以上の水素ステーション、5万3000台以上のFCVになるとプランニングしている。
また、ドイツでもFCVの実証実験は行われており、今後の計画では2015年までに50基の水素ステーションネットワークを構築。シェルやトタルなどエネルギー企業も参画する形で、商業化フェーズに移行していく。北欧(ノルウェー、スウェーデン、デンマーク)でもFCVの普及に取り組んでおり、Scandinavian Hydorogen Highway Partnershipにより、水素ステーションネットワークを構築中だ。
山梨氏によると、現在35MPaのFCVと70MPaのFCVが開発されているが、市販化されるFCVは、より高圧で水素をため込むことが可能な70MPa FCVになるだろうとの見方を示し、水素ステーションも70MPaでの普及が必要になってくる。そのために必要となるのが、あらかじめ高圧水素を冷やすプレクールと、高圧水素をFCVに送り込む際のFCV側の燃料供給状態の取得。通常の仕組みでは、水素ステーション側から燃料の圧力は分かるものの、FCVのタンク内の温度は分からず、そのタンク内の温度を取得するなどのために、赤外線による通信プロトコルが策定されているとのこと。この通信プロトコルは、各国共通になる見込みで、70MPaの水素ステーションでは、プレクールシステムや通信システムの検証をやっていく必要があるとのことだった。
2015年を目標にしたFCV市場導入においては、FCVの開発段階は過ぎ、FCVを支える水素ステーションの最適解を求める取り組みに移っているようだ。